16 「では、ニアたん」
遅くなりました。
切りのいいところまで行きたかったんです。
「で、あなたはどこの誰なのかしら?」
存在Xは亀甲縛りにされ、そのうえで椅子に縛り付けられていた。
服装はメイド服。
秋も深まり、肌寒くなってきた今日この頃、
裸ではかわいそう。ではなく、見てるこっちが寒いという理由で、
ニルソニアがローゼと存在Xに着させたのだ。
持ち主はローゼ。勿論、サイズは二人共にピッタリだ。
「さあ、誰だと思う? 当ててみな」
先ほどまでしていたローゼの真似はやめたのか、憎たらしく口角を吊り上げながら嘯く存在X。
ニヒルにゆがんだその笑みは、やはりローゼの顔には似合わない。
「考える必要はありません。お嬢様」
その本人ローゼが口を挟んだ。
が、ニルソニアは、
「……日記の時や、さっきの時は、さりげなくお嬢さまじゃなくてニルソニア様って呼んでたわよね」
淡々と呟く。
その顔は前髪が影を落として見えない。
秋だというのに、ニルソニアの頭の上には陽炎が立っていた。
「様ではなく、chanが良かったですか?」
ローゼは尋ねた。真顔で。
流石、駄メイド。ブレない。媚びない。怖いもの知らず(首環は除く)。
実際は誤魔化しにかかっているだけなのだが。
† † †
[誤魔化せてないんですけどね]
† † †
ニルソニアがボソボソ喋る。
「 」
「聞こえません」
「 」
「え? なんですか?」
「だ、か、ら! ニアでいいわよって、何度も言わせないで!」
……ニルソニアが下を向いていたのは照れ隠しであった。
ここで、蚊帳の外であった存在Xが『chanchanを入れてきた。』
[久しぶりに出ましたね 我らが父 茶々を入れたのはあなたでしょうが]
† † †
ここで、蚊帳の外であった存在Xが茶々を入れてきた。
「俺も二ヤって呼んでもいいかい?」
「あなたはダメ――二ヤじゃなくてニア! 漢数字にしないで!」
「そうかい。そりゃあ、残念だ――ッイ?!」
存在Xは肩をすくめようとした。
が、縛られているままだったので、縄が食い込むだけに終わった。
結構痛かったらしい。
「ふん。」
ニルソニアは髪を払い、ローゼに視線を向ける。
「それで? 私が考える必要がないって、アレが何か知っていると?」
「はい、ニアちゃん」
「……――――ローゼ。ちゃんはやめて」
ニアちゃんは頭を振った! しかし効果はいま一つだ!
ローゼの攻撃!
「では、ニアたん」
ローゼの『真顔いじり』! 効果は抜群だ!
ニアたんの怒りが1上がった! 防御が1下がった! 恥ずかしさが10上がった!
ニアたんの攻撃!
ニアたんの『顔を赤らめる』! 急所に当たった! 効果は一部分に抜群だ!
ローゼの攻撃!
しかし、尊さで浄化され動けない!
ニアたんの攻撃!
「――ニア様にしてくれるかしら…」
ニア様の『照れながらの上目遣い』! 効果は抜群だ!
ローゼは今だけ倒れた!
ニルソニアは『ニアたん』『ニア様』の称号を得た!
「……いったい、俺は何を見せられているんだ?」
存在Xは蚊帳の外側に押し出されていた。
† † †
[ナニットモンスターですかねぇ]
† † †
「では、ニア様」
「ええ、それがいいわ。それ以外だと反応しないから」
「……ほう」
ローゼが悪い顔をしていた。それも一瞬だけのこと、真顔に戻ったローゼは存在Xに近づく。
存在Xの前で、ズイッと前かがみになり
「棒人間さん。元気に子供は生まれましたか?」
「おう、この通り大きくて元気な女の子だ」
「……」
「……」
「「……」」
「は! しまった! 自分が棒人間だと認めてしまった! 予定では
『? 俺たちは初対面なはずだが?』
『おや? あなたは頭の出来も悪いので?――失礼、これでは自分の悪口になってしまいます。こう言い換えましょう。――あなたは頭の使い方も分からないので?』
『なにぶん、こんな低スペックは初めて使うもんでな。勝手がわかりにくいんだ』
ここまで考えていたのに! でも、言ってしまったことは仕方がないな、うん。そうだよ、俺が棒人間だよ」
あっさり棒人間だと認める存在X。
夢の中では、バールのようなもので背後から不意打ちしようとしていた割に、ローゼが冷静だった。
「それで、悪夢に出てきた棒人間が私の体で何の用です?」
いや、冷静どころか怒ってた。本音と建前、逆になっていた。
が、棒人間には気にした様子はない。
「もう、爪楊枝みたいな体じゃないから取り合わないぞ。──用があるのはお前じゃねぇ。そこの吸血鬼だ」
「私?」
ニルソニアが自信を指さす。
「そう、テメェ。――ああ、この方がしっくりくる」
彼の纏う雰囲気が変わる。
いや、残っていたベールがはぎ取られたというべきか。
いつの間にか、ニヒルで不敵な笑みが似合うようになっていた。
「俺がテメェに望むものは二つ。一つは俺に名をつける事。二つはここで俺を雇うことだ」
ローゼと同じ声帯を使用しているため声も同じなはずなのだが、別人のようなハスキーボイスと化していた存在X。
嘲笑にも似た笑みを浮かべ、眼を爛々と輝かせている。
「……名前は別にして、私たちにはあなたを雇うメリットがないわ」
ニルソニアがどうでもよさげに頭を横に振る。
確かに、彼を雇ってもニルソニアたちにメリットはない。
屋敷の掃除も、洗濯も、料理も、全てローゼが一人で行っている。
彼を雇えば、ローゼの負担を減らせるかもしれないが、半端な人間なら逆効果だろう。
そもそも得体の知れない、それこそ人間ではなく幽霊かもしれないような奴を家に置くのは、
吸血鬼だとしても願い下げだ。
ニルソニアが人を増やそうかと考えていたとしても、だ。
だが、彼が指摘してきた点は、そこではなかった。
「確かにメリットはねぇな。ただし、テメェらのデメリットは潰せるけどな」
視線をローゼに移し、存在Xは続けた。口を歪ませたまま。
「今、俺はそこの使用人の体と同じの体だ。すなわち、俺が事件でも起こそうもんなら、ローゼ、テメェが捕まるってわけだ。だったら手元に置いて監視した方がいいんじゃねぇのか? どこの馬の骨とも知らない相手に自分のふりされて、面倒ごとを引き起こされるのは、想像するだけで嫌なんじゃねぇのか?」
いつの間にほどいたのか、存在Xの体を荒縄が滑り落ちていった。彼は白く美しい脚と手を組み、ポーズを決める。ただ、腕と脚に荒縄の跡が残り、締まらないが。縄なのに締まらない。
† † †
[あー。手足に跡が残るということは、特殊な亀甲縛りですね。これほどくの、他人の手を借りないと無理だと思うんですが。ま、何のためにローゼさんがこれを知っていたのか、深くは追及はしませんよ。]
† † †
確かに棒人間が語るデメリットは厄介だった。
それが意味するところは、身に覚えのない罪によって投獄も、最悪死刑もあり得る、ということだ。
配下が罪に問われれば、主人の名も墜ちる事となる。
だが、ニルソニアの態度は変わらない。
「あなたをここで殺してしまえば、何も問題はない。そうは思わないかしら」
ニルソニアの眼がすわり、人の上に立つ捕食者のそれとなる。
が、やはり存在Xはどこ吹く風。
「それはない。テメェは俺を殺さねぇ」
そう断言した。
自信ありげに断言されたら、理由を聞きたくなるのが人の性。
「何故言い切れるのですか?」
ローゼが尋ねると、棒人間――存在Xは、
「それは俺が天使だからだ」
[勝手に天使を名乗らないでほしいです]
『同感だ、ナレーショナーよ』
[あ、生きてたんですね。娘様に折檻としてレテ川に沈めてられていたのに]
「嘘ですね。天使というのは私が殴ってしまったナレーショナーという女性の方ですよね。つまりあなたじゃない。ニルソ――ニアさ――ゴホン。ニアたん、食べていいですよ」
「 わーい。 デザートだー」
「ひゃああ!? た、食べないでください!!」
「食べないよ! 吸うんだよ!」
[もう一度沈めましょうか。今度は重りを詰めて]
『赤ずきんちゃんのオオカミ的エンド!? あちらはサーバルエンド?!』
[――二人とも、キャラ、ブレてませんか?]
† † †
[ピーンポーンパーンポーン]
[少々お待ちください]
『 』
† † †
「さて、ネタはこれぐらいにして、本当の理由を話すから首から離れてくれねぇか。貧血で喋れなくなる前におわらせてぇんだけどな」
存在Xの顔色は悪い。今にも倒れそうなぐらいに。
「あなたの血も、ローゼと同じ味がするのね。気に入ったわ。話ぐらいは聞いてあげる」
対してニルソニアはお肌つやっつやだった。
満足したのか、首元から離れていく。
「その前に、名前つけてくれねぇか? あのーなんだ、そのーほら、呼びにくいだろ?」
「あなた、名前無いの?」
「――ちょっと、忘れちまってな」
存在Xはさりげなくごまかした。
「――そう。ローゼ、こいつはあなたの悪夢に出てきたのよね」
ニルソニアは何か察したようだった。
「その通りです。ニアた――ニア様」
ローゼの答を聞き、ニルソニアは満面の笑み。
「さっきは仕方なく許したけど、次間違えたら吸ってる最中に戻すわよ。――あなたの名前は、悪夢から出てきたからナイトメアから取ってメアでいいじゃないかしら。さあ、名前つけたわよ」
※血管に空気を入れると死にます。ローゼだとしても……多分死にます。多分。
「ああ、分かった。それでいい。ありがとな。さて、説明だ。実は天使というのはあながち間違いじゃねぇんだ。神サマがローゼ、テメェの恩返しに協力しろって、送り出したのが俺なんだよ」
† † †
[嘘は一言も言ってませんね。あのあと、何だかんだでメアさんはこの屋敷で雇われることになりました。べ、べつに、テンポが悪いからカットになったわけじゃないんだからね!]
† † †
「そういう事なら他にも方法があったでしょうに」
床に落ちたままだった荒縄を回収するためにローゼは存在X――メアの後ろ側に回った。
自然な動作で口をメアの耳に近づけ囁く。
「侮辱した件、許したわけではありませんから」
メアは何も言わず肩をすくめた。
その動作に思わずイラっとしたローゼ。危うく殴り掛かりそうになるが、寸前のところで堪える。
一応、同僚になる人間? なんだから直接的な攻撃はやめようと、
ローゼが、キッチンにバナナを取りに行こうとしていると、
――ガアアァァァンンンッ!!!
突如、空間が揺れた。
「あ? おい、またかよ!」メアが吐き捨てる。
「ほんと、なんなんでしょうね」ローゼが疑問に思う。
「 ―――――――あ、 」ニルソニアが言葉を漏らす。
「これ、結界が破壊されるときの音だわ……」
テンポが悪いんじゃない。作者が悪いんだ。
↑これ書いてるの深夜の3:23 つまり深夜テンション。
次回「初めての戦闘」
……が出来たらいいな。




