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メイド共観察日記~それを編集して小説に~  作者: ナレーショナー: [データ削除済]
第0章 終わりを告げる夜明けの暁
13/27

12 悪夢になったモノ 壱

ブックマークありがとうございます


「そういえば、10年間一度もこれは使ったことなかったわね」


ニルソニアは、ベットから立ち上がりながらローゼに告げた。


「これ、とは?」


ローゼが(たず)ねるが、ニルソニアはすぐに答えず、両袖机まで進んだ。

そして、引き出しの右側三段目から、取り出したのは、


「これよ、これ」


奴隷の首輪だった。






サーッと、ローゼが青ざめる。

ローゼにとって、

奴隷の首輪――奴隷環――とは、

()まわしく(おぞ)ましい()()を象徴するものだ。

10年間心の奥底に(ひそ)んでいた禍虚(かこ)が呼び起され、ローゼの顔は、


「お嬢様、それをどうするおつもりなので?」


もはや能面に近かった。

否、能面ではなくデスマスクに近かった。

その反応にニルソニアは気づけない。気づかない。


「もちろん、あなたの首につけるのよ」


ニルソニアは、ローゼに首輪を付けたいらしい。いろんな意味で。様々な理由で。

ただ、彼女のメイドが今、顔面蒼白になっていることを知ったら、すぐに取り止めにしただろう。

ニルソニアは心の底から、つまり、本気で怒っているわけではない。

少しばかりお灸をすえたかっただけなのだ。



だってそうだろう。

昨日、彼女の心を溶かしたのは、紛れもなくローゼだ。

そのローゼが心を凍えさすような真似をしたのだ。

文句の一つも言いたくなってくるだろう。

――私の心はあなたにとって、そんな軽々しいものなのか、と。

それでも、心を一回開いてしまった以上、もう戻れない。

戻りたくはない。

忘れていた他人のぬくもりを、思い出してしまったから。

溶けてしまった心に、孤独は他人の悪意よりも()えられないから。

だから首環をかける。

どこにも行かないように。

どこにも消えないように。



そんな己の奥底にある心の機微に気づくことなく、ニルソニアは、


(この首輪はどうやって使う物だったかしら。え~と、思いだせないわ)


そんなことを呑気(のんき)に考えていた。


ローゼを購入する時に、説明を受けたが、

聞き流していたせいで覚えていないニルソニア。

結局当の本人に聞くことにした。


「ねえ、ローゼ。これどうやって使う物だっ――――――――って、大丈夫?!」


ようやく、ローゼの惨状に気づいたが、時すでに遅し。

ローゼは、先ほどまで苦しんでいたのだが、今はベットの上で安らかに眠っていた。


「ローゼ?! ローゼッ!?」


体をゆする。胸が少しだけ揺れる。


「―――――あ、う………」


吐息が漏れた。

ローゼはどうやら気絶しているらしい。本当に眠っているだけだった。

胸を撫でおろすニルソニア。その手は引っかかることなくスムーズに動いた。



     †     †     †



ローゼは夢を見ていた。

今では見なくなっていた古い夢だった。




遠〿〿て〿く〿屋、


〿暗〿窓〿〿い〿屋、  


夜通し聞〿え〿〿て〿る少〿の〿えぎ声、


むせ〿〿るほ〿の〿〿臭〿、


森〿中、薄暗い〿道、主の〿ない屋敷、


黒〿棒〿間、


()〿られる、


当たら〿い、


す〿抜けられる、


()っ飛ばせな〿、


()け〿れる、


殴れない。





ローゼは途中から夢が切り替わっていることに気づかない。


(ちょこまかと、よけるな。うっとうしい)


夢の中の棒人間に苛立ち、思わず手が出てしまう。



バキッ!!

人を殴った感触が手に残る。



(え? 当たった?…………これがお嬢様を侮辱した――

       「きゃあ!」

――罰で――――す? ?『きゃあ!』?)


あの棒人間とは、似ても似つかない可愛らしい()()()()()だった。

耳に残る女性の悲鳴。

手に残る柔肌の感覚。

それが意味するところは……。

ローゼの脳裏にある一つの可能性が浮かんだ。


(もし、かして、ニルソニア様に当たってしまい、ましたか?)


ローゼは怖がっている、目を開ける事を。だが謝らないと後が怖い。

迷った末、そ~っと薄目を開けることにしたローゼ。


開けた目に映るは、

崩れ落ちて頬を押さえる金髪の女性と、ニヤニヤ笑っている棒人間だった。


心配していたことが杞憂に終わって、ローゼ、一言。


「よかった。本当によかった。殴った、拳が当たったのが見知らぬ女性で!」

「じゃあその見知らぬ赤の()()に殴られても文句ないですよね! 私天使ですが!!」


拳が当たっていたのは、まさかのナレーショナーだった。

罅割れ刳ぐられる過去


次回「悪夢になったモノ 弐」


再来週になるかも。

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