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第五話

 説明回、いきます。

 

 神獣。

 正式名称は『神格持ちS級魔獣』という。

 神獣は世界中を見れば決して少なくない数及び種類が確認されている。が、その中でも『神格種族』になっている神獣は、本当に稀少だ。逆にその個体のみが神格に至った魔獣を『神格個体』と呼ぶ。

 『神格種族』の一つが『竜族』。

 竜族は『竜型』、『人型』、『竜人型』の三つの姿を持っている。言わずと知れた最強種族だ。

 魔力も力も他のあらゆる種族とは一線を画し、地域によってはやはり信仰を得ていることもある。


 そして、今まで『神格個体』と思われていた神獣エクサルファも、実は『神格種族』だったのだ――。




「神獣エクサルファ、種族名は『ライルナグム』。意味は、夜の星。

 ちなみにオレら一族が神格を得たのは神聖シュルテン帝国建国時らしい」


 まー、一般には知られてないけどな。とティエラの兄――スィリオスは舌を出した。

 しれっとしたその態度に、ラゾールトは恨みの視線を送る。



 神獣を祖に持つ国は、たまにある。

 かく言うスフェール王国も祖先は神獣、ではなく神霊――神格持ちの精霊のこと――だったと言われていた。


 だが、祖先が『神格個体』と『神格種族』とでは大分扱いが異なってくる。

 『神格個体』は文字通り、その個体のみに神格が適応され子孫に受け継がれることはない。能力の遺伝も区々(まちまち)である。

 一方で『神格種族』は、種族そのものが神格を有しているため、血が薄れてその種族から外れない限りは子々孫々と神格を保ち続けられる。さらに力の強弱はあれ、その種族である限り何かしらの能力は受け継がれる。

 また、『神格種族』の場合、種族特有の『聖域』を持ち、そこで一定期間育つとどんなに薄い血の子でも『種族固定』が起きる。『種族固定』されれば、純血と同じぐらいの力を持てるのだ。


 そもそも、神格とは何かと言うと、この世界において神の祝福を得てその眷属に加えられたことを指す。

 故に、神格持ちはどこに行っても優遇され、相手が反神主義者でもない限りは有り難がられる。

 生来、優れた能力を持つのも特徴だ。


 だが、どんな能力であれ国が神格持ちを有すると言うことは、国同士のバランスが崩れる恐れがある。

 『神格種族』の場合は、その力が数代に渡ることもあるので、バレてしまえば周辺国から警戒されかねない。

 その為、神格持ちがいる国は彼らが他所に行かないように囲おうとするし、他国から神格持ちが来るとなると両手(もろて)を上げて賛成――とは、いかないのである。


「まぁ、オレら(ライルナグム)の場合は聖域から離れて三代まで種族として認められるはずだ。

 オレはともかくエーラは種族固定されてないから……甲斐性なし(ラゾールト)の孫までかな、この力」


 運が良いのか悪いのか、ライルナグムの力はエクサルファが司ると言う天命と浄火――分かりやすく言うと『治癒』と『浄化』――は、軍事利用できるタイプのものではない。『治癒』と『浄化』は言わずもがなだし、神獣への変身能力は少し違うが獣人も似た能力を使える。

 それに三代だけなら、上手くすれば隠しおおせるだろう。ただ、一つ気になるのは――


「でも、お義祖父(じい)様は最初から了承しておりましたよ?」


 そう、ティエラとの縁談を持ってきたのはラゾールトとジェイドの祖父――つまり、先代国王なのだ。

 先程ティエラは「自分の口から聞かせるため」と言っていたが、いくら何でもおかしくはないだろうかとラゾールトは思う。

 人間関係において、秘密を知るなら第三者より秘密を持つ本人から聞くものだ。とはよく言うが、一歩間違えれば周辺国すら巻き込みかねないこの重大案件を、あの祖父が黙っているだろうか。

 あの『厳格王』である祖父が?

 ――ありえない。


「ティー、一つ聞きたいんだが……ここで暮らしている間に何か違和感とかなかったか?

 例えば、手紙が届かないとか。知らない人が訪ねてきたとか。何でもいい」

「違和感、で御座いますか?

 そうですね……手紙など、ここに来てから()()()()()()()()()()()()し、特には何も。

 あぁ、でもお義祖父様とお義祖母(ばあ)様は月に一度いらっしゃります」

「……は?」


 ティエラはさらりと溢したが、今二つの爆弾発言があった。

 一つは手紙の件。

 ラゾールトはティエラから手紙が来なくなっても、最低二週間に一度の感覚で手紙は送っていた。だが、当のティエラはそんなものは来ていないと言う。

 そして、もう一つ――定期的に先代夫婦がここに訪れていること。

 先代夫婦が住む離宮は、こことはかなり離れた距離にある。それこそ、王都を挟んで真向かいに。

 いくら退位したとはいえ王族である彼らが動くとなれば、それなりに人員が必要となる。にも拘らず、領地を離れても気づかれることはなく、さらに王都では先代夫婦(イコール)引きこもりという図式が出来上がっている。

 これは、一体なんだ。


「どういうことだ……?」

「ほう?漸く其処に目を向ける様に()ったか。小童が」


 突如として割り込んできた声に、全員が振り返る。

 そして、そこ――開け放たれたバルコニーにある姿を見て、ある者は顔をひきつらせ、ある者は眉を寄せ、ある者は歓喜を滲ませた。


「じーちゃ……いや、先代!?」

「……げ、じーさん」

「お義祖父様!」


 順番にラゾールト、スィリオス、ティエラの言である。

 スフェール王国先代国王は、前半二人の男の声を華麗にスルーし、好々爺然とした笑みでティエラへと歩み寄った。


「ティー殿、いつも済まぬのぅ。うちの阿呆達は、気が利かんでな」

「いえ、私は気にしておりませぬ!こうしてお義祖父様やお義祖母様に会えております故、寂しいなどとは!」


 ティエラの悪気ない無邪気な言葉が、ラゾールトの胸にグッッッサリ突き刺さる。『不幸体質』だからとはいえ、ティエラを不安にさせたり、寂しい思いをさせたのは、紛れもない己であるから。

 ラゾールトが落ち込んで、床に『の』の字を書き始めたその間、ジェイドは今だかつて見たことのないデレッでれの祖父の姿に戦慄していた。

 ちなみに、先代国王の実子及び実孫たちは何故か揃いも揃って皆、男である。


 全く関係のない第三者が見たら「何だこのカオス」とツッコまれるであろう光景が続くこと約五分。

 最初に口火を切ったのは、意外なことにスィリオスだ。


「で、じーさんは突然どうしたのさ。今月はもう来ないとか言ってなかったっけ?」

「何じゃ、リオ坊はまだ拗ねておるのか。(ぬし)が儂に剣で負かされたのは、もう三週間も前の事であろ?」

「っ、べっ別に拗ねてなんかっ!」


 図星を突かれた子どもの典型のような反応をするスィリオス。

 スィリオスは小シュルテン王国近くの『ライルナグム』の聖域に住まう『ライルナグム』の次期長候補の筆頭。それゆえ戦闘力もかなり高いのだが……老練な『厳格王』の前には、まだまだのようだ。


「まぁ、そう言うでない。なぁに、丁度此処等(ここら)に蔓延ってた莫迦共が、漸く()()()のでな」


 ホッホッホッと機嫌よく笑いながらラゾールトに書類の束を放る。

 訝しげな表情(かお)をしながらそれを受け取ったラゾールトは、パラパラと流し読みしてその内容に目を剥いた。


「っ!これは……」

「ではオルト、後の処置は任せたぞ。

 さ、ティー殿。儂と一緒に城に行きましょうぞ。先に行った家内も首をながーくして待っておる。

 荷物は全部(オルトとジェイに)後から送らせよう」

「は、はい!是非とも!」

「じーじといっしょなのー?」

「なのー?」


 やったー!と嬉しそうにはしゃぎ回る双子を横目にラゾールトは若干涙目である。

 先程祖父に渡された書類には、この周辺を治める領主の不正――手紙の意図的喪失や虚偽の事故申告、おまけに違法な領税増加――の数々が記されていた。

 そう、これらはティエラとの手紙が届かなかったことや、離宮に行けなかった原因の一部である(あくまで一部なのは、やはり『不幸体質』で行けなかった部分も少なからずあるから)。

 こうして不正を見つけてもらえたのはありがたいが、仕事が増えたことで(ティエラ)や(初めて会った)子どもらと触れ合う時間が減るのは、やはり複雑である。


「儂らは先に行っておるぞ、阿呆孫共。

 特にオルト。戻ってからティー殿と過ごしたいなら、離宮(ここ)(しっか)り仕事を片付けて来るんじゃな」


 そう言うと、先代国王は徐に懐から折り畳まれた羊皮紙を取り出すとその場に広げた。魔法陣が描かれたそれは先代国王お手製の転移陣である。

 そこではたとラゾールトたちは先代夫婦がこの離宮に誰にも気づかれずに出入り出来てきたかを知った。

 転移(テレポート)なら、直ぐである。


「ではの」


 と、手を振りつつ城へと飛んでいった四人を見送ると、ラゾールトはその場に脱力して蹲った。やがて、三十分ほどそうしていたかと思うと、突然立ち上り


「仕事、やるか」


 と言って離宮の書斎へと走っていった。


 後にジェイドが語ったところによると、その時のラゾールトは、少し血走っていて正直不気味な目になっていたという。


 読んでいただきありがとうございます。

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