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第三話

本日、ポッキーの日ですね!(←本編に関係ない)

 

「なぁ……ジェイ。俺、また縁談きたんだが」


 一日の執務を終えると、げんなりした表情(かお)でラゾールトはジェイドに愚痴った。ジェイドは「またか」と呟くと、ラゾールトを慰めるように肩を叩いた。


「仕方ないさ。ティエラ様がいなくなって二年半、お前の隣に立ってる者は僕しかいないからな。

 それに、ティエラ様がいたときだって、お前が隠してただろ?皆、お前が結婚したって知らないんじゃないか?」


 図星を突かれたラゾールトは「うぅ……」と呻くと、執務室の机に突っ伏した。


 三年前、式の前後にラゾールトは国に向けて結婚の報告はした。

 公に向けた行事をしなかったのはティエラが望むようにエクサルファ教式に祝儀は身内のみにしたからだ。また、ヴェールを脱いだティエラはラゾールトの好みドストライクで、なるべく人目に触れないようにラゾールトが囲っていたのも事実。いわゆる『独占欲』である。


 さすがのジェイドはラゾールトの専属で護衛騎士をしているためティエラのことを見たことはある。会話も数回だけ。

 だが、ジェイドは知っていた。

 同僚の騎士たちの大半が三年前の結婚を国規模でかました冗談だと思っていることを。

 それもそのはず、実際にラゾールトと共にいるティエラを見たことがある者は両手で足りるほどしかいない。ティエラ単独ならもう少しいるが、一人でいる彼女を見たところで一体誰が王太子妃だと気づけるだろうか。

 結婚式でさえも顔を見ていないのに。


「あぁ、ティーに……。俺のティエラに会いたいなぁ」

「会いに行けばいいじゃないか。ティエラ様がいる離宮は、片道一週間もかからない所にあるだろ?」

「そりゃあ……まぁ、な」


 ジェイドの言う通り、ティエラの元へは五日ほど馬車で走れば行ける。装備を必要最低限にして馬で走ればさらに短く、三日ぐらい。

 だからラゾールトはこれまで何度かティエラに会いに行こうとしていたのだが……相変わらずの『不幸体質』が邪魔をするのだ。


 前倒しの書類仕事中にはペンが折れ、その際に飛び散ったインクで終わったはずの書類はやり直し。さて出発しようとなると馬車が壊れ、ならば馬で行こうかとなると肝心の愛馬は脱走している。代わりの馬車の用意ができた頃には急ぎの仕事がやって来て、それが終わると今度は予定ルートで事故が起きて行けなくなる。


 といった風に、離宮に行こうとすると必ずおじゃんになる。

 一度ならず二度三度とこんなことが起こると、幼少時から『不幸体質』と付き合ってきたラゾールトでさえ参ってしまう。

 しかしジェイドはそれを分かっていて、あえて言うのだ。


「ま、試してみろって。今回は行けるかもしれないし」


 二ヶ月ほど年下のジェイドの主は、ティエラに会えない鬱憤を仕事で晴らしている。そのため、適当に気分転換をさせないと倒れることもしばしばあるのだ。

 ジェイドが心配しているところを知っているラゾールトは、気が進まないが「分かった」と言うと、予定を見直して組み直し始めた。


 ティエラのいる離宮に出発するまで色々あったが、今回は珍しく話に上がってから二週間後には無事城を出ることができた。




「で、殿下!?なぜ、ここに……」

「先触れは出してあっただろう?

 まぁ、予定より少々早く着いたが……これもティエラに会うためなのだ。すまないな」

「い、いえ!ですがっ」


 離宮に着くたラゾールトを真っ先に出迎えたのは、この離宮を担当する侍女長だった。

 侍女長はなぜかかなり慌てていて、ラゾールトとジェイドを見るや引き留めようとするかのように言葉を連ねる。

 離宮に入ると侍女長だけではなく、他の侍女や執事らも同様に。ラゾールトたちをサロンに案内すると部屋から出ないようにしてくるのだ。


「じ、侍女長さまぁ~。もぅ、限界ですよぉ~!」

「シッ、お黙りなさい!」

「……しかし、これ以上は」


 そんなひそひそ話も、耳のいいラゾールトには筒抜けである。魔法を使えばもっとよく聞こえるが、ラゾールトは使う気にはならなかった。

 ジェイドは器用にも片眉をピクリと上げるとイラついたように「ねぇ」と剣呑な声を出す。長い付き合いであるラゾールトだから本気ではないと分かるが、知らない者からすると恐怖を覚える声音である。


「僕らもさぁ、暇じゃないんだよ。だから早くティエラ様に会わせてくんない?」


 さながら物語に出てくる魔王のような迫力で脅しにかかるジェイド。偶然居合わせた、まだ若い侍女の一人はすでに涙目である。

 侍女長はしばし俯いていたが、ふいに顔を上げると観念したように言った。


「ティエラ様は今、お庭にいらっしゃります」と。



 さっそく二人が執事の案内で庭園に回ると、果たしてそこにはティエラがいた。

 四方を色とりどりの小花に囲まれた東屋のベンチに腰を下ろし、下ろした白い髪をこちらに向けている。……どうやら、ラゾールトたちが来たことに気づいていないらしい。


「ティ―――」


 驚かせようとラゾールトがティエラに声をかけようとした。そのとき、


「「ははうえ~!」」


 ティエラのいる東屋の、さらにその向こうから聞こえてきた声。ティエラはパッと立ち上がると声の方へと駆け出した。

 ラゾールトがそちらに目を向けると、そこにはふわりと舞い降りる一人の男の姿。

 遠いから細かい容姿は分からないが、受けた印象は――『漆黒』。髪も服も、全てが黒い。

 そして、その男の腕には二人の子ども。それも、スフェール王国では珍しい白い髪の――。


「ティ、エラ?」


 その瞬間、ラゾールトの全身から血の気が退いた。

 バクバクと心臓の音が大きくなり、呼吸が浅くなる。頭はその光景を拒絶するのに、目を離すことができない。


 そう、まるでそれは一つの家族のような……。



「っ、オルト!?」


 隣でジェイドの悲鳴を聞きながら、ラゾールトは意識を手放した。


 読んでいただきありがとうございます。

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