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異世界⇔地球間で個人貿易してみた【コミカライズ】  作者: 肥前文俊
第八章

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第06話 大空から、薬草の楽園を求めて

 魔力の計測ができるようになり、それを薬学研究の一要素として組み込めるようになった今、じつは渡たちにできることはほとんどない。

 ここから先は、サレム博士たち工場組の出番だ。


 ポーションを利用することで起きる肉体の変化を捉え、データを集め、理論立てる。

 あるいは、既存の薬物構造体が、魔力が加わることで、どのような変化が起きるかを調べる。


 渡たちが所有している検査器では足りない場合は、大学研究機関と連携した上で、調べていくことになるだろう。

 秘密保持契約などで渡の契約が必要になることもあるが、この一連の流れは、研究者たちの仕事だ。


 実際に今、これらのデータ取得は急速に進み、実を結びつつある。

 臨床試験等を行う日も近い。


 慢性治療ポーションの製造を軌道に乗せるのに、一番のネックになるのが、原料の確保だ。


 タメコミ草をはじめとした薬草は、魔力の豊富な霊脈の土地でしか、生育しても(・・・・・)効果を発揮しない(・・・・・・・・)

 これは非常に大きい意味を持つ。


 もし、農園に薬草泥棒が現れて、それを栽培しようとしたところで、適切な場所で育てなければ意味がないからだ。


 慢性治療ポーションの特許を取得し、その製造方法はいずれ世界中に知れ渡る。

 特許も二十年後には切れてしまう。


 だが、それが分かったところで、原料を押さえ(・・・・・・)続けられる(・・・・・)というのが、渡たちのビジネスの強みだ。

 現代の製造業でも、製品そのものよりも、それに必要な特殊な器具や素材を提供できる会社はとても強い。


 おそらくは魔力について地球人が深く理解し、新しい慢性治療ポーションを開発できる日が来るまで、渡たちの優位は揺るがないだろう。


 しかし、霊脈の地は、すでに神社仏閣や城跡などが押さえているケースが非常に多かった。

 古代人は魔力を感知できていた、あるいは何らかの法則性を見つけていた可能性が高い。


 そして、まさか薬草を育てるために、寺や神社、城の一角に農地を作らせてください、とは頼めない。*1

 そのため、考えられる手段はいくつかに限られる。


 一つ目、確保した土地を最大限、薬草農地に利用すること。

 二つ目、廃社、廃寺、あるいは移転した土地を購入すること。

 三つ目、まったく未開拓の土地を見つけること。


 一つ目は、今はエアとクローシェが中心になって山を切り開き、農地を拡げている途中だ。

 二つ目については、今は慎重に動くことにしている。


 渡たちが薬草農園のために、そういった土地を買い漁っている、と気付かれれば、いずれ先に押さえようとする企業が出てきてもおかしくないためだ。


 魔力を視る(・・)ことができる、ステラだからこそ、霊脈の地を確実に見つけることができるが、当たれば儲けもの、とばかりに買い漁って、本当に効果のある薬草を手に入れられる恐れは避けたかった。


 だから、今は渡たちは、三つ目の目的を叶えるため、日本中を飛び回って(・・・・・)いた。




 眼下に広がる景色は、まるで精巧なジオラマのようだ。

 ステラの魔法によって作られた風の膜に包まれ、渡たちは上空を滑るように移動している。


 つまり、生身一つで空を飛んでいた。


 うおおおお、高い、高いぞ! でも、すげえええ……っ!


 風を切る音が耳元を通り過ぎていく。


 風の魔法の防御膜のおかげで、目が痛くなることもない。


 渡は楽しみ半分、恐怖半分といった心境で、それでも広大なパノラマから目が離せなかった。

 宝石のように美しいサンゴ礁と、青から緑へと色とりどりな美しい海。

 大小さまざまな島が転々としている。


 ジェットコースターとは比較にならないスリルと爽快感があった。


 それにしても、あいつらは余裕だな……。


 視線を横に向けると、エアとクローシェがキャッキャとはしゃぎながら、まるで空中を舞うように楽しんでいた。

 上に下に、あるいは回旋しながら、大空の滑空を自在に楽しんでいる。


 獣人たちは、高所への恐怖心というものがないのだろうか。


 対照的に、隣にいるマリエルは顔面蒼白で、渡の服の袖を固く握りしめている。

 表情はこわばり、今にも吐き出しそうにも、あるいは泣き出しそうにも見えた。


 まあ、こっちが普通の反応だよな。

 俺だって、景色に感動してなきゃ、足が竦んでる。


 一人、ステラは風竜鱗の杖を手に、微笑を浮かべながら、魔法の操作に集中していた。


 やっぱりアヘオホしていないステラは頼りになる。

 うっかり褒めすぎて墜落しないように、本気で気を付けなければ。


「主! 見て見て! すごい景色だよ! まるで鳥になったみたい!」

「本当ですわ! 風がとっても気持ちいいですの! ねえステラ、もっと速く飛べませんか? あそこの雲まで競争したいですわ!」

「こらこら、二人とも! あんまりはしゃぐとバランスが崩れるだろ! 落ちたらどうするんだ!」

「ひっ……! お、落ちるなんて言わないでくださいまし! それに、揺らさないで……! もう、もうダメです……降ろしてくださいぃ……!」

「大丈夫だって、マリエル。俺の服、しっかり掴んでろ。絶対に落とさないから」

「ご、ご主人様……約束ですよ?」

「おう、任せろ」


 マリエルは普段、高いビルでも竦んでいる様子はない。

 やはり、自分の意志で動くことができない状況、かつ高所であることが、怖がらせているのだろう。


「マリエルは怖がりだねー。こんなに楽しいのに!」

「そうですよ! 下界の悩みなんて、ちっぽけに見えてきませんか?」

「悩みより先に命がちっぽけに消えそうですっ!」

「ははは……。まあ、気持ちは分かるよ。なあ、ステラ? 魔法は完璧なんだよな?」

「はい、あなた様ぁ。魔力の安定は確認していますので、ご安心を。ですが、皆様、もう少しだけ静かにしていただけると助かります。霊脈を探すのに集中させてください」


 ステラに窘められ、エアとクローシェも少しだけ大人しくなった。

 ステラが高所に飛んでいる理由は、直接霊脈を発見するためだ。


 彼女に試してみてもらったが、衛星を利用したビデオなどでは、霊視はできなかった。

 まあ現代のレンズ、動画撮影等の機器に魔力を捉える力があるとは思えない。


 だが、肉眼であれば相当な範囲を確かめることができる。


 特にこうして空を飛ぶことで、遮るものを減らし、確認する範囲を広げられるようだった。

 飛行機に乗りながらでも、窓ごしにいくつか霊脈の地を見つけていたぐらいだ。


 しかし、こうやって空を飛んで土地を探すなんて、ファンタジーの世界そのものだな。

 まさか現代日本でこんな体験をするとは……。

 これも全部、ゲートのおかげか。


 渡は改めて、自分たちが進めている事業の壮大さを実感する。

 霊脈の地を押さえることが、自分たちの未来を左右するのだ。


 そのきっかけとなった、ゲートの出会いが、今は懐かしく感じる。


 それからしばらく飛び続けていた。

 沖縄の地は海が多いから、実際に観測できたとしても、そこに移動するまでに時間がかかる。


 最初の興奮はすっかり薄れ、吹き付ける風の冷たさが体にこたえ始めていた。

 直接的には当たらないが、高所は気温も低く、完全には遮断できないようだ。


 マリエルはもう限界っぽいし、一度どこかで休憩した方がいいかもしれないな……。


 そう思った矢先、前方で集中していたステラが、不意に声を上げた。


「あ……! あなた様、あそこです! あそこに強い魔力の流れを感じます!」

「見つけたか!?」

「はぃぃ。間違いありませんっ。霊脈ですぅ!」


 ステラが指差す先、木々が生い茂る島の中に、ぽっかりと開けた一帯があった。


 ん? あそこか? 他と何が違うんだ……?

 いや、ステラが言うなら間違いない。


 リゾート用に人の手が入っているとは思えない。

 コテージなども見つからないし、おそらくは無人島だ。


 渡はゴクリと唾を飲み込み、新たな希望が湧き上がるのを感じた。

 ゆっくりと降下し、久しぶりの大地の感触を強く踏み確かめた。


「いやー、楽しかったねえ!」

「本当ですわ! 何ならもっと高速で飛び回りたいぐらいでしたの!」


 あいつらは放っておこう。

 いわゆる超人枠だ……。


 それよりも気にしないといけないのは、マリエルと、長時間魔法を使い続けたステラだろう。

 ひとまずはステラに目を向ける。


「疲れていないか? 魔力の方はどうだ」

「はい、ほとんど疲れも魔力の消費もありません」

「……ん?」

「え?」

「いや、あれだけ魔法を使い続けて、消費してないのか?」

「消費してませんよぉ? 五%ぐらいでしょうか」


 …………マジで?


 キョトンとされてしまった。

 いや、本当にマジで? と思うが、ステラがこういうところで見栄を張ったり、嘘をつくとは思えない。


 本当に本当なのだろう。なんというか、呆れるが……。


 となると、へたり込んでしまったマリエルを気にしたほうがいい。


「はぁ……地面がこんなにも愛しく感じるなんて……ぐすっ……」

「よく頑張ったな。えらいぞ」

「ご主人様……わたくし、本当に怖くて……。情けないところをお見せしました」

「情けないなんてことないさ。怖いに決まってる。俺だって、正直足が竦んでた。マリエルが隣で必死に耐えてるから、俺も平気なフリができたんだ」

「ご主人様も、ですか?」

「ああ。だから、マリエルは本当にすごいよ。よく頑張った」


 こんなに怖がっているのに、俺たちのために、必死に耐えてくれたんだ。

 渡はしゃがみ込むと、マリエルの背中を優しく撫でてやる。


 健気な献身に、心がぐっと熱くなった。


「ご主人様が……隣で手を握っていてくださったから……わたくし、頑張れました。温かくて、安心できて……」

「そうか。なら良かった。これからもずっと隣にいるさ。だから、安心しろ」

「はい……はいっ……!」


 渡は指でそっとマリエルの涙を拭うと、彼女は安心しきったように、その胸に顔をうずめた。

 しゃくりあげる小さな背中を、渡はしばらくの間、黙ってさすり続けていた。


 今はただ、この健気な美少女を、心ゆくまで甘えさせて、落ち着かせてやりたい。


 やれやれ。*2

 帰りも同じ道を飛ぶことになるんだぞ、とは……とてもじゃないが、今は言えないな。


――――――――――――――――――――

*1 それでも大阪城公園などであればワンチャンスあるが、今度は薬草が奪われてしまうリスクが高くなる

*2 やれやれはWeb小説のお約束

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― 新着の感想 ―
レーダー対策してないと 見つかったら航空法違反だな
おそらくですけど「やれやれ」は「ジョジョの奇妙な冒険」が始まりではないかな?と。 空条承太郎(字はこれで良かったかな?)が口にしていたように思います。
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