第05話 枯れ果てて、朝
ビーチパラソルによって作られた日陰の下、チェアに体を横たえながら、渡は空を見ていた。
どこまでも透き通った青空。遠くでは白い大きな入道雲が広がる。
鼻に感じる潮の香りと、吹き付ける強い風。
清涼の羽衣に身を包んだ体と、本土よりもむしろ涼しい沖縄の地は、意外にも快適だ。
超多忙な日々を送っていた渡は、久々に休日を満喫していた。
凄まじくリラックスしている自分を自覚する。
近頃は忙しいだけでなく、四六時中監視を警戒しないといけなかったから、なおさらに心身を消耗していたのだ。
のんべんだらりとする渡の横に、マリエルが立った。
前かがみになったマリエルの深い谷間、大きな乳房が目に入る。
デカすぎて顔が見えない……。
「ご主人様、ドリンクはいかがですか?」
「おっ、ありがとう。沖縄の夏、美しい青い海とプライベートビーチ、暑い日差しとスタイルの良い美女たち。そしてキンキンに冷えたコーラ。……極楽はここにあったか」
「ふふふ、楽しいですね」
渡の言葉を否定することなく、マリエルも隣のチェアに寝そべる。
ひときわ強い風が吹いて、その風に運ばれるように、エアたちの声が聞こえてきた。
エアとクローシェ、ステラは、少し離れた場所で、異世界能力開放全力ビーチバレーをしているのだ。
ダッシュとともに舞い上がる巨大な砂の波。
部分的に起きる超局所的突風、あるいは見えては消える分身的な瞬間移動。
本人たちいわく加減して叩いているボールは、音速の壁を何度も突破していて、買ったばかりだと言うのに、ボロボロに傷ついていた。
「マリエルは参加しなくて良いのか? 楽しそうだぞ?」
「あんな中に入ったら死んじゃいます!」
「それもそうか……。俺も観てる分には楽しいけど、入れない世界だからな」
マリエルは渡たちの頭脳担当であって、超常的な肉体能力は持たない。
遠く離れた場所からでも目に追えない瞬間移動をする人種たちとは、立つステージが違った。
もっともな言い分に、渡は苦笑を浮かべながらも深く納得した。
「それに……私はボール遊びよりも、ご主人様のそばにいる方が楽しいです」
「マリエル……」
マリエルがドリンクを口に含むと体を起こし、渡のそばへと寄ると、顔を近づけた。
そのまま口移しされ、液体を飲み干すとともに、舌を絡める。
甘いソーダの味と、シュワシュワとした炭酸の感触に混じって、肉感的な舌が、口内に這いずり回る。
たっぷりと時間をかけて、マリエルは渡の唇を優しく、しかし情熱的に吸い上げる。
舌先が絡み合い、互いの息遣いが熱を帯びていく。
マリエルの柔らかな唇が渡の唇を包み込み、時折、甘く啄ばむようにキスを重ねる。
マリエルが、渡の腰元に馬乗りになった。
渡もマリエルの背中に手を回し、彼女の体温を感じながら、さらに深く舌を絡めていく。
ムッチリとしたお尻の肉を掴み、撫でる。
「んっ」
鼻にかかった甘えた声。
炭酸の刺激と甘いソーダの味が二人の間に広がり、マリエルの吐息が渡の頬にかかる。
二人は何度も唇を重ね、名残惜しそうに離れてはまた求め合う。
マリエルの頬はほんのりと赤く染まり、潤んだ瞳で渡を見つめる。
「……ご主人様、大好きです」
「俺もだよ」
囁くような声とともに、マリエルは渡の胸に顔を埋め、さらにぴったりと寄り添う。
渡も優しくマリエルの髪を撫で、二人だけの甘い時間を惜しむように、しばらくイチャイチャと抱き合い続けた。
……が。
「ああああああ、主とマリエルがイチャイチャしてる!」
「本当ですわ!」
「マリエルさん、抜け駆けですぅ」
「…………見つかりました。ご主人様を独り占めするチャンスだったんですけど」
いたずらがバレた、バツの悪い表情を浮かべたマリエルは、そっと体を引き離す。
濡れた瞳が、イタズラだけではないことを物語っていた。
「ズルいぞマリエル、泥棒猫だ!」
「ごめんなさい。虎穴に入らずんば虎子を得ず、と言うそうですから。少し冒険しました」
「油断も隙もありませんわ!」
「マリエルさん……少し狡いですぅ」
「だって、三人だけで楽しく遊んでるんですもの。仲間外れ同士で、楽しく遊んでいただけですよ」
三人からの非難の声を謝りながらも、マリエルは自分の立場を伝えることも忘れない。
ビーチバレーボールに熱中して我を忘れていた三人も、そう言われれば舌鋒を緩めるしかないようだった。
結局、この勝負はマリエルの一人勝ち、ということで良いのだろうか、と渡は考えていたのだが、少し甘かった。
「主! ホテルに戻ったら、アタシともイチャイチャタイムだからね!」
「わたくしもですわ! マリエルさんとだけなんて許しませんわ!」
「あなた様ぁ……わたしも、ご一緒してはダメですか?」
「では私ももう一度」
「え、いや、ちょっ……」
嘘でしょ……?
渡はホテルに用意していた精力剤と治療ポーションの在庫の数を頭の中で数えた。
これは…………命を覚悟しなきゃならないかもしれないな……。
◯
翌日。
久々のゆったりとした休暇で、英気を養うはずだった渡は、干からびた茄子のように萎々になっていた。
反面、つやつやとした女性陣は、非常に満足そうだ。
ホテルから出たマリエルはうっとりと頬に手を当てているし、エアとクローシェはその獣の耳と尻尾の色艶が凄まじい。
実はもっとも寵愛を求めているステラにいたっては、ぼうっと、言葉もなく余韻に浸り続けていた。
「あ……あ、あ……」
朝食は沖縄らしいホテルのビュッフェで、ゴーヤーチャンプルーやラフテー、島豆腐、アグー豚のソーセージ、もずく酢、ジューシー(沖縄風炊き込みご飯)、紅芋パン、パパイヤサラダ、そして新鮮なトロピカルフルーツが並んでいた。
さらに、沖縄そばのライブキッチンもあり、好きな具材をトッピングして楽しめる。
ドリンクコーナーにはシークヮーサージュースやさんぴん茶も用意されている。
渡は枯れ果てた体を少しでも癒そうと、アグー豚のソーセージや豚の角煮などを頬張ったが、その枯れ果てた体に潤いを取り戻すまでには至らなかった。
それでも、わずかながら体力を取り戻した渡は、疲弊した体に鞭打って、本来の目的を果たそうとしはじめる。
つまり、龍脈の地の土地購入だ。
もし良ければ高評価をよろしくお願いいたします。
COMICユニコーン様にて、コミカライズが連載開始しました。
https://unicorn.comic-ryu.jp/145/
ぜひ読んでください。





