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あっ俺は転生者じゃないんですよ

 織田家やその近隣諸国の大名家は多くのなろう作家が転生先として取り上げ、それらを読んでいくと緊密に時代背景と時期別の戦況が頭に入ります。例えばこの連載の第22部分「8 A 6/7 9といったらもちろんIII号戦車(長砲身5cm砲)ですよね」でとりあげた『討ち死になんて勘弁な(悠夜)』は森傅兵衛可隆の視点から描かれており、父親の森可成など一族も活写されています。まさにレッドオーシャンです。


 こうした「史実の誰々に生まれました」という形式は、史実を外れてからが課題です。ひとつ前の第69部分「てんこ盛りと胃の重さ」で取り上げた『斎藤義龍に生まれ変わったので、織田信長に国譲りして長生きするのを目指します!(巽未頼)』はその点、SLG的なリサーチと検討で「蓋然性の高い未来」を順々に描き出して見せた点が出色でした(本編完結、後日談が続いていますが一応過去形で)。多くの著者はそれができず、史実を大きく外れたところでその先をどうしていいかわからず、筆が止まってしまいます。


『信長の庶子』はそんな中で、なんとか固有の境地を見つけようと頑張った作品です。


信長の庶子(壬生一郎)

https://ncode.syosetu.com/n0921ed/


※書籍版第3巻までの感想です。


『信長の庶子』はタイトル通り、織田信長の架空の庶子である織田帯刀信正が主人公です。その母であり側室である直子のほうがじつは転生者で、帯刀はその薫陶を受けて戦国時代らしからぬ「出世欲の薄さ」「平和な世を作る大望」を持っていますが、自分自身が未来の世を知っているわけではありません。母が次々に記憶に頼って未来の著作や概念を本にするので、それを通じて戦国人らしからぬ考えを持っているだけです。直子はついでのように、女性向け同人文学をこの世界に持ち込み、真似をして帯刀もギャグ小説を書き始めて各地の姫様・奥様・女官から注目され、政務のために遣わされた使者から、また訪問先で女官筋や姫様奥様直々に、「進捗どうです」と督促を受けてしまいます。この種の作品によくあるように、直子も未来の商工業を尾張で展開し、その利益は直接間接に信長の助けになっています。


 見たところ、直子の助けで織田の国力増大が早く、上洛が多少前倒しになっていますが、歴史は大きくは変わりません。武将個人が助かったり助からなかったりする程度です。戦闘シーンそのものが序盤は少なく、ナレーションのように各地の戦況が入ります。いくらか巻が進むと、直子はあいまいな表現で「急げ」と帯刀を急き立てます。もちろん、予見していることがあるのですが、それを防げるとも思っていないようです。


 多くの行数が、帯刀と周囲の武将たち、あるいは信長から交渉窓口を命じられた同時代の有力者たちとの会話に費やされます。自分では未来の「正解」を知らない帯刀は、惑ったり嘆いたりしますが、接する仲間たち、さらには信長や(はるか年上で、舅となる)信広から、その働きを高く評価されます。ここが案外他作品にない、この作品の独自性です。「世間(同時代)」とか「後世」とかではなく、自分の活動をよく知る同輩たちや親族たちからの評価によって、帯刀(と感情移入する読者)は癒やされるのです。そしてその関係性を編むことが、作品の中で大きな比重を占めるわけです。


 このような作品ですから、史実との整合性は脇に置いて、各キャラクターの性格付けと言うより、「集団の中での立ち位置」が明確にイメージされ、描き出されています。元亀元年以降の大包囲期、信長の一門衆が次々に戦死しますが、帯刀の視点からは長年なじみの同僚・先輩たちの死として描かれ、ずしりと重い感触があります。


 直子は信長の側近である塙直政の娘として生まれ、側室としては身分が低く(従って帯刀が嫡子となる可能性は薄く)、帯刀はかえって信長の子供たちとは自由に口が利けます。おそらく後半、あるいは当然あるはずの某イベント以降、このことは深化を見せるのでしょう。


 あえて全7巻完結済みの3巻目で、私自身読み切っていない状態で感想を書いたのは、結末がどうであれ(まあ、7巻目まで購買者向けの「あらすじ」は読んでいますが)上記の構成上の特色は明確だと思ったからです。組織とか家族とか言ったトピックスでは、最近似たような作品しか作らないハリウッド映画のように「無難な通説」を語って終わる作品も多いのですが、この作品は独特のウェイト付けがあって、痛快時代劇のシンプルさと「それらしい」リアリティが両方あります。


追記: 書籍版を最後まで読み終わりました。感想がついているように、直子は実は転生者そのものではなく、ゲフンゲフン。そして書籍版書下ろしの結末において、帯刀の運命はまた変転します。


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― 新着の感想 ―
実は母は、、、 ネタばれなのでご自分でお確かめ下さい。 ただしweb版の設定なので書籍版は分かりませんが。
戦国時代ものでもトップクラスに好きな作品です。 歴史物で転生者のやる事はほぼ出尽くして、時代や立地の違いくらいしか違いを出せない中で 母親が転生者で、間接的に影響を受ける設定は当時凄く目新しさを感じ…
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