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第4話 ~おろしぽん酢からあげと向き合う事~

 今日は今までと少し趣向を変えた。

「ここは……」

 葵くんは建物を見る。

「定食屋さん」

 そう、私は近所の定食屋さんに葵くんを連れてきた。個人で経営している落ち着いた雰囲気のお店。そして良心的な価格。

「なんのからあげがおすすめなの?」

 葵くんはわくわくした様子で聞く。そんな姿を見るのも嬉しくて。もうわかってる、これは恋なんだって。

 でも、告白する勇気は出ない。「ゆうき」の名前に負けている。

「おろしぽん酢からあげ!」

 それでも、葵くんと一緒にいたい。だからせめてできる事はやろう。それが、からあげをおすすめする事。

「さっぱり系だね」

「いろんなの食べてほしいから」

「ふふ。友紀ちゃんは優しいね」

 だから心臓に悪いんだってば……。葵くんは……どこまで本気で言っているのだろう。期待……しても良いのかな……。

 そんな事を考えながら私達は店に入った。


「友紀ちゃん、いらっしゃい。今日は何にする?」

 定食屋のおばちゃんが親しげに声をかけてくる。頻繁に通うから覚えられてしまったのだ。でも、そんなところもあったかい。そこもこのお店の良いところ。

「おろしぽん酢からあげ定食二つ!」

 私は指を二本立てて言った。

「はーい」

 おばちゃんは店の奥に消えていく……かと思いきや、私にそっと耳打ちした。

「彼氏さん?」

 私はぼっと顔が熱くなる。

「ええええ、ええと……!」

 おばちゃんは私の態度を見て微笑んだ。

「おばちゃんは応援してるよ」

 そう告げて今度こそ店の奥に消えていった。おばちゃんも心臓に悪い……。


 私達は席に座り注文を待っていた。

「良いお店だね。なんだかほっとする」

 葵くんもそう思ってくれるんだ。

「うん、だから私はこのお店が好き。もちろんからあげの味も」

「楽しみだな」

 葵くんはにこにこ笑う。

 そうしていると、おばちゃんが膳を持ってやって来た。

「はい、おろしぽん酢からあげ定食ね。もう一つ持ってくるから待ってて」

 おばちゃんはすぐに二つ目の膳を持ってきた。私の前に置くと、

「ごゆっくり」

 と言って離れて行った。何か含みがある様に聞こえるのは気のせいだろうか。

 ま、まあいい。いつもの様に葵くんにおすすめするのだ。

「どうぞ」

「いただきます」

 葵くんは手を合わせてそう述べた。

 ほかほかのからあげへ別添えの器に盛られているおろしぽん酢をかける。良い匂いが漂ってきた。葵くんはおろしぽん酢が溢れない様にからあげを口に運ぶ。そして、定食のご飯も一緒に食べる。

 よく噛んで飲み込むと、嬉しそうな顔で言った。

「からあげが柔らかいね。どっちも主張し過ぎず綺麗に味が混ざり合ってる。さっぱりしてるのにご飯にも合う。美味しい」

 うんうん。私もそう思うよ。

「葵くんは丁寧に味の感想言ってくれるね」

 葵くんは少し照れながら話す。

「せっかく連れて来てくれたんだから、伝えたくて……」

 葵くんのその気持ちが嬉しい、とっても。

「すごく素敵だと思う」

「友紀ちゃんの美味しそうに食べてる顔も素敵だよ」

 またこの人はすらすらとそんな事を言える……。

「誰にでも言うの? そういう事」

 なんとなく聞いてみた。葵くんは言う。

「友紀ちゃんだから」

「そ、そう……」

 またドキドキしてしまう……。

「美味しそうに食べる人が好きなの?」

 ずっと気になっているものも聞いてみた。すると葵くんは箸を止め、うつむく。

「葵くん……?」

「僕ね、姉がいるんだ」

「? うん」

 突然何を言い出すんだろうと思ったが、葵くんが真剣そうなので私もまた真剣に聞く事にした。

「姉は食べるのが大好きだった。僕も姉が美味しそうに食べる姿を見るのが大好きだった。でも……」

 葵くんの声は震える。

「ある時学校で『デブ』って言われたんだって。それから姉は食べる事を拒絶し始めた」

「それって……」

「ある種の病気。姉はみるみるうちに痩せたよ。でもね、それでも食べない。食べる事は悪い事だって。……僕はそんな姉を見るのが辛くて家を出た。逃げたんだ。姉から。僕が……支えなくちゃいけなかったのに……」

 私は葵くんの過去を聞いて……。

「人間って、おろしぽん酢からあげみたいなものでさ」

「?」

 葵くんは私の顔を見る。

「調和が大切なの。逃げる事もきっと葵くんに必要だった事で。逃げた先で何かを見つけられたら少しずつでいい、お姉さんに向き合える様になるかもしれない」

「調和……」

 葵くんは止めていた箸でからあげを掴み、口に入れる。咀嚼して飲み込むと言った。

「姉にも、この美味しさを伝えたいな。もう一度、食べる楽しみを思い出してほしい。今度……家に電話して姉の様子を聞いてみる。それから始めるよ」

「うん。葵くんならできるよ。だって私に大切なものを思い出させてくれたんだから」

 葵くんは笑った。

「そっか」


 帰り道、葵くんは私に話す。

「友紀ちゃんって自分でもからあげ作るの?」

「もちろん! 研究だっていっぱいしてるよ」

「凄い!」

 葵くんは拍手をする。照れるなぁ。

「友紀ちゃん、お願いがあるんだけど」

「何?」

「友紀ちゃんの手作りからあげ弁当が食べたいな」

「え」

 葵くんは甘える様におねだりする。

「駄目?」

 そ、そ、そんなの……。

「もちろん良いよ!」

 断れる訳がないでしょう。

「じゃあ、会社のお昼休み、いつもの公園で待ってるね」

「腕によりをかけて作ってくるから!」

 私は腕をぐっと曲げて力こぶを作った。

「楽しみだなぁ」

 葵くんは顔をほころばせた。

 葵くんのそんな顔をもっと見たいなんて思った帰り道だった。

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