第3話 ~甘辛タレからあげと気づき~
「ここってファミレス?」
葵くんはまた意外そうな顔をする。
「ファミレスと侮ることなかれ。きっと君は甘辛タレのからあげに平伏する」
「あ、今日のおすすめはそれ?」
「うん」
ファミレスなのは回転寿司の時と同じ理由。気軽に来てもらいたいから。
「楽しみだな~」
葵くんは良い顔をしている。そんな顔をされたら、おすすめして良かったな、なんて。
なんだろう……葵くんのそんな顔をもっと見たいって……。
「友紀ちゃん?」
ぼーっとそんな事を考えていた私に葵くんは声をかける。私ははっとした。
「で、では、いざしゅっぱーつ!」
私は拳を振り上げる。
「おー」
葵くんもそれに乗ってくれるのが嬉しい。
「甘辛からあげは単品もあるけど定食がおすすめかな」
私はタッチパネルを操作する。
「ご飯に合いそうだもんね」
葵くんはそれを覗き込みながら言う。
「そうそう」
やはり葵くんはわかっている。
「ドリンクバーいる?」
正直私は水でもいいけど。
「いる。ゆっくり話したいもん」
「そ、そっか」
やっぱり葵くんの言動は心臓に悪い。
配膳ロボットが注文の品を運んで来る。二人分、それを取ってそれぞれの席に置く。
すでにタレの香りが漂ってきている。
「食欲をそそる匂い」
葵くんがテーブル端にあらかじめ置いてある箸を取りながら言う。私のまで取ってくれるさりげない優しさ。私は「ありがとう」と告げる。
「さあ、召し上がれ」
私が作った訳じゃないけど。
「はーい。いただきまーす」
葵くんは手を合わせてから甘辛からあげを箸で掴む。葵くんって礼儀良いよな……なんて考える。
葵くんは甘辛からあげをかじって咀嚼する。一旦からあげを皿に置き、ご飯を一緒に食べた。そして飲み込むとにっこり笑う。
「美味しい。甘辛のタレに負けないくらいちゃんとからあげも主張してる。それと……」
「それと?」
「ご飯が進むね」
私も笑う。
「でしょ?」
葵くんは付け合わせのドレッシングのかかったキャベツやお味噌、漬物も食べ進める。
「ん、キャベツがからあげでくどくなりすぎない様にしてるし、お味噌も合うね。漬物が味変に良い感じ」
私は葵くんの感想に思わずにやけてしまう。嬉しいから。自分の好きな物を美味しいって言ってくれる事が。
私も並行して自分のを食べていたが、美味しい。笑顔になるほど。からあげって美味しいな。からあげを好きでいて良かった。葵くんのおかげで気づけたよ。好きなものは好きでいて良いって。
「友紀ちゃん」
「ん? 何?」
「良い顔してる」
葵くんの言葉はちょっと恥ずかしかったけど……素直に受け取った。
「うん!」
二人で甘辛からあげの感想を言い合いながらぺろりと綺麗に完食した。
ドリンクバーで飲み物を入れて私達は一息つく。
すると葵くんが尋ねてきた。
「友紀ちゃんって、なんでそんなにからあげが好きなの?」
至極単純で真っ当な質問。そして私の回答も同じなのだ。
「昔さ、お母さんがからあげ作ってくれたの。この世にこんな美味しい物があるんだ、って思った。それからからあげの日を楽しみにして。大きくなってお母さん以外のからあげも食べる機会が増えたけど、どれも美味しくて」
葵くんは黙って聞いてくれる。
「からあげって美味しいんだって。私にとっては幸せを運ぶ物なんだ」
「そっか」
葵くんは優しい顔をする。
「それから、財力と自由を手に入れてからは週五でからあげ」
私は眉を下げて笑った。
「でも……見失ってた。からあげを好きな気持ち。思い出させてくれて、認めてくれてありがとう。葵くんのおかげだよ」
葵くんは目を丸くして、そしていつもの様に笑った。
「お礼を言うのはこっちの方だよ」
「え?」
「好きなものをこんなに素敵に食べられる人に出会えて僕は幸せなんだ」
ああ……まただ。また、この人はおくびもなく気持ちを伝える。だから……私も好きになってしまう。
「また、連れて行ってほしいな。友紀ちゃんのおすすめのからあげのある所に」
もちろん、断る訳がなくて。
「うん!」
からあげをおすすめしたいから。それから……。
「ねえ、これからもいっぱいおすすめしても良いかな?」
葵くんは笑う。
「ぜひ」
葵くんと、一緒にいたいって思うから。




