第2話 ~塩からあげと約束~
「ここです! 塩からあげが美味しいんです!」
「回転寿司ですか?」
そう、私のおすすめは回転寿司のサイドメニューだ。どこにでもあって通いやすい所を選んだ。だっておすすめした物は気軽に食べてほしいから。
だが聞き捨てならない。
「あー! 侮りましたねー! 回転寿司のからあげもなめたものではないんですよ」
「これは失礼いたしました」
山下さんはおどけて言う。おとなしそうに見えて割とノリの良い人だなぁ。
「ではしゅっぱーつ!」
私が拳を振り上げると、山下さんもそれに続く。
「おー」
「回転寿司の良いところは安くて少量の物をいろいろ食べられるところですよね」
私はタッチパネル操作しながら葵さんに話しかける。
「僕もそれ好きです」
葵さんはにこにこ笑う。この人はよく笑うなぁ。見ていてなんだか……なんだかなんだろう……。あと、よく好きって言う。なんだか……なんだろう……。
「とりあえず塩からあげとー、フライドポテトをセットするのがおすすめなんですけど」
「黄金コンビですね」
「じゃあそれで」
しばらくすると注文した物がレーンから届いたので二人で取って机に置いた。
「どうぞ。揚げたてですよ」
私が揚げた訳じゃないけど。
「では、いただきます」
山下さんは手を合わせてから箸を持ってからあげを摘まむ。
「はい」
私は山下さんがからあげにかじりつくのをにこにこ見ていた。自分が美味しいって思う物を他人に教えるのって楽しい。山下さんはどんな反応をするのだろう。
「あっ、熱っ!」
山下さんはからあげから口を離す。
「揚げたてですから。ゆっくり食べてください」
「揚げたてもおすすめの理由ですか?」
「はい。注文を受けてから揚げてすぐに来るので」
「なるほど」
山下さんは今度は慎重にかじりつき、はふはふと咀嚼する。そしてそれを飲み込むと顔を輝かせて言った。
「美味しいです。揚げたてでジューシーなお肉とふわふわの衣。塩味もしっかり利いていて、シンプルだからこそわかるうまみですね」
私は震えた。言いたい事を全部言ってくれる。
「山下さん……」
「はい」
私は机に手をついて立ち上がった。
「あなたこそからあげの申し子!」
山下さんは照れくさそうに笑った。
「嬉しいですけど落ち着いてください」
「あ……すみません……」
つい……興奮してしまった……。恥ずかしい……。私はストンと椅子に座った。
山下さんはくすくすと笑う。
「本当にからあげがお好きなんですね」
「ええまあ」
だってからあげだもの。
「あ、小川さんも食べてください」
山下さんはからあげの器を手のひらで指し示す。
「ありがとうございます」
ご好意に甘えてからあげを箸で摘まむ。一口食べると幸せが口に広がる。やっぱりからあげ最高!
ふと山下さんを見ると私を見ながらにこにこ笑っている。
「えと……」
どうしたというのだろう。
「小川さんの食べっぷりが見てて可愛いなって」
「かかかか可愛い!?」
だってからあげが原因でフラれて……。そんな私が可愛い?
「ふふ」
山下さんは微笑んで、私はまたドキドキして……。
「ねえ、小川さん」
「はっはい……」
山下さんの言葉にまだどぎまぎしていると話しかけられた。
「また、連れて行ってくれませんか? 僕、もっと小川さんがおすすめするからあげ食べてみたいです」
「えっ」
山下さんは相変わらず笑顔で。
「駄目ですか?」
そんな事を言われて断る訳がなくて。だって、だって。
「もちろんです」
からあげを好きでいていいって言われているみたいから。
山下さんは一際笑顔を見せる。
「では、また都合の良い日を聞かせてください。あと……」
「あと?」
「タメ口でいいですよ。僕ら、からあげ仲間でしょう?」
大胆な事を言うなぁ。でも、嫌じゃなくて。
「うん!」
山下さんは嬉しそうな顔をして。それを見たら私も嬉しくなる。
「じゃあ、僕の事は葵って呼んでね」
ん?
「僕は友紀ちゃんって呼ぶから」
え、え、それは距離を詰めすぎでは……?
「あの、えと……」
山下さんはいたずらっぽく笑う。
「言ったでしょう? ナンパだって」
山下さんは……案外曲者だ……。
その日はからあげとフライドポテト、デザートなんかを摘まんで楽しい一日を過ごした。……ドキドキしたりして。
また葵くんとこんな日を過ごせるのを楽しみにしている自分がいるのに気がつきながら。




