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第1話 ~醤油からあげと出会い~

 私はからあげが好きだ。ええ、とても。週五で食べるくらいには好きだ。からあげは正義。

 しかし……。

「俺ら別れよっか」

「え……」

 今、私の家にいる彼氏からとんでもない言葉が出たんだが。

「な、なんで……? 私何か悪い事した……?」

 私は震える声で言うと彼氏は食卓に出したからあげを指差した。

「もう、うんざりなんだよ。からあげからあげ。たまには違うもん出せよ。ってか女のくせにからあげ好きとか萎える。もっと可愛いもん好きになれよ」

 私は呆然とした。

「じゃあ、そういう事だから」

 彼氏は席を立って家から出ていった。


 ……なんでフラれたんだろう。答えはとても明白。「からあげが好き」だから。

 からあげが好きだと人に愛してもらえない。そう思った私はからあげに別れを告げる事にした。


「(ああ……からあげ食べたい……)」

 断からあげ決意から一週間。私は早速禁断症状に苛まれながら、会社の昼休みにいつもお弁当を食べる公園にフラフラと来ていた。

 持っているお弁当には当然からあげは入ってない。なのに頭の中はからあげでいっぱいで……ん? 鼻をひくひくと動かすと、良き匂いが。そう、心から焦がれていたからあげの匂いが!

 私は即座に辺りをキョロキョロと見回す。不審者である。すると、斜め前のベンチに座っているスーツ姿の男性の膝の上にからあげ弁当が乗っていた。

「(あれは……! キッチンカー鳥丸のからあげ弁当! この匂いは醤油味!)」

 私はついからあげ弁当を凝視してしまった。

「あの……」

 男性は私の視線に気がつき声をかけてきた。いやもうはい圧倒的不審者でございますすみません。

「何か?」

 「あ、す、すみません」私の理性はそう言おうとした。しかし、本能は別の言葉を発する。

「からあげが食べたいです!!!」

 圧倒的不審者である。見ず知らずの人間が自分の弁当を凝視してそう言うのだから。しかし、私はもう限界であった。からあげ。からあげ。からあげからあげ。

 すると男性はくすりと笑った。

「お一つ、食べます?」

 この不審者によくそんな事を言えるなと思いながらも私は……。

「ありがとうございます!」

 からあげが食べられるならなんだって良いと男性の隣にお邪魔する。自分の弁当袋を開け、箸と弁当の蓋を準備する。

「どうぞ。まだお箸つけてませんから」

 男性はそう言ってからあげ弁当を差し出す。

「あ、お気遣いありがとうございます」

 私は大きなからあげを箸で一つ掴んで蓋に置く。久々のからあげ……。

「いただきます」

 私はからあげにかぶりつく。それはとても……。

「ん~! 美味しい~!」

 少ししっとりした衣と醤油の下味がしっかりついた肉厚の身。

 体に染み渡る感覚。これだ、これだ。私は幸せの感覚を噛み締める。

 あっという間に食べてしまった。ふぅ、と一息つく。すると男性が口を開いた。

「あなたは……」

 あ、しまった。からあげをがっつく女なんてはしたないだろう。だから封印しようと決意したのに……。私はなんて心が弱いのだろう……。

 しかし男性の口から出たのはそんな言葉ではなかった。

「とても美味しそうに食べますね」

「え……」

 男性は笑う。

「僕、そういう人好きです」

「好き……?」

 だって、からあげを食べる女は愛されなくて……。だから彼氏にフラれた訳で……。

 男性はにこにこ笑っている。

「少し、お話しませんか? あ、お弁当のおかずも分けてくれたら嬉しいです」

「あ……はい……」

 そうして私はこの男性と話をする事になった。


「……それでフラれちゃって」

 いつの間にか私は男性に身の上話をしていた。知らない人だから話せたのだろう。からあげ好きが原因でフラれたなんて恥ずかしくて親しい人には言えない。

「そうなんですね」

「やっぱり女性ってもっと可愛いものを好きになるべきですよね……」

 そうであればフラれる事なんて……。

「それは違うと思います」

「違う……?」

 私は男性が何を言っているのかわからなかった。

「好きなものは好きでいていいんです。他人に迷惑かけるなら別ですけど、からあげが好きで何が悪いんですか」

 男性の言葉に……心のつかえが取れた気がした。

「からあげ……好きでいて大丈夫なんですかね……」

「ええ」

 男性の笑みに私は少しドキリとした。

「あの」

 男性が何か言おうとしている。

「はい?」

「予定が空いてる日、あなたのおすすめのからあげがあるお店に連れて行ってください」

 私は目を丸くした。

「それはいわゆる……」

「ナンパだと思ってください。今フリーですよね?」

 え、え、私がナンパされる? いやいやまさか。何かの冗談だろう。

 でも……私はその冗談に乗ってみたくなった。なんでだろう。嬉しかったからだろうか。それとも男性が気になったからだろうか。

「わかりました」

 私は笑顔で応える。

「決まりですね。じゃあ連絡先……の前に名前言ってなかったですね。僕の名前は山下 葵(やました あおい)です」

「あ、私は小川 友紀(おがわ ゆうき)です」

 こうして私達はからあげを介して出会ったのだった。

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