最終話 ~手作りからあげ弁当と大切なもの~
「葵くん!」
「友紀ちゃん」
私達は会社の昼休み、いつもの公園で待ち合わせをした。葵くんは先に来てベンチに座っていた。
私の両手には巾着に入った弁当箱が二つ下げられている。
「はい! 約束の手作りからあげ弁当!」
私は葵くんに片方を差し出す。
「楽しみだなぁ」
葵くんは嬉しそうに弁当箱を受け取った。
私もベンチに座り、巾着を開ける。二段弁当だ。葵くんもそれに倣う。
「どうぞ、召し上がれ」
今度は、私が作ったもの。葵くんは美味しいって言ってくれるだろうかと内心ドキドキしながら告げた。
「はい、いただきます」
葵くんは手を合わせて弁当箱を開ける。
「わ~わくわくするね」
お弁当には一段目に鮭ふりかけをかけたご飯、二段目に卵焼き、プチトマト、冷食グラタン、そして面積の半分を占める小さめのからあげ。
「自分から言っといてなんだけど、朝から揚げ物って大変じゃなかった?」
ふふふ。葵くんの心配に私は得意気になる。
「レンチンで簡単にできるんだよ」
「レンチンで? 友紀ちゃんって凄いね」
「照れるな~」
「後でやり方教えてよ。僕も今度お返しに作ってみたい」
葵くんの言葉が私を心臓をときめかせる。
「うん!」
やっぱり私は葵くんが好きだ。いつ言えるのだろう、この想いは。
「ありがとう」
葵くんは嬉しそうに笑った後、弁当のからあげに箸を伸ばした。いつもの様にかじりついてもぐもぐと咀嚼する。そして飲み込むと……顔を輝かせて。
「美味しい! 冷めてるのにちゃんと味が染みててお肉もほろほろで……」
葵くんの感想は止まらない。
美味しいって……言ってくれた……。こんな幸せな事があるのだろうか。心がぽかぽかする。
「……それから」
葵くんは私の目を見つめて微笑んだ。
「友紀ちゃんが作ってくれたから美味しいのかも」
私が……?
「それって……」
そう言った時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「友紀~元気してた~?」
ガタイの良い男がお洒落な女性と腕を組んで私達の前に現れた。
「あんた……」
「誰?」
葵くんは不思議そうに尋ねる。
「……元カレ」
「……ああ」
葵くんの表情が厳しいものになった。こんな葵くん初めて見た。
こいつとは同じ会社で、私が昼休みにここでご飯を食べるのは知っている。
「何?」
私は冷たく言い放つ。
「お前と別れて正解、って言いにきた。こいつ、見た目も生活も食べるものもお洒落でさ~」
こいつとは隣の女性の事だろう。
「ってか……」
元カレは私達の弁当を見てゲラゲラ笑った。
「まーだからあげまみれの食事してんの? いい加減、女磨けよ」
ああ……わかった。こいつは私の好きなものを否定する。以前の私なら何も言えずに諦めただろう。でも……今は違う。
私は弁当箱を横に置いて立ち上がった。
「からあげを……好きなものを好きでいて何が悪いの?」
「は?」
葵くんに教えてもらったから。
「私はからあげが大好きなの!! それをあんたにどうこう言われる謂れはない!!!」
好きなものを……大切にする気持ちを。
「な、何開き直ってんだよ……」
元カレはタジタジになっている。
すると、葵くんも立ち上がった。
「友紀ちゃんの元カレさん。あなた可哀想な人ですね」
「か、可哀想?」
葵くんは冷徹な笑みを浮かべて言う。
「他人の大切なものを否定する事しかできない。そして、友紀ちゃんというとても大切なものを自ら手放した」
「な、何が言いたいんだよ……。つか、お前なんなんだよ……」
葵くんから笑みが消えた。
「二度と友紀ちゃんを貶めるな。僕は……友紀ちゃんが大好きなただの一般人」
「っ……!」
元カレが怯むと、今まで黙っていた女性が口を開いた。
「あんさぁ」
「! お、お前も言ってやれ!」
女性は元カレから腕を離した。
「なんか面白いもん見せてやるとか言うからついてきたけど、あんた馬鹿じゃね?」
「え……」
元カレはぽかんとする。
「マジモラハラ野郎じゃん。店員さんにも横柄な態度とるからアレだなーとは思ってたけどさ」
「え、あ」
「別れるわ。あたしにももう近づかないでね。それと、あんたら」
女性は私達に向かって言う。
「こいつがごめんね。でもさ、かっこよかったよ」
女性はそれだけ言うとくるりと後ろを向き、手を振って去っていった。
「ま、待てよ! 待ってくれよ!!」
元カレは女性を追いかけ消えていった。
その場に取り残された私達はというと……。
「葵くん、ありがとう」
葵くんはいつもの笑顔に戻って。
「僕はなんにもしてないよ。友紀ちゃんが言ってやったんだ」
葵くんは優しい。私は笑う。
「えへへ……」
しかし、気になった言葉がある。
「……あの……大好きというのは……」
葵くんはいつもの様子で述べる。
「最初、ここで友紀ちゃんがからあげを食べたのを見た時から好きになったんだ。でも、友紀ちゃんと一緒に過ごしているうちにもっと好きになった」
それはつまり……。
「友紀ちゃん、君の事が好きです。ずっと一緒にいてください」
私の答えは決まっている。
「私も葵くんの事が大好き」
泣き出してしまった私を葵くんは温かくなだめてくれた。
「姉さん、ちょっとずつご飯食べる様になったって」
私の部屋で葵くんはキッチンに立ちながら言う。私は葵くんにからあげの作り方を教えながら。
「良かったね!」
葵くんは微笑む。
「いつかさ、二人で作ったからあげ食べてくれるかな」
「きっと、食べてくれるよ」
私は葵くんに笑いかける。
「ねえ、明日は何しようか」
葵くんの問いかけの答えは当然。
「からあげ食べたい」
今日も明日も、私達はからあげを食べる。二人で一緒に。




