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再会(4)

 キャロル・トックヴィル。

 やっと見つけた。この世界の主人公。

 彼女はここから運び出されてからあまり時間が経っていないと考えるのが妥当よね。

 今すぐにでも会いに行きたいけれど、さっきの話から推測すると彼女は大きな怪我をしているみたい。

 会いに行くのは少佐も許さないだろうし、一先ずは名前が分かっただけでも収穫としましょう。




 それからひとしきり校舎を回った後外に出ると、そこには縮こまったナタリアがいた。

 お爺様とお父様の執事の後ろに控えている。

 あ、二人にさっきのことを叱られたのかしら。

「お嬢様、先程はお嬢様に恥をかかせてしまい申し訳ありません」

「いいのよ。このことは次に生かしなさい」

 そう言ってナタリアの頭にポンと優しく手を乗せる。


「マチルダ、お前がそんなだからメイドが育たないんじゃないのか?」

 お兄様が私を窘める。

「私の教育方針にケチをつけないでくださいます? 私のモットーは怒らない、否定しない、助ける、指示する、ですので」

 指を一本ずつ立てながら言う。これは私が前世で身に着けた後輩に対する教育方法。

 所謂、ホウレンソウのおひたし。


 刹那、大地が揺れる。そして空に轟く耳をつんざく音。

 噴火だ。遠くの山の上空が黒く染まる。

 校庭が慌しくなり、軍人達がテントを畳み装備機材を次々トラックに積み込んでいく。


「大隊長、第3中隊救援用意よし!」

 ひとりの軍人がトックヴィル少佐に駆け寄り敬礼する。

「了解! 出発せよ!」

「了解!」

 言うなり駆け出しトラックに乗り込む。気付けば校庭の半分が跡形もなくなっていた。

「すごいですね。お二人は行かなくてよろしいのですか?」

 二人とはトックヴィル少佐とお兄様のことだ。


「ああ、俺は前直だからね」

「ゼンチョク?」

「ローテーションしているのさ。今は第2中隊が被災地で第3中隊が待機。で、噴火が起これば待機部隊が応援に出るのさ。俺は第1中隊所属だから今は休憩中だけど、時間が来たら第3中隊は第2中隊と交代して、次は俺達が待機ってわけ」

「私は最終責任者だからね。必要なら前に出るけれど、下に任せられることは任せることにしているんだ。私の移動は、大隊本部の移動でもあるからね」

 そう言って少佐が肩をすくめる。

 なるほど、私に対してここまで親しげに接しているから忘れていたけれど、そういう中々動けない立場の人物なのだ。

 だけど、そうなると猶の事、あの時、少佐が数人だけで洞窟まで来たことに違和感がある。

 てっきり少佐が上層部からの特命を受けていたから少数で来たのかと思ったけれど。


「ま、普段はロングフィールドで冷や飯喰らいなんだけどさ」

「まあ」

 口に手を当て驚いて見せる。

 私の思考を読んだのか、少佐が最後に付け加える。

 やることがないから調査もできる、ということなのかしら。

「大隊長、それでは私も冷や飯喰らいということになるじゃありませんか」

「違うとでも?」

「「ははは」」

 二人だけでなくお兄様の小隊の皆も笑っている。ロングフィールドの部隊ではこれが冗談になるのだろうか? よくわからない。


「トックヴィル少佐。本日は許可を頂き、ありがとうございます。庶民の窮状がよくわかりました」

「お気をつけて。そろそろルーナスターへお帰りかな?」

「私としてはまだまだここにいたいのだけど」

「いけません。もう数週間になります。ジェイソン様もアーサー様もご心配しておられます」

 ナタリアの言葉にお爺様とお父様の秘書、二人ともうんうんと頷く。


「だ、そうなので、明日にはここを発とうかと思います」

「それを聞いて安心したよ。いつまでもお転婆の世話をするのも疲れるからね」

「ちょっと、それどういう意味なのお兄様?」

 ジト目でお兄様を見つめる。

「そりゃあ、灰の泥に足元を取られて頭からそこに突っ込んだお嬢様にさ」

 明らかに私をバカにしている声色だ。


「何よ! お兄様だって泥で滑ってズボンのお尻を破いてたくせに!」

 そう言ってお兄様の後ろに回って、お兄様のズボンのお尻の縫い跡を指で突っ突く。

「おま、それは言わない約束」

 お兄様の小隊の皆がニンマリとした顔でお兄様のお尻を見つめる。

 皆に詰め寄られ困っているお兄様が私に謝って助けを求めるが、あえてこう言ってやるのだ。

「知らない! もう縫ってあげないんだから!」

「おやおや、可愛い妹を怒らせるとは、兄としてどうなのかね」


 含み笑いで少佐がお兄様に追い打ちをかける。

「だ、大隊長まで? マチルダ、悪かったって。ほんとだよぉ」

 皆の笑う声の中、お兄様の情けない声が虚しく空に消えるのだった。




 翌朝、朝食を済ませて車を出そうとした時に、わざわざお兄様がお見送りに来てくださった。

 車から降りようとしたが、そのままでよいと、私は車の後部座席に乗ったまま、道路に立つお兄様と会話をする。


「では、気を付けて帰るんだぞ。伯爵にも失礼のないように」

 伯爵とはミモザの祖父、リンドバーグ伯爵のことである。折角伯爵の近くまで来たのだから、挨拶もなしに帰るのは忍びないと、お兄様に伝えていた。

「ええ。伯爵のところへ昨日電話をしましたら、喜んで歓迎するとのことでしたが、伯爵邸も噴火の被害を少なからず受けているはず。長居はできません」

「わかっていればいい。二人とも、マチルダを頼んだぞ」

 運転席と助手席に座る執事達に顔を向けてそう言うと、次は私の隣に座るナタリアに顔を向ける。


「前の二人から色々学ぶように。マチルダの優しさに甘えず、常に自分から率先して行動するように」

「はい」

「いい返事だ。ではな、マチルダ。風邪ひくなよ。出していいぞ!」

 言い終わると車の後ろをどんと叩き、それに合わせて車が動き出す。

「お兄様も!」


 車の窓から顔を出しお兄様に向かって叫ぶ。

 私とお兄様は、お互いの姿が見えなくなるまで手を振り続けるのだった。

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