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第六十六話 女神覚醒

「黄・・・・・・私すごく痛いわ」

「うん・・・・・・今の一撃で、即死した方が楽だったかも・・・・・・」


 全身に火傷を負った状態で、林の中の地面に転がる二人は、まだ生きていた。事前に渡された結界装置の補助効果と、元々二人の持つ頑強な肉体のおかげで、あの威力の魔法が直撃しても、命を取り留めている。

だが火傷と、爆破の衝撃による全身打撲で、結構な手傷である。ヨロヨロと立ち上がるが、まだ戦える状態になるには、時間がかかりそうである。


「まだ戦いの音がしてる・・・・・・登喜子はまだ生きてるかしら?」

「うん・・・・・・でもこれだともう役に立ちそうにないよな。もういっそ逃げようか?」


 こちらの動きを見切られて、もう同じ手は通じないように思える状況。元々金にはさほど困っていない二人は、かなり諦めが早かったが・・・・・・


「はあ・・・・・・意地というものが感じられませんね。昔の紺さんだったら、こんな屈辱を受けたら、何としても倒そうと躍起になったのに・・・・・・」


 そこで唐突に現れたのは、なんと以前黄に接触してきた葉人の女の躑躅であった。彼女も転移が使えるのだろうか、いつのまにか気付かぬうちに、紺達の目の前に現れて、呆れた様子で話しかけてくる。


「ああ躑躅さん・・・・・・数日ぶり」

「あんたが躑躅? じゃあ丁度良いわ。前に浅葱がやったみたく、あれ片付けてくれる?」


 紺が言ったのは、以前浅葱が突然現れて、ヘドロ怪獣を瞬殺したことのことを言っているだろう。だが躑躅にその気はないようであった。


「はあ・・・・・・もう待ってられません。これ以上、あんな弱いお二人を見続けるのは、正直きついです! もうここで一気に覚醒させます! 勝手をしてごめんなさい!」

「「!?」」


 突然躑躅が、並び立つ二人の胸に、両掌を押し当てる。そこで何か判らないが、何らかの魔法と思われる力を行使し・・・・・・その瞬間に二人の肉体と魂に宿る力が、一気に弾けた。







 そこでは魔王蟻とザルソバとの、二体の怪獣の戦いが始まっている。互いに魔法を撃ち合ったり、角と牙を突き合わせたりと、盛んに戦っている。


(敵が残り一匹だけなら、もうあいつ一人に任せてもいいか?)


 結構な痛手を負って、弱々しく立っている登喜子が、その戦況を見て、そろそろ帰ろうかと思ってる最中であった。


「えっ!? 何っ!?」


 そこで唐突に異変が起こる。どうせ死なないから大丈夫だろうと、微塵も気にかけなかった二人が吹っ飛んだ林の方角。

 そこで突然、大木が生えてきた。本来ならば数十年の歳月を必要とする、若木から巨木への成長。それがとんでもないショートカットで、樹木の成長VTR映像を見せられているかのような様子で、凄まじい速度で樹木が巨大化している。

 それも一本ではない。最初は三本ほど同時に、しかもそれらがある程度の大きさになると、変化は止まるが、その代わりに近くにあった別の樹木が巨大化している。

 樹の生育密度の関係で、巨大化のせいで互いにくっついた樹木は、まるで一つに融合するかのように絡み合い、更に巨大な巨木となる。

 林の奥で繰り広げられているにもかかわらず、外の町側からでもはっきりと判る異変に、戦闘中の者達も呆然とする。


『何だあれは? あれはお前らの仕業か?』

「いや知らないよ! お前らが何かしたんじゃないのか!?」

『何故私が、あんな所の植物を育てねばならない?』


 敵同士の警官隊と魔王蟻が、困惑して戦闘の最中にそんなとぼけた会話をしてしまう。今ここでの戦いと、関係があるのかも不明な、謎の現象であった。


(さっきは何故か、あの女を喰いたいという感情が湧き出たが・・・・・・今は逆に恐ろしい。あの女は一体何なんだ? しかし恐ろしい筈なのに、身体が勝手に動きそうだ。これは私の心に反して、このモンスターの肉体が、あの女を求めているのか?)







「ちょっと何なのよこれ?」

「さああの人の魔法かな?」


 自分達の身体に、何かの魔法をかけたような行動をした後で、そそくさと去って行った躑躅に疑問を感じながらも、それも含めたもっと大きな疑問を、周りに向けて浮かべる紺と黄。

 周囲の植物が急激に生長している。彼らを中心にして、彼らの周りにある樹木が、どんどん巨大化しているのである。

 樹木どころか、森の中にいる動物も、どことなく大きくなっているようだ。紺の足下には、鼠ほどの大きさの蟻の群れや、本来この森にはいないはずの体長二メートル近い大蜥蜴が、混乱した様子で走り回っているのである。


「何かこの樹、私達が住んでた森の中の樹に、雰囲気が似てない?」

「確かに・・・・・・でもそれは今は関係ないだろうけど。とにかくどうしよう? 何か身体の傷が、もう治ってるし。また戻る?」

「それもそうね・・・・・・ザルソバもいるし、あっちも放っておけないわね」


 そう言って二人が歩き出す。その歩いてきた方向に沿うように、異変を起こす植物の範囲も広がっているようであった。


「ちょっとちょっと待って! 今は人前に近づいちゃ駄目!」


 すぐ先にある戦場に向かおうとしたところで、先程どこかに行った躑躅が、また戻ってきた。しかも随分と慌てた様子で、紺達の通路を塞ぐ。


「何よあんた? さっきはさっさと逃げたくせに・・・・・・」

「逃げたというか・・・・・・あれは先走ったことをしたせいで、あの場に居づらかったからで。でもまさかすぐに、こんな事態が起こるなんて・・・・・・」

「こんな事態って、このでかい樹か? あれはあんたがやったんじゃないの?」

「それは・・・・・・ほげっ!?」


 何か説明しようとしている最中に、躑躅が後ろから吹き飛ばされた。彼女の背中に、盛大な不意打ちの体当たりをしてきた者。それは今、登喜子やザルソバと戦っているはずの、あの魔王蟻であった。


「うわっ・・・・・・出たよ。戦う?」


 紺と黄のいる位置の間を、吹っ飛ぶ躑躅の身体が通り抜けた後、後ろの巨木にめり込んでいる躑躅を気にせず、紺と黄が身構える。

 だが一方の魔王蟻の様子はおかしかった。今にも二人に食い付きそうな勢いなのに、何故か急に後ずさりをしているという、矛盾した動きである。


(こいつらに噛みついたら、私は間違いなく浄化される! だが何故、この身体が勝手に、こいつを喰らおうとする? この肉体の、元の主の意思か? しかしたかが虫けらが、何故こいつを求める?)


 中々動き出さない魔王蟻に、首を傾げる二人。このまま殴りかかってよいものかと考え込んでいる内に、魔王蟻の方が話しかけてきた。


『おっ、お前ら・・・・・・どうか俺を見逃しくれないか? 何故かこの身体が、勝手にお前らを喰おうと動く。だがお前らの方から、引いてくれれば、何とか制御できるかも知れない・・・・・・』

「何? その理屈? ていうか私ら、光二からあんたの退治を頼まれたし・・・・・・」

『一度ぐらい、情けをくれてもいいだろう! 元々お前らは、この国を救うために、森を出てきたわけではあるまい!』

「それはそうだけどさ・・・・・・」


 確かに彼女らには、この国のために尽くす理由はないだろう。元々彼女らが森を出た理由は、ランスロットという男が、筋違いの頼みをしに、彼女らを頼ってきた件から、外の世界に興味を持ったことである。だが・・・・・・


「でもだからと言って、あんたを見逃す理由もないわよね。別に今この場で、あんたを倒すことに、そんな重い決断がいるわけじゃないし」

『ググググ・・・・・・』

「まあ私らもさ・・・・・・意味もなく無駄に長い年月を生きて、やりたいことも何もない所を、適当に人に言われるままに動いてたけどさ。でも最近になって、ちょっとだけ興味が沸いたことがあるのよ。あんたがおかしくしたこの国を、まともにしてやれないかって。まあこれも、今の時代に会った人達との付き合いで、流されてそう思っただけかも知れないけど」

『消え・・・・・・私が消え・・・・・・』

「だってどうせ何かをするなら、悪事より善事をしていたほうが気持ちいいでしょ? 昔の仲間らしい人から、外国の政治に協力して欲しいっても言われたけど。でもどうせなら昔の知り合いより、今知り合った人達と、何かした方が楽しそうだしね。・・・・・・というわけで、私の枯れちゃった心を、少しでも満たすための生贄として、あんた死んでちょうだいね♫」


 そう言って拳を向ける紺。それに関する魔王蟻からの、言葉での返答はなく、さっきまで踏みとどまっていたのを急に止め、牙を大きく開けて突撃してきた。


「うわっ!」


 もの凄い速度で紺に接近し、その二つの牙で彼女に食い付こうとする。紺はそれをすんでの所で、両手で二つの牙を掴み、ギリギリの所で静止する。見事な牙の白刃取りである。


(何だろ? 急に腕力と反射神経が上がったような?)


 自身に起きた異変を考えるまでもない。牙を掴み、噛みつきを静止することが出来たが、魔王蟻の突進を止めるほどの力はないようだ。

 そのまま牙を掴んだ状態で、どんどん後ろへと追いやられる紺。地面に突いた足が、地面を大きく抉り続けるが、それに耐えきれなくなり、足を宙に浮かす。

 そしてまるで体操選手のように、身体が浮き、牙を掴んだまま、身体が回り、紺の背中が、魔王蟻の背中に乗っかってしまった。


(痛い・・・・・・今ので手首折れたんじゃ? ていうかこいつ、突進を止めないの?)


 腕が変な曲がり方をして、牙を掴んだまま、魔王蟻の背中に仰向けに乗ってしまった紺。魔王蟻はそんな彼女を背に乗せたまま、森の奥へと突っ込んでいった。


「おいおい・・・・・・」


 そんな二人を、呆れた様子で、森の奥へと追いかける黄。彼女がいなくなった辺りで、この林に次の闖入者達が現れた。登喜子とザルソバである。


「お前は確か・・・・・・ちょっとここにでかい蟻が飛び込まなかった?」


 そこに現れた、登喜子が問いかけるのは、今めり込んだ巨木から脱出した躑躅である。


「あれは、紺さんを捕まえて、森の奥へ・・・・・・」

「そうかあいつめ、手間をかけさせるわね・・・・・・よしっ!」

「ちょっと待って! 今はあの人に近づいちゃ駄目!」


 さほど心配はしてないが、一応紺の救出は必要と考えて、すぐに追いかけようとする登喜子を、何故か躑躅が静止する。


「今あの人の力が暴走して、かなり危険な状況よ! あの人の身体の一部を取り込んだわけでもないのに、周囲の生物が、無差別に生命を強化されてるわ! 植物や小動物でもこんな有様なのに、人間が近づいたら大変なことになるわ!」


 そう言ってる最中に、遠くの方で、林の樹木の以上が拡大している。その拡大の流れは、丁度紺達が走って行った方向に、順列して続いているようだった。


「紺さんのあの力を、人間が取り込んだら、適正のある者は不老不死になる。私や黄君がそうだったわ。でも適正のない大多数の人間は、人の形も知性も残らないモンスターになってしまう。どっちをとっても取り返しのつかない事態よ! でも最初から力を得ている私達なら、影響ないから、ここは私達に・・・・・・」

「えっ? ああこのでかいトカゲに気をとられて聞いてなかったわ・・・・・・」


 捕まえようとでも思ったのか、登喜子の手には、千切れた大蜥蜴の尻尾が、ピクピクと動いている。そして少し離れた所に、その大蜥蜴の尻尾が、あり得ない速度で再生中であった。


「まあようは、あのでかい蟻が、この異変を起こしてるわけね。どのみち騒ぎを止めるために倒さないと・・・・・・」

「えっ、ちょっと原因の人違い・・・・・・いやそれはいいから、ここは私達に任せて!」


 話しを中途半端に聞いた状態で、早速注意を組まずに、後を追おうとする登喜子。それを止めようとする躑躅で、その場はしばし騒がしくなっていた。



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