第六十五話 後始末の戦い
「というわけで・・・・・・見事に負けて逃げ帰ってきました♫」
王宮の謁見室にて。先程の戦闘の後で、酷いボロボロの状態で帰ってきた登喜子が、あまり屈辱的な様子なく、あっけらかんとして報告する。
「そうですか・・・・・・とにかくご無事に帰られて良かったです。しかし先程の話しは・・・・・・」
「魔素人達が、あそこまで必死に隠匿するからには、ただのモンスターではないと思っていたが・・・・・・まさか今頃になって、ゲード国王達が現れるとはな」
報告を聞いて、国王と太政大臣も、事の深刻さに悩まさせている。まさか今になって、旧政権の最高指導者達が現れて、今のこの国に害を与えかねない事態になっているのである。だが皆が真剣に考えている中、桜花だけがこの空気に疑問を浮かべていた。
「ちょっと・・・・・・あの紺の荒唐無稽な話しを信じるわけ? 冥界の鬼神の一人に会って、話しを聞いたなんて・・・・・・」
この話しを信じてない者は、桜花だけのようで、即座に雅弘達から反論が上がる。
「いやぁ・・・・・・本当だと思うぞ。小次郎が誰かは知らんが、冥界の鬼なら見たことあるし」
「そうだよなぁ・・・・・・。この世界に生まれ落ちる前に、魂を冠してる、褐色肌の女の少年少女を見たな。黄と似た感じの奴らばかりだったな。紺の話しもルチルの話しとも、特徴が丁度似てるし。ていうかお前、昔その小次郎の名を冠した、ボランティア団体に所属してただろ?」
「あの組織の名の由来なんて知らないわよ。ていうか何で生まれる前のことを覚えてるのよあんたら? 冥界にいた記憶なんて普通は・・・・・・」
「ともかく魔素の力で強くなっているなら、ここは紺さん達に頼むべきでしょうか?」
意味不明発言をする二人への疑問の言葉を、わざと遮るように、晴子が今後の方針を語る。
話しを聞く限り、どうも国王・王太子は、魔素で洗脳はされていないが、魔素の能力強化の恩恵はあるようである。それならば、魔素を除去する力を持つ、あの二人に頼むのがだとうだろう。
「うむ・・・・・・殴って聞くような相手かは知らないが。ここは頼んでもいいだろうな。危険な目に巻き込むが、どのみちあの者達に、命の心配はあるまいし」
「いっそこの前のヒドラみたく、喰わせちまったらどうだ? そしたら中から魔素がまた抜けるだろ?」
「知性を持ったあいつらが、自ら奴らの血肉を取り込む気になるかは知らないがな・・・・・・。ともかく奴らはできるだけ早く始末しなくては。もし奴らの存在が知れたら、残っている魔素人達が、奴らを担ぎ上げて、また何かやらかすかもしれんしな」
こうして再びこの世に現れた、ゲード国王・王太子の討伐という、今回の事件の最後の片付けが始まった。
翌日のこと。ヒューゴの占いによって、またあっさりと、敵の居場所は知れた。どうやらあの二人は、圧星術で予知による探知を誤魔化すことは出来ないようである。
先日の町とは、また少し王都から離れた位置にある、とある山中の町。そこに多勢の警官達と、紺一行と登喜子の助っ人を含めて出動していた。
「大変だ~~~! 町の中にモンスターが!」
武装した警官達が、町の入り口に到達したときには、既に騒ぎは起こっていた。前回は山の中で、動物を餌にしていた二人だが、今は町の中でやらかしているようである。
「報告します! 敵は町内にある小売店を襲撃した模様! どうやら商品である菓子類や砂糖製品を食べあさっているようです!」
警官の報告に、登喜子は昔を懐かしむように口ずさむ。
「お菓子に砂糖ね・・・・・・どうやら肉体の主の特徴はしっかりあるみたいね」
「えっ? あの蟻って、お菓子も食べるの?」
「ええ、昔狩った魔王蟻は、それで群れを引き寄せて、爆弾で吹っ飛ばしたものよ。いやはらや懐かしいわ・・・・・・」
そんな昔語りはともかくとして、登喜子一行は、先日のリベンジも兼ねて、避難する多くの人々の流れに逆行して、件の小売店へと足を進めた。
「こらこら! 今回は秘密兵器を連れてきたぞ! ていうかお前ら昨日といい、どれだけ喰ってんのよ!」
『!?』
まるで道場破りのように、小売店の扉を拳で破り(本当なら蹴破るところだが、蜘蛛の八脚だとそれが難しい)、中に乗りこんでくる登喜子。
中にいたゲード国王達の入った魔王蟻たちは、店の中の菓子や砂糖類を食べ終えて、畜産区の肉や魚を食べあさっているところである。
『お前は・・・・・・昨日さっさと逃げ帰ったくせに、また性懲りもなく』
『つけ上がるなよ! 昨日で判ったが、かつてと違い、私達はお前よりも強い! 今度は貴様を命乞いさせてやる!』
異形になった代わりに、力を得た二人は、以前よりも態度がでかい。紺が姿を現したの見るや、全く恐れることなく、攻撃魔法を繰り出す。
彼らの周りに、青い光の粒子が漂ったかと思うと、それが幾重もの雷となって、登喜子のいる広範囲を焼き尽くす。
『サンダーストーム!』
それっぽい技名を口にしているが、実際にそういう魔法があるのかは知らない。だがその雷の嵐で、店の半分が吹き飛び、彼らの姿が外部にさらけ出される。
「ああっきつっ! 結構効いたわ・・・・・・」
登喜子はどうなったのかというと、瞬時に発生させられる短距離転移を繰り返して、魔法攻撃の範囲外に逃れていた。最も完全には間に合わず、何発か当たったようで、感電の苦痛と共に、彼女の身体から少し煙が上がっている。
「敵が姿を見せたぞ! 撃てっ!」
店が半壊したせいで、敵の姿が、外で待機している警官隊にも丸見えとなる。この時を待っていたかのように、多数の銃兵や戦単車が、そっちに向けて一斉射撃を行った。
『ぐっ!』
ドオオオオオオン!
その斉射によって、今度は半壊どころか全壊してしまう小売店。後から桜花の労働がまた増えたようだ。
その攻撃の前に、一匹は結界魔法で防御を行い、もう一匹は回避行動を選択して横に素早く逃げる。一匹は斉射の爆発による炎と砂埃で姿が見えなくなる。そしてもう一匹は、小売店の近くの林の中に逃げ込もうとするが・・・・・
『なっ!?』
その林の中から、待ち構えていたのか、先程言った秘密兵器=紺・黄・ザルソバが飛び出してきたのである。
まずザルソバが正面から突撃し、瞬時に結界を張った魔王蟻が、その攻撃を受け止める。攻撃は受けきったが、その衝撃で魔王蟻はしばし動きを止めた。
「くたばれ、こら!」
その隙に二人が回り込んで、結界の張っていない横側から、魔王蟻の頭部に接近。そして二人が同時に放ったダブルパンチが、その顔面に直撃する。
「ああ、いたっ! 固すぎっ!」
その拳の攻撃そのものは、あまり効いていないようだった。
結界がなくとも、彼の表皮の強度は相当なもので、今の攻撃で彼の身には傷一つない。それどころか殴った当人達が、逆に拳を痛めている有様である。だが物理的なものとは、別の痛手を敵に与えることには成功したようだ。
『ぐぅ!? 力が・・・・・・私の力が抜ける!?』
傷一つないのに、何故か悶えている魔王蟻。見た目からは判らないが、今の彼の体内にある魔素が浄化を始め、強化された能力が衰え始めている。
最も今の一撃で、全ての魔素が抜けるわけではない。すぐに反撃を試みようとするが、ザルソバに足の一本を噛みつかれ、動きを封じられる。
「痛えんだよ! おりゃ!」
紺と黄が、今度は同時に敵を蹴りつける。その後も次々と、拳と足を繰り出し続けて、魔王蟻を攻撃し続けた。石を殴り続けるような手足の痛みに、紺と黄は泣き顔だが、それでも我慢して殴り続ける。
『ああああっ・・・・・・』
その幾重もの攻撃に、体内の魔素が大幅に衰え、その魔王蟻は先程よりも遥かに弱化したようだ。手足の痛みに悶絶している二人に、魔法を放とうとするが、さっきはあれだけ撃てた魔法が、まるでガス欠のように不発を繰り返す。
「よくやった! そいつは私に狩らせろ!」
両者が戦闘不能に陥っている中で、横から乱入したの登喜子。力が抜けた魔王蟻に、彼女は薙刀を繰り出した。以前は結界で阻まれた攻撃だが、今回は何の邪魔もなく、敵の身体に届く。
ザシュッ!
勝負はあっさりと終わる。その刃は、魔王蟻の頭を両断し、見事敵の一人を討ち取ることに成功した。
(よし・・・・・・残る一匹は?)
残る敵に目を向けると、先程の斉射の爆音は大分弱まっている。それどころか魔王蟻は、警察の陣形のただ中に飛び込み、そこで警官隊と近接戦を行っている最中であった。
ドオオオオン!
(おいおい・・・・・・苦戦してるな)
先程、警官隊の一斉射撃をまともに受けたはずの魔王蟻。あの後何があったのかというと、彼は結界魔法で生み出した盾で、全ての砲撃を防ぎきったばかりか、そのまま真っ直ぐ敵軍の陣形に突進したのである。
そして今、俊敏でかつ怪力的な走力で、幾つもの戦単車を、体当たりで破壊していく。
戦単車達は皆一撃で、機体の一部が砕けたり、車体が曲がったりして、全壊と言うほどではないが、かなりの損傷をしている。しかも攻撃を二回受けたものは、完全に戦闘不能に陥っていた。
歩兵警官が、刀を持って斬り込んだりもしているが、彼らは魔王蟻の放つ電撃や火炎で、刃が届く前に返り討ちにあっていた。
一人の警官が、上手くそれを回避して、魔王蟻の腹に振動刀で一撃を入れることに成功した。だがついた傷は浅く、怒った魔王蟻の後ろ蹴りで吹き飛ばされた。
そんな感じで魔王蟻と警官隊の、凄まじい戦闘が目の前で繰り広げられている。魔王蟻もいくつかの銃弾や剣撃を受けて、結構な手傷を負っているが、状況的に警官隊の方が不利のようであった。
「ねえどうするのあれ? 戦いの間に入る隙がないし・・・・・・」
「さてな? このまま皆邪魔だから下がれと、一声上げるか?」
「でもそれだと、さっきみたいに隙をつけるかな? 何かあいつ、一瞬こっちを見たみたいだし・・・・・・」
黄の言うとおり、敵はこちらに気づいている風であった。果たして二回目も、先程のように、上手く先手で一撃を与えることが出来るかどうか・・・・・・と悩んでいる最中である。
(あっ! こっち来た・・・・・・)
何と魔王蟻が、今戦っている警官隊を無視して、こちらに向けて突っ込んできたのである。魔法で吹き飛んだ戦単車が、多数の警官隊を巻き添えして転がっていき、その間に一気にこちらに走り寄ってくる。
ザルソバが先程と同じように突進するが、魔王蟻は何とそれを横に動いて躱し、ザルソバと高速ですれ違って、再び紺に突進する。
「やばっ! 構えてろ!」
登喜子もすぐに武器を持ち直し、目の前にまで迫った魔王蟻の顔に刺突を繰り出す。
カキン!
以前とは違う衝突音。今回の魔王蟻は結界を張っていなかったが、彼の牙が薙刀の刃を受け止めた。
登喜子の怪力から繰り出される、振動刀の一撃すら耐える、強靱な蟻の牙。そのまま一秒の奇妙な構図の鍔迫り合いの後で、魔王蟻は牙を大きく振り上げて、薙刀の刃を弾き返す。
そしてそのまま再突撃して、牙の一撃を時の下半身=蜘蛛の胴体の顔に当たる部分に、閉じた牙で突く。
「ほげっ!」
振動刀に耐える強度の牙での、強靱な突撃を受けた登喜子。構図的には股間を打たれたようにも見える位置を突かれ、彼女は苦悶の声を上げて、後方に吹き飛ばされる。
(今のうちに!)
その隙に紺が動く。後ろから魔王蟻の腹に、二人が同時に拳を繰り出すが・・・・・・
(やばっ! ミスった!)
だがそのダブルパンチは、今回は外した。事前に動きを察知した魔王蟻が、一瞬で自分の立つ位置を変えて、二人のパンチは空を切った。そして時計のように身を回転させて、顔を二人のいる位置に向け、その顔の先に魔法の光が放たれる。
ドウン!
そこで近距離で着弾した火炎弾をもろに受けて、二人は爆炎と共に吹き飛び、向こうの側のさっき隠れていた林に、また戻っていった。




