第六十四話 逮捕される神と蘇る王族
戦いは呆気なく終わる。超人的な身体能力や魔法などを使う魔素人達も、国王の護衛を務めるほどの猛者であるこの二人の敵ではない。
四人の魔素人達を倒し、彼らを一時気絶させる。頭を刀で割られるという致命傷の者もいるが、魔素人ならこれで死にはしない。後は紺達に殴って浄化してもらうだけだ。
「この程度の相手に、あそこまで手こずるなんて、宗主国の侍と忍者も意外と雑魚だねぇ~~」
「はあ・・・・・・まあ転生者の俺たちが強すぎるってことなんだろうよ。それで結局これは何だ?」
自身の勝利と実力に酔うのも済ませ、二人が注目するのは、彼らが持ち出そうとした二つの巨大な箱。
「さて中は何だろうな? 中が金だったら、すこしもらっておくか?」
「止めとけ勝手に開けるなんてさ。ひとまず・・・・・・」
ガタガタガタッ!
二人の会話以外に発せられたその音は、その件の箱二つが、突然揺れ出す音。誰もその箱に触れてはいない。中にいる何かが、内部から箱を揺さぶっているのである。
「おいおい何だ?」
「クルシイ・・・・・・タスケテクレ・・・・・・」
「!? 判った、ちょっと待て!」
中から聞こえてきた声に、人が閉じ込められていて、かなり危険な状態と察した二人。彼らはすぐに振動刀で箱の錠を破壊する。そして二人で、二つの箱を同時に開け放った。
だが思っていたのと違って、そこから解放されたのは、人ではなく二体の巨大な蟻であったが。
展示場前の戦闘跡。あのヒドラ型魔人は、紺と黄の手で、呆気なく浄化された。内側から崩壊して、ボロボロに崩れ去った後で、彼の内部から蒼仁と紺達が、無傷で姿を現した。
手で触れただけで、魔素を浄化できるという彼らの能力のおかげで、三人とも全く汚れなく綺麗な姿での脱出である。事態を聞きつけて、すぐに周辺の警察や記者が、そこに駆け込んできている。
「はいよこれ返すわ。しかし大使が魔素人になってるなんて、そっちも迂闊よね」
「ええ・・・・・・全く返す言葉もないわ」
気絶した魔素人を、武者達に返す紺。引き渡された側は、大使が無事に返ってきたというのに浮かない様子。これから先、大蛇側から・・・・・・いや国際的に今回の失態をどう言い訳するか考えると、彼らも気分が沈むだろう。
「あの~~結局あの人何だったんですか? この聖剣は、邪悪な人間を選んだりしないはずですけど。何故あの人がモンスターに?」
そんな折に紺に話しかけるのは、事態に置いてけぼりにされたロア。先程放り投げられた聖剣を拾い上げ、くぐもった声である。
「ああ~~それは説明が面倒くさいんだけどさ・・・・・・」
「精霊ロア! 今回の魔素人のテロ行為の荷担行為に対し、貴方を現行犯逮捕します!」
紺の返答の前に、周りにいる警官達が、ロアに対し本人の処遇を口にして取り囲む。
「えっ!? テロ行為!? 私は只、正義の味方の加勢を・・・・・・」
「何が正義だ! この迷惑女神め!」
当惑したロアは、即座に特殊金属製の手錠を嵌められて、あっというまに連行されていった。事態を何も理解していない彼女が、色々叫んでいるが、話しは署で聞くと言われ、只の犯罪者としてあっさりと連れられていく。
「かつてのゼウス大陸の主神が、今やこんな様とはね・・・・・・本人何も知らない内に、無様なこと・・・・・・」
その様子を、哀れみとも蔑みともとれる様子で見る滝子達。結局いきなり出てきて、事態を混迷化させたまま、有耶無耶のまま退場していった彼女は何だったのか? それに興味を引く者は誰もいなかった。
ただしその場で展示場から現れた者には、皆が注目した。展示場入り口から出てきた鹿太郎と雅弘が、大慌てでその場に駆け込み叫ぶ。
「悪い! 魔素人達が飼ってたモンスター二匹、うっかり逃がしちまった!」
『ここ最近に起きた魔素人の暴走事件の多発に関してですが。各所で暴かれた魔素人のアジトからの押収品から、やはり蒼仁大使が持ち込んだ、天帝国からの物資が原因であることが、ほぼ確定しました。彼は半月以上前から、この国の魔素人達と連絡を取り合い、魔素を増強し、人間に寄生させるのに利用可能な、薬品や機材を大量に輸入することを計画していたようです。件の査察で来訪した際に、それが魔素人達の手に渡り、多数の人間を魔素人化させたようです。ですが魔素人達は、新しい仲間達の、独断の行動を制御できず、あのように無差別な暴走事件が多発するようになったようで・・・・・・』
街中の街頭テレビで、今回の事件の全貌を、多くの人が聞き入る、事件の二日後の日の事。これで事件解決に進展が見られてとして、封鎖を解除された王都では、少しずつ平穏が取り戻そうとしている。
そんな日の登喜子宅にて、相変わらず自分以外は隠密だらけの学校から、ネルと共に帰宅したヒューゴが、最初に出会ったのは登喜子ではなく、家の玄関前で待ち構えていた。
「やあお帰りなさいヒューゴ様にネル君・・・・・・」
「鮫姐さんは何のようだい? ていうか俺は幼女だから、君じゃなくてちゃんで呼べよ!」
「誰が呼ぶか! あんたの中身が何なのか知ってるわ! 享年が判らないから君付けにしてあげたけど、どうせおっさんでしょう! 晴子達といい、私が出会う転生者は、何でこんな野蛮人ばかりなのかしら・・・・・・」
「おいおい俺は自分が野蛮なのは知ってるが・・・・・・恐竜姐さんは別に野蛮じゃないだろ?」
「あいつの本性が判ってないのね・・・・・・。あの女、昨日の戦闘の時も、薄気味悪く笑っていたわ。殺し合いが楽しいと言わんばかりにね。大方、この世界で生まれる前は、相当な危険人物だったんでしょうよ・・・・・・」
何故か人の家の前で、意味不明のやり取りをする、幼女と異国の皇族。この流れにヒューゴに首を傾げていることに気付いて、滝子は慌ててこちらに話しを移す。
「ついさっき、王宮で話しが終わったわ。今日中に私達は、査察を中止して、父上と共にこの国を出るわ。もう査察どころか、天帝国側の補償の話しで、こちらは忙しくなるでしょうね・・・・・・」
「はあ・・・・・・それはご愁傷様」
「画期的だったあの浄化噴霧器も、間もなく使用中止になるわ。どうやらあれ、魔素が寄生してから、ある程度時間が経った人には効果が薄いみたい。以前紺様が、中途半端な威力で殴った男が、魔人化した事件もあったけど。どうやら父上の身に起きたのも、それと同じような原理みたいね。おかげで圧倒的な交渉材料もなくなって、こっちがこの国に大きな顔できる理由もなくなった。完全に面目丸つぶれね・・・・・・」
「何でその話しを、わざわざここに? 登喜子に話があるなら、今仕事に行っていないけど・・・・・・」
滝子の今の状況など、ヒューゴ達には関係ないこと。だが何故か、家に来て直に説明をしだすことに、ヒューゴはますます困惑している。
「ええ・・・・・・もう回りくどいことして、小細工をするのも止めるわ。ここで単刀直入を言うわ。ヒューゴ様、あなた天帝国に来てくれない? 今すぐ出なくても、ロウ王国の復興と、魔法学校の卒業が終わった後でもいい。例えこの国を乗っ取れなくても、貴方のことは天帝国に、いえ私にとって必要な存在よ! だから私と一緒に・・・・・・」
「ええ・・・・・・お断りします」
かなり思い切っていたであろう女の言葉を、ヒューゴは軽い口調であっさり拒否。これに滝子は唖然とし、ネルは馬鹿にするように嘲笑う。
「天帝国でどんな待遇してくれるか知らないけど・・・・・・俺はゼウス人で、ロウ王国が故郷なんだ。それを捨てる気なんて、俺にはないよ。俺の力に期待してくれて嬉しいけど、この話はなしで・・・・・・」
緩やかに頭を下げて、滝子の前を通り過ぎて、ヒューゴはさっさと自宅へと入ってしまった。
「駄目だなあんた・・・・・・あんないきなり告白みたいな事言われても、相手にされるわけないだろ。もし査察の数日間の間に、鮫姐さんとあんちゃんに、ロマンス的な展開があったら、少しは気を引けたかもしれんがな。あんたこの国で手柄を上げようと、魔素人狩りに躍起になって、あんちゃんにほとんど構わなかったろ? あんた男を連れ出すのに、手順とチャンスを、完全に間違えましたな~~♫」
そんないやらしい口調で、滝子を馬鹿にするネル。その様子は、とても見た目通りの幼女には見えず、滝子もまた彼女を子供として見ている様子がない。
「ちっ! 嫌みな転生者ね。 いいわ・・・・・・なら次は、あんたの言うとおり、手順とチャンスを心がけてからにするわよ」
これまためんどくさい事態を招きそうな事を言う滝子。宣言通り今回は身を引いたようで、登喜子の帰りなど待たずに、さっさと立ち去ってしまった。
さて同じ頃のこと。王都から少し離れた位置にある、とある山林の奥。狼のいないこの山林で、今二体の捕食動物が、盛んに動き回り、餌を喰いあさっている。それはあの展示場から逃げだした、二体の魔王蟻である。
通常の魔王蟻よりも、遥かに俊敏な動きで、林の中の猿を捕らえ、噛み砕きもせずに呑み込んでいく。もう一匹は大きな猪を一頭、仕留めてその血肉をバリバリと食べている。
最近近くの人間の捨てた生ゴミを食べて、猪や猿が増え始めて、農業被害が心配されている時勢であるが、当分その心配はなくなったかもしれない。
最もこのモンスター二匹は、それよりもっと大きな問題であるが。
「ああいた・・・・・・派手に喰いまくってるわね~~」
ついさっき緊急警報が出されて、立ち入りが禁止されたその林に、堂々と侵入して魔王蟻たちの前に姿を現したのは登喜子。目的は当然、王都から逃げだしたモンスター二体の駆除。
何故ここが判ったのかは、当然ヒューゴの活躍によるものである。登喜子がたかがモンスター二体など、さっさと片付けて終わらせようと武器を構えたが、それに魔王蟻たちが意外な反応をした。
『貴様は・・・・・・あの時のアラクネの女!?』
『また私達を殺しに!? ひぃっ!』
今初めて判明したわけではないが、本来喋るような知性のないはずの魔王蟻が、人語を喋ってみせる。しかも以前のような、機械音声のような無機質の声ではなく、かなり人間に近い声色の、年配と若者の男性の声で喋ったのである。
「あん? 蟻が喋った? ていうかどこかで会ったっけ?」
『いっ、いや! 人違いだ失礼・・・・・・』
「あっ、判った! ゲード王国の国王と王太子ね! そうか誰かが冥界から召喚したって聞いたけど、それは魔素人のことだったのね」
今の僅かな発言だけで、驚く程理解が早い登喜子。そうこの魔王蟻の中で、大量の魔素と共に憑依しているのは、大蛇に侵略される前の、この名もなき国の最高指導者二名。
長きに渡ってゲード王国や周辺諸国の民を苦しめ、今もまた魔素人という残り物で、多くの人を困らせた張本人である。
『なっ、何を・・・・・・今ので何故そこまで判ると言うんだ!?』
「いやあだって・・・・・・その声は中々忘れられるもんじゃないわよ。大蛇軍が王都に侵攻したときに、妻子も部下も見捨てて、自分達だけ金品を持って城から逃げだそうとしたけど、荷物が重すぎてまごついている間に、あっさり私に見つかって、ものすごく無様に命乞いしてきた、見事なまでのクソ阿呆ぶりを見せつけた王族達のことなんてさぁ♫」
当時のことを思い出して、大笑いしそうなのを堪えながら、楽しげに語る登喜子。
十数年前に大蛇帝国が、この地に侵略し、ゲード王国は滅亡した。その時の王族らしく軍を指揮しようともせずに、王都陥落のその日まで、全てを部下任せにして遊びほうけていた、誇り等微塵もない愚かな最後の国王。
その彼らにトドメをさしたのは、ここにいる当時の戦争の英雄である登喜子なのである。
「この話はもう世界中に広がって、あんたらはもう世界の笑いものよ♫ この国の人達もすっかり失望した・・・・・・まあ元々貴族からも民衆からも、大して人気なかったけどさ」
『ぐぅううううっ・・・・・・』
「その上魔素人なんて物をばらまいて、今も国中に迷惑かけまくってさ~~。あいつら随分いかれた論理を口にしまくってるど、あんなのがあんたらの理想の国の在処なんてね。クソ阿呆なだけでなく、常識すら判らないイカレ国王・・・・・・」
『ちっ、違う! あんなものは私らの望んだものではない! あれの狂人ぶりは、私も心底怯えたわ!』
二人を軽蔑する言葉を、ノリノリで口にする登喜子。それに最初は反論しなかった二人だが、こちらは何故か必死で否定する。
『あれはディーク神聖王国の神官共が・・・・・・世の方に従順になる処置だと抜かしおって。あの時は、各地で反乱の兆しが見えて、私も恐れていたから、ついやつらのおかしな実験の申し出を引き受けてしまって・・・・・・』
「政変で真っ先に滅んで、小国の属国になった惨めな国に、全部をなすりつける気か!? 例えそうだとしても、あんたに同情する余地はないわ! あの時は嫌々出征して、ゼウスのこと何て何の興味もなかったけどさ・・・・・・今見返すと、あんたらの暴虐の数々には、とてつもない怒りが湧いてくるわ! ロア教なんてインチキ宗教を振りかざして、散々に人々を苦しめやがって! つい最近じゃ、自分がロア教の主神だと思い込むほどに、心が病んでしまった人も見たわ・・・・・・。過去だけでなく、今もあんたらのしたことで、多くの人が苦しんでいるわ! 絶対に許さない! すぐに地獄に送り返してやる!」
彼女らしくない・・・・・・というよりこれが登喜子の本質なのか? 魔素人より遥かにまともな正義感で、国王達に刃を向ける登喜子。これに国王達も、ますます怯えて抵抗の意思を見せた。
『冗談じゃない! 冥界の地獄など、二度と戻ってたまるか!』
『あそこに戻るくらいなら、永遠にケダモノとして生きる方がマシだ! 絶対に殺されてなるものか!』
こいつらにとって余程地獄(比喩にあらず)というものが嫌なようである。登喜子もそれを知って、ただ殺すだけで、こいつらを苦しめられると知って、更に乗り気に攻撃にでた。
ガキン!
(うん!?)
転移で一気に間合いを詰め、魔王蟻の一匹の頭をかち割ろうと薙刀を振るう。だがその刃は、その身に届くことなく、見えない壁に阻まれる。その隙に隣の一匹が、登喜子に噛みつこうと突進して、登喜子は八脚で大きく後方飛びをして避けた。
(今のは結界魔法!? 魔王蟻って、魔法なんて使えたっけ!? それともこれも魔素の力?)
本来魔法の使えないモンスターの見せた力に、僅かに動揺する登喜子。すると次にゲード国王達は、次の魔法を放つ。
大きな牙の先の辺りの空間に、青白い光が円のように現れ、それが波紋の逆再生のように、魔王蟻の顔の先に収束し、一つの大きな光になる。そしてそこから、細く鋭く速い、青白い光線が放たれた。
ドン! ドン! ドン!
その後間もなく、その森からは、強大な魔法戦が行われる、盛大な爆音がしばらく鳴り響いていた。




