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第六十二話 勇者誕生

 さて場所は再び王宮に戻る。都内でいくつか起きた暴動を、登喜子がそろそろ片付け終わるであろう所、光二の元に再び緊急の連絡が入ってきた。


『たっ、大変なことが判りました! 以前紺様の自宅に侵入を試み、ザルソバ様に撃退された、天帝国の隠密達が、先程釈放されたのですが・・・・・・』

「それは人手が増えていいこと・・・・・・というわけでもないのか? 何が大変なんだ?」

『その隠密の一人が魔素人だったんですよ! 二時間ほど前の釈放直前に、彼らの一人の言動に違和感を覚えた看守が、彼に浄化噴霧器をかけようとしたところ、逃走を行おうとしたことで発覚しました!』

「何てことだ・・・・・・」


 この国の警察や市民だけでなく、異国からの客人までもが、魔素を注入されてしまっていた。これではますます、人々は周りを信用できなくなってしまう、実に厄介な話しである。

 これに桜花が、馬鹿にした口調で語る。


「情けないわね・・・・・・そこらの軍や警察よりも、遥かに優れた戦力の隠密達が、うっかり捕まって魔素人にされるなんてね」


 強者揃いの筈なのに、ザルソバ一人に一蹴されたり、魔素人からのヒューゴの護衛に手こずったりと、あまりいいところのない隠密達。その上で今回の魔素人化では、確かに情けない話しなのだが・・・・・・桜花が語る直後に、電話の先の人物が、更に困った事実を告げる。


『それでたった今判ったことなのですが・・・・・・彼女が魔素を注入されたのは、蒼仁大使が来訪された後ではないんです! それよりも一月以上前に、自身の思考と記憶がおかしくなったと、本人が口にしています!』

「一ヶ月以上前? もしかして以前から、この国の中を探っていた奴なのか?」


 それ自体はおかしくはない。事実ヒューゴのクラスメイト達だって、ずっと前からこの国の内部に潜伏していたのだ。そういうのが他にも別部隊にいたのだろう。


『はい・・・・・・これまでの魔素人とは違い、何故か浄化前の記憶が曖昧で、魔素人化していた頃の足取りは掴みづらいのですが。どうも紺様の自宅に探りを入れようとしたのは、天帝国の誰かの命ではなく、彼女が指令状を捏造していたようです』

(やはり記憶にも手をかけられているか・・・・・・魔素人の首領が誰なのかは、恐らく判らないだろうな)

『それと気になることが一つ。彼女が言うには、魔素人化した後で、一時天帝国に帰国したことがあるそうですが、その時に天帝国の蒼仁親王に、何か良くないことをした気がすると。具体的に何をしたのかは判らないようですが、当人はそのことでかなり不安になっているようです』

「むう?」








「到着よ! まだ戦いは・・・・・・続いているようね! じゃあ早速暴れて上げるわ!」

「ええ好きなだけやってちょうだい! ていうか来るのが遅いのよ!」


 一片付け終えた登喜子が、戦場化した展示場前に現れると、そこは先程よりも聞き広がる事態になっている。

 滝子率いる部隊は、既に二十数人ほどに数を減らし、生き残った者達も、かなり疲弊している状態。その一方で蒼仁の方は、息一つ乱さず、さしたる負傷もせずに立ちはだかっている。


「ふむ・・・・・・手加減して戦うのに少々手間取っていたところだが、その必要もない者が現れたか! 月永登喜子・・・・・・この国の救済をことごとく邪魔してきた罪は、例え神が許しても我らはぜったいに許さん! ゲード国王陛下の名の下に、大罪人である貴様に、死という罰を与えよう!」

(罰? あんたらにとって、人殺しは救済じゃなかったっけ? ・・・・・・何て言っちゃ不味いのよね)


 以前に魔素人の正義論の矛盾を指摘された者が、ヒドラ型魔人になって暴れ狂った件。恐らくは誰もが突っ込みたくなるような言葉に、登喜子は珍しく自重して口を紡いだ。

 それとは別に、登喜子は蒼仁を見て、あることに気がついた。


「あら? あんたのその剣。ここに展示してあった勇者の聖剣じゃん?」

「・・・・・・えっ? ああっ! 言われてみれば確かに! 何で!?」


 滝子もここでようやく気がついた。今蒼仁が持っている剣は、選ばれた勇者にしか抜けないという、ゲード王国に代々伝わる伝説の聖剣だったのである。

 強い正義の心を持つ者にしか抜けず、使えないはずの聖なる魔剣を、何故か狂人化した蒼仁が使っているのである。


「父上の急激な戦闘力上昇はあの剣の力!? でも何であなたが!?」

「大袈裟に驚くのだな? この私が他の愚かな文官とは違う、真に人の幸福と世界の秩序を思いやる男であることは、お前が一番判っているはずであろう?」


 確かにそうである。こちらの国側では、彼が内面を見せる場面がなかったので、読者含めて誰も判らないだろうが。

 彼は、天帝国政府の政治家の中では、欲がなく誰よりも礼儀を重んじ、国民のことを思いやれる人物であることは知っている。今回の国家査定だって、最初から国権剥奪前提で行わず、真っ当な手段で評価するつもりであった。そんな人物だからこそ、天子様も彼を大使に選んだのである。

 だが今の彼は魔素人であり、本来の正義とはかけ離れたところにある筈だが・・・・・・そこで滝子は理解した。


(成る程・・・・・・魔素人は皆、悪意をもって人を傷つけるわけじゃない。自分が狂っているという自覚もなく、誰よりも純粋で、強い正義心で動いている。その想いに共鳴して、聖剣が父上を持ち主に選んだのね・・・・・・)


 優しい心と正義心さえあれば、例え心理が狂っていても、正義の剣に選ばれるという、意外な事実が発覚した瞬間である。


「・・・・・・私もうやるわよ?」


 話しをよく理解できない隣にいる登喜子は、さっさと戦闘に突入する。短距離転移で一気に蒼仁との間合いに入り、薙刀を豪快に振るうが。


 ガキン!


 案の定、先日まではなかった達人の腕前で、蒼仁はその一閃を聖剣で受け止めた。


「先程言ったとおり、お前には本気を出させてもらう」


 登喜子と鍔迫り合いをする中、彼の持つ聖剣の剣身が、見るものを魅了しそうな神々しい輝きを放ち始めた。


 ギイン!


 その光り輝く剣身を振るい、鍔迫り合いから一気に登喜子を弾き飛ばす。登喜子は空中を数回回転して吹き飛ぶも、八脚を無事に大地に着地させる。だがその時に、突撃した蒼仁が、二度目の剣撃を繰り出してきた。


 キン! キン! キン!


 繰り返される剣戟の鋭い金音。蒼仁と登喜子のチャンバラは、明らかに蒼仁の優勢である。登喜子はどんどん後方に追いやられ、何発か剣撃を喰らって、その身に複数の傷がつき始めている。


(光の魔力で剣の威力を強化している! 今までは本気じゃなかったのね・・・・・・)


 蒼仁の見せた更なる強さに驚愕する滝子。黙っているわけには行かないと、苦戦する登喜子に加勢をしようと構えるが。


「邪魔はさせん!」


 だが敵は一人ではなかった。展示場の中から、蒼仁に続くように、魔素人らしき多数の武装した人間が、次々と現れ、滝子一行に突撃してきた。

 しかもその一行の全員が、ガスマスクらしきもので顔を隠している。


「くっ・・・・・・迎え撃て!」


 その場で始まる、滝子一行と魔素人の対決。魔素の影響で強化された者達は、元は非力な市民であっても、その力は強大であり、武者や隠密達もほぼ対等に渡り合っている。

 苦戦の末にも、彼らに浄化噴霧器を吹きかけることに成功した者がいたが、何故か彼らはいつものように、浄化の影響で倒れる気配もなく、戦いを続けている。


(あれは只のマスクじゃない! 魔力を遮断する特殊装備!? 早くも浄化手段の弱点が割れたみたいだけど、こんなに早く対処されるなんて・・・・・・)


 浄化を防ぐあのマスクを、いったいどこから手に入れたのか?という疑問を、あまり頭を回す時間もなく、彼らの戦いは熾烈を極め、登喜子に加勢するどころではなくなってしまった。








「貴様も哀れな者だな・・・・・・かつては我が子に暴力を振るって痛め付けるという、実に愛情豊かな子育てを出来る程の人格者であったのに。今では災害と暴力から人々を守るという信じがたい悪行に手を染める外道に成り果てるとはな!」


 戦いながら口上を言い始める蒼仁。どうやらこちらは戦いにかなりの余裕を持ち始めたようだ。

 魔素人の詭弁などまともに取り合う必要もないと、登喜子は光の剣を受け流しながら、黙って戦いに集中し続ける。そんな彼女に、蒼仁は何も聞いていないのに、次々と話しの続きを語り続ける。


「貴様もアマテラス各国の、醜く愚かな思想に心を犯されたか? 私はゼウスの教えを注がれて、自国の異常な問題点に初めて気がついた! 天子様・・・・・・いや天子は、ゼウス大陸全土を、自国同様に治安・経済・環境全てが恵まれた、おぞましき世界に作り替えるつもりだぞ! 大蛇の侵略も、そこにいる民を真っ当に統制しているようだから、これ以上の無理な要求は止めると・・・・・・」


 怒りに震えて語り続ける蒼仁とは違い、登喜子は逆に感心した。

 大蛇側に散々嫌がらせをしてきた天帝国。それを指示したらしい臣下の品性は知らないが。少なくとも国家元首である天子は、かなり真面目にゼウス大陸の民の安全を考えているようであった。


「信じがたきことだ・・・・・・自国の民をあれだけ苦しめ続けるだけでなく、遠く離れた他国の者達までも、地獄に堕とすつもりだ! そのようなことを絶対にさせない! 私達と私達の神が、必ずこの国を・・・・・・いや世界全土の人々を、水も空気も全てが汚れきった土地で、飢えと殺戮で苦しみ、ゴミのように死に続ける、真なる幸福を与えてみせる! そのためなら私はどんな代償も厭わない! 清潔な土地で、富と権力を押しつけられて、健康と贅沢にまみれるという、死すら軽く思える程の苦行にも耐えてみせる! 登喜子よ、もし貴様に、かつて子を殺しかけるほどのことをできる良心が、一欠片でも残っているのなら・・・・・・」


 ドウン!


 いかれている上にやたらと長い口上を、ちょうど打ち切ってくれる者が現れた。戦いの最中に、抗弁中の蒼比とを、横から突進して吹き飛ばす者。それは先程まで、傷ついた身で事態を様子見していたザルソバであった。


(これは紺の飼い犬・・・・・・味方よね?)


 あまり面識のない霊獣の加勢に、登喜子は少し困惑する中、吹き飛ばされた蒼仁がすぐに立ち上がる。


「己・・・・・・汚らわしい精霊獣が! この私の・・・・・・ぬぅ!?」


 魔素人のイカレ口上など、一々聞いてられない。まだ喋ってる途中の敵を、容赦なく攻撃する禁じ手をする登喜子とザルソバ。

 ザルソバが雷撃を放ち、蒼仁がそれを結界で防ぐ。その瞬間に登喜子が短距離転移で、蒼仁の真横に現れて不意打ちを食らわした。


 ザシュ!


 薙刀の刃が、蒼仁の腹部を切り裂く。だが魔素によって強化された肉体は頑強で、鋼鉄を豆腐のように切り裂けるその一撃を受けても、傷は浅く致命傷には程遠い。

 卑怯な手を使う二人に抗議の目で睨み付けながら、蒼仁は登喜子の刃を撃ち弾き、強靱な跳躍力で後方に大きく下がる。すると彼が着地した位置の、すぐ真横に、突如謎の転移門が現れた。


(誰!? 桜花・・・・・・じゃないわよね?)


 この都市に、自分以外の高度な転移魔法が使える者が限られている事を考えていたら、その転移門から現れたのは、全く見覚えのない唐突な存在。

 西洋甲冑に身を包み、聖剣とよくにたロングソードを装備した、金髪碧眼の美しき女性。しかも彼女の背中からは、真白く美しい輝きを放つ、白鳥のような翼が生えている。

 これまでの話しで、このような者が、今まで登場したことはない。何の伏線もなく、唐突な流れで、この場に天使の戦乙女が降臨したのである。


「問おう・・・・・・お前が私のマスターか?」


 いきなり出てきて、とんでもないパクリ台詞を吐く、問題ありまくりの天使。最もその事実に関する知識を持つ者はこの場におらず、誰からの突っ込みも来ないという、利権的な意味で最悪の事態であった。


「あなたは一体・・・・・・」

「私の名はロア・・・・・・かつてこのゼウス大陸を導いていた神霊の一人。だが私への崇拝が、やがて権威の横暴に利用され、ついにはかつての信徒達から裏切られ、数百年に渡る封印をされていた者だ」

「唐突に登場して、脈絡なく大スケールな歴史を語るの止めてもらえる!」

「だがお前の持つ強大な聖なる魔力と、熱き正義の思念が、眠りにつく私の意識に強く届いた。年月で封印が弱まっていたこともあるが、結果的にお前が私を目覚めさせ解放させ、この地に導いてくれたのだ」

「こっちは無視!?」


 二回に渡って突っ込みをいれているのは滝子。意味不明の人物=ロアの出現に滝子と魔素人達は、共に呆然とその様子を見て、当惑しまくっている。


「それは何と・・・・・・私の味方であるというのなら、是非とも協力をお願いしたい! この国を地獄に貶めんとする、この悪鬼達の討伐の協力を願いたい!」

「ふむ・・・・・・事情は判らないが、その剣に選ばれるほどの者であるならば、その言葉に信用に値する。よかろう・・・・・・私の力はかつてよりまだ衰えているが、私を導いたお前の正義を信じ、共に戦おうではないか!」


 想わぬ味方を得た、蒼仁が喜び、そして二人が共に、登喜子達に再び身構える。この天使が何なのかよく知らないが、溢れ出る魔力から、かなり高位の精霊であることは判り、登喜子達も警戒する。



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