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第六十一話 蒼仁の実力

「なあ・・・・・・あの怪獣、いつまでも放置していいのか? 飼い主が近くにいないみたいだけど」

「上からの報告だ。あれは無害だから構うなとな・・・・・・」

「本当かよ? 何かあった時を考えると、あれはさすがに無視できないな・・・・・・」


 王都封鎖での民衆の反応は意外と緩やかで、抗議をしてくる者も少なからずいたが、警官が駆けつけると、魔素人で撃たれるかもと、すぐに逃げ出していく。

 そんなこんなで皆が疑心暗鬼になっている王都の中。各家の窓から、多くの人々の注目を浴びながら、街中を彷徨いているのは、未だにあの魔素人警官を追っているらしいザルソバであった。


 一体どういう経路で進んでいるのか、王都内のあちこちを探索している。

 召喚獣などの人が飼育しているモンスターの場合、飼い主がきちんと管理していれば、街中にモンスターがいても、討伐騒ぎにはならない。実際この国も、ほんの数年歩と前まで、騎乗用ワイバーンが街の上を通ったりしていたのだ。

 このザルソバの場合、飼い主の姿がないが、政府からの特別な指示により、警察からも黙認されていた。だがもしかしたら、ここで暴れ出すのではないかと、警察官が危機を感じながら、独自に見張っている。


 そんな視線など気にせずに、ザルソバは鼻をひくつかせて、王都内を探り回っている。麒麟の嗅覚がどの程度なのか不明だが、これは臭いで敵を探しているのだろうか?

 数人の警察官がストーキングしながら、彼が辿り着いた先は、あの展示会場であった。







 武装した百人近い隠密と護衛武士達が、滝子の指揮の下で、街中を進軍していく。そして展示会場から数百メートル離れた位置にある大通りの真ん中で一旦進軍を止める。

 今日は色々あって、道路を走る艇は一機もいないため、そこに多人数でいても、誰にも迷惑にならない。ただやはり、彼らの姿は目立つようで、大勢の人々の目を引き、記者もカメラを持って後についてきている。


「ここから指定通りの道を行けば、ヒューゴ様が見た予知の通りだと、この先の展示会場に、恐らくは魔素人化した父上がいる。監視カメラからの報告によると、今までの間に、あそこから出た者はいないわ。例え祖国の高位文官でも、躊躇わずに拘束して、浄化を・・・・・・」

「滝子様! ちょっと困ったことが!」


 先程電報を聞いていた隠密の一人が、慌てて滝子に報告をしてくる。


「件の場所に、ザルソバ様が突入したと、複数の警官から報告が・・・・・・」


 ドオオオオン!


 そう言ってる矢先に、その目的の方向から、盛大な爆発音。しかも一回ではなく、度々空に稲光まで起きている。どうやら既に、向こうは始めてしまったようであった。


「ああもう・・・・・・またここで騒ぎをするなんて。急いで私達も行くわよ!」


 恐らく件の場所で、魔素人達とやり合っているだろうザルソバ。出鼻をくじかれたように思えるが、目的を同じくする戦力が増えたのは、かえって幸運かもと思いながら、滝子一行はその場所へ、大急ぎで走って行った。







 駆けつけたところで、案の定展示会場は半壊状態であった。つい最近建てられたものの、旧政権が崩壊して間もない時代で、展示物に利用できるものが少なく、あまり人気のなかった展示会場。

 それが残念なことに、名誉挽回ならず最後まで不人気で終わってしまった。大砲を何発撃ち込んだのか?というほど、壁や屋根が派手に壊れたそこは、周りの住民は当に逃げ、十数人の勇敢な警官が、近くで武器を構えて待機している状態。

 そこへ滝子一行が訪れたのを見て、急いで話しをしにくる。


「滝子親王! 大変なことに・・・・・・中に蒼仁親王が・・・・・・」

「判ってるわよ、まだここから逃げてないのね? それでザルソバ様はどうしたの? まさか父上を殺したわけじゃ・・・・・・」


 ドウン!


 そう言っている間に、派手な破壊音と共に、展示場の壁に新たな大穴が開く。建物内部から吹き飛ばされて、滝子達のいるすぐ近くに転がってきた巨体は、何と意外なことにザルソバであった。


「ザルソバ様!?」


 つい昨日、機動隊相手に強大な力を見せつけた紺の飼い麒麟。恐らく今日もザルソバが魔素人達を圧倒しているだろうと思っていたのに、彼の様子を見て滝子達は愕然とした。

 刀傷と思われる、身体の各部に決して浅くない傷を負った麒麟の姿。彼はすぐに立ち上がったが、大分苦戦しているのか、荒い息を吐いて、ややよろめきながら展示会場の方向を睨み付ける。


(この方が苦戦しているなんて・・・・・・)


 能力強化された魔素人の力は、それほどまでに進化していたのかと、狼狽する。やがてその展示会場の壁穴から、ザルソバに手傷を負わせたと思われる人物が、堂々と姿を現した。


「滝子・・・・・・ここまで来てしまったか」


 その人物は、何と行方不明中の蒼仁であった。別に驚きもしない人物の登場である。彼は何故か洋風の板金鎧を見に纏い、腰と手には、洋風の剣とその鞘を携えて、一行を戦いに迎え出るように姿を現す。


「(ゼウス文化を嫌っているはずの父上がロングソードを・・・・・・でもあの剣に何か見覚えが?)蒼仁大使を発見! 直ちに確保に入る!」

「滝子よお前にはまだ判らないのだな・・・・・・我らが守るべき真の正義とは・・・・・・」

「口を開くな! 狂っている状態の父上なんて、あまり長く見たくないわ! すぐに頭の中のゴミを取り除いて上げるわ!」


 魔素人の戯れ言など聞く価値もない。彼の持っている剣に、何か違和感を持ちつつも、滝子はすぐに彼を洗脳から解き放とうと、武器を構える。

 まるで殺す気ありのような体制だが、不死身に近い魔素人には、あまり甘くしていられない。


「蒼仁様! すぐにお気を戻します!」


 天帝国武者達が、刀を構えて、一斉に突撃する。手足の一つや二つ斬り落としたところで、命に関わることはないだろうと、容赦なく刃を振るった。


 キンキンキン!


 連続する耳につく金属音。そこからの光景に、滝子は絶句した。蒼仁は得物を、実に軽快に細やかに動かし、そして同時にとても重い振りを、高速で何度も降り続ける。

 前方から先に襲ってきた武士達の刀を、全てその連撃で弾き又は打ち返し、そして武者達を次々と斬り伏せる。結界装置で重ねて強化された、特殊金属の鎧を、容易く切り裂き、武者達が次々と蒼仁の剣技に倒れていく。


「心配せずとも殺しはしない・・・・・・君たちにも、私が知った真に人の持つべき心構えを

後でしっかり頭に植え付けて上げよう!」


 圧倒的な剣技で、武者と隠密達を打ち倒していく蒼仁。銃器装備武者や魔道士兵達が、遠方から攻撃を仕掛けると、彼は結界を瞬時に放ち、それを全て弾く。そしてそのまま敵の攻撃を受け止め続けながら突進しも、彼らもまた高速で倒していった。


(嘘でしょ!? 占術はおろか、剣も魔法も碌に使えず、皇族の職務として文官になる以外に道がなかった父上が、こんなに強くなるなんて・・・・・・。魔素の力が、どれだけ注ぎ込まれてるのよ!?)


 皇族の護衛に抜擢されるほどの、腕利きの兵達が百人ほど。だが既に三十人倒され、残された兵達は、警戒して彼から数歩離れて警戒している。

 彼らも倒されるばかりでなく、結構な回数斬り付けているはずだが、蒼仁の手傷は薄い。その傷も、時間が経てばすぐに再生するだろう。


「私達の邪魔はさせないよ・・・・・・この国を・・・・・・いやいずれ世界全てを救うために、私は長いことゲード国王に尽くしていたのだからな!」

(長いこと? ゲード国王? 魔素人になったのは昨日のことでしょうし、ゲード国王が死んだのは何年前だと思ってるのよ? ・・・・・・時間の間隔が判らないぐらい狂ったのかしら?)


 何やらおかしな事を言っているが、魔素人の戯言に勿論付き合う気などない。先程暴動の鎮圧に向かっていた登喜子の救援を待って、彼らは再び戦闘に突入した。


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