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第五十九話 追走劇

 和風建築が建ち並ぶ都市の中を、一人の人間と、一頭の麒麟がしきりに追いかけあっていた。


 ドン!


「うわぁ!?」


 車道の中を走っていた、一台の浮遊自動車。その中を運転していた者が、突然頭上の音に驚いた。天上が一瞬ゴムのように窪んだそれは、何か車の屋根に、勢いよく激突したということ。

 この運転者は気付かなかったが、たった今先程の警官が、信号も横断歩道も無視して道路を突っ切り、そして邪魔な車の上を何度も飛び越えたり、踏み越えたりしたのである。

 まさか自分の車の上に、人間が着地してジャンプしたなどとは思わない運転手。何かビルの上から落ちてきたのかと、一旦停車して確認しようとするが・・・・・・


「グルァアアアアアア!」

「ひいっ!?」


 横の窓から見えたのは、一頭の麒麟。突然車道に入り込んできたそれに、走行中の車が何だいも急停止したり、横に慌てて避けたりしている。

 そして目の前に停車している邪魔な車の上を、走り幅跳びのごとく飛び越えて、一瞬で向こう側の歩道へと着地して去って行く。


(何だよ!? なんでモンスターが街中に!?)


 先日の魔王蟻も結構な騒ぎになったが、今日もまた大層な生き物が街中で派手にやっている。紺と連れ立っていたときもかなり目立っていたが、今は飼い主なしでこんな盛大に走り回っていると、ますます注目されるだろう。

 スパ〇ダーマンのごとく、超人的な身体能力で、街中を逃げ回る警官。それを追うザルソバも身体能力は、彼を遥かに上回っているはずだが、こちら街に被害が出ないよう気を遣って走っているために、中々追いつけずにいるようだった。







『緊急速報です! 現在王都内〇〇地区で、竜族と思われる生物と、一人の警官が謎の追走劇を行っているようです。この生物は以前山中で天帝国の密偵を攻撃した者であり、そしてこの異常な身体能力を見せている警官は魔素人の可能性が高いと・・・・・・』


 色々あって今日は学校を休むことにしたヒューゴ。何かあったときのために、彼は王宮に匿われていたのだが、今日の時勢を占おうと謁見の間に入ったとき、近くに置かれていた浮遊テレビを見て、他の皆とは違う驚きを見せていた。


「あっ! あの人だ! 時江さんの前に出てきた警官!」

「「!!」」


 ヒューゴの発言に、今度は皆が驚く。時江に接触した件と、この状況。何故紺の飼っていた麒麟が追っているのかという謎はあるが、彼が時江に魔素を注入した犯人であるのは間違いないと誰もが考えた。


「すぐに各警察署に伝令だ! 何が何でもこいつを捕まえろ! 機動隊を出動させても構わん!」


 光二の命令に衛兵達が大慌てで通信室に行く。昨日の件で、手がかりの一件が見つかったと思ったら、まさかこんなに早くしかもこんな目立つ形で、容疑者が姿を現したのは、実に都合の良い話しだ。


「似顔絵を描いて手配書をばらまく必要ももうないな。こいつを捕まえて、他の魔素人を割り当てられる」

「どうかしら? 時江も含めて、自分が魔素人化されたときのことを覚えてない人も結構いたわよ?」

「むう・・・・・・」


 桜花の言葉に、光二が口を紡ぐ。今までの魔素人は、魔素が抜けた後も、その間の記憶を全て持っていた。そのせいで、自分が今までしてきたことの自責で、自傷・自殺をしかけて困ったことにもなっていたのだが。

 果たして今回はどうであろうか? こういうこちらに対して、記憶が抜けていたらかなり困る話しである。


「まあ、とりあえず私も行くかしらね・・・・・・ヒューゴ、今あいつらが通りそうな場所を先読みできる?」

「ああうん・・・・・・やってみるよ」


 ヒューゴはすぐに、あの警官の動向を予知し、次の居場所を割り当てる。あれだけ派手に行動していれば、例え圧星術を使っていても効果は薄いだろう。予知を聞いた登喜子が、早速そこに一番近い位置への転移を開いた。


「じゃあ私は先に行くけど、あんたらきちんとヒューゴを守ってなさいよ! 何かあったら、死ぬほど後悔させてやるわよ!」


 そうこの謁見の間にいる国王含めた全員に声を上げて、転移の門の向こうへと彼女は去っていた。


「ああ、怖い怖い・・・・・・ああ言われりゃ死ぬ気で守るしかないわな。まあ何かあったら、国王よりこいつを優先して守るか」

「ああ俺たちだって命が欲しいし、何度も言うけど、どうせ護衛つかなくても、自分でどうとでも出来るヤンキー女だしな!」


 からかうような口調で、国王に対して失礼なことを、あえて本人に聞こえるように大声言い合う品性の欠片もない二人。

 最もそんな二人の言葉に、異を唱える者はいなかったが。太政大臣も、そっちを無視して、別件でヒューゴに問う。


「そういえばお前、この件で協力する是非に関して、色々悩んでいたみたいだな?」

「えっ? ええまあ・・・・・・」


 どうやら昨日の話は、王宮にも届いていたらしい。桜花が頷いている様子からして、恐らく彼女が情報の伝達者であろう。


「まあ今回のこれは、天帝国の奴らが勝手に要請したことで、こっちが責を負う必要はないが。それでもお前に抜けられると困るからな。それでこちらから、新たな条件を入れておこう。善意を呼びかけて、ただ働きなどをさせる天帝国とは、違うところを見せてやるよ」

「見せてやるって・・・・・・登喜子の話だと、別にこっちはお金には困ってないみたいだけど?」

「ああお前達はそうだろうな。この話は俺よりも、国王陛下から話した方がいいだろうな」


 何故か突然、お飾りの国王の方へと話しが映る。ヒューゴが晴子に目を向けると、彼女は何故か得意げな様子で声を上げた。


「私達から貴方に特別な報酬を与えたいと思っています。それは・・・・・・」


 その報酬の内容は、今までうじうじと悩んでいたヒューゴを、一気に決断させる十分な内容であった。







 魔素人警官とザルソバの追走劇は、未だに続いていた。魔素人警官は、障害物を剛力で次々と砕き、各所で被害を出しながら進んでいく。

 どうやら彼は、逃げ切れる安全地帯という者に覚えがないようで、王都から出ることなく、ひたすらあちこちを走り回っている。

 王都から出て、障害物がなくなれば、人との激突を避けているザルソバに、簡単に追いつかれることを悟っているために。


(このまま逃げ回っても埒が明かない・・・・・・建物の中に逃げ込むか!)


 そう考えると、近くの団地に突入する。団地のドアを砕き、人が住んでいる部屋の扉を砕き、民家の中に堂々侵入してくる。

 これにザルソバは動きを止める。団地の入り口は、彼が入るには小さすぎる上に、人がいる家屋の中で力を振るうわけにもいかないために。


「グルルルルッ!」


 中にいる人の安否は心配だが、ここで屋内で暴れ回ったら、かえって住民を危険に晒す。ジレンマを抱えながら、ザルソバはその団地を睨み付けて、敵が出て来るのを待って立ち往生していた。


「何ですかあなたは!?」


 突然自宅の扉を蹴破って、中に入ってきた侵入者。見た目が警官なのも関係なく、住民は当然驚き恐怖する。


「突然のこと迷惑して申し訳ない! お詫びに後でご一家皆殺しにして差し上げるので、どうかしばしこの中に・・・・・・」

「入れるかよ馬鹿!」


 話しの最中に突如背後から、魔素人警官の首根っこを押さえる者。それはどこから入ってきたのか(恐らくは空間転移)、登喜子であった。片手に薙刀、もう片手で魔素人警官の首を握りつぶす。


「がが・・・・・・(貴様は!? そうかあの悪魔の少年の予知か!)」


 その圧縮ぶりは、常人ならば間違いなく即死しているだろうが、彼は未だに意識があり、藻掻きそして腰の刀に手をかけようとするが、上手く力が入らないようで、中々抜刀できない。


「とりあえずここから出るわね! お騒がせして悪かったわ!」


 その場で空間転移で、両者とも消える。突如現れた二人の侵入者の、即退場に住民は心底判らず首を捻っていた。








「ぐう!」


 転移ですぐ外の団地の前に出てきた二人。登喜子はその場で、魔素人警官を豪快に地面に叩き付ける。

 凄まじい豪腕での投げ落としで、魔素人警官は数回地面をバウンドして、銃数メートル先まで吹き飛んでいった。


「くそっ・・・・・・まさか貴様まで現れるとは・・・・・・」


 恐るべき魔素人の生命力。先程骨ごと握りつぶされた首は、もう再生しており、立ち上がって喋れるようになっていた。


「グルルルルッ!」

「くっ!」


 刀に手をかけようとしたところ、即座に背後から聞こえてきた声に、彼は再度焦る。彼の背後には、先程団地の外で立ち止まったザルソバの姿。前方には蜘蛛人の女戦士で、後方には麒麟という怪獣。

 二つの異形の強者に、挟み込まれてしまった魔素人警官。もはやこれまでかと思われたが、幸運にも彼の天命はまだ尽きてはいなかった。


「あら・・・・・・もうついたのね」


 上空から無数の大型の影が現れたと思ったら、突如その場に飛来してくる幾つもの飛行機械。それは警察の機動隊である。バイク型の機体の上に、大型の砲台を載せたそれは、以前巨狼との戦闘でも活躍した戦単車である。


「これでもうあんたに逃げる術はないわね。大人しく浄化されなさ・・・・・・あら?」


 この魔素人警官を逮捕しに来たのかと思われた戦単車部隊。だが彼らは、そう方向の行き先を、犯人ではなく登喜子とザルソバに向けていた。


 ドドドドドドン!


 そのまま上からの指示を待たずして、一方的に放たれる砲弾。登喜子は瞬時に転移で逃げるが、ザルソバの巨体には、全弾命中し、大量の爆炎で姿を消す。


「アレクサンダー巡査! 早く逃げろ! ここは我々が食い止める!」

「何と同士であったか! すまんここは頼む!」


 魔素人警官=アレクサンダーは、即座にその場から逃走してしまう。折角ここまで追い詰めたのに、今までの苦労が水の泡である。


「グォオオオオーーー!」


 怒りの咆哮と共に、衝撃波のようなものが吹き荒れ、爆炎と砂埃に隠れていたザルソバの姿が一気に露わになる。

 そこには全身を薄い光の膜で覆った麒麟の姿。どうやらこの魔法と思われる結界で、先程の攻撃を耐えきったようである。事実彼の巨体には、傷も汚れも何一つついていない。


「何という奴だ・・・・・・天帝国の隠密達を一蹴しただけのことはある!」

「だがどんな強敵であっても、私達は決して引かないわ! 全てはこの国の人々の、真の幸福のために!」


 犯人逮捕を妨害しておきながら、決戦に赴く勇者のような、高い士気を見せる機動隊員達。もういちいち確認する必要もない、どうやらこいつらも魔素に感染していたようである。


 ゴオオオオオオオン!


 突如雷のような轟音ならぬ本当の雷が発せられる。ザルソバの鹿角が、青い電光を発し、そこから無数の電光が拡散して放出されて、十数機の単戦車に落雷したのだ。


「くっ!? こいつ魔法も・・・・・・」


 直撃した単戦車が、一斉にその落雷によろめく、登場していた機動隊員達にも通電・感電して、相当なダメージを与えているようだ。最も結界装置付きの武者鎧を着た彼らには、致命傷になるほどのダメージはないようだが。

 ・・・・・・それにしても紺達は魔法の使い方をさっぱり忘れているのに、こちらはしっかり使える事実。精霊の力を持った、霊獣独自の特典だろうか?


 ドガン!


 次に鳴り響くのは、雷の轟きではなく、物質同士の衝撃音。今の落雷で、次の発砲が遅れた単戦車部隊の一台に、角を向けて、猛牛のように突進。

 助走無しで電車並みの速度で走ったザルソバの角突きが、一台の単戦車の機体を大破させて、乗っていた隊員が後方に盛大に吹き飛ぶ。武装状態でなおかつ魔素人だから、恐らくは死ぬことはないだろう。


「おのれぇ!」


 機動隊員の怒りの声と共に、次の一斉砲撃が、ザルソバに全弾命中する。だが彼はそれを避けようともせずに、結界で身を固めて、再度突撃する。


(やられる!)


 自分のところに向かってきた即座に判断した隊員が、素早く単戦車から飛び降りた。すぐ横で、自身の乗機がガラクタになった直後に、彼は腰の刀を抜き放ち、ザルソバに斬りかかる。

 だがその刀が、ザルソバに大した傷は負わせられない。直撃直後に結界は消えていたが、僅かに鱗に痣がついたぐらいで、殆ど外傷はない。ただとても硬い物を叩き付けた衝撃で、隊員の手が震えたのみ。

 その隊員はバルソバに肩を噛みつかれて、その場で持ち上げられる。これに他の砲を向けていた、他の隊員達が動転するが・・・・・・


「私に構うな! 早く撃て!」

「そんなことできるわけがないだろ!」

「諦めるな! 我々が何としても助ける!」

「大義を忘れるな! 民を救うために、いかなる犠牲も乗り越えると、皆で誓ったばかりだろうが!」

「くっ・・・・・・撃つしかないのか!?」


 勇敢なる兵士達の熱い語らいが繰り広げられる。これではザルソバが災いをなす害獣のようだ。ザルソバも不快そうな目をしながら、その隊員を放り投げる。


「!? 今だ・・・・・・」


 ザン!


 次に放たれるのは、とても鋭い斬撃音。先程転移で姿を消した登喜子が、またもや突然現れて、一台の単戦車の機体を真っ二つに切り裂いた。

 機体が割られて、地面に転がった隊員を、登喜子が即座に彼の兜付きの頭を、団子のように串刺しにしてみせる。魔素人だから死にはしないだろうが、全く容赦がない。


「こいつのことを忘れていたか!」


 脳をやられて再生には時間がかかるだろう隊員を放置して、登喜子はすぐに近くの戦単車を斬り倒す。

 他の隊員が、登喜子に砲を向けようとする。だが自軍の陣形内部に入り込み、下手に撃つと同士討ちをしてしまう。

 そして八脚の素早い走りと、短距離転移を繰り返しながら、動き回る登喜子を捕らえきれるはずもなく、単戦車は次々と斬り倒されていく。その最中に、ザルソバも参戦。一人の剣士と一体のモンスターによって、最初三十機いた機体は、瞬く間に数を減らしていく。


「くっ、もはや勝ち目はないか・・・・・・。意地になって戦うより、これは人々の救済を優先するか!」

「ええ、敗北のお詫びに、ここにいる人々を、できるだけ多く救って(殺して)差し上げましょう!」


 そういった残り数機の単戦車が、何と砲口の向きを変えて、近くにある団地や、騒ぎを聞きつけてやってきた記者達に発砲を試みる。


「「!!??」」


 これだけの爆音と砲音が聞こえるところに集まってきた、勇気ある記者達。向けていたカメラに、自身を狙う砲の正面が映し出されて、彼らは驚愕する!


 ゴオオオオン!


 だが間一髪の所、ザルソバの放った雷撃が、その発砲を事前に止める。電撃を受けて、機体が一時停まった単戦車を、登喜子が瞬く間に斬り捨てていく。


「浄化開始!」


 するとこの時をずっと待っていたかのように、各所から突如湧いてきて、現場に駆けつける隠密達。

 乗機を破壊されながらも、しきりに立ち上がり、登喜子達に立ち向かったり、近くにいる人を斬ろうと駆け出すと、登喜子とザルソバに向かってきた者は、あっという間に返り討ち。一般人を斬ろうとした者は、隠密達が立ちはだかり、浄化を図る。


「貴様らこれで終わると思うな! 我らの神が、必ず民を救ってみせ・・・・・・ぐあっ!」


 一人の隊員が隠密を鍔迫り合いをしながら叫んでいるところを、別の隠密が横から噴霧器を吹き付けて黙らせる。

 ここでようやく、この場で起きた騒動は治められた。最も、当初の目的であった魔素人警官は、逃げられたままだが・・・・・・


「こいつ何を言っている? 神とは? ・・・・・・むっ?」


 目の前で浄化された倒れた隊員の、最後の言葉に隠密達が困惑している中、戦闘を終えたザルソバが、まだ終わっていないとばかりに、再び駆け出してその場から姿を消した。


「あいつ・・・・・・まだあいつを追う気? どう見ても手遅れじゃん・・・・・・」


 そんな登喜子の言葉が正解のようで、主を辱めたザルソバの復讐は、まだ終わっていないようであった。



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