第五十五話 若手占術師の実力
さて場所は変わり、以前にも登場した、この国の人々の真の幸福を取り戻そうとする、過剰なまでに純粋な心思った一団の集まり場所。
誰も気付かれない秘密の場所で、今日もまたこの国の未来のための、正義と慈愛に満ちた会話が行われる。最も、今回は前回と違い、取り乱している風はなく、むしろ余裕が感じられる雰囲気である。
「此度の我らの新たなる同胞の善行は、全て阻まれたか・・・・・・あわよくば一人でも救える者がいればと思ったが、それは贅沢な望みであったか・・・・・・」
「だが未来は切り開けた、あの邪悪な占術師の力が、無限ではないとはっきりと判ったのだからな」
「それどころか、我らが神の新たなる依り代が見つかったのだ! 彼らの貢献は、未来永劫に最高の栄誉として語られるであろう!」
そんなどこのカルト教団かも判らない謎の集団が見やるのは、それぞれ別の生き物が閉じ込められた二つの蟻。
一つは一匹の魔王蟻が閉じ込められた檻。それは現在睡眠中なのか死んでいるのか不明だが、六脚を折り曲げて座り込み、まるで冬眠中のように動かない。
もう一つの檻にいるものは、そっちと違ってきちんと起きている。
「あんたら何なわけ? あんたらも魔素人なの?」
それは紺だった。いつ蟻の尻から出てきたのか、全身に悪臭漂う泥のような物が付着して汚れている。そして彼女は、両手足に枷をかけられて、檻の中に拘束・監禁中である。
「汚い口を閉じろ魔女め! 本当なら、今までの屈辱の代償として、相当の苦痛を与えて処刑しているところなのだぞ! 最も、貴様の奇怪な体質故に、我らも迂闊に手を出せないのだがな・・・・・・」
(人に苦痛を与えて殺すのは、あんたらにとって、人を救う行為じゃないの?)
魔素人であろう者の、自身への怒りの声に、紺はそんなことを思った。だがあえてそれを口にしなかったのは幸運だったかも知れない。
先程の件を考えれば、この場にいる全員が大蛇となって、街を潰していたかも知れないのだから。
「今はまだ、儀式の準備が整わないため無理だが・・・・・・その時が来たら、その汚い目をよく見るのだな! この国を・・・・・・世界を救う神の降臨する姿を!」
檻の次に彼らが見やるのは、この広い何処にあるかも知れない大部屋の中、奥に王座のような高い位置にある、真っ黒い泥が詰められたプールであった。
恐らくは魔素であろう、それに彼らは神のように拝み、そんな彼らにプールから謎の声が聞こえてくる。
『おっ・・・・・・俺たちは神じゃない・・・・・・苦しい助けてくれ! だけど地獄に戻るのは嫌だ・・・・・・』
「おおっ! 聞いたか!? 我らの神が“苦しい”と言っておられる! 我らの奉仕に、これほど喜んで下さるとは! 皆、神の期待になんとしても応えるぞ!」
相変わらずデタラメな魔素人の思考に、この場で突っ込んでくれる者はいなかった。
『以上のことで、滝子様は現在療養中であり、この異常発生した魔素人の予知に、ヒューゴという新たな占術師が担当するということです! その人物はまだ学生ということですが・・・・・・』
何故かヒューゴが実名で報道される番組を、療養のためステイホーム中の滝子と蒼仁が黙って見ていた。最も蒼仁の方は、何故か当惑しているようだが。
「滝子よ・・・・・・ヒューゴ様の名前を公表するよう、報道社に送ったのか?」
「そうよ、今のうちにあの方の知名度を上げた方がいいと思ってね♫ この国の最大の難関を、新しい国王と王妃候補が救うなんて、中々いい宣伝じゃない」
「やれやれ・・・・・・予知を人に頼む辺り、お前ももう参っているのかと思ったら、そこまで考えついているとはな・・・・・・。だが変に嘘や誇張をするなよ。あくまで公正な判断で、現政府の査定を行うと決めたのだからな」
「はいはい・・・・・・それで今日の視察は、父上一人でお願いね。ところで急に予定を変えて、機動隊の見学をするそうだけど?」
「ああ、昨日のヒドラ型魔人との戦いぶりを見て、興味を持ってね。まあ今日の所は私に任せて、お前はしっかり休んでいなさい」
こうして未だ混乱が収まらない中、天帝国による領土乗っ取りの査定は、何事も行われるのであった。
「今から四時間後の〇〇地区の〇〇服屋に放火が行われるよ。六時間後辺りの〇〇地区の〇〇小路で通り魔事件が起きる。七時間後の〇〇地区で・・・・・・」
翌日の王宮内にて。国王夫婦と護衛達も見る中で、早速だがヒューゴが、(名目上は)新政府の要請で、これから起きる都内の暴動を予知する役目を果たしていた。
昨日に引き続き、今日もまた例の事件多発は継続するようで、次々と事件の大まかな時刻と位置を読み取っていく。
「本当に当たってるのかこれ? 適当に言ってるんじゃないだろうな?」
「少なくとも滝子の予知は本物だった・・・・・・その彼女が頼るぐらいだから、こいつの力も確かなのだろうな」
疑う鹿太郎達だが、事前に魔法学校からの報告や、滝子の見せた実績から、国王夫婦の彼への信頼はかなりあった。早速警察に連絡して、その時刻と位置に、武装して様子を見るよう命令していく。
「なるべく人目につかないように見張れ。警察が彷徨いていると、犯人が犯行を中止する可能性があるからな」
光二が警察にそう話し終えるところで、ネルがヒューゴを見て感心した様子で声を出す。
「それにしても・・・・・・あの鮫姐さんといい、こんな正確に事件が予知できるなんてチート過ぎるわ。俺なんてこの世界に生まれてきたとき、自分がチートだと思って喜んだのに、これじゃがっくりだわ・・・・・・」
「お前のいっていることの意味が、八割方よく判らんが・・・・・・まあ確かに万能過ぎる力に違いはないな。天帝国はこういった優れた占術師を国内外から大勢取り込んでいるせいで、世界一治安の良い国を作り上げているわけだ。全く羨ましい限りだ」
「でも良かったじゃないですか。私が国王になってすぐに、こんな凄い人がこの国に来てくれてて。これで私もかなり安心してこの国の王を続けられますし」
「期待してくれてて嬉しいんだけどさ・・・・・・俺はまだこの国に就職すると決めてないし、そもそもこの国全部の事件を予知するなんて無理だからな」
国王がヒューゴの宮仕えを確定事項のように言う中、さっきまで予知に集中していたヒューゴが、急にそれを止めて文句を口にする。
「十二時間後の王都西方の〇〇村で、畑に毒を撒こうとする奴が現れる・・・・・・今日起きるここまでだよ」
「ここまで? 今日の事件を全部読み取ったの?」
「ああ・・・・・・後からもう一回見るけど。犯行を邪魔されて、予知とは別の行動をとる奴が出るかもしれないし」
「へえ・・・・・・あの女は、今のと同じぐらいの予知でへばってたけど、あんたはあんまり疲れてないようね?」
「そうだな・・・・・・」
桜花の指摘は、ヒューゴも判っていたが、自画自賛的な発言はあまり好まないのか、彼はそのことにあまり深く追求しなかった。その後、彼の予知は全て的中した。
いや正確に、的中する寸前で、待機していた警官や隠密達の手によって、事件が未然に防がれる。先日の滝子以上の、輝かしい功績であるが、ヒューゴに一つ不思議に思うことがあった。
(事件はこんなに正確に見えるのに・・・・・・どうして紺さんの居場所だけ分からないんだろ?)




