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第五十四話 連続魔物出現事件

 さてその頃の、彼を救う力を持った者の一人である、紺と黄はというと。


「登喜子が急に飛び出したと思ったら、何かまた変な生き物がいるわね」


 先程ヒューゴ達と、魔王蟻が遭遇した住宅街の道中。そこで頭を割られて死んだ魔王蟻の死体と、彼が出てきた地面の穴を、二人が面白そうに見ている。


「ヘドロスライムが出なくなったと思ったら、今度は巨大な蟻? この街の地下はどうなってるんだか・・・・・・」

「これもやっぱり、下水道から出てきたのかしら?」


 そういって紺が、道路上の穴を覗き込んだときに、もう慣れきった悲劇がまた起きた。

 どうやらこの位置にいる魔王蟻は、登喜子が倒したので全てではなかったらしい。突如その穴から、びっくり箱のように魔王蟻の頭が出てきた。

 そして紺の胴体を大顎で掴み込む。そして蟻でありながら蟻地獄のように、噛みついた紺の身体を引っ張り上げて、地中へと潜っていった。


「あっ・・・・・・紺がまた死んだ。う~~んこれは下水で蟻の糞を探さなきゃいけない流れ?」


 以前自分達が、巨狼の糞から復活したことを思い出して、黄は相変わらず緊張感なく独りぐちていた。







 さて紺が蟻に捕まってしばらくして、登喜子の方は決着がついていた。身体から多量の出血をしながら、蜘蛛糸で拘束された職員。こうなるまでにそれなりの戦闘があったのだが、その辺は面白くないので、全部飛ばしておこう。


「くう・・・・・・異国の蛮族共め! どこまでこの国の人々を苦しめれば気が済むのだ! だがこれで奢るなよ! 例え私を抹殺しても、この国を想う強い意志は、微塵も揺らぐことはないぞ!」

「はあ・・・・・・それで自分とこの生徒を、モンスターの餌にしようっての? あんた真面目に周りの人の考えを見たことある? 皆あんたら魔素人のやらかすことに怯えてるのよ・・・・・・」


 魔素人の件が、まだ公になっていなかった当時から、国民は皆、突如凶行に陥る者達の存在を、とても恐れていた。その集団の中で暮らしていれば、誰も自分達のすることを歓迎していないことなど分かりそうなものだが。

 登喜子の真っ当な疑問も、口にした当人も、どうせ通じないだろう期待していなかったが。


「魔素人だと・・・・・・愚かな! そんな者を信じている者など、この国の善良な民には一人もいないぞ! むしろ狂ってるのは、お前らアマテラスの侵略者共だ! 人々が私達のことを、誰も賞賛できないのも、貴様らがそうさせているのだろう! 我らを擁護すれば、蛮族共に一族郎党殺されると恐れて、皆が口に出来ないでいるだけだ! ここまで卑劣なことを繰り返して、よくもまあ・・・・・・」

「あのさ・・・・・・今の話しおかしくない?」


 相変わらず狂った理論を口にする職員に、唐突にヒューゴが口を出す。こんな狂人に、今更何を聞くのかと、登喜子は怪訝に見るが・・・・・・


「はっ! 貴様もゼウス人でありながら、蛮族のことを・・・・・・」

「そうじゃなくて話の前後! お前は殺されるのが人々の幸福だと思って、こんな事件を犯したんだろ?」

「そうだが何だ!」

「でもお前は今、政府が国民を、一族郎党殺すと脅すのが、卑劣な行為と言っただろ? これって何? あんたにとって、人殺していうのは、善行なのか悪行なのか、どっちなんだ?」


 今まで散々、文中で指摘されてきた、魔素人達の持論の矛盾。今まで収容所の魔素人は、何を言っても自身の壊れた信念を疑わなかったというが、果たしてこういう指摘をした者はいたのだろうか?

 どうせ狂人には、どんなことをいっても話しが通じないだろうと、登喜子も、周りに集まってきた野次馬も、皆が想っていたが・・・・・・


「えっ? ・・・・・・それは・・・・・・」


 意外なことに、ここで職員は初めて、狼狽する様子を見せたのであった。


「それは勿論・・・・・・人々は苦しみ死ぬのを望んで・・・・・・あれ、それだと蛮族は正しいことをしてることに? ええと・・・・・・・・・・・・・・・うごぉ!?」


 そして職員は、悩み始めた直後に、突如苦痛の声を上げた。そこで発生した事態は、以前にも王城で起きた事件。

 紺に中途半端な威力で殴られ、不完全な形で洗脳が解けた際、自身の信念に疑問を生じた瞬間に起きたのと同じ現象であった。







『緊急警報! 魔法学校西方の住宅地に、ヒドラ型魔人が出現! 付近の・・・・・・』


 魔王蟻の出現のすぐ後に、今度はそれとは全く別の魔物が出現した報は、すぐに都内全地区に届けられる。そしてその報を、皇宮内の者にもそれは届く。


「おいおい・・・・・・巨狼の時みたく今日は随分と賑やかな一日になったなぁ~~」

「ていうか前と全くパターン同じじゃないか? 化け物が街で暴れて、その魔素人が次の化け物になるとか・・・・・・」


 テレビに映された、あの黒い多頭の大蛇が、街を壊していく映像を見て、鹿太郎と雅弘が、全く臆することなく、むしろ鼻で笑うようにコメントしていた。


「それでどうするよ? また前見たく、国王陛下が前戦に出るか?」

「ええ行きましょう! これも民を守る、国王の勤め!」

「そう嬉しそうに、前戦に出ようとするな! お前は自分が国王だと、ちゃんと自覚しろ! 前回の事件があって、この年の軍備は強化しているから、そんな必要はない!」


 起こる光二の言うとおり、テレビに映された大蛇の周りに、颯爽とこの事件に対処するための警察部隊が駆けつけたところである。それは以前、巨狼討伐にも出た、大砲付きのバイク型空艇である。








 ドウン! ドウン!


 王都内に幾つもの砲声が鳴り響く。巨狼の時の、三倍の数の戦闘バイクが、街中に現れた、小型ビルほどもある大蛇に、次々と銃弾と砲弾を浴びせ続けていた。

 前回の巨狼の時は、機敏な動きで中々弾が当たらなかった。だが大蛇の方は、あれより遥かに大きな体格故に、的として当てやすく、しかも動きも鈍い。


 最も大きい分、一発やそこらでは大した痛手にはならないようだが、それでもこれだけの弾を浴びせ続ければ、それなりに効果があるようだ。

 大蛇は、休みなく放たれる砲弾や銃弾を、五つの頭部を中心に浴び続け、そして怯み続け、あまり大きな動きが出来ずに、皮膚や肉を削られ続けている。


 攻撃しているのは戦闘バイクだけではない。砲撃の目標になったいる頭部や首の付け根の胴体とは別の、蛇の長い胴体と尾には、機械には乗らない歩兵部隊が攻撃を繰り返している。

 何十人という大太刀や長槍といった、大ぶりの武器を持ったサムライ達が、蛇の胴体を滅多斬りと滅多刺しにし続け、それによってそこの肉片も削れ続ける。


 身体を削られ続けた大蛇は、徐々に小さくなり、力も弱っていく。すると突如砲撃が止む。そして今まで胴体を攻撃していたサムライ風の警官達が、突如大蛇の身体を駆け上がり、根本付近の首を次々と切断していった。

 地面に転がる大蛇の五つの首。その顔には、先程の砲弾の嵐で、凹みなどの損傷著しいボロボロの一つ目がある。

 そこに彼らが、次々と大ぶりの斬撃や突きを喰らわした。元々壊れかけだった、彼らの岩のように大きな眼球は、それらの攻撃によって、全て真っ二つか串刺しになる。


 ここで勝負あり、大蛇の本体はドロドロに溶けていき、前回同様に、そこには黒い泥にまみれた職員の姿が現れた。


「紺様達か、滝子様はまだいらっしゃらないのか? あの方々がいないと、浄化なんてできないんぞ・・・・・・」

「心配いらん! 必要な小道具は、我々も持っている」

「「!!??」」


 ふと現れたのは、もはや忍ぶことすらしなくなった、天帝国の隠密達。彼らは突然の出現に動揺する警官達を尻目に、さっさと職員の元に近づき、あの浄化スプレーを吹き替えて、あっさりと浄化・昏倒させる。これと似たよう作業が、今日一日で、どれほどの回数行われたのであろう?


「ああ・・・協力ありがとう。ところで滝子様は?」

「現在次の事件を予知するために作業中だ・・・・・・」


 この件以降も、この日は後十五回ほど、魔素人の事件が連続多発する。これらの事件を全て未然に防いで見せたことに、市民から滝子への多くの評価の声が上がるが。

 当人は予知で力を使いすぎて、しばらく寝込むこととなっていた。







 滝子が寝泊まりする、王宮内の宿泊部屋内部にて。そこは先程病院から戻ってきた滝子が、やつれた顔で寝台の上に横になっている姿があった。

 そしてそこには、登喜子・桜花・ヒューゴ・ネルの四人が、見舞いというわけではなく、何故か呼び出されてこの場を訪れていた。


「あらあら・・・・・・今日は大活躍だったわね。あんたのおかげで実に沢山の命が救われて、私もあまり苦労をせずにすんだわね。まあありがとうね」

「あまり心に響かない礼の言葉ね・・・・・・。正直ここまで重労働に活躍させられたとは思わなかったわ・・・・・・」


 予知能力という強大な術を使い続けた彼女は、魔力と体力の消耗で、今日一日でかなり参っていた。

 ついさっきも、まだ気絶しそうな容態だというのに、また予知を使ったばかりだが。幸いにも今夜の内には、もう事件は起こらないらしい。


「予知ってこんな力を使うもんなんだな。俺は軽い予知なら、一日に何回もやったけど、これはきつそうだ・・・・・・」

「へえ・・・・・・ヒューゴ様は予知で疲れたことないのね。それは優秀ね・・・・・・」


 同じ予知能力を持ったヒューゴに、何故か感嘆の声を上げた後で、彼女は嫌みな桜花なども一切無視して、彼だけを見て話し続ける。


「ヒューゴ様にお願いしたいことがございます。私は今回の査察で、上手いこと領地接収の口実を探そうとしていたけど、来てみたらもはやそれどころではない状態になっているわ・・・・・・。魔素人は時空修復を弾く呪術を使い始め、その上に何故かこの異常な事件の急増・・・・・・。これはもう私一人で対処できるレベルを超えている。今はまだ(・・・・)民間の立場にあなたに頼むのもはばかれるのですが・・・・・・どうか今回の魔素人の対処に協力をお願いございます・・・・・・・」


 力ない言葉で、真摯な態度でヒューゴに頼み込む滝子。それに対する当人や周りは、どことなく微妙な様子だった。


「はあ・・・・・・まあいいと思いますぜ。無個性・平凡でつまらんキャラの兄ちゃんの、唯一の取り得が役立てられる瞬間ですぜ」

「私からは何も言うことはないわ。この女を死ぬまで酷使するのも面白そうだけど・・・・・・」

「私はヒューゴが手を貸すというなら、何も言わずに協力するけど・・・・・・。でもお金はそれなりに取った方がいいかしら?」

「え~~と・・・・・・」


 ネルの言葉に少しイラッとしながらも、特に反対の声が上がらない仲間の様子に、ヒューゴは戸惑う。


「ていうか俺にしか頼めないのか? 天帝国から、新しい占術師を雇うことはできないのか?」

「この状況で新しく人を送れるわけがないわ。それに自分が言うのも恥ずかしいですけど、あそこまで正確に事件予知をできる占術師は、天帝国にもそう多くいるわけじゃない。大抵の人は、事件は予知できても、起きる時間や場所は、かなり曖昧にしか分からない。今のこの国で、それができるのは、私とヒューゴ様だけよ・・・・・・」

「はあ・・・・・・まあそれなら・・・・・・」


 ゴンゴン!


 ヒューゴが了解の声を上げる瞬間に、急にノックの音と共に、部屋に上がり込んでくる者がいた。それは珍しく一人でいる黄である。


「悪い、話しの途中だったか? こっちは用事が済まなくて、来るのが遅れちゃったんだ・・・・・・」


 滝子はこの件で、紺と黄も呼び寄せていたので、その件は驚かない。ただ彼の隣に、紺の姿がないことの方に、驚いているようだったが。


「紺様はどちらに? 何か急用が?」

「紺なら今行方不明中だよ。さっきまで地下で、蟻の糞を探し回ったけど、中々見つからなくてさ・・・・・・。結局諦めて、こっちに来たんだけど」


 蟻の糞だのと意味不明なことを言っているが、何故かそれを理解したらしい滝子の顔が青ざめた。


「まさか・・・・・・紺様はあの魔王蟻に!?」

「ああ、さっき蟻に噛まれて、地下に引きずり下ろされて、今行方不明中だ。いっそのお前の占いに頼ろうかと思ったけど、それじゃ無理そうだよな」


 彼女が不死なのは皆が知っているので、紺を心配する者は一人もいない。だが何故か滝子だけが、心配ではなく、彼女に対する苛立ちの感情を表していた。


「あの方は・・・・・・何度騒ぎを大きくすれば気が済むの!?」



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