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第五十二話 急増する善事

 王宮内の来客を止めるための、特別宿泊施設。高級和風旅館のような、その立派な部屋に、今の王宮にとっては、あまり歓迎したくない、例の御客が現在宿泊中である。

 それはまさに、今日来日したばかりの監査官と、その娘・滝子の父娘であった。


「滝子・・・・・・例の女神様にあったそうだな?」

「ええ。最初から口実つけて会うつもりだったけど、まさかあの剣に手を触れようとしていたなんて・・・・・・少し面倒事になりかけるところだったわ」


 二人は畳の上で、規則正しく正座して会話しているが、声を発しているのは二人だけでなく、部屋内にかけられた大型テレビからも発せられている。


『何故天帝国の隠密が、山奥の一般人宅に、武装して侵入しようとしたのか、現時点では何も分かっておらず・・・・・・』


 そしてそのテレビの報道からは、二人にとっては頭を抱えたくなるような情報が、盛大に取り上げられている最中であった。これに蒼仁が、深く疲れた息を吐く。


「私は別に、言い掛かりをつけてこの国を乗っ取る気はない。きちんと公正な判断で、植民地統治の現状の是非を審査するつもりだったが・・・・・・到着早々に、まさかこんなことになるとはな・・・・・・」

「ええ、どこの誰が派遣したのか知らないけど、あれは間違いなく天帝国所属の者達。あの家に、あの首無し死体のような宝が眠っているとでも思ったのかしら? これは白を切っても、恐らくは無理でしょうね。そしてあの太政大臣は、間違いなくこの件を、会議で私達に持ち出してくる・・・・・・」

「これは相手の出方を窺って、後から検討するしかない・・・・・・。ところでどうだった、例の不死の女神様にお会いした印象は?」


 どうも蒼仁の最も気を引くことはそっちのようで、今までにない興味を抱いた様子で問いかける。最も、これに滝子は残念そうに答えるのであった。


「本当に何も覚えてないようだったわ・・・・・・。服装と腰の業物を除けば、一般人の子供と大して変わらない感じよ。自分と黄様とのことも分からないようだったし。頭を打ったとかではなく、普通の忘却でああなるんじゃ、不老不死というのも考え物よね・・・・・・」

「そうか・・・・・・ともかくあの人に天帝国に戻って貰う前に、まずこの国のことを片付けねばな・・・・・・」







 さてその翌日のこと。天帝国の使者を歓迎式の後、彼らを定例通りの国内案内をするために、一行を空艇に乗せている最中にも、大変な事件が起こりかけていた。


「何故だ!? 何故私を阻む!?」


 とある食品加工場の前にて。内部の建物には、前時代にはなかった、最新の機器が多くの食料品を生産しているが、そことは関係ない建物の外にて。

 その人物は、何やら大荷物を持って、その建物に不法侵入を図ろうとした。だが警備に見つかる前に、とある謎の集団に囲まれ、行動を妨げられている所である。

 その彼を、武装して囲んでいるのは、先日ザルソバに一掃されたのとは別の部隊の、天帝国の隠密達であった。


「阻むに決まってるだろう・・・・・・。お前が持っているそれは、何らかの毒物なのではないのか?」


 隠密の指摘することは、まだ彼に対する疑惑に確信がないことを指し示しているが、男は特に隠し立てすることなく、堂々と正直に言い放った。


「そうだ! それがどうしたいうのだ!? そこをどけ! 私はすぐにでも、少しでも多くの食物に、この猛毒を注入せねばならいのだ!」

「何故そのようなことをする?」

「決まっているだろう、人々の幸せのためだ! お前も知っているだろう、蛮族共の政府の、人々へのおぞましい暴虐の数々・・・・・・食べ物だってそうだ! かつての素晴らしき時代に、人々が喜んで食べていた、汚れ腐った食べ物を、非道にも奴らは徹底的に禁じたのだぞ! そして美味しく清潔で健康的な食べ物を、無理矢理人々に食べさせているのだ! 何て酷い事だ・・・・・・圧政を恐れ、すぐにでも死にたくなる程の気持ちを抑え、そんな不本意に食べさせられる人々の気持ちはどれほどのものか・・・・・・。例え私が捕まって死刑になっても構わない! 人々のためなら・・・・・・」


 プシューーーー!


 もう聞くのもつらくなる魔素人の戯れ言。彼がナルシストに語る最中に、話しが終わるのを待たずに、隠密は彼の顔に、例のスプレーを吹きかけた。

 話し途中でむせ返り、突然気絶して倒れた男を見て、隠密達は疲れた声で呟いた。


「これで十八件目・・・・・・いくら何でも多すぎないか?」







「ええと・・・・・・もうすぐ次の視察地である魔法学校に到着しますが・・・・・・」

「ごめんちょっと待って・・・・・・」


 一日目の視察で、蒼仁と滝子が、街中を車両で移動している中、案内役が少々困った顔で、滝子の方を見る。

 彼女は先程から、窓の外の町の風景にも、案内役の説明にも全く目もくれず、先程から瞑想するように、占術用の水晶を持って精神集中を続けている。そしてふと目を開けると、即座に携帯を出して、今日何度目かも分からない、緊急連絡を行う。


「今から四十五分後に、〇〇地区の大型タワーで爆破テロを行う者がいるわ! すぐにそちらに向かって!」


 一体何の話しか、周りのものは判りにくいだろうが、読者視点だとすぐに判るだろう。魔素人の暴走による事件を予知して、隠密達に連絡しているのである。

 滝子の予知能力は確かなものであった。先程から事件が起きる前に、部下を手配して、事件を未然に防いでいる。

 査察官である彼女が、何故か他国である、現地で起きた事件に対応しているという、現地警察の面子を潰す大手柄であるが・・・・・・当の滝子の方は、そんなこと鼻にもかけない・・・・・・というかける余裕もなかった。


(ちょっとこれどういうことよ!? 一日でこんなに頻繁に、魔素人の事件が起きるなんて、報告になかったわよ!)


 大蛇側も知らないことだが、あのヘドロスライムの件は、実は天帝国が手配した隠密達の、ある作業によって、事態が沈静化していた。

 だが今日は、それとは別の、一時は静まりかけた、魔素人の暴走が、何故か今日になって、急に頻発し始めていたのである。

 連絡した後で、再び水晶で瞑想状態に入る滝子。だが一分も経たない内に、再び目を見開く。


「またですか?」


 うんざりした様子の案内役の言葉。だが滝子は、今まで以上に、青ざめた顔を見せていた。


「ええ・・・・・・次に事件が起きるのは七分後。この魔法学校よ・・・・・・」


 滝子が目を向けたのは、現在ヒューゴが通学している最中の、あの紺達が暴力事件を起こした魔法学校であった。







「ちょっとあんた・・・・・・こんなことしてどうなるか、分かってるんでしょうね!?」

「勿論分かってるとも! 多くの若き命が、魔獣に生きながらに食い千切られ、幸福な苦痛を味わいながら死んでいく・・・・・・。苛めも差別も許さず、規律ある適切な教育を施すというおぞましい苦行に立たされている子供達を救った英雄として、私達は未来永劫に人々から讃えられるだろう!」


 学校の地下内の、物置部屋。その中で異様な光景が広がるのは、その部屋の中で魔道士風の服を着た女。そしてその女に、魔道銃を後頭部に突きつけて、何かを仕事をさせている、この学校の教員の服を着た男。

 ちなみに女の方は、以前ランスロットに雇われて巨狼を育成し、紺達をそいつに餌にさせた女である。

 以前は金に雇われての行動だったが、今回は金ではなく、無償での善行(?)を無理強いさせらている最中であった。


 彼らの目の前にあるのは、幾つもの檻。その檻の中には、本来この学校の生物科でも飼育を認められていない、危険なモンスター。

 一体いつからこの部屋に持ち込まれたのか、それは最初から人間並みの大きさだったが、何か怪しげな色の餌を食い漁り、そして女魔道士の行った何らかの術式で、ますます巨大化していく。


「大方終わったわ! 私はもう帰って・・・・・・」


 早く逃げたい本音を、その場で語る前に、女魔道士の声が喉から出なくなった。何故なら喉が肺との接続しなくなったから。

 恐ろしい力で檻を食い破ったそれが、鎌のような鋭い牙を震い、瞬時に二人の首を切り飛ばしたのである。







 さてここは学校内の占術科の教室。以前狂って自分を殺そうとした時江の授業を、全く怯えることなく、いつも通りの態度で受けている、以外と根性図太いヒューゴと生徒達。


 プルルルルッ!


「誰ですか! 授業中に携帯は・・・・・・」

「失礼!(緊急回線!? 何が!?)」


 授業中に鳴らされた駄目な音声に、常識的な叱責をしようとする時江を、半ば無視して、その生徒は携帯を耳に当てる。そしてその場で即座に立ち上がる。


「皆すぐ逃げるんだ! 校内の全員だ! この学校の地下から、何か危険な物が這い上がってくる!」



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