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第四十六話 シン怪獣

 そう言っている間に、こちらに盛大な足音が聞こえてきた。だがそれは、先程散々聞いた、補足の遅い、間隔の開いた足音ではない。

 まるで巨大なカモシカが走っているような、間隔の短い、まるで大砲の連射のような、実に慌ただしい音であった。

 巨大な門が、まるで小窓のような速度で、素早く自動で開く。


「えっ? そいつも連れてくの?」

「ああ、義理はないけど、こういうときは助けるのがルールだろ?」


 黄が気絶した時江を拾い上げて、三人は門を潜ると、また素早い速度で、門が閉まる。まさにその時、間一髪のタイミングであった。

 街の建物をもの凄い勢いで踏み潰し(その分、後で桜花が苦労する・・・・・・)正門前に出現した、そのヘドロスライムらしき、巨大な何かが、勢いを止めることなく、その結界で耐久強化された正門に、盛大に衝突した。


 ドーーーーーーーン!


 盛大な衝突音は、当然の門の向こう側の、王宮敷地内にも、噴火のごとく鳴り響いた。間一発で王宮内に避難した二人は、そこで早速に、晴子と護衛二人からの出迎えを受けた。


「ああ、晴子か。ついさっき、ヒューゴを殺そうとした屑を捕まえたけど、もうトドメを刺して・・・・・・」

「駄目ですよ! それより今は、そんな話しをしてる場合じゃありません! 早く本宮の方まで逃げて下さい!」

「じゃあお言葉に甘えて・・・・・・」


 そう言って、さっさと本宮の方まで駆け足で、時江を抱えたまま行っててしまう黄。彼の近くに、いつもいる紺の姿がないことに、晴子達は一切指摘しない。

 彼女に関しては、どんなことでも無事でいるだろうという、ある意味での絶対敵信頼があるために。


 ドオン!


 そんな最中に、またもや正門の方が、大きな衝突音を奏でてくれる。どうやら件の敵は、諦めずに、この正門を突き破る気のようだ。

 王宮内から正門前にある砲台は、既に修復済みで、いつ敵が出てきてもいいよう、既に射撃体制に入っている。


「何かこの光景、前にテレビで見たことがあるわね。前に入ったのはでかい犬だけど」

「ええ・・・・・・ですが、巨狼の時とは、明らかに衝突の威力が、遥かに上です。このままそう時間がかからず破られるかと・・・・・・。しかし巨狼といい、何故怪物が、執拗にこの王宮に入ろうとするの? 今までヘドロスライムが、王宮に近づいたことなんて、一度もなかったのに・・・・・・」

「う~~~ん、奴にとって上手い餌が、たった今ここに入ったとか?」

「ていうかあの時と、同じように、騒がしいことが、一日で一気に起きるな。皇子を狙うテロリストを狙う話しが、急にこんな怪物騒ぎだぞ・・・・・・」


 登喜子・晴子・雅弘・鹿太郎の順番で、危機を前に、こんな気楽そうな会話をしているが。最も登喜子以外では、内心は結構緊張しているようで、晴子は先程と同じ武装をしたまま、冷や汗を流しながら構えをとり続けている。


「ちょっと何よそれ? それって私の事かい? ヘドロスライムが、蜘蛛人が好きだなんて聞いたことないわよ!」

「好物とかじゃなくて、恨みからかもな。お前が何度も下水に入って、奴の仲間を殺し続けたから・・・・・・」


 ドガァアアアアアアアン!


 正門の方の衝突音が、さっきまでとは違う音を発した。それは以前にも聞こえた、怪物が外側から正門を破った音。多くの門の欠片を撒き散らし、その破壊の元凶が、ついにこの王宮内に姿をあらした。


「えっ? 何でシン・〇ジラ?」


 雅弘の意味不明発言に、この場で登喜子だけが首を捻る。目の前の怪物=ヘドロスライムは、あの見慣れた泥の巨人の姿とは、全く違う者になっていた。


 その姿を一目で現すなら、立ち上がった大蜥蜴。こちらの世界で言うならば、大昔の恐竜図鑑に載っているような、直立姿勢の肉食恐竜のような体型である。

 屈強なしっかりした足で、大地に悠々と立ち。長く太い立派な尻尾を、猫のように軽やかに振り回している。

 そして全身の表皮が泥状ではなく、岩のように硬質的な質感になっていて、見るからに頑強そうだ。

 泥の巨人の頭部には顔がなかったが、そこには明確に、爬虫類的な容姿が出来上がっている。顔の両側には、人形のガラス目のような、作り物めいた目玉がはめ込まれており、それが目の前の三人を、しっかりを目線を向けて見下ろしている。

 大きさは泥の巨人よりも遥かに大きくなっており、直立身長は二十メートルにも及ぶであろう。


「これがヘドロスライム? 何だか随分様変わ・・・・・・」


 ドォオン!


 登喜子の疑問の言葉の最中に、設置された三門の砲台が、一斉に火を噴いた。以前の巨浪の時と全く同じ作戦内容で、今までエネルギーを溜め続けた高威力の砲弾が、三人の頭上を通り抜けて、そのヘドロ怪獣に向けて飛んでいった。

 それらが衝突した後も、砲台は高速で連写を続け、ヘドロ怪獣に砲火を浴びせ続ける。砲音と対象に衝突した衝撃で、その場で多くの突風が吹き荒れ、光弾のエネルギーの残留が飛び散り辺りを照らす。


 このあまりの轟音に、四人は一体何の為にここまで出てきたのか、耳を押さえて砲台の後方へと待機していった。

 そんな風に音だけで晴子達がダメージを受けている中、当のヘドロ怪獣はどうなっているのかというと。


「グウウウウッ!」


 その砲撃には多少の痛手はあるようだが、それで倒れる気配はない。砲撃を受ける度に、表面の硬い表皮が削れていくが、それは致命傷には程遠い。しかも古い傷から順に、再生していく。以前戦った巨狼と比べると、確実に効果は薄かった。


「おいおい・・・・・・あれは真っ先に戦わなくて正解だったんじゃ?」

「ええ・・・・・・あれは前の巨狼より強いかも」


 遠くから外野がそう口にして、再度逃げようと脚を動かしたとき、その前にヘドロ怪獣が歩き出したのだ。身体が削られ続けるが、その量は僅かで、鈍くなりながら動き続ける。


 ボウウウン!


 ヘドロ怪獣の怪力と体重による圧迫で、砲台は潰れ、射出前の内部の砲弾が暴発して、砲台が木っ端微塵に砕け散る。

 その時の爆発も相当な物で、爆風と飛び散る破片がヘドロ怪獣に直撃するが、当人は全く持って平気な様子だ。

 そのまま残り二台の砲台も踏み潰すヘドロ怪獣。敵がいなくなった城内を見渡して、何事か考えるような仕草をすると、突然今まで閉めていた口を開いた。


 ただし何か鳴き声を上げるわけではない。外からも見える口内から、禍々しい光が放出され始め、徐々にそれが強くなっていく。それは攻撃魔法の、エネルギーの溜めによく似た現象である。


「あれはまさか! 内閣をも総辞職に追いやる伝説の技!?」

「この国に、内閣なんて役職はないでしょ?」


 晴子の意味不明発言に登喜子が突っ込むが、だがこの場でその意味が判らないのは彼女だけのよう。

 傍にいる護衛二人も、晴子の言葉に驚き、そして何故か危機が迫っているのに、まるで期待するような眼差しで、何かを口からだそうとしているヘドロ怪獣を凝視した。


 ドガアアアアアアアアン!


 再び放たれる凄まじい轟音。だがそれは、ヘドロ怪獣が口から何かを出して、この王宮内の大型建築物を破壊する音などではなかった。


「えっ? 何?」


 期待していたのは、全く異なる展開に、晴子達三人が唖然とし、登喜子は安堵した様子。

 いったいどこから放たれたのか、どうも魔法と思われる、強力な電撃攻撃が、そのヘドロ怪獣を直撃したのである。

 自然の雷を、遥かに超えるエネルギーがありそうなそれは、今まで砲弾を受けてもさほど堪えなかったあのヘドロ怪獣に、何と相当なダメージを与えているのである。

 電撃を受けた後の、彼の全身の表皮が焦げ付き、彼は頭を打ったかのように昏倒して、ふらついている。だがすぐに体制を立て直すと、たった今目の前に現れた、砲台の亡骸の上にいる、ある人物を睨み付ける。


「・・・・・・誰だあれ?」


「誰ですかいあいつ?」


 王宮内の大型モニターが宙に浮かぶ玉座の間で、外の様子を画面で見ていた一行の内の一人のネルが、外の登喜子と同じ台詞を口にしていた。

 ちなみに部屋の隅には、首が変な方向に曲がっている時江が気絶して倒れている。


 彼らが注目する画面に映るそこにいたのは、一人の獣人の女侍。両手足に籠手を、赤い着物の上に軽装の鎧を身につけ、腰には刀を差した、一見アマテラスではよく見るスタイルの女性戦士の身なり。

 ただし下に着ている着物は、見えている面だけ見ても、かなり良い生地で、尚且つ手の込んだ染色と模様付けされているのが見える。身につける鎧、刀の鞘や鍔、頭に鉢巻きのように巻いている鉢金などには、実に美しい彫り込みがされており、いずれも明らかに高級品ぽい。


 そんな装備を身につける彼女は、まるでどこかの御貴族の出征者のようである。

 そんな彼女は、黒髪で、年齢は十代後半ぐらいの若さである。頭部の両側には鹿のような角が生えている(女性なのに雄鹿の冬角のような形)。尻部からは魚のような鱗が生えた、蛇や蜥蜴のような長い尻尾が伸びている。

 獣人なのは間違いないが、龍のような特徴を持った獣人というは、少なくともここではあまり見ないだろう。


 そんな彼女が、腰の刀を抜き、これまで見た振動刀とは異なった発光をしている刀身を見せている。その刀身からは、僅かだが、電気の火花らしき物が出ていた。


(あれは振動刀じゃないな。自前の魔力で、武装を魔力強化しているのか? しかし今の雷が、奴が放ったものとすると、こいつの魔力はどれほどのものだ?)


 同じくモニター越しに見学していた光二が、内心でそんな考察をしている中、この女侍が明確な敵意を向けて、ヘドロ怪獣に刀を振って歩み出す。それに呼応して、ヘドロ怪獣もその女性を踏みつぶさんと動き出した。


 すると女侍の持つ刀身の光が、一段と強くなった。光が刀身全体を覆い、刀自体が一つの光の固まりのようになったかと思うと、その光の刃が、まるで如意棒のごとく急に伸びたのだ。

 何倍にも伸びた、とてつもない長さを持った刀身の刀を、女侍は重さなど殆ど感じさせずに、勢いよくヘドロ怪獣に振りかざす。彼女を踏み潰そうとした巨木のような脚が、その一撃ですっぱりと竹のように斬り落とされた。

 あの砲弾を何発受けても傷一つ負わなかった者を、今度は四肢切断するほどの、圧倒的な損壊を与えているのである。

 それを自前の魔力で強化した、たった一本の刀で・・・・・・。そしてそれによってヘドロ怪獣が、バランスを崩して倒れ込む。女侍が更に一撃を叩き込む。


 その場で始まる、女侍とヘドロ怪獣の、一方的な戦いに、一行は困った様子で見ていた。


「何だろうなこれ? 最初はあんちゃんを、暗殺から守る話しが中心だったのに・・・・・・。いつの間にか、どっかから湧いてきた怪獣の相手をする話に変わって・・・・・・。それを今は、どこの誰かも知らない、謎の女が勝手に片付けてくれそうなんだけど。この話って、今はどっちに向かってるんだ?」

「知らんよそんなもの・・・・・・。まあこのまま労せず、騒ぎが片付けてくれるなら、それで良いさ・・・・・・」


 事態がどんどん支離滅裂になったまま、勝手に事態が片付いてくれそうな成り行き。これに誰も困惑し、光二がやけくそ気味にそんな言葉で纏めようとする。

 誰もが首を傾げる中、ただ一人だけ、ヒューゴだけがその様子を見て、険しい顔をしているようだが・・・・・・


「この人は・・・・・・前に占術で見た、紺さんの昔の仲間?」



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