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第四十三話 隠密の護衛者達

「お邪魔虫がいますね・・・・・・」


 ドン!


 突如としてヒューゴに炎を浴びせようとした時江。だが突如彼女は何かに気付いたようで、魔道杖の矛先を、左横の家屋に向き直して発射する。

 その一撃でその家屋は一瞬にして爆破炎上した。ガス爆発事故などとは比べもにならない、まるでミサイルが撃ち込まれたかのような派手な爆発で、その家が丸ごと吹き飛んだのである。


 ダダン!


 家が破壊された直後に、その場で銃声が響き渡った。音源はその家出はなく、全く関係のない方向の、家々の隙間からであった。

 だが発射された弾丸は、時江に向かって飛んだものの、彼女には届かない。直前になって彼女が自信の頭の後ろ側に、小さな魔法障壁を張った。ガラス板のような光り輝く薄い壁が、その僅かな部位を防護するように出現する。それによって弾丸が全て弾き返される。

 こんな小さな結界、もし別の場所に弾丸が飛んでいたら、間違いなく彼女は射殺されていただろうが。よく自分を狙う部位の位置が判ったものである。


「誰ですか! 私はヒューゴ君の為にして上げているのですよ!」


 そう言って今度はその弾丸を放たれた場所。そこにいた銃を構える謎の人物に向けて、魔法を放ち、同じくそこも派手に爆破炎上してしまう。

 その爆風によって、大小様々な物体が飛び散り、誇りと共にその場の視界が一気に悪くなる。


「!?」


 一連の事態に一時硬直していたヒューゴとネルだが、ようやく我に返って、その場から駆け出していく。それに当然のごとく、時江は気づき涙ぐむ。


「何故逃げるんですか!? ヒューゴ君だって、こうして欲しいと思ってたんでしょう!?」


 相変わらず魔素人らしい、悪意の欠片もない声を上げて、彼女はヒューゴに向けて、魔道杖の炎を突き出した。


 ドウン!


 放たれた魔法はヒューゴの後ろを真っ直ぐに飛び、ほぼ間違いなく直撃するところであった。だがその魔法の弾道に、壁となる者が現れてそれを防ぐ。

 ヒューゴの背後に突如として現れた謎の人物。黒いプロテクトスーツに身を包み、黒いヘルメットのような仮面を身につけた、特撮のダークヒーローのような衣装の者。

 それが登喜子と同じ転移と思われる技で、突如として現れて、そこでガラスの壁のような結界魔法を発動させた。その魔法の盾が、放たれた火球を受け止める。それはその火球の威力の大部分を相殺させる。

 だが結界そのものは砕かれ、残された火力が、使用者に直撃して、彼の身を焼き焦がした。


「があっ・・・・・・」

「えっ!? ちょっと・・・・・・」


 爆音で振り向いたヒューゴ達が、自分達のすぐ後ろにいた命の恩人の姿を目撃した。幸いにもその人物の身そのものが最後の盾となったおかげで、ヒューゴ達は無事であった。


「おいおいお前らいったい・・・・・・」

「構うな! 早く逃げろ!」


 何か問おうとしたネルを一喝して、逃げるよう声を上げる、身体が焦げてボロボロの謎の護衛者。彼の言葉を受けて、二人も即座に再びかけ出し、その場から逃げだした。


「何なんですか貴方たち? 何故邪魔をするのです?」


 ドン!


 問いかけながら、突如魔法を放つ時江。ただし狙った、正面にいる今ヒューゴを守った者ではない。全く関係のない方向の、右横にある民家を、突如魔法で爆破させたのである。


「貴様!? 何をする!?」


 全く意味不明の行動に見えるが、護衛者はそれにかなり動揺し、怒りの声を上げていた。それに時江は、真逆に何とも悲しそうな声を上げる。


「何って、私が話し終える二秒後に、あの家の窓から矢が飛んできて、私の喉を突き刺す未来が見えたので。それと今から一秒後に・・・・・・」


 突如として時江が身をかがめた。周りには何もないのに急に・・・・・・と思ったら屈んだ直後に、彼女の背後に人が転移してきたのである。

 その人物が勢いよく、先程時江が首があった位置に、刃物を振る。だが予め、身を屈めていた時江にそれが届くことはなく、彼女の後頭部を通り抜けて、その一撃は躱されることとなる。


 ドウン!


 再び放たれる爆音。時江が素早く杖の先を後ろに回し、背後にいる敵に炎を放つ。接射に近い距離なので、自身の巻き添えを防ぐように、先程より小規模に放たれた火炎魔法。

 だがそれは、その護衛者を戦闘不能にするには、十分な威力だったようで、その一撃を護衛者が派手に吹き飛び、火達磨になりながら地面を転がっていった。


「お前・・・・・・瞬間予知が出来るのか!?」


 格闘技において、戦士は常に目の前にいる敵の構えや予備動作などを見て、その動きをある程度予測して攻防を行うという。だが今の時江の動きは、明らかにその域を超えていた。

 まだ姿を見せてもいない敵の攻撃を、事前に動いて躱すなど、明らかにそれは未来予知としか言えないものである。


「ええ・・・・・・私の占術能力は、天帝国の方々とは遥かに弱かったのですが。どういうわけか、この頃私の力が急激に高まってきたんですよ。きっとこれは、私に愛する生徒とこの国を守れという、鬼神様の掲示なのかも・・・・・・」

「体内の魔素の副作用での能力強化だ・・・・・・。それは単に、ますますお前の心身が壊れているという証拠に過ぎん・・・・・・」


 護衛者が呆れてそんな返答をしている中、恐らくは周囲の民家に隠れていたであろう、他の護衛者がぞろぞろと姿を見せて、時江を取り囲む。

 彼らは皆、同じような黒い武装をしていて、顔は見えなかった。だがその中に、一人とても見覚えのある、蜥蜴の尻尾が生えている者がいた。

 中には異色なことに、以前紺に成敗された、あのボクサー猫まで一緒にいる。もう明らかに正体バレバレだが、とりあえず今はまだ謎の集団としておこう。


「魔素? 何を仰っているのか、よく判りませんね。そもそも貴方たちは何なんです? 今まで何度もヒューゴ君を救おうとしてきたのに、未来予知をしてみると、必ずそれを邪魔する者が現れて、失敗する未来しか見えませんでした。それは晴子さんや登喜子さんだけでなく、何故かどこの誰かも判らない、あなたの姿もよく見えました。占術で正体を探ろうにも、圧星術で、何一つ見えないという有様ですし・・・・・・」


 自身を取り囲む謎の集団を見て、不快な声を上げる時江。圧星術とはそれも占術の一種で、他人の占術を妨害する術である。占術を使っても、対象に対して何も見えなくしたり、嘘の情報を見させたりするものだ。

 それができるのは、相当に優れた占術師でなくてはならない。そんな人物は、この旧ゲード王国内にいるものでは、相当限られるが、生憎時江にはそれを絞りきることが出来ずに、ただ困惑していた。


「俺たちはヒューゴ様をお守りするために、天子様に遣わされた者。これ以上あの方に手を下すならば、お前は朝敵と見なさざるえないぞ!」

「嘘をおっしゃい! あの野蛮人の傭兵と国王ならばいざしらず。天子様のような偉大な方が、私の善行を邪魔するような愚かな判断をくだすはずがないわ!」


 彼女の中では、どういう狂った論理が働いているのか? あくまでもヒューゴを殺すことが、彼を救うことだと思い込んで譲らない時江。魔素人らしい、支離滅裂で説得不可能な反応を見て、護衛者達は実に悲しいため息を吐いた。


「やむを得ん・・・・・・担任とはいえ手加減はできんな」


 そんな残念な言葉と同時に、武器を構え直す謎の護衛者=天帝国の隠密達。それに時江も、己の炎の魔法を最大限に放ち、この場が二つ目の激戦の地と化した。







 一つ目の激戦の地は、先程とやや状況が変わっていた。相変わらずあの武者と激闘を繰り返す晴子。彼らの得物が、もう何度目かも判らない、全力での激突をし、一瞬鍔迫り合いが始まったと思ったら。


 ガン!


 途端に聞こえる別方向からの金属音。晴子と武者が刃を合わせている間に、武者の背後に突如登喜子が転移して、背後から斬り付けたのである。


「・・・・・・」


 彼の鎧の背中に長い傷がついたものの、装甲を完全に破るには至らない。だが内部にはかなりの衝撃が言っているはずで、武者は無言のままその体制が揺らぐ。

 そして鍔迫り合い中の両の手の力が緩むと、その隙に晴子が一気に畳みかけた。


 ガン!


 さっきと同じような感じの二度目の金属音。晴子が武者の刃を撥ね除けて、その胴体に数度斬り付ける。更に最後に気合いを載せた大ぶりの一撃をぶつけ、武者の大柄な身体が、前方に転がっていく。


「ふう・・・・・・まだですか?」


 晴子の一撃で地面を転がり、家の壁に激突した武者だが。彼はすぐに起き上がった。実は彼らはつい先程合流した登喜子と共に、二対一でこの武者の相手をし、確実に追い詰めているところだ。

 起き上がった武者の鎧は、幾度となく攻撃を受け続けて、既に廃車のようにボロボロである。しかも彼の首の方は、断面積の三割ほどが斬れていて、武者の首が横向きに傾いている。


「ああ・・・・・・もうさっきから何度やっても! もうさっさと死になさいよ!」

「死ぬも何も、あれは最初から生きては・・・・・・!?」


 登喜子と晴子が会話する暇をくれるような気遣いなどせずに、起き上がってすぐに再び二人に向けて突撃する武者。

 彼らはこれに更に刃を撃ち返して、その身に傷をつけ続けるが、この武者はあまりに頑丈で、未だに倒れるには至らない。


 先程描写したが、この武者は首が少し斬れている。常人ならその時点で、致命に至りかねない傷である筈。だがこの武者は全くそれに堪える様子がない。

 それどころ切断された首の肉からは、血が全く流れておらず、切断面から金属のワイヤーのような物が見えていた。

 あれだけ全身を傷つけられても、一切血を流さず、痛みを感じる様子もなく、疲れというものも感じていないように見える武者。この奇怪な敵を倒すには、まだもう少し時間がかかりそうである。


(それにしても・・・・・・さっきから向こうから聞こえる爆音は一体? まさかヒューゴ様の身に何か? まあ・・・・・・天帝国からの護衛がいらっしゃるから大丈夫だと思いますけど・・・・・・)


 先程逃がした天子の令孫のことを気にかけながらも、とにかく目の前の脅威を取り除くべく、彼女らは戦い続ける。


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