第四十二話 武者再来
「あら? 登喜子じゃん? 何で?」
さて宿で何をすることもなく寛いでいた紺と黄。ふとテレビを見ていたら、そこにはあのヘドロの巨人と戦っている登喜子の姿が映っていた。
あの異臭漂う戦場で、自身が汚れきるのも構わず、撮影に挑んでいるある意味勇敢なカメラマン達。そんな彼らが送る映像では、あの登喜子が、燃え盛る炎を幾重にも振り回しながら、巨人の身体を小刻みに切り刻み焼き払う姿があった。
「どうしたんだろう? あれだけヒューゴさんから離れないって言ってたのに・・・・・・あっちはもう大丈夫になったのかな?」
これには二人とも、心底不思議そうだった。あれだけヒューゴに固執していたのに、ここで急に彼から離れる奇行。あれで急に心変わりが起こるとは、少々信じがたい話しである。
「それだったら光二から何か連絡来るでしょ。何があったのかしら? う~~~ん、ちょっと気になるし、行ってみるかしら?」
「行くってどっちの方? 登喜子の方?」
「あっちは臭そうで嫌よ。ヒューゴのいる家に行きましょ・・・・・・」
この後間もなくして、巨人達の動きに異変が起きる。登喜子が戦っているのとは、別の場所から現れたもう一体の巨人。これもさっきまでは、丁度紺達のいる宿と重なる方角で歩いていた。
だが急にここで進路を変えて、ヒューゴ達が暮らしている、登喜子宅のある方角へと歩き出したのである。
「おう・・・・・・久々に姐さんが戦ってるところ見たな。圧倒してますな」
さて同じ頃に、登喜子宅にて。そこでは同様に、家のテレビで登喜子の戦いを眺めている一同がいる。ただしそこには、元々済んでいた三人ではなく、一人出て後から三人合流して五人がいた。
「ええ・・・・・・ですがあれは少々戦いが長引きそうです。それにまだもう一体の巨人もいますし。これはかなり長期の勝負になりそうで、楽しそ・・・・・・いえ、大変そうです」
そこに上がり込んでいるのは、完全武装した晴子一同。彼女らは登喜子と入れ替わりに、この家に上がり込んできたのである。
最初は彼女らが家に入れるのを渋っていた登喜子だが、緊急事態であるために、渋々彼女らの入室を認めて、戦場に出て行ったところだ。
「しかし大丈夫なのかい? 恐竜姐さん、確か身元を隠して、俺たちの護衛をしてくれてたんじゃ?」
「ええ・・・・・・ですがこの場合は仕方ありません。きちんと外套で身を隠して来たので大丈夫じゃないかと」
「まあそもそもこの途中で誰とも行き会わなかったしな。皆例の騒ぎを聞いて、街頭テレビの方に行っちまったし」
まだ開発途中のこの住宅街は、元々人が多くなかった土地であったが、この騒ぎが原因で今まで以上に人が少なくなっていた。
電化製品が一般にあまり普及していない現状では、人々の情報源は、新聞と街の各所にある街頭テレビであり、特に映像に情報を見れる後者は、こぞって人が訪れる名所である。
「まあ・・・・・・どのみち最終的には勝てるだろ。実際に街の奴らも、そこまで慌ててないし。黙って姐さんの帰りを待つと・・・・・・」
ガチャン!
「おや?」
とても聞き覚えのある金属音に、皆が一斉にその音源に振り向いた。
皆がいるこのテレビがある居間には、横に庭を一望できる大きな窓がある。その窓の向こうの、手入れされていない殺風景な草原であるその庭に珍客が訪れていた。
それは以前、ヒューゴを襲ったあの鎧武者。まさに今の面倒な状況を生み出した張本人が、何故かこんな状況で・・・・・・いや恐らくはこの状況の隙を狙って、堂々と彼らの前に姿を現したのである。
「お二人ともヒューゴ様をお願い!」
晴子が刀を抜いて、窓をぶち破って庭に飛び出したときと、その鎧武者が同じく刀を構えて突撃したのは、ほぼ同時であった。
ガキーーーーン!
庭の中に始まる耳に響く金属音。晴子と武者の振動刀が、とてつもない勢いで衝突する。
互いの体格は、晴子が少し背が高いが、大体近いサイズの巨体である。その庭の中で、巨人同士の剣戟が、その場で凄まじく振るわれることとなった。
「あらら・・・・・・これはかなりやばいな。早く逃げましょうぜ」
「そうだな。晴子もそういったし、さっさと行くか」
「あなたたち国王の護衛だったんじゃないの?」
強敵と打ち合っている晴子の元を、何の迷いもなく逃げる決断をする護衛二人。その後で彼ら四人は、剣戟音が未だに鳴り響くこの家を、裏口から脱出する事となる。
元々静かだった街が、巨体剣士二人のチャンバラで少々騒がしくなる。だが多くの人が、速報を求めて、街頭テレビの方に行ってしまったために、それに気づく者はいない。そんな無人の街の中を、四人は早めに駆け抜けていく。
「ちょっとお前ら! これからどこに行くんだよ!? あんたらの宿か?」
「王宮だよ! 今は登喜子もいないし、文句言われんだろう。一旦あそこから離れて、桜花に迎えに来てもらう!」
「うわ・・・・・・結局桜花さんが使い走りだよ・・・・・・」
しばしして立ち止まり、その場で携帯を取り出して、桜花に連絡を取る鹿太郎。事情を話している最中、ネルが雅弘に問いかける。
「ていうか前から気になってたんだどさ。何でお前らが国王の護衛役にいるんだよ? 前に俺を屑国に連れ出した誘拐犯共が・・・・・・」
「それはもう何度も謝ったし、もう蒸し返すなよな。まあ俺たちがあいつの所にいるのは、事情を知った大蛇帝国の連中にスカウトされたからだよ。晴子とも同じ転生者のよしみで付き合いやすいだろうってことで」
「おう・・・・・・あの恐竜姐さんもそっちの人だったのかい」
どうも以前から知り合いだったらしい、この口の悪い幼女と護衛兵達。
彼らの内情を知りたい人は、同作者の前作“蜘蛛の殺女神”を見てみよう。・・・・・・とまたもやあざとい駄作の宣伝をした後で、この場でまた新たな進展があった。
「犬神先生!?」
この路地の中で騒いでいる一行の元に、早歩きであの顧問教師がその場に現れたのである。今はまだ学校で授業中であるが、この騒ぎでまた休校になったのであろうか?
「ヒューゴ君に皆さん、無事でしたか!? 何だかあちらで大層な騒ぎが起きて、しかも何故か登喜子さんがテレビに映って、心配で思わずこちらに駆け出してきたのですが・・・・・・」
「ああ、それは大丈夫です。今は陛下が僕たちを守って、あの武者と戦ってくれますから。多分登喜子も、もうじき終わらせて帰ってくるだろうし」
「いやあ・・・・・・本当に何もなくてストレス溜まる毎日だったわ。ここに来てようやくこいつが襲われてくれて、こっちもようやく気が晴れたわ」
ここ数日の篭もりきり生活の不満を、少し失礼な言い分で雅弘が語る。
ともかくヒューゴの命を狙う犯人は、まだ戦闘中で足止めをされている。ここで王宮に逃げ込めば、後は大丈夫だろうと、ヒューゴも安心しきっていた。
未だに鳴り響く、登喜子宅から聞こえる剣戟音を聞いて、時江が神妙な表情を見せる。
「そうですね・・・・・・では晴子さんと登喜子さんが帰ってくる前に、早く片付けて差し上げないと」
「えっ?」
「いくら私がヒューゴ君を助けてあげても、時空修復で元に戻っては意味がありませんからね。人を助けることの意味をはき違えたあの人達は、例え説得しても無駄だと、あの時に悟りましたし・・・・・・。大丈夫心配しないで♫ 私が君を骨も残らず灰にした後で、河に流して、二度と再生できないよう拡散させてあげますから・・・・・・」
ヒューゴに対する善意に満ちあふれた、穏やかな笑みを浮かべる時江。そんな彼女の持つ魔道杖が赤く輝き、迸る炎がその場でヒューゴへと襲いかかった。
その場所は、元のヘドロの異臭と同時に、火災の後のような焦げ臭い臭いも漂っていた。登喜子と巨人の戦闘の跡である。
炎の魔法を駆使して、あの巨人の身体を、完全に灰にして見せた登喜子。長期にわたって炎を使い続けたにも関わらず、幸いにも火災は起きていない。
(はあ・・・・・・まだもう一体いたわね)
家々が踏み潰されすぎて、更地に近い状態になっている中、登喜子がもう一体の敵を倒しに、その場で転移したときだった。
まるで戦いが終わるのを見計らったかのように(テレビ中継されていたので可能だろう)、そこで登喜子の携帯が鳴り響く。
「はいもしもし光二?」
『登喜子まずいことになった! ヒューゴ様が襲われ・・・・・・』
登喜子はその電話を、最後まで聞くことがなかった。即座に彼女は、転移魔法で自宅へと即効で帰還する。




