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第三十八話 過去透視

 さてその意外なことに登喜子からの許可ももらえて、家の中に上がり込んできた紺と黄。

 彼女の家には、浮遊画面式のテレビを初めとした、数々の家電製品がある。これらはこの国ではまだ、ある程度裕福なものしか手に入れられない物だ。先日、ヒューゴが携帯を使っていたところから見ても、どうやらこの登喜子は結構稼ぎの良い人物のようである。


「いや~~悪いわね。こっちもドタバタして、あんたらに礼を言うのを忘れてたわ・・・・・・。何でもイカレ警官から、ヒューゴを助けてくれたって聞いたわ。その件は本当にありがとうね。それで何を礼にすればいいかしら? お金なら・・・・・・」

「お金も礼もいらないわよ。別にそういう理由できたわけでないし」

「うんそう? それじゃあ・・・・・・どうしよう? 私人に助けられる事って、あんまりないから、こういうときどうすればいいのかちょっと・・・・・・。お茶でも出せばいいんだっけ?」


 警察や国王と違って、かなり親切な対応で二人を迎え入れてくれた。


「まあとりあえず上がっといて。近くの宿から国王が見張ってて、すごい空気悪いけど、それは勘弁してちょうだいね・・・・・・」

「えっ? 何ではる・・・・・・国王がいるんだ?」

「それが聞いてよ! あの女・・・・・・」


 噂好きのおばさんのごとく、これまでの経緯と、晴子への愚痴を言う登喜子。ここで彼女達と自分たちが、実質協力関係にあることは、この女性には言わない方がいいと二人は思った。

 今の近くの畳部屋に上がる二人。そこには登喜子と共に、ネルとヒューゴも同行して座り込む。登喜子がこの後、どんな対応をすればいいのか悩み始めたところで、紺がヒューゴに問う。


「まあいきなりの訪問で戸惑ってるみたいでごめんね・・・・・・。今日ここに来たのはさ。あんたが前に、私らのことで妙なことを占ったって聞いて、それが気になったのよ。何でも私が、この国を滅ぼすかも知れないとか・・・・・・」

「ああ・・・・・・その真逆も占ったけどな。どうも紺さんの存在は、周りにとっては不安定な存在らしい・・・・・・何故かは知らないけど」

「うん? そういやそんな話しもあったわね」


 登喜子も話しは聞いていたが、どうやら全く気にかけず、すっかり忘れていたようである。


「それで俺から聞きたいんだけど、かなり失礼な言い方になるけど・・・・・・紺さん達は何者なんだ?」

「ああ、それは俺も気になってたわ。こいつからの思念も魔力も、どうも普通の人間とは違うし。見た目は祖人だけど、明らかに普通の祖人じゃないだろ?」

「えっ? そうなの?」


 ヒューゴとネルの二人に対する問い。彼らは別に、紺の再生能力などの異常性を、見たわけでも聞いたわけでもない。実質登喜子もこの二人に対して、ただの一般人だと、何一つ不審に思っていなかったが、この子供達は違う。

 不思議なことに二人は、まるで既にこれまでのことを見透かしたように、そのように言い出したのである。


「別に私らの不死身ぶりを見たわけでもないのに、そこまで読めるんだ・・・・・・。確かに凄いみたいね。あんたの占いって・・・・・・。でもその話しに、上手く答えることは出来ないのよね。昔の事なんて、殆ど覚えてないし・・・・・・」

「何だ? よくある記憶喪失設定かい?」

「まあ当たらずとも遠からずね・・・・・・」


 それから紺と黄は、自分たちの能力や、これまでの敬意を説明し始める。








「そうなんだ・・・・・・それはまた困った立場ね、あんたたち・・・・・・」


 魔素人の件を除いた、おおよその経緯を話し終えた紺と黄。普通ならば、そう簡単には信じられないような話しで、ヒューゴとネルも戸惑っていたのに、登喜子は実にあっさりと受け入れてくれる。


「しかし千年か・・・・・・私そんなに生きた覚えないし、長命の獣人でもそんなやついないけど、確かにそんなに経つと、親の顔も忘れちゃうかも」

「そうなのよね。そもそも私らに、肉親なんているのかも知らないけど」

「あんたら姉弟じゃなかったの?」

「いやそれは僕も判らない。長く住んでいた家に、いつのころからか、同じ苗字が書いてあったから。そもそも僕たちの名前が、本名かも知らないし」


 結局の所、本人ですら正体不明という、記憶喪失設定と何ら変わらない話しになる。これに登喜子が、急にヒューゴに向く。


「ねえ・・・・・・私時空魔法以外の魔法はよく知らないけど。不死身だって事で、国が滅んだり救われたりするものなの?」

「いや、そんなの俺だって判るわけないだろ・・・・・・」


 滅ぶかどうかはともかく、あの魔素人を治療する力を見れば、救う力という占いは当たりかも知れない。最も、その辺の話しは、故意にしていいないので、彼らには疑問だらけの話しには違いないだろう。


「なああんちゃんよ・・・・・・こいつの正体が分からないなら、あんたが正体明かしてみればいいじゃん。あんちゃんの占いでなら判るだろ?」

「ああ、それは俺も考えてた。まあ千年以上生きてる人の過去なんて、やってみたことないから自信ないけど・・・・・・」


 そう言うとヒューゴは紺の前に手を差し出した。


「悪いけど、紺さんの手を取らせてくれるか? あなたの過去を俺の占術で見通せるかも知れない。もし嫌だったら・・・・・・」

「いや、別にいいけど・・・・・・私の過去を? 占術って未来を占う技だと聞いたけど、そんなこともできるの?」


 突然の申し出に、戸惑いながらの問いに、ヒューゴは迷わず即答した。


「ああ・・・・・・できる。むしろ確定してない未来より、既に定まった過去を見る方が簡単なんだ。何でも天帝国じゃ、警察の捜査とかも、これでほとんど任せられてるらしいし」

「ふうん・・・・・・それは面白そうね」


 自身の過去を人に覗かれるという話しに、特に拒否感を示さず、あっさりと紺はヒューゴに手を差し出した。ヒューゴはそれを、両掌で包むように掴み、そして目を瞑って沈黙した。


「何か見た目、年頃の男女が逢い引きしてるみたいね・・・・・・」


 やや不満げな登喜子の言葉が出た以外では、特に何もなく、静かな時間が数分ほど経つ。紺の方は飽きがきたのか、少々欠伸が出かかっている。

 だがヒューゴの方は、随分長く何かに集中しているようで、時間が経つごとに徐々に額から汗が流れ出てきていた。


「ふう・・・・・・」


 そして唐突に静かな時間が終わり、ヒューゴは一つ息を吐いて、紺の手を離した。そして額の汗を拭っている途中でネルが問いかける。


「どうだ? 何か見えたか?」

「見えたけど・・・・・・かなり断片的で、それぞれに繋がりが見えなくて・・・・・・この人の過去に関してはよく判らなかった。やっぱり千年以上前の過去なんて、無理があったかな」


 どうやら期待していたほどの成果が出なかったらしい。これには紺を含めた全員が、やや残念そうである。


「断片的に見えたって言うけど、一体どんな風景が見えたのかしら?」

「ああ・・・・・・何だかよく判らない風景だよ。どうもこの人は、こことは別の世界の、日本国で生まれ育った人だというのは、はっきり判ったけど」

「日本・・・・・・て。それって今、大蛇帝国が交易してる、異世界国家じゃん!」

「うん・・・・・・でも何千年も前の話なら、多分俺たちが知ってる日本とは違う、別の時空の日本だと思うけど」


 どうも異世界概念でややこしい話しになっているが、それに関しては深く追求しないでおこう。


「まず最初に、何故か紺さんが、街中で猪の子供を見つけて、それを追いかけたら転落死したところだった」

「何故追いかける? 何がしたくて、あんたそんなことしたんだい?」

「さあ・・・・・・覚えてないから知らない」


 先程の説明で、二人が不死身であることは聞いているので、“転落死”という当たりには、特に誰も気にしない。・・・・・・と思ったら、透視した当のヒューゴが気にしていた。


「転落したのは、建物から落ちたとかそんなんじゃないよ。何故か判らないけど、急に雲が浮いてる高さの空まで飛んで、そこから何千メートルも先の地面に落ちて砕け散ってた・・・・・・」


 これまた奇妙な話しに違いない。町で猪を追いかけたら、どういう因果で空を飛ぶことになるのか? 皆が首を捻る中で、ヒューゴはそれ以上その件には言及せずに、次を話す。


「それで次は、黄さんが出てきたよ。黄さんと同じ、頭に角が生えた獣人がいっぱいいる街で会ったみたいだ・・・・・・」

「えっ? それじゃあやっぱ僕たち、姉弟じゃなかったの?」

「そこまでは・・・・・・ちょっと。その時見えた中では、どうも黄さんが重傷を負ってたみたいで、そこに紺さんが輸血のための血液を提供してたみたいだ。それで黄さんは助かったみたい・・・・・・」

「ふうん私の血でこの子がね・・・・・・血を分けあったという意味なら、それはそれで姉弟かも」

「そんな理屈を通せば、世間の輸血業界じゃ、肉親が生まれほうだいじゃん・・・・・・」


 登喜子の突っ込みに皆が頷いた後、ヒューゴが最後の話しの最後を語る。


「後はずっと、どこかで魔物と戦っている風景ばかりだったよ。竜に食べられて排泄物になって脱出したり、手足の生えたビルを派手な魔法で倒したり・・・・・・」

「派手な魔法? 私って魔法が使えたの?」

「そうみたいだ、何か凄い威力の魔法剣で、巨体の怪物を真っ二つに・・・・・・」

「いやそれよりさ・・・・・・」


 もっと他に突っ込みたいことがあったのか、ここでネルが話しを話しに割って入ってきた。


「食べられてクソになって出たってのも凄い話しだけど・・・・・・何だい手足の生えたビルって? どういう魔物だいそれ?」

「どういうって・・・・・・そうとしか言いようがないんだけど。大きな建物に、人間みたいな剛毛の手足がニョッキリ生えてて・・・・・・多分九十九神だと思うけど」

「うわ・・・・・・きしょ。絶対見たくないわそれ」

「それで俺が見えたのは全部だけど・・・・・・他に気になってることがあるんだ。その魔物と戦っているときに、紺さんの隣には、黄さんとは別の仲間が二人いたんだ。竜の獣人らしき女の人と。頭に葉っぱが生えた草の獣人らしい、小さい女の子が」


 今まで紺と黄とで、二人っきりだったが、どうも彼の透視だと、過去に他に仲間がいたようであった。だがこれに当の本人達は、首を捻る。


「さあ・・・・・・そんなのいたっけ? 黄は何か思い出した?」

「いや俺も全然・・・・・・そもそもいつ頃の仲間なんだろそれ?」


 やはり二人は何も思い出せず。結局ヒューゴの占術による、二人の過去の調査は、大した結果も出せずに終わってしまった。


「まあ・・・・・・とりあえず見てくれてありがとうね。自分の過去なんて、最初はあまり興味なかったけど、今のでちょっと興味湧いたかも」

「うん・・・・・・こっちも力不足でごめん。でも天帝国に行けば、俺よりもっと優れた占術師がいるかも知れないし、確かそこには透視した風景を映像化する技術も・・・・・・」

「天帝国!? それは駄目!」


 ここでいきなり、焦った様子で声を上げる登喜子だが、そこにネルが即座にある指摘をする。


「いや姐さん・・・・・・今のは別に、ヒューゴが天帝国に行くという意味じゃないですぜ」

「えっ? ああ・・・・・・そうね。うっかり焦ったわ」

「いや、何で俺が天帝国に行くと焦るんだよ?」


 ヒューゴの疑問に、皆が一様に口を紡ぐ。ヒューゴだけが意味が判っていない微妙な空気となってしまったが、それを上手いことぶち壊して紺が関係のない質問をしてきた。


「ところでさヒューゴ。なんか聞いた話しだと、あんた凄い占術の才能があるそうね。今のも凄かったし、まあ平均的な占術師の能力なんて知らないけど」

「いや凄いんですぜあんちゃんは! 何でもこの国どころか、既に大蛇帝国でもトップクラスの腕なんだそうで」

「そうね・・・・・・普通の占術師の過去透視は、せいぜい数日前の晩飯を覗くぐらいよ。千年単位の光景を見れるなんて、天帝国でもどれだけの数がいることか感じね。まさに家の子は天才ばかりで、鼻が高いっての♫」


 この話でヒューゴを褒め出す二人。最も当のヒューゴは、あまり反応せず、かなりどうでもいいような様子であったが。


「ふうん・・・それじゃああんたさ。その力で、将来何かやりたい事ってあるかしら?」

「やりたい事って? いや確かに、この力で生活をしていくのは簡単だし、その辺は安心してるけど・・・・・・」

「そんなレベルの話しじゃなくてさ。例えばその力で、一国一城の主に成り上がって見せようとか」


 明らかにあることを指摘しているように思えるその質問。それに登喜子は、急に顔をしかめて、分かりやすく動揺していた。それに対してヒューゴは・・・・・・


「いやそんなこと考えたことないよ。ていうかはっきり言って、将来の事なんて何も考えてない。本当にただ、流れるままだし・・・・・・」

「おいおい若者がそんな風に考えちゃ駄目だろ・・・・・・何かやりたいこととかないわけ?」

「いや何も・・・・・・。前は人殺ししすぎる登喜子を、どうにかしようと必死に動いてたけど・・・・・・今はもうそれは桜花さんが代わりにしてくれてるからな。正直、自分から何かしないって思うことは何もないよ。まあ・・・・・・その内何か、やりたいことが見つかるかもな」

「そうなんだ・・・・・・」

「今ボロボロの無法地帯になってる、自分の母国を救うとか考えないんですかい?」

「そんな大それたコトできるわけないだろ・・・・・・。考えるだけ無駄」


 人殺しがどうとか無法地帯とか、物騒な言葉が聞こえた気がするが。どうも彼には、その能力と血筋に反して向上心など何もない、実に無気力な少年のようだ。


「ねえヒューゴ・・・・・・もしかして私がこっちの学校に入学させたの迷惑だった? もしあんたが望むなら、ヨガーシにいるお母さんのいる所に・・・・・・」

「いや別に迷惑なんて思ってないよ。あっちじゃあんまりいなかった友達もいっぱい出来たし。まあ卒業した後の事は知らないけど・・・・・・」

「うん? この子を魔法学校に入れたのって、登喜子が考えたことなのか?」


 登喜子とヒューゴの身内話に、黄がふと思ったことを口にした。そういえば彼が、どういった経緯でこの学校に入り、実の親でない登喜子の元にいるのか、その辺を聞いていなかったのに気付く。


「いや、桜花が勧めてきたのよ。ヒューゴの折角の能力を潰すより、魔法学校で鍛えた方が将来のためだってさ」

「そうなんだ・・・・・・」


 桜花は恐らく、彼の生まれを知っているはずだ。ヒューゴの正体が周知されていることを知らない実母を、上手いこと丸めて、彼をこの場所によく誘い込んだものと思う。

 さてその後は、これといった重大な話しにはならずに、あのヘドロスライムの登喜子の武勇伝など、他愛のない話しをして、菓子を少しつまみ、何事もなく彼らはこの家から離れていった。



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