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第三十七話 釈放

 さてその更に翌日のこと。王宮内の謁見室にて。いつも晴子が座っている玉座は、今は空席であり、そのすぐ側に光二が一人で立っている。

 そしてこの場で呼び出されたのは、今朝方留置場から出てきた紺と黄である。


「やあおはよう~~~いやぁ、数年ぐらいは刑務所暮らしかなって思ってたけど、意外と早く出してくれて助かったわ」

「やっぱりこれは光二が、手配してくれたのか? あれだけの騒ぎになったのに、二日で出所なんてさ」

「まあな」


 黄の問いに、光二があっさりと否定する。あのような事件を起こして、いったいどんな圧力をかけたのかは、あえて追求しないでおこう。


「ところで今日は晴子さんはどうしたんですか? お仕事?」

「晴子は今は旅行中だ。とにかく今回の件は実に残念だった・・・・・・俺も犯人はあの理事長校長のどちらかだと決めつけていたが、まさ外れだったとはな・・・・・・」

「そうよね・・・・・・なんか随分弱いし、背丈もあの鎧武者とは全然違うし、間違いなく別人だったわ」

「別人だと判っての上で殴ったのか? ああ間接正犯という可能性もあったか・・・・・・。しかしあれが魔素人当人なのか、魔素人の差し金なのか、どっちにしても結局道筋が見えなくなったよ」


 勘違いで被害を被った理事長達に関する罪悪感など微塵も見せずに、光二は今の悩みを紺達に打ち明ける。

 事件が迷宮入りになるのは、まだマシな方。狂人である魔素人が、ヒューゴの身を狙っている以上、このまま何事も起こらず済むとはあり得ないのである。


「本当に、何か手がかりとかってないのか? こういうのって本当は警察の仕事なんだろうけど、あちらがあんな状態だしな」

「手がかりなんて・・・・・・啓発が行われた時期からして、十代から二十代の若者であることと、元はゲード王国の下級貴族・・・・・・つまりゼウス人であることは間違いないと言うことぐらいだな」

「そうか・・・・・・少なくともアマテラス人は、絶対に大丈夫と言うことか」


 大蛇帝国を含めたアマテラス大陸は、住民の殆どが多様な獣人族。そのためゼウス人との可否は、見た目ですぐに見分けられるので、この辺は楽であろう。


「だったら、アマテラス人の警察だけで、護衛をすればいいんじゃないか?」

「それで信用される事態じゃないんだがな。まあ今は別の手法で、最強の護衛をつけているからよいが。それともう一つ困ったことがあってな・・・・・・少し愚痴を聞いてくれていいか?」

「うん、いいよ」


 鹿太郎の時と違い、黄が実にあっさりと了承の声を上げる。


「実は今回の件で、やはり天帝国側が口を出してきた。以前からいた隠密の護衛が、既に三倍に人数増強されて、あの方の周りに張り付いている。どうやら向こうではもう、ヒューゴ様のことはかなりの者に知らされたようだ。そしてこれを機に、ヒューゴ様の身元を世間に明かし、こちらの手で保護しようかと検討する声が上がっていると・・・・・・」

「それがいいんじゃないのか? 登喜子は怒りそうだけど、向こうが受け入れる気があるなら・・・・・・」

「それもそうだが・・・・・・そうなると天帝国は、この件で大蛇帝国と俺たちに、責任追及するだろうな。手元にいる親王殿下を、まともに守れない無能者だと・・・・・・」

「事実そうじゃないの? 警察や役員が、一般市民を善意で殺そうとする国なのよ」


 最後の紺の発言は実に重く、光二は目に見えて落ち込みまくっていた・・・・・・


「まあ・・・・・・そうではあるんだが。今考えられる最悪の事態というものがあってな・・・・・・」

「天帝国がここに攻めてくるとか?」

「半分当たりだ・・・・・・」


 黄の冗談としていった言葉が、何故か一部肯定された。何やら話しが物騒な方向にいきそうである。


「天帝国は今、大蛇帝国の属国や植民地の、支配権を奪おうと考えているようだ。以前から大蛇のゼウス侵攻を、あれこれ言って非難してきて、国際的に問題提起していた。だが先に戦争を仕掛けたのが、ゼウスの宗主国の方で。大義名分はあったから、まだはっきりと侵攻中止の命令は出さなかったわけだが」


 以前の晴子の話だと、まるで大蛇の方が一方的に攻め込んだような言い方だったが、どうもそれ以前にも何かいざこざがあったらしい。

 詳しい概要を知りたい方は、同作者の『冥界を出たら万能武器になった男』という作品を読んでみよう!・・・・・・という過去の駄作の宣伝はさておくとしよう。


「だがそうしている家に、大蛇がこの大陸に進出を続け、領地を拡大していくことで、国の総合的な勢力が、宗主国である筈の天帝国を上回ってしまったからな・・・・・・。あちらの官僚達にはそれが気に入らないらしい。一度だが天帝国の太政大臣が、支配権の譲渡を厚かましくも要求したことがあったよ。軍事主義の大蛇だと、ゼウスの民にどんな狼藉を働くか判らず、信用に値しないとという大義でな。まあ両国の間に溝が深くなりかけたので、すぐに撤回したが。恐らく奴らは、今回の件を口実に、名前もまだ決まっていないこの国の統治権を、今まで以上に要求してくるかもしれん。そうなると間違いなく国王も、別の者にすげ替えられる・・・・・・」


 それはつまり、今の国王=晴子がクビになると言うことであろう。恐らくはその夫の太政大臣も追放されることを意味することは、容易に判る。


「それって実際どうなんだ? 政治のことはよく知らないが、天帝国はこの国の一番の問題を解決できるのか?」

「魔素人のことか? そんな訳ないだろう。あれの治療法は、天帝国の医療界ですら見つけ出せなかったんだ。下手をすれば奴ら、魔素人の可能性のある下級貴族を皆殺しにしかねん」

「天帝国って、そういうことをする国なのか?」

「ああ・・・・・・ゼウス人を原始人と蔑視する差別思想は、アマテラス各地にあるが、特に天帝国ではとりわけ強い。やつらにとって、ゼウス人の命の価値は、かなり安いものになっているはずだ」


 迷わず肯定する光二。別にかつての下級貴族の若者全てが魔素人というわけではなく、人数はごく一部だ。だがそれに構わず、彼ら全てを処断する可能背があるという。どうも天帝国というのは、言うほど綺麗な国ではないようである。


「ふうん・・・・・・まああんたらがクビになろうが知ったこっちゃないけど、さすがにそれは後味悪いわね。そうなるとやらなきゃいけないのは、天帝国の手を借りずに、あいつを助けることか・・・・・・」


 色々と政治的な話しをされてつまらなそうだった紺も、最後の話しを聞いて、少しやる気を出していた。もっともそれをどうすればいいのか?話しは結局、振り出しに戻るわけだが。


「そもそも何でまた、魔素人の問題が収まっていない中で、進駐軍を撤退させたんだ? 治安維持をゼウス人に任せると、危険になることは判るだろ?」

「天子様から勅命が来たんだ・・・・・・植民地に対して、これ以上長期の軍事的抑圧は止めろとな。どうやら天子様は、魔素人の件をご存じではないらしい・・・・・・」

(そんなわけないだろ? これ絶対に天子もグルで、嵌められたんだろ・・・・・・)


 そう頭に思ったことを、黄は口に出しかけて、咄嗟に止める。

 以前の取り調べで、黄はネル同様に、天子を疑うようなことを言ったらどうなったことか。この光二に関しても、さほどから天帝国の官僚を悪く言っているが、天子本人に関しては言っていないので、とりあえずやめた方がいいのだろう。

 まあ判っていて、あえて誤魔化して言っているのかも知れないが。


「さてこれからどうしようかしら? 探す当てがないなら、そのヒューゴの所に行ってみる? 元々あの子、私達を探してたみたいだし・・・・・・」

「む・・・・・・」


 どうせ登喜子に追い出されだろうと言いかけたが、ここで光二も思い出した。元々彼は、占術が元で、この二人に自ら会いにいったということを。







 さて昨日は決闘が起こりかけて、火の玉で庭の地面に穴が開いた、登喜子達の住まう家に、早速紺と黄が訪れていた。だがそこには既に、先客が帰ろうとしている最中であった。


「それじゃあ気をつけてな。何度も言うが、何かあったらいつだって頼ってきていいんだからな・・・・・・」

「だから大丈夫だって・・・・・・こっちには登喜子も、国王陛下もいるんだから」

「はは・・・・・・確かにそれはおっかないよな」


 家の玄関前で会話している一団。玄関のドアから喋っているヒューゴと、玄関前の庭にいる六人の学生服の少年少女達である。どうやらクラスメイトが訪問して、たった今帰るところらしい。

 ちなみにその生徒達の内の二人は、アマテラス人と思われる獣人であった。帰ろうとする六人と、入ろうとする二人が振り返り様にバッタリと目を合わす。


「あっ・・・・・・失礼・・・・・・」


 見慣れぬ人物に友人宅内で会って動揺したようだが、すぐにその六人はそそくさと紺と黄を横切り出て行った。


「あっ・・・・・・確か紺さんと、黄さんだっけ?」

「よう二日ぶりね! と言っても、あんたとまともに話ができるのは、今日が初めてだけど・・・・・・」

「まあそうだよな・・・・・・とにかくあの時はありがとう」


 公園で一瞬会ったときと、交番で助けられたときしか接点がないはずの二人。だがこの場では、かなり大事な話しになりそうである。だがその話しの前に、黄が別のことを質問してきた。


「ところでさ・・・・・・さっきのは学校の友達か?」

「ああ・・・・・・全員同じ学科のクラスメイトだよ。前の事件の事で、俺のことを心配してくれてな」

「何だか自分たちに頼れとか言ってたけど、過分に親切ね。殺人鬼に狙われている人なんて、巻き添えが怖くて皆距離を置きそうだけど・・・・・・」

「皆親切なんだよ・・・・・・えっと話しがあるなら家でしようか? とりあえず登喜子に話してくるよ」

「ああ・・・・・・」


 屋内にいる登喜子に会いに行ったようで、玄関の扉を閉めて、一旦その場から離れるヒューゴ。さて玄関前の庭で、しばし待つ二人が小さく言葉を交わした。


「なあ・・・・・・あのクラスメイトの内、天帝国が送り込んだ隠密が何人ぐらいいると思う?」

「さあね・・・・・・獣人の子なんて怪しいけど、それだと分かりやすすぎるわね」

「そうだよな、確かアマテラスにも少しは祖人がいるらしいし・・・・・・まあ敵じゃないだろうから、気にしない方がいいかな」



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