第三十五話 護衛要請
「はぁ~~~」
「おうどうしたい? 分かりやすく疲れた様子だな」
場所は王宮内の、王族専用の食堂。この国の最高権力者が食を取る場所としては、やはり余計な装飾はなく質素な部屋である。
和風デザインの壁や、灯籠型電灯がぶら下がるそこそこ大きめの部屋の中。縦長で地味目なクロスが掛けられたテーブルの中を、四人が囲って座って食事をしている。
晴子の夫の光二ならともかく、何故護衛二人まで一緒に食を取っているのか謎である。
今日の夕食のメインは炒飯。王族の食事としては、かなりイメージの違う夕食だが。果たしてこんな描写でいいのか、この世界の最上の神(作者)も知らないが。まあこっちの世界の天皇の献立も質素という話しなので、これでよしとしよう。
さて晴子一人だけ、国王特権か、単に体格のせいか、巨大な皿に三人前の炒飯を口にしている中。最初に部屋に来たときから機嫌が悪かった光二が、盛大なため息を吐いたところである。
最もこれはここ最近よくあることで、誰もこれといって興味は湧かない。
「あの・・・・・・また会議で嫌なことがありましたか?」
「会議じゃなくて、その後で伝えられた報告でな・・・・・・紺と黄が、理事長と校長を撲殺して、警察に逮捕された・・・・・・あの二人は魔素人じゃなかった」
「ええっ!?」
「はあ・・・・・・そうかい」
光二の返答に驚く晴子と、全く気に留めない護衛二人。まあどうせ事件が起こっても、桜花か登喜子の魔法で修復できるので、さほど深刻に考えることでもないが。
「大丈夫だ二人は桜花が生き返らせた。・・・・・・だがあの二人は、傷害罪でしばらく外に出られんだろうな・・・・・・」
「元々、あちらが犯人かよく知らない内に、あいつらをいかせたお前の失態だろ? 最近疲れてるからって、あんなやりなげはないな・・・・・・」
鹿太郎の指摘に、返す言葉もない光二は、再び重く息を吐く。彼がこんな調子であるため、料理の味も楽しめない、何とも嫌な空気の食卓であった。
「しかし・・・・・・あの二人が犯人でないなら、ヒューゴ殿下の命を狙ったのは誰だ? あの方のことを知って者で、該当するものはもう他にいないんだが・・・・・・」
「何だ? これは推理ドラマ的な展開か? ・・・・・・よしならば俺がノリで推理をして見せよう! 第一候補はやはり、今は最もあいつを邪魔に思いそうな皇太子・・・・・・」
「これ以上ふざけたことを言うと、また給料下げるぞ・・・・・・」
静かながらも怒りのこもった光二の声に、鹿太郎は早速推理を止めて黙り込む。
「ですが・・・・・・実際にこれって、困ったことですよね。ヒューゴ殿下の為にも、早く犯人を捕まえないといけないのに、犯人の目星が全くつかないなんて・・・・・・。ところでヒューゴ殿下と登喜子様達は、いまどうしてますか?」
「事件が起きた後に、ヒューゴ殿下を連れて、自宅に篭もっている。警察や役人が訪ねても、刃物を追い払う始末だ。あれはしばらくは外に出ないな・・・・・・」
事態は最初に想定した以上に切迫していた。もし彼の身に何かあったら、世界最高権力から、この国全体に向けて、どんな圧力がかかるか判らない。
どうせ殺されても、時空魔法でどうにかなるとしても、向こうはそれで許してくれるとは思えない。元々天帝国は、異国への侵攻を進める大蛇帝国に、あまり良い印象を持っていないこともあって。
あの少年一人のために、最悪国際問題になりかねないという本当に困った話だ。これに晴子はしばらく考え込むと、急に何か閃いたのか、笑顔で口を開く。
「そうだ! それでしたら・・・・・・私達のいる、この王宮に匿ってはどうでしょう? 少なくともアマテラス人の私達が、魔素人でないことは、登喜子様も判るでしょうし!」
「・・・・・・登喜子は魔素人のことなど知らん。一般庶民同様に、あれはストレスヒステリーだと思ってる・・・・・・」
「えっ?」
光二の返答は、とても不思議な者であった。娘の桜花や、一部の警察幹部などには既に知らされている機密が、何故ここまで王室と関わっている登喜子には伝えられていないのか?
「桜花曰く・・・・・・あの女は口が軽すぎて駄目なんだと。魔素人のこと、いつうっかり人に話すか、判らんそうだ・・・・・・」
「えっ・・・・・・でも、ヒューゴ殿下の素性のことは、しっかり秘密にしてるんですよね?」
「俺もそう思ったが・・・・・・あいつは自分の大切な者に限っては、口が硬いそうだ。その代わり興味のないことには、何の遠慮もなくペラペラとよく喋る。俺はあいつとは数回しか会ってないが、確かに印象的にそのように思えるな・・・・・・桜花の言うことは正しいんだろう」
これに晴子は、再び考えこむ。だがその時間はそう長くなく、もう名案が閃いたのか、さっきと同じ調子で、再び口を開く。
「では・・・・・・信頼を得るためにも、国王の私が、身を張りましょう。私が自ら登喜子様の元に赴いて説得します!」
さて翌日の朝のこと。何と晴子は本当に、登喜子達の自宅に赴いていた。
身長的に宅内に入りづらい晴子が、失礼ながらも登喜子を家の外に呼び出して、護衛二人を横に引き連れて、登喜子に頭を下げて懇願している。最も登喜子の元の身長が高すぎて、頭を下げても見下ろしている状況だ。
ちなみに晴子の服装は、いつもの高価な着物だが、腰には巨狼の時に使ったの同じ、大刀を指している。
「というわけで・・・・・・どうかヒューゴ様の保護を、私達に任せていただけませんでしょうか? この国の警察がしてしまったことを、私達が何としても責任を取りますので・・・・・・」
「嫌よ! あんただっていつ、狂ってくるか判ったもんじゃないわ!」
そんな晴子の懇願を、登喜子はきっぱりと切り捨てる。元々判りきった結果なだけに、護衛二人もさほど驚かず、呆れ顔である。
「私達は大丈夫です! 何があっても狂いません! 確かに先日まで普通だった方が、取り憑かれたように凶行に及ぶ事件が多発していますが。あれはまだアマテラス人に起きたという例はないので・・・・・・」
「だったら例外が起きるかもね! 国王なんて、まっ先にストレスでおかしくなりそうな立場だわ!」
「そら国王より太政大臣におきそうな話しだな・・・・・・」
「だから大丈夫ですって! 知っておられると思いますが、私はとても強いですから!」
「何その適当な根拠!? ふざけてるの!?」
「ふざけてません! それにそれを言ったら、あなただって絶対に安全な保証はないじゃないですか!」
「私は大丈夫なのよ! 私はあんたより強いからね!」
「何だ・・・・・・そのガキ以下の理屈は?」
最後の台詞は、思わず突っ込んだ鹿太郎の台詞。最もそんな指摘に怯むどころか、登喜子の不機嫌な様子が高まっている。背中の薙刀に、今にも手を出しそうな状況だ。
そんな中、自宅内にいたはずのヒューゴとネルが、いつのまに外に出てきていた。そしてヒューゴが、やや引き攣った様子で、登喜子に話しかける。
「なあ登喜子・・・・・・さすがにそれは駄目なんじゃないのか?」
「ちょっとあんたら! 中にいなさいよ! あんたらは関係ないわ!」
「いや思いっきり当事者だろ!? とにかくさすがに国王にその態度は駄目だろ!」
登喜子は当然・・・・・・この人物が国皇だと知っている。最も彼女は権威に怯むことなく、このように喧嘩腰な態度をとっているのに、ヒューゴは危ないものを感じていたようだ。
「相手が国王だろうが知ったことじゃないわ! 権威を恐れて、誰が子供を守れるって言うの!」
「いや・・・・・・姐さん前に、天子の権威にビビってませんでしたかい?」
「あれは特別にいいのよ! とにかく・・・・・・言いたいことがそれだけなら、お前らいらないからさっさと帰れ!」
最初から理屈を通す気のないらしい登喜子。とかく晴子に対して、高圧的に態度をとり続けている。
「ていうかさ・・・・・・何で陛下自ら来るような、とんでもない事態になってるんだ? 俺の身を守る事って、そんな国家レベルに大事なことかよ・・・・・・」
そうなんだよ!と、この場の皆が突っ込みたかったが、彼に自身の素性を教えるわけにもいかないので、皆が押し黙る。何故か皆が白けた目で、自身を見ることに、ヒューゴは当惑しきっていた。
「まあ・・・・・・とにかくあんたらもう帰れ! あんたも強いだろうが、私はもっと強いのよ! 何があろうが、あんたらの力なんていらないわ!」
「でしたら二人で協力した方がいいでしょう! もし万が一、どちらかが取り憑かれても、一方がお守りすればいいわ!」
「だあ、うるさいわね! そんなに言うなら、いっそ私を倒してみなさいよ!」
もう理屈も何もない子供の癇癪となった登喜子の反論。だがそれに晴子が意外な反応を示した。その言葉を聞いた途端、晴子が一瞬キョトンとして見せたが、すぐにいい考えと言わんばかりの笑みを浮かべたのだ。
「そうですか・・・・・・要は決闘で話をつけるというのですね!」
「えっ?」




