第三十三話 天子様
さて翌日のこと。テレビや新聞で、警察による児童への暴力事件が、あの黄金武者と同じぐらいに大きく取り上げられて、世間を騒がしている日の事。
紺と黄は、またもや王宮に呼び出されていた。謁見のまで、二人は特にひれ伏すこともなく、玉座に座る国王とその傍らにいる太政大臣と向かい合う。
「いやあ~~昨日は凄かったな。こんな大事件が一日も二度も起こって、お前らもめっちゃ忙しいだろうに、こんなことに時間を割いて大丈夫なのかい?」
その両隣にいる護衛二人の内一人の雅弘が、相変わらず敬意の欠片もなく、主に対して余計な事を言っているが、当の二人はそれをさっくり無視して、紺達に口を開く。
「お二人とも、昨日は本当にありがとうございました。件の事件に関して、両方とも関わって、協力してくださったそうで・・・・・・」
「いや・・・・・・三件だろう晴子。交番であの少年を殺そうとした警官の件もある。とにかく昨日はご苦労だった。・・・・・・しかし本当に変な事件に関わるなお前ら・・・・・・」
「それは仕方じゃないの。証言揉み消しの奴は偶然だろうけど、後はあの子供の方が勝手に持ち込んできたのよ」
「ああ、知っている・・・・・・」
あのヒューゴという少年が、自分の占いを元に、紺達に自分から近づこうとした件。それは既に王室に伝わっている。そうなると事態を引き起こしたのは、実質半分以上ヒューゴのことである。
そして当人達は、あの騒ぎのせいで、すぐに登喜子に連れられて自宅に戻ってしまったので、紺達のことは有耶無耶になってしまったわけだが。
すると光二が、ワザと棒読みにした口調で紺達に語りかける。
「しかし困ったものだよ。あの鎧の男は正体不明のまま、結局逃がしてしまい。しかもそれを追うための警察は、昨日の事件のせいで随分忙しい状況になってしまい、もはや容疑者を追うどころでない状況だ。・・・・・・というわけでお前達に要請だ。信頼ゼロの警察に代わって、あの魔素人らしき鎧武者を探すのを手伝ってくれないか?」
「なんか凄い軽い雰囲気で、国家最高権力者が民間人にものを頼んでくるんだな・・・・・・」
「プライドを張り上げても仕方ないだろう? こっちは他の仕事が忙しくて、人任せに出来そうなことなら、何だってそうしてやるさ。それにどうせお前ら、何かあっても死ぬことはないんだからな」
呼び出して礼を言ってきたと思ったら、いきなり本来公務であることを、人様に頼んでくれる太政大臣様。しかも全く躊躇無く、このぐらい当然だと言わんばかりの態度であった。
本当に大臣がこんなのでいいのかと、国皇と護衛二人もやや呆れかえっていた。
「それで結局命を狙われたあの人は何だったんだ? 僕たちの時みたいに、あんたらが何か、変な命令を出してそれがねじ曲がったとかじゃないよな?」
「そうだな・・・・・・もしかしたら、それは部分的に正解かもしれんな」
黄の問いに対する、光二の反応は意外なものであった。どうも彼には何か心当たりがあるようだが。
「悪いがこの件はまだ・・・・・・」
「実はあのヒューゴという方は、天子様の御令孫なんですよ。何でも既に亡くなられた親王様が、昔このゼウス大陸のある国に滞在していらっしゃったそうで、その時にもうけられたそうですよ」
何と世界最高権力者の孫が、この傘下国に誰にも知られずに滞在していたというスキャンダル。事を話すのを今は伏せようとした光二のすぐ側で、なんと晴子が、なんの躊躇いもなくあっさりと暴露してしまったのである。
これに護衛二人と光二が、口を開けたまま固まってしまった。そんな様子を見て、晴子が首を捻る。
「あら? これ言っちゃ駄目でした?」
「当たり前だろ・・・・・・事の重大さをきちんと考えろよお前は・・・・・・」
「ですがここまで協力させていただいているお二人に、隠し事をするというのも・・・・・・そもそも警察にも明かせない内情だから、お二人に頼むのでしょう?」
「すげえスキャンダル! さっそくこれをネットにアップしなきゃ・・・・・・いや冗談だって!」
光二の晴子に対する怒りは、すぐに別の、軽はずみなことを言っている雅弘に向けられて、彼を黙らせる。そしてすぐに、さっきの話しにこれと言って反応のない二人に、顔を向き直す。
「判っていると思うが、この件は他言無用だ・・・・・・いいな!?」
「ああ・・・うんいいけど」
ただ話しを聞いていただけなのに、何故か起こったような口調で釘を刺されているのに不満げな二人。そんな彼らに、光二は一言息を吐いて、諦め気味に話しかける。
「まあ・・・・・・晴子の言うことにも一理ある。どうせここまで聞いたなら、全部話してしまおう。最も事の全容を知ったからには、こちらの要請を断ることは許さんぞ」
「そっちから話しておいて、その理屈は何だよ・・・・・・」
黄からの抗議を、さっくり無視して、光二はその全容を話し始める。
「晴子が言った通りに、あの方は天子様の令孫だ。そのような者がいるだけも大事なのに、もっと厄介な事案があってな。天帝国皇室は、代々優れた占術師の家系でもあるんだが・・・・・・ヒューゴ様の占術能力は、現皇族の中でも最も優れた素質を持っていると言われているんだ。そう遠くないうちに、天子様と皇太子様を、確実に超えるだろうと言われるほどに・・・・・・。その件が、事態を難しくしている」
「それってつまり、あいつを擁立して、権威を手に入れようとする奴らがいるとか?」
「いや、まだそういった者はいないようだ。この件は天帝国内部でも、知る者は限られるからな。だがもしヒューゴ様の話が広まったら、確実にそういった者は現れるとも言われいるが・・・・・・。それが必ずしも権力目当てとは限らん。何しろまだ就任したばかりの今の皇太子様の子息には、あまり優れた占術師がいないようでな。それを不安視する声も上がっているようだし・・・・・・」
現皇太子とその子らよりも優れた力を持った隠し子。確かにそれは、当の天帝国からすれば厄介の種だろう。
彼を利用しようとする者は、単に権力目当ての悪意とは限らず、純粋に国を思っての善意で動く者もいるかも知れない。それが本当に国や当人の為になるかは知らないが。
「この件は最初は一年前に、大蛇帝国側で働いていた、彼の友人の一人が気付いたんだ。彼の父親の話を聞いてから、出生を調べ上げてな。だが彼女は、それを天帝国はおろか、大蛇帝国にすら伝えず、なかったことにしたようだ。あいつの今の保護者(=登喜子)から、誰にも言わないように口止めされてな。最も、彼女が伝えずとも、天帝国は自力で気がついたようだ。天子様自らの占術で、己の血筋がこの地のどこかにいると知って、調べ上げさせたようだ」
「ふ~~ん。それでその揉み消そうとした奴は、どうなったんだ?」
「こんな大事を隠そうとした件が大蛇帝国にも知られてな。彼女は追放に近い形で、このゲード領から離れたよ。ちなみにヒューゴ本人は、自分の出自を知らん。登喜子の方は、これは自分達だけが知っていて、天帝国にはまだ知られていないと思っているようだが・・・・・・」
何とも複雑な話しだ。あの登喜子という女は、彼を既にバレていることを知らずに、彼を天帝国から隠し続けているわけである。
「ふうん・・・・・・あの武者の言ったとおりなら、その天子様が孫を殺す命令を出したと・・・・・・」
「そんなわけあるまい! 天子様も、あの方の扱いに困っているようだったしな・・・・・・。大方、私がお前達を迎えようとしたときと、同じような事態だろうな」
黄の言葉に、怒鳴り声で否定して、己の見解を述べる光二。それは以前に、光二が紺達を呼び出そうしたら、それが魔素人の役員の曲解で、勝手に暗殺命令に書き換えられていたことであろう。
確かにそういった前例がある以上、それが真っ先に考えられることだろう。最も、暗殺未遂事件の天子の関与を否定した言葉は、どこか感情的なものがあったが。
(こんなだらけ大臣ですら、敬意を払われてるのね、その天子って人・・・・・・権威って怖いわね)
これで本当に天子が犯人だったら、どう対処する気なのかと、紺はやや不安を感じていた。
「それじゃあ、天子以外で、あいつの正体を知ってる人って、どのぐらいいるんだ? 大方その中の誰かが、魔素人なんだろうけど」
「あの方には“様”ときちんと尊称をつけて呼べ! まあ・・・・・・この国の中では、今ここにいる面子と登喜子とその養女と・・・・・・後はヒューゴ様が通っている、魔法学校の理事長と校長だな」
「へえ・・・・・・」
ここでいきなり怪しい人物が出てきた。今ここにいる面子に、魔素人はまずいない。あのネルという養女も、年齢的にまずない。その上だと、この国で彼の正体を知っているゲード人は、その二人しかいないということである。
「その様子だと、やはりお前達も同じ事を考えたか・・・・・・。ああそうだ、その二人が現状で、最有力容疑者だな。年齢も二人共に二十代後半。旧政権からの洗脳を受けた可能性はあるな・・・・・・」
「ていうかなんでその二人が、そのこと伝えられてるんだよ? 国王と太政大臣ならともかく・・・・・・」
たかが本人の通う教育施設の責任者だからといって、そんな重要機密を教えられるのか?という黄の真っ当な疑問を口にする。
「ああどうも天帝国側の隠密が、奴らにヒューゴ様の監視の代わりを依頼したんだそうだ。前に隠密が監視してたら、登喜子に気付かれかけられたからとか・・・・・・」
「へえ・・・・・・」
「実はここから、お前達にも関係ある話しなんだがな・・・・・・。その口止め料と依頼料を含めた金が、その学校に支払われているんだ。天子様からしたらはした金だろうが、彼らからすれば相当すぎる額をな。その依頼金が、十日ほど前に、何者かの盗まれたんだ・・・・・・」
二人はここで、以前の児童虐待警察の発言を思い出す。彼はあの時に、学校の窃盗事件がどうのと言っていたのだ。
「その件に関して、校費が盗まれたという話しにして、警察に届け出たところ、冤罪事件が発生してあの通りだ・・・・・・。犯人はまだ見つかっていない・・・・・・」
「それ理事長当たりが、窃盗に見せかけて懐に入れたのでは?」
「ありうるな。魔素人は天子様への不敬すら、全く恐れることがないからな・・・・・・」
「ふうん・・・・・・まあ最終的な結論を言うと、その二人を殴りに行けばいいの?」
「ああ、よろしく頼む。こっちから学校内の入校許可を・・・・・・」
「おい! いいのかいそれ!?」
まだその二人が魔素人だと確定したわけではない。だがそれを指摘しようとする鹿太郎に、そんなこと確認するのもめんどくさい言わんばかりの目線で黙殺させる。
「判ったわ! じゃあ、さくっと行ってくるわ!」
魔法学校と二人の所在地を告げると、紺も颯爽と部屋を出て行った。丁度いい暇つぶしが出来て丁度いいと言った感じだ。
二人が出て行った後で、光二は大分疲れた様子で、周りの者に愚痴るように口ずさんだ。
「これでこっちの件は奴らに丸投げで解決だな。はあ・・・・・・本当に仕事が多くて疲れる。ここで太政大臣の地位を狙う者など、現れてくれないものか・・・・・・」
「光二様・・・・・・おそらくそのような方はいらっしゃいません・・・・・・」
「俺も同意見! 誰が好き好んで、そんな貧乏くじ引くかよ♫」




