第三十話 生首から復活
さて場所は唐突に王宮へ。場所は太政大臣の執務室。
この国の第二権力者の部屋としては、特に飾りっ気がない質素な仕事部屋にて、光二が少しやつれた顔で、机の上の浮遊するPCを見ていた。そう思ったら、急に眉間をきつくして立ち上がる。
「ああくそっ! これでまた緊急会議か! いったいこれで何度目だ!」
「おうどうした? また何か問題か?」
光二の絶叫と同時に、いきなり部屋に入ってくる雅弘。時折職務をサボって、王宮内を好き勝手に歩いている彼らであるため、光二はさほど驚かない。
そんなことより、彼の頭には、先程きた報告で頭がいっぱいであった。彼が荒い声を上げた理由である、そのメールの本文。それは恐らくは魔素人によるものであろう、とある官僚の不正発覚の報告であった。
「丁度良く来たな・・・・・・お前相手に、愚痴を言いまくっていいか?」
「何か不快そうな話しだから、やめと・・・・・・」
「給料下げられたいか?」
「言って見ろよ、クソチビ大臣」
互いに嫌みったらしい顔をしながら、光二は語りかける。
「さっきある官僚が、旧ラーズ領内の、貧困層者援助のために支払われる予定だった資金を、武器売買の闇組織に流用された・・・・・・」
「おやまた・・・・・・人道援助金がそのまま悪党の手にか。そいつはどんな大義で、そんなことを?」
「いつも通りの言い分だよ。貧しい人々に、食糧や薬を分け与えることは、彼らの幸せを蹂躙する、極悪非道な行為なのだそうだ。人々の幸福のために、金を正しいあり方に使ったと・・・・・・。そいつは組織の奴らに“人々の幸福の為に、もっと多くの武器を流して、もっと多くの人々を傷つけて欲しい”なんてこと、泣きながら土下座して頼んだそうだ・・・・・・」
「おおう、これは熱血的ですな」
明らかにおかしい理屈を、何の疑いもなく信じ、全く悪意なく人民の蹂躙に手を貸したり、もしくは自身が人々を傷つけようとする。これまで何度も繰り返されてきた、魔素人の奇行。
だが今回はいつもより少しスケールが大きい。政治家が犯罪組織に荷担して、莫大な資金を流してしまったのだから。
「調べてみたら魔素人の事件は、俺たちが就任してから、急に増えたみたいじゃないか・・・・・・どういう巡り合わせだこれは!?」
「そりゃお前、進駐軍が撤退して、あんたら以外殆どが現地人の政府で治められるようになったからだろ・・・・・・」
これまでは国政・治安維持の殆どは、大蛇からの軍や大使によって纏められてきた。それが魔素人が大勢含まれた、現地人に役目が委譲されたことで、魔素人達の異常性も、世間の表に出やすくなったということである。
「くそっ! あの二人が来てくれて、ようやく魔素人の悩みも減ると思ったのに・・・・・・化け物が次から次へと現れて、その上今回の事態だ! 一体どうなってるんだこの国は!?」
「おおう、胃を痛めてそうなストレスぶりだな~~。でも薬を飲むときは気をつけろよ。ついこの前に、人々のために善意で市販薬を毒薬にすり替える奴らもいたしな・・・・・・」
ちなみのその件は、つい二日前に起きたこと。つまり連続して、魔素人の騒ぎが起き続けているのである。
「しかしそんな意味のない殺傷事件も、旧政権が肯定していたことなのか?」
「そうだな。上位貴族の若者等が、獣狩りに飽きて、街に出て人間狩りを楽しんでいたらしいからな」
そしてまた更に彼のストレスを上げるメールが、たった今PCにメールで届いていた。
「ああ・・・・・・」
「今度は何だ?」
「都内で辻斬り魔だ。あの二人が戦って、死んで生き返った・・・・・・」
場所は戻り、先程紺達が首を刎ねられたあの公園の池の岸辺。
先程の騒ぎで、一時人がいなくなったと思ったら、再び戻ってきたこの場所で。再び異変が起こっていた。最もその異変は、読者側からしたら、もう定番の話しだろうが。
ザバン!
「うわっ!?」
先程の騒ぎを聞きつけた人達。中にはカメラを持った記者と思われる者もいるこの場所で、突然の池の水飛沫の音に、人々が一斉に振り向いた。
「冷たいわね・・・・・・」
それはずぶ濡れの姿で、池から陸に上がってきたばかりの、黄と紺の姿である。
先程首を刎ねられて水に落ちたはずの二人だが、案の定あれから一時間も経たない内に、全くの無傷で服もきっちりと着ているのである。
だが池に落ちたのは首だけで、胴体はまだ陸に転がってい筈だが?
「あっ! それ僕の刀!」
黄が突然声を上げて、指差した方向には、困惑した様子で柄に収まった刀を持っている一般人と思われる男性。
すぐ隣には別の男性が、紺の刀を抱えている。これに皆の注目を集めた彼は、大慌てで二人の方に進む。
「ああ、これは君たちの刀? 何かこの池の側に転がってたんだけど。それとこの携帯も・・・・・・」
「あら拾ってくれたの? ありがとね」
その場で二人の男性から持ち物を受け取る二人。刀と一緒に受け取ったのは、以前に光二から貰った連絡用のスマホである。
何か聞きたそうにしている男性だが、その前に黄がふとあることを思いだして先に質問する。
「そういえばさ? ここに僕たちの首無し死体が転がってなかった?」
「「はい!?」」
その場にいる全員が、この謎の質問に首を傾げる。事情を知らなければ、誰もが不可解に思うだろうが。
二人は首だけが池に落ちて、今は胴体とくっついた状態で、池から上がってきた。それはつまり彼らは水中で、頭から胴体が生えてきたということである。
そうなると分離して捨てられた、以前の胴体はまだここに残っている筈であるが?
「そうそうこの辺りで斬られたから、ここに倒れてるはずよね。私達の死体」
「ええと・・・・・・よく判らないが、ここにあったのは、刀と携帯だけだったぞ?」
「う~~ん?」
このことに二人は首を傾げるが、その訳が判る者はこの場にはいなかった。そもそも彼らの質問の意味が不明であるのだから。
「頭から身体が生えてきたから、元の胴体は消えたのかな?」
「そう? 私達の再生能力って、そんなものだったっけ?」
プルルルルッ!
その時に出てきたのは、今のこの国では金持ちしか出せない機械音の、携帯の着信音であった。立った今受け取ったスマホから発せられたのである。
それを紺が馴れない手つきで開き、周囲の者達が怪訝に注目しながら、電話の相手と会話を始めた。
「ああもしもし光二? 丁度良かった今大変だったのよね。ついさっきここに殺人鬼が出てきてさ、子供を殺そうとしてたから手を出したら、私達が斬られちゃったわ」
殺人鬼という単語に、周りがざわめくことなどお構いなしに、紺は軽い口調で会話を始める。
『ああそれは知ってる。公園で派手にやらかしたらしいな。そしてだがその殺人鬼は、今住宅地で別の奴と格闘中だよ。全く汚物のモンスターに次いで、次から次へと・・・・・・』
「あはは・・・・・・それは大変ね。そんで私らはどうするの? あいつ兜を被ってるせいか、殴っても洗脳が解けなかったけど?」
『そうだな・・・・・・とりあえずその少年のところまで行ってくれるか? あいつは間違っても傷つけてはいけない身分なんだが、警察に任せるのは色々と不安でな・・・・・・今そっちに桜花を寄越すからすぐに移動してくれ』
「身分?」




