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第二十七話 和洋な魔法学校

 王都は当然のごとく広い。旧政権時の最盛期には、四十万人もの都民が暮らしていたというが、時代が暴政に向かうにつれ、僅かに十年足らずで、それが半分の人口に減ったという。

 だがオロチ侵攻後、新政権に移行して以降、国家全体が豊かになるにつれて、王都の人口もかつての最盛期を追い越そうとしている。


 当然その王都には、様々な施設がある。去年完成したばかりのタワーも新しい名所になっているが、勿論古くからの施設もある。

 それは旧時代・新時代問わず、この国の人材育成の重要期間である、皇都中央魔法学園である。


 王都のかなり端の方に、深い山林と隣接して、その施設はある。事情を知らずに見れば、その建物の異様さに驚くだろう。

 それは最初に目に映るのは、城壁のような塀に囲まれた広大な敷地。その中に入れば、敷地の奥にある、小さな丘の上に建てられた、こちらの世界で言うホグワーツを連想させるような、洋風建築の城のような立派な作りの校舎である。

 だがその建物に連結して、和風な屋根と壁色の大型建築が建てられている。和洋折衷という言葉あるが、このように片方半分にしっかり分けられたものは珍しいのではないだろうか。


 これは西洋建築の方が古くからある校舎で、和風建築の方が新しく増築された校舎だ。

 かつては中級以上の貴族や富豪の子しか通えなかった金持ち学校だった。入校条件も、子弟の成績よりも、実家から支払える賄賂が、大部分の合格基準になっていた。

 だが政権交代後に、これらの規則が一新されて、ある程度の能力があれば、一般人でも入校できるように方針変更される。

 そうしたら必然として、以前よりも生徒数が一気に増えて、このように大幅な増築が行われたわけである。





 さてそんな本校の事情の説明を済ませたところで。その校舎内のとある風景をご覧になるとする。

 とある学科の教室にて。漢字で“占術科”という札が掲げられたその教室内には、恐らくは数十人は授業を受けられそうな広さに反して、置いてある机と生徒は、僅か七組だけの広々とした空間だ。


 そこに座る生徒達は、いずれも旧時代とは違い、全てアマテラス式の着物制服である。女子の方がセーラー服のような大きな後ろ襟がついた、何か個人的趣味を感じさせるようなデザインであるが。


 それはともかくその中で、一人だけ席を離れている生徒。この国では珍しい、黒髪の小柄な少年が、教室の前に方に立っている。

 彼の目線の先には、珍妙なことに、十個以上の段ボール製らしき小箱が、幾つも床に置かれていた。それらの箱には、漢字で一~十五という数字が書かれており、蓋は閉められ、中は見えないのだが。


 生徒達は全員祖人なのに対し、教師の方は獣人で顔の両側(頭の上ではない)の耳が狐耳で、尻部からフサフサした獣の尾が映えている若い女性だ。恐らくはアマテラスの魔道士だろう。

 その彼の見ている前で、その立っている男子生徒が、しばし目をつむった後で、その箱を指差して声を上げる。


「一番が赤・青・緑・黄が二つ! 二番が赤四つと緑! 三番が・・・・・・」


 何かの問題説きだろうか? 不思議な言葉を次々と口にする少年。その番号と色と数の回答を、全部で十五回言い終えると。近くの狐教師が、その箱を一つずつ開けていく。

 箱の中には、色がついたボールが四個ずつ入っていた。狐教師はそれらを全て見せて、感心して生徒に言葉を放つ。


「今回は全問正解ね。相変わらず大したものね」


 その言葉に、その生徒はやや疲れた顔を見せながら、得意げに頷いた。他の生徒達も感心しているようだった。


 ここは時空魔法の一種の、占いの力=占術を専攻して教える学科の、占術科の教室。ここの生徒が少ないのは、別に学校全体の生徒が少ないからではなく、そもそも占術の素質を持つ生徒が少ないせいだ。

 そしてここにいるのは、この国にとっては、下手な兵器よりも、ある意味下手な兵器よりも強大な力になる占術能力者のエリート達だったのである。







 また場所は変わって、このまだゲード中央魔法学校(近年改名予定)の校長室にて。

 ほんの十数年ほど前とは、かなり様式が変わっている。洋式の机が立てられ、赤色のカーペットなんかが敷かれているが。壁は木製に見せかけた陶材製であり、行灯のようなデザインの照明が天井にぶら下がり、窓はガラス製の障子型である。

 そんな和洋折衷の部屋の中。裃に江梨とネクタイを着けた替わったデザインの正装に身につけた者達が二人、この部屋で悩ましげな様子を見せていた。


「二学年のヒューゴ・タッカーが、また記録を更新したようです。僅か一年の間に、しかも転生者でもないのに、ここまで成績を伸ばしたのは、驚嘆という言葉だけでは言い表せません・・・・・・。やはりお生まれが・・・・・・」

「その生まれが問題なのよ! ・・・・・・普通なら成績優秀な生徒として、こちらも鼻を高く出来るけど。何でまた、あんな面倒な出自の子がここに?」

「それはやはり桜花様の推薦があってのことですし・・・・・・それにどんな形であれ、この国に優秀な人材が出ることは喜ばしいこと・・・・・・」

「結局あの国に引き抜かれじゃ意味ないじゃないの・・・・・・。おかげでこっちは何か起こるんじゃないかと、ハラハラしっぱなしよ。もしあの生徒が・・・・・・」


 大きな両袖机に座る二十代ほどの若い女教師に、その前に立っているこれまた若い男性教師。その内の座っている女性は、この学校の理事長である。

 そして今話題に上がっているヒューゴという人物は、実は先程描写した、あの優れた占術を発揮した男子生徒こそが、そのヒューゴである。事情は分からないが、彼には何か問題があるらしく、このことで校長は胃が痛い様子である。


「理事長・・・・・・そこまでお悩みになるなら、いっそ我々の方で処理してはいかがでしょうか?」

「処理ね・・・・・・」


 この言葉に理事長は、未だに悩ましげにしながらも、ゆっくりと頷いた。








 さてそんな学校上層部の会話が行われてから、数日後のこと。和式の銅鑼のようなチャイム音がなり、全校生徒が一斉に帰宅するか、寮に戻るか、部活に打ち込むかの時間になったときのこと。

 大勢の同じ奇抜な和風デザイン制服を着た生徒達が、それぞれの道を進む中、その中に当然のごとくヒューゴの姿もあった。彼が校門を出ようとしたところで、そこで彼を待ち受ける者がいた。


「お疲れ様ねヒューゴ・・・・・・」

「桜花? 登喜子はまた仕事か?」


 そうその人物はあの時空魔道士の桜花であった。

 あの蜘蛛型下半身の異形の姿の少女は、この祖人の多い学校前でもかなり目立つ存在である筈。だが誰も、そんな彼女を不審には思わない。

 ただヒューゴに話しかけている姿を見て「ヒューゴの彼女か?」などと口にする者がいるぐらい。

 獣人国家に征服されたこの国は、町に異質な獣人の姿を見かけても、今は誰も気にかけることなどないのだ。


 そんな彼女が、何だかめんどくさそうな様子で、ヒューゴの問いに答える。


「ええあの女、今度は下水道の調査に動くとか。ここ最近下水からヘドロスライムみたいな化け物が変なことになってるからね。いつ終わるか判らないからって、私に押しつけてきやがってね・・・・・・」

「ああそうか・・・・・・まあ人殺しの仕事でないだけ、いつもよりマシだな」


 安堵するヒューゴの口から、何か物騒な言葉が聞こえた気がするが、それは今は置いておこう。


「その代わり、すごく臭くなって帰ってきそうね。あの女なら平気でしょうけど」

「あのさあ・・・・・・その“あの女”て呼び方止めないか? 前に何度か“母さん”て呼んでただろ?」

「・・・・・・さっさと帰るわよ」


 ヒューゴの問いかけを無視して、桜花がその場で転移魔法を発動させる。その場に現れた、真っ赤な転移の門に桜花が潜り抜けて消えると、ヒューゴも渋々といった様子でその後に続いて姿を消した。







 ヒューゴ達が転移した先は、同じ王都内だった。まあこの広大な王都を移動するとなれば、結構な距離の場所であるが。

 あの魔法学校と、似通った作りの小学校がある地区。ヒューゴが転移した場所は、その小学校のすぐ近くにある、完全和風建築の小さな一般家屋であった。まだ新築のようで、壁色なども綺麗なものだ。


「じゃあね・・・・・・」


 それだけ無感動に言って、桜花はその場からさっさと転移してしまった。礼を言う隙もなかったヒューゴは、少し息を吐いて、その家へと入っていく。


「ただいま~~」

「おう、おかえり!」


 家の居間部屋へと進み、特殊陶材製の扉を開けると、彼を出迎えたのは親でも同学生でもなく、一人の幼女だった。

 年頃は恐らくは十にも届かないだろう。金髪碧眼の白人の幼女が、高価そうな生地の赤い着物を着て、部屋の前のテレビの前でだらしなく寝転んで菓子を食べながら、今日のテレビ番組を見ている。内容はサスペンスのようである。


『どうやら死因は、この豆腐の角で、頭を殴られた事による脳挫傷のようです・・・・・・』

『豆腐の角だと!? 何という恐ろしい凶器を使うんだ! 皆この犯人を絶対に許すな!』

「ぶひゃひゃひゃっ!」


 テレビではシリアスな場面が展開しているが、何故かそれを見て大笑いする幼女。そんな彼女の横で、さっさと着替えをするヒューゴ。女性の前で裸になるのもお構いなしである。


「ああ、今日は桜花が迎えに来てたよ。登喜子はまた仕事でいつ戻れるか判らないってさ」

「う~~んそうかい。ここ最近はヘドロの化け物で忙しいわな。巨狼の時に、俺ら旅行に行ってたのは運が良かったけど」


 ヒューゴの何気ない世間話に、幼女は年不相応な、まるでおっさんのような口調で堪えている。この二人、兄妹には見えないが、果たして何なのだろうか?


「ところでよ~~ヒューゴ。何か面白いことないかい? 最近じゃ小学校も暇でよ。授業も簡単でつまらんし、最近じゃ俺に楯突いてくる奴もいなくなったしさ」


 急にドラマに興味が無くなったのか、さっさとテレビを消して、ヒューゴに問いかけてくる幼女。当然これには彼も困るだろう。


「そうはいってもな・・・・・・」

「またお前の占いで探してみろよ! 何かあるだろう、天才占術師よ!」

「ああ、もう判ったよ・・・・・・」


 こういうのは初めてではないのか、馴れた手つきでヒューゴは部屋の机へと足を進める。そしてそこから何かを取り出した。それは一つの水晶玉だった。

 その玉を持ったまま、黙り込んで立ち尽くす。幼女がまだかまだか急かしたがる表情を見せながら、一分ほどしてようやくヒューゴが答えた。


「面白いというか、やばいというか、なんか凄い運勢が出てた・・・・・・」

「おう何だい? 言って見ろ!」


「何でも下手すれば、世界を滅ぼしかねない“不死の女神”がこの近くにいるそうだ。女神って何なのか知らないけど、かなり危険な相が強く出てるよ・・・・・・」


 期待一杯の幼女と違い、一体何が見えたのか、ヒューゴはかなり険しい様子で少し冷や汗が出てきている。そんな彼の言葉に、幼女の方は首を捻る。


(不死の女神? それって確か、前に鰐姐さんが言ってた、天帝国の始祖じゃなかったっけ?)



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