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第二十五話 国王の頼み

 それから間もなくして、この拘留所の所長室にて、二人はお菓子を食べながら寛いでいた。


「そんでこれで私達の仕事は終わり? だったらバイト代ちょうだい」

「いえ、まだです。彼らの洗脳が解けていることが確認されるまで、今しばらくお待ちを・・・・・・」


 大型椅子に座り込んでいる二人に、所長が専用の椅子に座りながら、やや気圧されながら説明している。


 どうも二人が、頭を殴ることで魔素人を治癒できるという事が発覚して数日。どういう原理でそのようなことが起こるのか、未だによく判っていない。

 病院で検査をしても、彼女らの身体は、魔力がかなり高いことを除けば、普通の人間と何ら変わらないという結果が出ただけだ。勿論あの不死の力の原理も不明である。


 もしこの時に医者が、採取した彼女らの血液を、別の生き物の体内に入れる実験をしていたら、何か違う検査結果が出ただろうか?


  そんな未知の二人の力を当てにして、光二は二人に魔素人治療の協力を申し出たのである。姉弟の力の実態もよく判っていないのに、随分と急かすような命令を下したことに、下からも色々と意見が出たが・・・・・・。

 彼曰く『どうせこのままだと、あいつら全員殺処分するしかないんだ。安全性など確かめる意味もないし、さっさとできる手を打ってしまおう』とのことである。


「しかしまさか、内の所員に魔素人がいたなんて・・・・・・。今まで彼に不審なところなど何もなかったのに・・・・・・」


 先程起きたことを思い出して、頭を抱える所長。魔素人を収用するこの場所に、魔素人が働いていたという事実に、相当なショックを受けているようだった。


「あの言い分だと、自分は間違った世の中に逆らえず、耐え抜いている哀れな男だと思っていたみたいだね・・・・・・」

「魔素人が中々見つからないのも、案外あういう我慢強い奴らが多いせいかもしれないわね・・・・・・。しかし警察に看守にと、お国の仕事に就いている奴に、随分多いのね?」


 この紺の言葉に、署長は苦々しく頷いた。


「ああ、それがそうなんだよ。新政権の組織構築の際に、元々教養のあった下級貴族の若者を大勢登用したせいでな。そのせいで公務員の魔素人が、あまりに多い。特にこの王都周辺地域にはとりわけな・・・・・・。何か問題が起こるために、世間を誤魔化すのに苦労しているが、それもいつまで持つか・・・・・・」

「ふうん・・・・・・それはご愁傷様ね」


 そのこの国の抱える問題を解決できる救世主が彼女らなのだが、紺と黄は他人事のような雰囲気だ。まあ二人にとっては、何としてでも解決させようという義理も義務もないのは確かだが。

 そんなことで検査結果を待って数時間、二人がこの所内で、テレビ番組を潰して数時間後。所長室に呼び出された二人が、テレビ電話の画面越しに、光二と対面する。


『待たせたなお前達。先程病院から連絡が来た。全員無事に正気に戻ったようだ。まあ・・・・・・目覚めた途端に舌を噛んだり、壁に頭をぶつけたりして、死にかけている者も多数いるようだが』


 それは恐らく、これまで自分がしたことの罪悪感による自傷行為だろうが。その状態を果たして無事で正気というのだろうか?

 紺はそんなことどうでもいいと言わんばかりに、手を差し出して催促するように答える。


「それは良かった(?)わね。それでそろそろお金ちょうだいよ。私はしばらくはあの森には戻らないからさ。こっちで暮らすお金がいるのよ」

『ああ、勿論だ。報酬はそちらにすぐに郵送する。それでここでいきなりで悪いが、三つほどお前に聞きたいことがある。本当はもっと先に聞くべき何だろうが、あの巨狼の暴れた後の始末にバタバタしていたからな。ここで急に話しをすることになってしまったが・・・・・・』

「遠慮はいいから、言うことあるなら、さっさと言ってちょうだいよ」

『うむ・・・・・・ではまず、お前は今まで、子をなしたことがあるか?』


 本当に急で意外すぎる質問だった。受け取り方によっては、セクハラと見られかねない。現に側で聞いている所長達も目を丸くしている。だが紺は特に気を悪くすることなく、あっさりと答える。


「さあ、覚えてないわね」


 実にあっさりとした、そして誰もが予想した答えである。普通なら惚けていると思えるような返答だ。

 だがこの女は、最低でも千五百年以上は生きている異端者であり、自身の出産を忘れていたっておかしくない。


『・・・・・・そうか。実はランスロットが口にした、お前達の異名に前から引っかかることがある。アマテラス大陸の宗主国に天帝国(てんていこく)という国家があるんだが。その国の伝承によれば、天子様ご一族の祖先は、かつて不死の女神と呼ばれた女の子孫だという話がある。天帝国創立も千五百年前で、丁度お前があの森に引き籠もった時期に近いんだが・・・・・・』

「そんなの知らないわよ。気になるなら、そっちで勝手に調べたら?」


 向こう側の大陸の、最高権力国家の元祖に関わる重大な話し。話しをずっと聞いていた所長達も、何かやばい話しを聞いたのではないかと、少々顔が青いようだ。最もそんな話しすら、紺はやはり興味が無いようだった。


『そうか・・・・・・だったらお前ら、躑躅(つつじ)浅葱(あさぎ)いう女を知っているか? 植物と龍の獣人の若い女で、ランスロット達はその女達から、お前達の事を聞いたというが・・・・・・』

「それも知らないわよ。黄は何か覚えてる?」

「いや何も・・・・・・昔の知り合いで、覚えてる人なんて、紺とザルソバ以外にいないし」

『(・・・・・・ザルソバ?)そうか。では最後の質問だが・・・・・・』


 謎の人名が出たことに困惑しながらも、光二は息を整え、今までに無く真剣な表情を見せる。どうやらここからが本題のようだ。


『お前達・・・・・・この国に仕えてみる気はないか? お前達の魔素を浄化する能力もそうだが、それ以外にもかなり有用な人物のようだ。進駐軍が去年撤退して以降、この国はまだ人手不足で、しかも魔素人まで混じっているせいで厄介な状態でな。それで・・・・・・』

「お断りするわ」


 即答だった。これから更なる報酬の話しをしようとする前に、一直線に斬り捨てるように、はっきりとそう断りの言葉を言われてしまった。

 これに光二は、やや眉間が曲がっている。だがすぐに諦めたように、残念そうに息を吐いた。


『そうか・・・・・・じゃあ仕方ないな・・・・・・』

『ちょっと待ってください!』


 光二の諦めの言葉の最中に、また割り込む者が現れた。それはどこかで聞いた、アイドルのように可愛らしい声。

 そして本人の姿とは、とてもギャップのある声の主が、光二をどかしてこちらの画面に顔を見せた。それはやはり、晴子国王であった。


「あら、あんたいたの?」

『ええ、急にすみません・・・・・・。あの紺様に黄様、お二人はこの後どうなされるおつもりで?』

「何って、適当に今の世界を回るけど、そのうちこの国からも出るし。そんで飽きてきたら、またあの森に戻るし」


 今後の自身の動向について、予定とは言えないような大雑把な予定を、さも同然のように口にする紺。黄も同意見のようで頷いている。

 だが晴子はこの返答に、やや一瞬口を紡ぎながらも、すぐに懇願の言葉をあげる。


『そうですか・・・・・・しかし・・・・・・本当に不躾なお願いなのですが。せめて魔素人の治療が全て終えるまで、この国に留まってもらうわけにはいかないでしょうか? まだこの国には、大勢の魔素人がいて、それによって本人も含めて多くの人々が・・・・・・』

「本当に不躾なお願いね。私にそこまでこの国の問題に構う義理なんてないわよ。そんなに心配なら、さっさと魔素人のこと公表して、下級貴族の若者を全員隔離したらどうなわけ?」

『それは・・・・・・』


 晴子の涙ぐんだお願いも、やはり一刀両断する紺。今彼女が言ったことは、現実的に考えれば、最も有用な手段なのであろう。

 だがこれは人道的問題以外に、そもそもその隔離を行う人手が足りないという問題があるが。何しろこの国の警察や公職員の半分近くが、その下級貴族の者であるために。


『晴子よせ・・・・・・向こうが断ったからには、潔く諦めろ。こういう問題に、他人を巻き込もうとするものじゃない』

『そうそう、それにあんたがその形相で乙女の涙を流して頼んでも、只怖いだけで全く媚びれないぜ♫』


 横から聞こえてきたのは、光二と、恐らくは雅弘と思われる声。彼らは目の前の大きな希望を、潔く諦める気は既にあるようだった。


『しかし・・・・・・折角あの方々を救う手立てが見つかったのに・・・・・・。私から何か、紺様方にお支払いできるものはありませんか!? 私に出来ることなら、何でも・・・・・・』

「無いわよ。今日貰う分の金があればもう十分だし」


 未だに諦めきれない晴子は、まだ紺に何を言うつもりのようだ。再度の断りに、一度俯いた顔を、再び紺の方に向き直したとき、すると紺の方が先に口を出した。


「ていうかさ、何であんたがこの件でそんな必死なわけ? 別に好きで国王になったわけじゃないんでしょ? それにあんた前に、自分の国がこの国に侵略したのをすまなそうにしてたけど。でも今までのこの国を回った感じじゃ、むしろ侵略されてこの国の人は救われた感じだけど? 魔素人みたいないかれた奴ら以外は、えらい新政権を慕ってたし、あんたの考えがよく判んないんだけど・・・・・・」

『救われたと言えば確かにそうだな。まあ本国は別に、そんな目的で侵略を行ったわけじゃないが』


 紺の疑問の言葉に、画面外からの光二の肯定の声が聞こえてくる。これに晴子は口ごもる。


『それは・・・・・・でも確かに暴力といういけない手を使って、この国を変えてしまったの事実ですし・・・・・・』

「ああ、はいはい・・・・・・そうやって悲劇のヒロインぶって、勝手に悩むのは結構。別にあんたが何もしなくても、多分この国はどうとでもなるから、あんたはそのまま王座に座りっぱなしでいいでしょうが」

『どうとでもなる? ・・・・・・そんな信頼されるほど、事態は上手くいってないんだが』


 光二の小さい抗議の声も聞こえるが、紺はそれを気にしない。やや気を悪くしたのは、そのまま所長室を出ようとするが。


『ちょっと待ってください! お願いだから、もう少し話しを聞いて下さい!』

「ふう・・・・・・何よ?」

『私は・・・・・・確かに前に言ったとおりに、お飾りの王です。でも帝からこのような役を貰った以上、この国のことはもう他人事じゃありません! それに・・・・・・正直つらいんです』

「ううん?」

『ほんの数日前に、この国に訪れたときには、皆侵略国の姫である私を、本当に温かく迎えてくれました。その時は私も、この国がしたことは間違っていなかったんじゃないかとも思いました。大蛇の力ならば、この国の全てを救えると・・・・・・。でも本当は全てじゃなかった。私にとても親切にしてくれた兵士の方が、あるとき突然私の目の前で子供を斬ったんです。私を見て怖がっている風だったと言うだけの理由で。何度間違いを説いても、その人は自分の行動がおかしいと全く思わず、むしろこちらの気が可笑しくなったと言われる始末で、あの時に私は、力や外見の話とは違う、底知れない恐怖を感じました・・・・・・』


 それはこの国の方針に反感を抱かない程度の、軽症の魔素人。ただし権力に都合が悪いものは、全て殺せばいいという、旧政権の理念を一部引き継いでいるようだったが。

 どうやら晴子の国王就任早々に、既にそういった一騒動があったようだ。あの署長やランスロットの、全く曲げることのない狂気的信念を見れば、確かに恐怖も感じるだろう。


『あのような恐ろしいことが、今この国中で毎日のように起こっているんです。国王として、いやその前に人として、当然どうにかしてあげたいのですが・・・・・・武道以外には能の無い私には何も出来ることもない。私だけじゃなく、万能と思っていた祖国ですら、これには匙を投げていました。本当は罪を重ねるはずのない人が罪を重ね、そして多くの人が苦しめられている・・・・・・。こんな状態をどうにかしたいと必死になるのは、可笑しいですか!?』


 最後の言葉は、やや紺に迫るような口調だった。だがその口調と表情は違っていた。


「いや別に可笑しくないけどさ・・・・・・そんな涙目で言われるとね。断ると私が悪いみたいな空気になる感じ?」

『いえ・・・・・・それは・・・・・・』

『止めとけ晴子。さっきも言ったが、お前が泣き落とし説得なんて似合わねえよ。おいお前ら騙されるなよ。お前の言うとおりに、何だか悲劇のヒロインぽい台詞を吐いてるけどよ。実はこいつ、前世の頃から喧嘩大好き時代遅れヤンキー・・・・・・ふがっ!?』


 相変わらず主に向けて酷い事言う奴がいる。しかも最後に意味不明なことを言って、光二にどつかれている。

 だがその言葉と違って、紺と黄の方は、互いを見合わせて困っている様子。意外なことに、今の説得には効果があったのだろうか?


「どうするよ黄? やっぱりこいつのお願い聞いちまうか?」

「ううん・・・・・・まあいいんじゃないの? どうせ他にやる事なんて無いし」

『そうか受けてくれるか! よしそれなら早速、そちらに金と一緒に連絡用の携帯を・・・・・・』


 二人の言葉に即反応して、実に手早く商談を初めてくる光二。ここまで予測していたのか不明だが、彼らを上手く使えないかと期待していたのは間違いないだろう。


『いや~~~これは驚いたな。こんな化け物女の言葉に、心動く変わり者がいるなんて・・・・・・ほげっ!?』


 誰の手による者かは知らないが、テレビ電話越しに雅弘に鉄拳制裁が下された音と声が聞こえてくる。そんな中、晴子が盛大に頭を下げて、喜びと感謝の声を上げてくる。


『本当にありがとうございました! 紺様と会えて、本当に良かった・・・・・・これでこの国は救われます!』



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