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第二十四話 浄化作業

 それから半日ほどして。既に時間は遅く、既に外は暗がりだ。そんな中で、王宮から少し離れた位置にある、とある病院にて。


 多くの高層建築同様に、ビルに無理矢理和風な屋根を取りつけたような外観で、大きく病院の看板が掲げられている。

 運良くも、巨狼の騒動での損害を免れたそこは、騒動終結後に即座に開業再開した。幸い市民の避難が迅速だったおかげで、一般市民(・・・・)でここをすぐに利用するものは、そうはいない。元々いた患者が、少しずつ戻ってきている状況だ。

 ちなみに外では、壊れた街を大急ぎで修復している桜花が、あまりの負担に死にそうな顔をしているが、こちらの健康診察は先の話しになるだろう。


 さてその病院の各病室にて、一般市民ではない患者が、しばらく前に多数担がれてきていた。それはランスロット達、反乱者達である。

 魔人化したランスロットは、周りにいる同じく魔素人だった仲間を人間と認識しなかったようで、彼らを攻撃することはなかった。おかげで彼らもまた、全員無事である。


 あの事件の後で、紺と黄が、壊れた病室内で気絶していた彼らの、全員の頭を踏みつけた後で、ここに移送されたのである。

 そして現在に、数十人の警官達が、周囲を監視している中で、この病室に眠っているのである。


「うう・・・・・・」


 最も先に目を覚ましたのはランスロットであった。拘束具をつけられた状態でベッドに寝かされていた彼が、急に呻き声を上げた瞬間に、その目が開かれる。

 監視カメラで様子を見ていた警官達が、これに驚き、即座に武装してその病室に駆け込んできた。そしてぼんやんした顔のランスロットが、ベッドで寝た体制で見上げる形で、その警官と目を合わせる。


「う・・・・・・あっ・・・・・・」

「目覚めたな。お前自分の名前を言えるか?」


 緊張した様子で、即座に抜刀できるように、腰の物に手を添える警官。先程のあのモンスター化した姿を、録画映像で見ているために、相当な警戒ぶりだ。

 そしてその問いに、ランスロットはすぐには答えなかった。しばし何か考え込んでいる様子で、十秒ほど沈黙した後で、急に盛大に声を上げた。


「ああああああああーーーーーーー! うがぁああああっ!?」

「「!!??」」


 そして拘束された体制で、芋虫のようにジタバタとベッドの上で蠢くランスロット。その姿に、警官達は一瞬呆気にとられたが、即座にその動きを止めようと彼を取り押さえにかかる。


「私は・・・・・・私は何という狂ったことを・・・・・・何であんなことを信じて・・・・・・あれで民が幸せなどと・・・・ああああっ!」

「判った! 判ったから、落ち着け!」

「おい、こいつの口を掴め! このままだと、舌を噛みかねん!」


 さっきまで静かだった病室が、一気に大人数で慌ただしくなる。警官達が必死で彼を取り押さえ、医師を呼んで鎮静剤を打足せようとしている。

 そんな様子を、警官達の指揮官と、その周りの者達が、驚愕して見入っていた。


「信じられん・・・・・・本当に洗脳が解けたのか? あの得体の知れない姉弟が殴っただけで・・・・・・これは驚くべき事態だ」

「ええ・・・・・・しかも洗脳時の記憶まではっきりしているんですね」

「これはきついよな・・・・・・。あれだけの事をした後で、急に正気に戻るなんて、地獄だぜ。確かにこれは、ショックで死にたくもなるわな」

「そうですね。これはあまりに哀れで、痛ましい。ゲードより教えられた素晴らしき啓発を失うなんて、もはや生きる価値すら失うほどの喪失。これはすぐにでも、楽にしてあげないと・・・・・・」

「「!!??」」


 最後の台詞を口にした警官に、皆が一斉に振り向いた。まさかと悪い予感を口にするまでもなく、その女性警官が早足で、そのベッドに駆け寄り、腰の拳銃を引き抜いたのである。


 パン!


 その拳銃が、ランスロットの頭部に発砲される瞬間に、別の警官が彼女を取り押さえ、銃弾は狙いを外れて、病院の壁に穴を開けた。


「てめえ、何してんだ!?」

「あなたこそ何をするんですか!? こういう方がいたら、すぐに命を絶って、天国へ送って上げるのが、人として当然の責務でしょうが!?」


 パン!


 更にもう一発発砲される。今度はその女性警官を取り押さえている同僚の顔の目に向けてである。

 結界装置を装備しているおかげで、致命や失明には至らなかったが、急所である目に至近距離で銃弾を受けた彼は、激痛でのたうち回り、その女性警官の拘束を解いてしまう。

 彼を突き飛ばして立ち上がり、彼女は腰の刀を引き抜いて、ランスロットのベッドへと駆け出した。


「あなたたちどきなさい! その方を救わないと!」


 ドス!


 その瞬間に、刀が人の胸を貫いた。ただしランスロットではなく、その抜刀して走り出した女性警官がである。指揮官の警官が、走り出した部下を、後ろから突き刺したのである。

 その刃は、彼女を防護する結界を難なく突き破り、その心臓を串刺しにする。そして刃が引き抜かれた後で、彼女の身体が倒れ込んだ。


「警部・・・・・・何故?」


 普通の人間ならば、心臓を刺された時点で即死であろう。だが彼女は何故か死なない。倒れたところから血の水溜まりを作り、動けなくはなったものの、意識はあるようだ。

 仰向けで信じられないような目で、自分の上官を見上げ、しかも言葉まで喋った。一連の騒動を見た警官や医師達、はたまたさっきまで暴れていたランスロットまでもが、この状況に唖然とした。だがすぐに、指揮官の言葉が上がる。


「こいつが魔素人なら、心臓もしばらくすれば修復する! すぐにこいつも拘束具をつけろ! そして本部に連絡して、例の姉弟に協力を仰ぐんだ!」


 こうしてその女性警官は、ここにいる患者同様に拘束されて連行されていった。それから間もなくして、紺に頭を殴られた彼女は、先程のランスロット同様の反応で発狂してたという。









 さて場所は変わって、王都から少し離れた位置の、とある山林の奥深くに隠れるようにある、何やら意味ありげな建物。

 街の建物と違って、和風屋根などはなく、窓も最低限しかついていない、まるで巨大なブロックのような質素な大型建築物。

 出入口には名札もついていないそれは、とある特殊な囚人を拘留する拘置所であった。その建物内部で、現在前代未聞の暴力事件が発生していた。


 建物内にある、所員食堂に使われている広めの部屋の中。窓がなく、昼間なのに電動がつけられている、その密室のような大空間の中に、今日はこれまでに無く大勢の人間が集っていた。

 部屋の中央に集められてるのは、数十人にも及ぶ、この拘置所の囚人達。全員二十代ぐらいの若者達である。彼らは皆、拘束具をつけられたままそこに立たされている。

 彼ら一人一人のすぐ側には、銃や刀を持った看守や警官達が、何時でも攻撃できるような姿勢で隣にいる。まるで猛獣を引き連れるような警戒ぶりだ。


 そんな彼らの前に現れた、場違いなセーラー服姿と着物姿の少年少女達。それはやはり、紺と黄であった。

 あの刀は返して貰ったようで、この場でもしっかり帯刀している。


「では紺様に黄様、宜しくお願いします・・・・・・」

「ええ、そんじゃ・・・・・・」


 囚人達がこの状況に当惑してる中、紺と黄がそれぞれ別の囚人に近寄ると、即座に拳を振り上げた。


 ドゴ! ドゴ!


 二人の拳が、それぞれの囚人の顔面を叩きつぶす。これは即死ではないかと言うぐらいに、顔が潰れて倒れる囚人達。二人はそれぞれ囚人を、その場で一人ずつ殴りつけていったのだ。


「貴様らこれはどういう・・・・・・ぐぼっ!?」


 次々と繰り出される、囚人への暴力行為。だがこれを、周りの看守や警官達は、誰一人として止めはしない。いやそう思ったら、一人だけ叫び出す看守がいた。彼は紺と黄に、掴みかからんばかりに楯突く。


「もう止めてください! こんなの酷すぎます!」

「おい、お前突然何を言い出す!?」

「何もかもありません! 今まで公務としてずっと口を出せずにいましたが、このままだと私の心が罪深さに押しつぶされそうで、もうこれ以上は耐えられません! だから今ここではっきり言わせて貰います! 何故この方々が、このような仕打ちを受けるのですか! この方々が受けた清き啓発を何故否定するのです! たかだか人を沢山殺そうとしたり、街中に爆薬を仕掛けようとしたり、病院の薬を全部毒薬にすり替えようとしたぐらいです! それの何が罪だというのですか!? むしろ彼らは、人々にとても素晴らしい生涯を送らせようとしたと、讃えられるべき・・・・・・ぐほっ!?」


 純真な涙を流し、魂の訴えを叫ぶ最中に、その看守も紺に顔面を潰されて昏倒する。そしてそのまま何も言うことなく、次の囚人を殴りつける。

 やがて全ての囚人が、顔が平らになって倒れ伏したところを、周りの者達が、先程叫んだ看守同様に別室へと運び出していった。


「はい・・・・・・また次をお願いします」


 全員の運び出した後で、別室で待機していたらしい別の囚人達が、またぞろぞろと運び出される。そして先程同様に、二人はまた先程の暴力行為を繰り返していった。

その人の内に二人は、ここにいる数百人にも及ぶ囚人全員に、盛大な拳打をお見舞いすることとなった。


何故このようなことが行われているかというと、実はここは旧政権に洗脳された者達=魔素人達の特別拘留施設だったのである。



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