第二十三話 浄化方法
さてそんな激闘が、再び繰り広げられる中、他の面々はそこから少し離れた庭園の小山の上にいた。
ここからだと、その王と怪物の戦が、よく見える。そして紺が、呆れた様子で口にする。
「本当にこの国は騒がしいわね。カラスに狼に、今度は八岐大蛇なんて、いつもこんな賑やかなのかしら?」
「そんなわけないだろうが。確かに、魔素者のせいで厄介な騒ぎが起こる国だったが、こんな事件の連発は初めてだ。全くこの数日の間に、一体何があったと言うんだ」
「ふうん・・・・・・だったら私らも、面白い時期に外に出てきたものね」
光二のその疲れた言葉に、紺は小さく笑いながら口にするが。
最もこの世界を天上から見ている者達(読者)は、紺が森から出てきた時期と、この一連の騒ぎが起きた件が重なったのが、偶然だと思う者は少ないだろうが。
すると今度は、雅弘がある疑問を口にする。
「しかしよ・・・・・・何か魔素人がでかい魔人になったけど、あれが例の魔素者の防衛プログラムという奴か? 確かにベッドで何か言ってたけどよ」
「何を言っていたと?」
「何だったっけ? 確か、自分の思っていた民の幸福は、おかしくないか?とかだったような・・・・・・」
「むう・・・・・・」
これに怪訝な様子の光二。今の言葉だと、ここにきて急にランスロットが、己の中に植え込まれた信念に、疑問を呈したことになる。だが何故今になって急にという疑問があるが。
そんなことしている間にも、晴子とヒドラとの戦いが佳境に迎えてきた。ヒドラの尾や牙に何度も傷を負わされながらも、ついに晴子が、ヒドラの五つの目全てを破壊したのである。
「ギャアアアッ!」
驚異的な跳躍で、大蛇の頭上に飛び乗り、そこからヒドラの目を串刺しにした晴子。
苦悶の声を上げて、ヒドラが盛大に首を振ると、その突き刺さった刀がすっぽりと抜けて、晴子の身体がハンマー投競技のように盛大に振り飛ばされる。
「うっ!」
巨大怪獣の振り投げの力からすれば、晴子の巨体も小石のようなもの。その身が盛大に百メートル以上飛び、そのまま地面に激突し、数回バウンドして転がった先は、一行がいる小山の麓近くだった。
「おい晴子! 無事か!?」
「うわあ・・・・・・さすがにあれは酷いな」
今まで主君である晴子の身に何が起きようと、いつも平静だった鹿太郎と雅弘も、さすがに今回は心配げである。
晴子の身は、一連の戦いで全身に打撲を中心とした負傷が無数についており、出血もかなり酷いのだ。女の身で、ここまでボロボロになるまで戦い続けたのには、感嘆するしかない。
「・・・・・・大丈夫です」
晴子は弱々しく声を上げながら、刀を杖代わりにして立ち上がろうとする。だが地面に刺した鋒が、切れ味良すぎる刀身のせいで、深く地中に沈んでいき、そのせいで晴子が転倒してしまった。
そんなこんなで、晴子の身を挺した戦いのおかげか、あのヒドラがしばらく暴れ狂った後で倒れ伏し、先程の大蛇たちと同じように、その身が只の泥となって溶けていった。
それを確認して、皆がすぐに倒れた晴子へと駆け寄っていく。
「とりあえずこの人のことは任せて。私がすぐに病院まで送るわ」
「ああ、すまんが頼む・・・・・・」
「しかし・・・・・・象を殺せる猛毒を飲んでも平然としてる女に、医者が必要となる日が来る何てね。ああ私の力じゃ運べないから、貴方たちも手伝って」
桜花がすぐに、晴子の身体が通れそうなサイズの、大きめの転移の門を開く。そして意識があるのか判らない状態で倒れている晴子を、鹿太郎と雅弘が二人で、まるで資材を担ぐように持ち上げた。
二百キロを超える体重の女を、紙箱のように軽々と持ち上げる辺り、やはりこの二人の身体能力もとんでもない。
「ほんじゃ言ってくるぜぇ~~!」
「ああ、俺もここの片付けが終わったら、すぐに向かう」
晴子のみが、完全に転移の門を潜り抜けると、即座にその空間の穴が消滅した。そしてその場には、光二・紺・黄の三人だけが残されている。
すると光二が、携帯を取り出して、早速部下達に連絡を取るようだ。
「・・・・・・ああそうだ。化け物二匹の死体の処理は手間だろうな。すまないが、よろしく頼む・・・・・・それで・・・・・・」
この会話に興味を早々に失った紺達が、光二から目を離して、あのヒドラの残骸の方に目を向けると。
「あっ、ランスロットじゃん!」
「あれは・・・・・・生きてるのか?」
そんな紺と黄の言葉を聞いて、通話中の光二も思わず、そっちに目を向けた。
あの溶けて、今はもう原型が何一つ残らなくなったヒドラの残骸。あれだけの質量の巨体が融解した後には、地面が沼と化したように、あの黒泥が広がっている。後で庭園の掃除が大変そうだ。
そしてそんな黒沼の中心に、ランスロットが泥まみれの姿で、俯せに倒れているのが見えた。
どうやら彼は、ずっとあの怪物の体内にいたらしい。もしくは彼こそが、あの怪物の本当の本体だったのか?
「お~~いランスロット。無事か?」
何だかどうでもよさそうな軽い口調で言いながら、彼の場所に歩み寄ってく紺と黄。そんな二人が、あの庭園に広がった泥沼にまで足を踏み入れそうになったときに、光二が注意する。
「おいその泥にはあまり触れない方がいいぞ。お世辞でも人体に良いものとはいえないからな。まあお前らなら平気かもしれんが・・・・・・む?」
某ライダー風に言おう、その時不思議なことが起こった!
紺と黄が、その泥沼に無警戒に足を踏み入れた途端に、その箇所の泥が消滅したのである。
二人が足をつけた箇所から、円形に広がって、泥が消えて、枯れた庭園の芝生の草が露出する。
それも一回ではなく、二人が泥の上を歩くごとに、雨粒で波紋が広がるように、その泥のない区間がどんどん増えて、泥沼に丸い足跡のようがついていったようになってくる。
その時に生じて、僅かな魔力の流れを、光二は近くに寄って感じ取った。
(魔素水の邪気が浄化されている? ただ足をつけただけで? ・・・・・・これはまさか)
そうしている内に、二人は泥沼の中心で倒れているランスロットに到着した。倒れた彼の顔を、二人が覗き込むように観察する。
「おう、まだ息をしてるよ。凄い生命力ねこれ」
「僕たちがこんな事言うのも何だけどね。ところでこれで洗脳はどうなっ・・・・・・あ、まだ治ってないな」
黄が言っている間に、眠っているように見えたランスロットの瞼が急に見開いた。そしてその口と鼻と両耳の穴から、またもやあの魔素水の黒泥が、盛大に噴出した。
噴水のように飛び出たそれは、近くで覗き込んでいた二人の顔に、盛大にぶっかけられる。だがこれに二人は少しも慌てない余裕ぶり。
しかも驚いたことに、二人の身体にかかった黒泥が、接触した途端に、一瞬で消滅するのだ。
二人がランスロットから距離を取ると、先程ぶっかけられて泥まみれになっているはずの二人は、肌も拭くも綺麗なままである。
「ゴボボボボボボボッ~~~~!」
口から泥を吐き続ける状態で、再び立ち上がろうとするランスロット。だが先程と違って、周りに紺と黄がいるせいで、黒泥の質量の増加は遅い。
「これはまた、さっきのヤマタノオロチになるのか? だったら今度は私らが戦うしか・・・・・・」
「おい、お前ら! そいつを殴れ!」
呆れてこれからどうするかを考えているときだった。少し離れた位置に観察していた光二が、慌てて声を上げる。
「どうやらお前らには、触れるだけで魔素を浄化できるようだ! 殴るのは署長の時と同じく頭だ! さっきみたいに、首筋とか半端なところでなくてな! もしかしたらそれで、こいつの頭の中の魔素を取り除けるのかもしれん!」
「うん? そうなの? そういえばさっきから私の周りに泥が無いわね」
「じゃあ、次は俺がやるよ。えい・・・・・・」
ゴン!
その言葉を受けて、黄が即座に、ランスロットの顔目掛けて、正拳を喰らわせる。顔の正面に近づいたせいで、黄の身体にも吐き出された泥が、またぶっかけられるが、それもすぐに消滅して綺麗になる。
そして顔が潰れるのではないかと思われるほどの衝撃を受けたランスロットは、そのまままた倒れ込む。その瞬間に・・・・・・ランスロットの魔素水の噴出は停止した。




