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第二十二話 八岐大蛇

「ちょっとどうしたの!? 何があったの!?」


 戦い終えて、警報解除の話しをしようかと考えながら、王宮本殿に戻ろうとしていた晴子。だがそこで突然の夫の呼び出しがあった。そして言われた方向に走り出す。

 広くて長い皇宮内の廊下を、自動車のような速度で移動する晴子。焦っていたせいか、途中で合流した紺と黄を、うっかり撥ね飛ばすトラブルがありながらも、医務室の方へと全員で移動する一行。

 その途中の廊下で、先程医務室まで急患を送っていたはずの、鹿太郎と雅弘に鉢合わせした。


「いや、やばいよあいつ! マジで死ぬとこだった!」

「あのランスロットとか言う奴、急に身体から、壊れた水道みたいに、魔素液が流れてきて・・・・・・そんで狂ったように暴れ出してよ・・・・・・」


 かなり慌てた様子の二人は、その身に傷や汚れがある。鹿太郎は顔に打撲後が、雅弘は腹を打ったのか鎧が少し壊れている。


「本当にやばいなんてもんじゃないよあれ・・・・・・頭かち割っても死なないし・・・・・・うわっ!?」


 急に背後に気配を感じて振り返る雅弘。その他の面々も、先に廊下の向こうに見えるそれを見て戦慄していた。


「ゴボボボボボッ・・・・・・」


 それはランスロットであった。もはや人の言葉さえ判らなくなったのか、壊れた機械のような妙な音を上げている。


 そして彼の身体からは、あの一つ目大蛇の身体を構成しているのと同じような、黒い泥のような魔力物質を垂れ流していた。

 彼の両耳と口から、大量の嘔吐を吐き出すように、ドロドロと黒い泥状の物体が、先程雅弘が形容したように、水道の水のように無限に湧き出ている。


 目には生気がなく、その魔素液を垂れ流して、床を黒く汚しながら、まるでゾンビのように歩きながら、こちらに迫っているのである。

 しかもその垂れ流した魔素液は、ただ床を汚すだけでなく、ランスロットが歩き出すごとに、まるでモンスターのスライムのように動き出し、彼の後を追う。彼の後ろからは、真っ黒い沼が、ドロドロと動きながらついていっているのだ。


「あれ・・・・・・何? なんか見た目凄く汚いんだけど?」

「さあ・・・・・・俺に判らんが・・・・・・もしかしたらこれがついさっき言った・・・・・・考えるより逃げた方がいいな」


 光二の言葉と共に、その場にいる全員が、来た道を引き返して、颯爽と駆け出す。そして即座に、横の廊下に曲がり、その先にある外への扉を開き、そして出て行く。

 もうあの巨狼はいないために、外を恐れる必要はない。今はそれより、もっとやばい者が、王宮内にいるのだ。


「ウウウウウウウウウウウーーーー!」


 一行のその一連の行動を、ランスロットは追わなかった。

 しばし立ち尽くしたかと思うと、背後から追いついてきたものと、今吐き出している途中の泥沼が、その場に巨大なスライムのように集結して巨大化していく。

 ランスロットはその中に、足下からどんどん呑み込まれて、やがて全身がすっぽり、その巨大スライムの中に呑み込まれてしまった。

 その黒スライムの巨大化は止まらない。やがてこの廊下内の幅を超えて、ついには両側の壁を圧迫して、特殊陶材製のその壁を、押しつぶし始めた。


 ドオオオオオオオン!


 王宮内から盛大な爆音が響いた。正確には爆音ではなく、内側から何かが飛び出した音だが

 。一行は巨狼のせいでやや荒れた庭園。そこについさっき出てきた一行。彼らが見据え先には、さっきまで巨狼とのいざこざがあった、王宮の西宮だが。そこが突如、内側から破壊されたのだ。

 まるで破裂するように、王宮の壁や屋根が散乱し、外側に飛んでいく様は、内部から爆弾が起動したと思うだろう。


 だがそれは爆弾ではない。

 今ので齧り付かれたケーキのように、一部が盛大に欠けた王宮。その壊れた部分から見える建物内部から、何ともすごいものが出てきた。


「あれは・・・・・・ヒドラ型魔人?」


 光二がその名を呼んだもの。それは魔人であった。先程ランスロット達が操っていた、かつてゲード王国が使っていたのと同型の魔道兵器。あの人目の大蛇の姿をした魔人というモンスター。

 現れたそれは、先程晴子に瞬殺されたそれと、そっくりであった。ただし相違点が二つある。


「ヒドラ? どっちかという八岐大蛇に見えるな」


 雅弘が形容するとおりの姿である。それは巨大な黒い蛇の胴体の途中から、幾重にも首が枝分かれしている。それが全部六本で、その先には同じ形の一つ目の蛇の頭がある。

 それは真っ黒な姿をした、六つ首の大蛇である。


 そして何より際立つのが、その大きさだ。先程の類似した姿の大蛇とは、明らかに格が違う。首を伸ばせば、この六階建ての王宮の屋根にすら届く。

 比べればあの巨狼が子犬にすら見えそうな巨大さである。そんな異形の、超大型モンスターが、この国の要所である皇宮に現れるという大事態が起きたのであった。


「何ていうか・・・・・・この国は怪獣に縁があるわね・・・・・・」


 紺がそんな率直な感想を言う中、そのヒドラ型魔人が、一行を睨み付ける。明らかに敵意がありそうな雰囲気だ。そんな相手に対し、半裸状態で刀を携えた晴子が構えた。


「大丈夫か晴子? さっきから戦いっぱなしだろ?」

「ええ心配しないで・・・・・・ここは私の国、この手で守って見せます」


 そんなことを言っている最中に、魔人がその巨大な胴体をくねらせ、こちらに突撃してきた。

 庭園の木々を薙ぎ倒し、地面に浅くて広い溝をつくりながら、その巨大な黒い塊が、結構な速度でこちらに向かって接近してくる。


「そんじゃ任せたぜ!」


 それに対し、晴子以外の面々が、一斉に逃げだした。それを見て魔人が、それぞれの頭の目線を彼らに向けた。


「あなたの相手は私ですよ!」


 そこに晴子が、刀を構えて突撃する。そして目線が他にいって隙を作っていた魔人の、地に伏している腹に向けって斬り込んだ。その刀身が、魔人の黒い表皮を、深く斬り裂いた。


 ただ、深いといっても、人間の尺度から見た話。晴子の巨体とあの長刀のサイズも、この大怪獣の大きさと比べれば、鼠のようなもの。

 腹に斬り込んだその刀身は、サイズの関係で、その電車のように太い胴体を、両断することなど出来なかった。


 勿論それは晴子も判っており、その後も刀を何度も振り上げて、その黒い肉塊に何度も斬り付けていく。その複数の切断により、魔人の肉が黒い泥が飛び散るようにして削れていく。

 このまま何事もなければ、ピッケルによる鉱山作業のごとく、その巨体を削りきることも出来るかも知れない。


 だが敵は勿論、そんなこと待ってはくれない。足下(腹元?)で暴れる晴子に向けて、鬱陶しそうにした大蛇の頭が三つ、刃を振るい続ける晴子に向けて、ハンマーを振り下ろすように、一気に襲い来る。


 ドウン!


 三つの大蛇の頭が、ついさっきまで晴子がいた地面に激突する。直前でバックステップで回避した晴子。その跳躍力は凄く、一気に十メートル後方まで飛んでいた。

 そして再突撃して、地面に近い所に移動した大蛇の頭の一つに、その刃をぶつけた。


 ドス!


 それは見事に直撃し、魔人の急所と思われる、頭の一つの目玉に、その刃の鋒が見事に突き刺さった。



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