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第二十話 巨狼対巨竜王

「おっ、おのれ・・・・・・この化け物めぇえええ!」


 切り札を失って、もう勝利の手立てがなくなった反乱者達。だがそれで、彼らが引き下がったかというと、そうでもない。

 もうやけくそ気味な感じで、皆が一斉に剣や魔道杖を抜き放ち、魔人の返り血で黒くなった晴子に目掛けて、獣の群れのように突進していった。


 それを晴子が迎え撃つかと思いきや、その間に何故か鹿太郎と雅弘が立ち塞がる。


「悪いがお前達の相手は俺達だよ。こいつが相手だと、手加減できずにうっかり人殺しちまうからな・・・・・・」


 早口で自分たちが出てきた理由を告げて、同じく抜刀する二人。その場で十対二の、剣と魔法の戦いが繰り広げられた。それから十秒後・・・・・・


「よし、終わったな・・・・・・」


 文章で一々描写するのも無駄手間と思えるぐらいに、戦いはあっさりと決着がついたのだ。雅弘と鹿太郎の勝利として。

 二人は小柄な身体で、栗鼠のように機敏に動き、的の刃や魔法を難なく躱し、または刀で受け止めていく。そして縦横無尽に動きながら、反乱者達を斬り付けて、あっけなく全滅させたのだ。子供とは思えないぐらい、圧倒的な戦闘力である。

 まあ、ついさっきまで魔人を叩きつぶした晴子とは、比べるわけにはいかないが。


 振動刀によって、彼らの防具は紙のように切り裂かれ、皆が出血をしながら、呻いて倒れている。

 だが出血量はそう多くなく、今ので死亡したものはいない。どうも二人には、相手が死なないよう手加減する余裕もあったようで、彼らの傷はみな、急所をさけていた。

 だからといって、これで大丈夫というわけでもなく、すぐに治療は必要だろうが。


「これで事件解決・・・・・・」

「何言ってやがる。そとのデカ狼は、まだピンピンしてるだろ?」

「ああ、そうだった。うっかり忘れてたわ・・・・・・」


 何故あの大物を、うっかり忘れるほどの余裕が出来るのか? 巨狼は皆がいるこの建物の壁を、外側から何度も打ちつけている。

 その衝撃音が、先程からずっと鳴り響いているのだ。すると先程晴子達が出てきた扉から、ずっと向こうの廊下で待機していた、紺達が顔を出してきた。


「ちょっとここの壁大丈夫なわけ? さっきから私のすぐ横の壁が、随分どんどん鳴ってるんだけど・・・・・・」


 ドガン!


 やはり大丈夫ではなかった。紺達がこの部屋に足を踏み入れた瞬間に、廊下側の横の壁が、派手に崩壊したのだ。

 開け放たれた扉から、この広間からもはっきり見えるそれ。大量の瓦礫と粉塵を撒き散らす、あの巨狼の姿がある。

 紺達が、部屋に入るのに歩き出したのが、後数秒遅かったら、間違いなく巨狼の巨体が、紺達に激突していたであろう。


 紺達は勢いよく扉を閉めて、晴子達の方へと走ってくる。彼女らが晴子の背後へと通り過ぎた辺りで、その扉が盛大に叩き壊され、そこから巨狼がこの広間に入り込んできた。

 黒い大蛇の次は巨狼という、怪物がよく出入りする広間である。そしてこの部屋には、刀傷で動けない反乱者達が、まだ何人も倒れ伏していた。


「(これは・・・・・・私が相手するしかないわね)鹿太郎さん! その人達を、急いで外へ!」

「おう、頑張れよ!」

「おい! お前らも手伝えよ!」


 命令を聞いて、護衛対象を放置して、倒れた反乱者達を担ぎ出す鹿太郎と雅弘。それに紺達も加勢する。紺は持ち前の身体能力で、一度に三人を持ち上げていた。


「グォオオオオオオッ!」


 巨狼は目の前で、空手の構えを取りながら立ち塞がる晴子には、全く気に留める様子はない。

 そして何故か、彼女の背後の向こうで、怪我人を担いで外に出ようとする紺達に目を向けていた。そして晴子の脇を掠めるような方向で、そっちへと駆け出した。


「(弱った者を先にということ!?)はぁ!」


 晴子の瞬時の推察が正しいのか不明だが、そこを晴子が妨害する。彼女の真横を通り過ぎようとした巨狼を、勢いよい回し蹴りで叩き飛ばした。

 彼女の蹴りは、巨狼の首横に激突。その衝撃で、巨狼の身体が数歩分その方向に動く。


(固い・・・・・・やっぱり強いわ!)


 先程は大蛇を一撃で粉砕した、晴子の攻撃。だがその巨狼は、その一撃を受けて、多少怯みはしたものの、それでは倒れなかった。


「グルルルルルル!」


 自分に苦痛を与えた晴子を睨み付け、体制を彼女の方に向け直す巨狼。その敵意の目を向けてから、即座に巨狼は、間近にある晴子の方へと、再突撃した。


「はぁ!」


 始まる巨大蜥蜴女と巨大狼の怪獣プロレス。晴子は巨狼の一噛みを躱し、その顔面に拳打を喰らわした。確実に痛手は与えたが、それで巨狼の勢いは消えない。

 再突撃して、腕を引っ込めたばかりの晴子の肩に噛みついた。


「ぐっ!」


 さっき大蛇に噛まれたときは、ちょっと痛い程度だった晴子。だが今回はちょっとではないようだ。

 苦悶に歪む晴子の表情、さらに噛みつかれた肩からは、出血もしているようである。


 だがこれで晴子は倒れない。何と噛みつかれ体勢のまま、己の顔の間近にある巨狼の首を、両手で掴み上げたのだ。

 強靱な握力で首を握られ、今度は巨狼の苦悶の表情を向ける。その際に、噛みつく力も弱まったようだ。


 晴子はその体勢のまま、巨狼の身体を投げ回したのだ。プロレスのジャイアントスイングのように、何度も振り回し、そして勢いよく巨狼の身体を投げ上げた。

 巨狼はあの恐ろしく頑強な壁に叩きつけられることになる。


「ううっ・・・・・・」


 晴子は噛まれた赤く濡れ始める肩に手をかけて、ややふらついている。一方の巨狼も、しばらく昏倒していたが、しばしして立ち上がる。

 晴子が構えを取り直したのも、ほぼ同時であった。そして両者が再び激突した。


「うわ・・・・・・すごいなあれ。ていうかあんたらはいいの? あの人って、守るべき雇い主だろ?」

「ああ、いいんだよあれは。どうせ俺が出ても、足手纏いになるし。それにあいつ自身も楽しそうだし」

「まあ、そうみたいね」


 紺達一行は、怪我人を運ぶのを忘れて、一時その戦いに見入っていた。黄の問いに答える雅弘は、実に呆れた声と苦笑いをしている。

 どうもこの二人は、所詮体面上の護衛のようだ。もしくはさっきの反乱者のように、晴子がうっかりやり過ぎないようにする役割なのかも知れない。


「まあいいわ。さっさとこいつらを運んで・・・・・・うわっ!?」


 紺が担ぎ上げる一人が、突然暴れだし、うっかりその人物を床に落としてしまう。その人物はランスロットであった。

 決して浅くない傷を負っているにもかかわらず、人の静止が入る前に、彼は渾身の力を込めて立ち上がった。

 最も顔色は最悪で、まるでゾンビのような様そうだったが。そして立つのもやっとな状態にもかかわらず、床を血で塗らしながら、ゆっくりと晴子の方へと歩き出した。


「私は・・・・・・負けない。この命尽きるまで、戦う・・・・・・何をしてでも民の幸せを・・・・・・」

「寝言は寝ていえバーカ!」


 だが即座にランスロットは、再び倒れる。彼自身が力尽きたのではない。紺が後ろから、彼の首筋を叩いたのだ。いわば首への手刀で気絶させたのだ。


 漫画だとよくある描写だが、実際にやるとかなり危険なこの技。下手すれば、脳震盪で死ぬ、絶対にやってはいけないものだ。


 だがどういう理屈か、この一撃でランスロットは倒れた。まさか死んだのではと、雅弘が手を当てると、一応命はあるようだった。


「お前、随分危ないことするな。下手すりゃ死んでるぞそのやり方」

「えっ? そうなの? まあ今は死んでないみたいだからいいでしょ。さっさと行きましょ」


 こうして一行は、王と巨狼が激戦を繰り広げる広間から、手早く立ち去っていった。



補足ニ:鹿太郎と雅弘は、大蛇帝国支給の高給装備で、能力強化されてるので、前作よりかなり強くなってる設定です。

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