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第十六話 戦場化した王都

 さて一連の報道は、最初に紺達が遭遇した、あの人物にも当然のごとく届いていた。


 先程紺達がいた、あの商店街の中にある、一件の酒場。和風建築ばかりになったこの街で、未だに旧時代の洋風建築の、やや目立つ建物。この巨狼騒動の前から、あまり客がいなかった、やや誇りっぽい内装の酒場。

 何を隠そう、実はここが、あのランスロットとその仲間達が集う、反乱者達のアジトだったのである。


 ちなみに紺達があの場所にいたのは、一度彼らと話しをしてみようと思ったからなのだが、今はもうどうでもいい話になったようだ。

 その酒場の地下にある、いかにも秘密のアジト。その中には、いったいどういう手段で持ち込んだのか、銃火器などの武器が詰まった木箱が、いくつもその部屋に詰め込まれている。


 そしてこの場にランスロットを含めた、数人の反乱者達が居座っていた。

 反乱者が武器を持ち込んで、この国の中心である王都内に居座っているという事実。

 普通ならこの国の警察は何をしているんだ?と突っ込みたくなりそうだが、まだ進駐軍が去ったばかりの、建国したての国に、完璧さを求めるのは間違いかも知れない。

 さてその部屋の中、反乱者達は、かの巨狼の報道を見て、恐れるどころか、何故か喜んでいる。


「おい・・・・・・これは絶好の機会ではないのか? マリアが逃がしたモンスターが、敵の本拠地である王宮に突撃しようとしている。もしこれで混乱が起きれば、我々が王宮に潜り込む隙が出来るかも・・・・・・」

「そうね。まだそう上手くいくとは限らないけど、準備はしておいた方がいいかも・・・・・・。多分警察も、あれに釘付けだろうし」

「しかし仮に国王にまで辿り着けたとして、どうやって始末をつける? あの女には、振動刀も効かず、同士が捕まってしまったのだぞ?」

「いや、前に見つけた北上で見つけた魔人達がいる。制御できるか判らないが、今はただ、暴れ狂ってもらうだけで十分だろう」

「確かにそうだな。では早速マリアに空輸で・・・・・・」


 この場で何ともきな臭い会話を繰り広げる一同。そんな中、あの紺に訪問したランスロットが、テレビの中継映像を見て呟いた。


「しかし蛮族共の政府も、信じられない対策をするものだ・・・・・・。市民を最優先に逃がして、自分たちは残るなんて、何という民の思いを考えない狂った判断。もしこれで市民に犠牲が一人も出なかったら、どう責任を取る気だ!」


 この時の政府の対応に、怒りと共に声を上げるランスロット。


 もしここに一般的な思考の者がいれば、今の発言にかなりの違和感を覚えただろう。だがこの場にそのように考える者はおらず、むしろ皆がランスロットの言葉に頷いていた。







 王都の中は、まさに戦場となっていた。王宮を通過することになる進路を進む巨狼を、この都市の警察隊が、この無人化した街で迎え撃つ。

 彼らの武装は、もはや通常装備の、拳銃と刀だけではなくなっていた。


 ドドドドドドドッ!


 小火器ではあり得ない、幾つもの銃声と砲声が鳴り響く。

 幾つもの建物が、大破・倒壊して荒れ果てた土地で、そんな音を立てながら巨狼と戦っているのは、数台のバイク型の飛空艇。


 見た目は宙を浮く、フルカウルの大型バイク。空地両用の大型タイヤは、本来は空も飛べるが、今は旧時代のバイクと同じように、地上を走っている。

 飛ぶだけでエネルギーロスが大きい上に、反重力で車体が軽くなるため、あまり反動の大きい攻撃が出来ない、及び外部からの衝撃への抵抗力が無くなるために。

 そしてそのバイクの、上面の天井の上には、バイク全体が背負っているように、長い砲身が設置されている。

 それはいわば、戦車を小型化したような感じで、バイクの後部に砲台が接続されて、砲身が機体上部に乗っかっている構造だ。

 中には砲身ではなく、大型の機関銃を背負っている者もある。


 そんな重武装のSFバイクが、この都市内で巨狼と対峙しているのである。

 十台の戦闘バイクが発射した、幾つものエネルギーベースの砲弾や弾丸が、巨狼を撃ち抜かんと直進する。

 それらの攻撃を、巨狼はあちらこちらを走り回り、必死で避けていた。最初は障害物などものともせずに直進していたのに、今はそんな余裕はない。

 そして巨狼が弾を避ける度に、外れた弾が、各地に建築物等の物品を破壊していく。ある家には綺麗な風穴が開き、ある都内のオブジェが粉々に散乱し、あるビルの壁が小さな穴がポコポコついた蜂の巣状態となる。

 巨狼による破壊行動より、こちらの被害の方が、遥かに大きそうだ。後で全ての尻拭いをする、桜花の負担が心配になる。


 撃たれた弾丸は、全てが避けられたわけではなく、多少は命中しているのだが、銃弾の一発や二発では、彼はさほど大した痛手でではないようだ。

 だがとうとう避けきれなくなり、一発の砲弾が、巨狼の脚部に命中した。弾は肉体に刺したる損壊を与えず、弾かれたものの、その衝撃はかなり堪えたようで、巨狼が痛みで一瞬怯む。

 そこをすかさず撃たれた、数発の砲弾が、同時に巨狼に命中した。


 RHA700mmにも及ぶ貫通力の砲弾が、巨狼の身体を吹き飛ばし、近くの家屋まで吹き飛んだ。

 その家屋の壁を突き破り、内部に激突して、一時姿を見せなくなった巨狼。

 だがそれで安心はせず、弾丸を貫通式から榴弾式に変えた戦闘バイクが、それに追い打ちをかけるように打ち込んだ。


 ドオオオオン!


 その場で広がる赤い輝き。撃ち込まれた砲弾の爆発によって、その家は見る影もなく消し飛んだ。

 一帯に燃え盛る破片が、花火のように散乱していく。だがその中に、あの巨狼の死体の欠片はないようだった。


「・・・・・・やったか?」


 戦闘バイクの搭乗者の一人が、そんな言ってはならないことを言ってしまった。


 ドガン!


 案の定、まだ死んでいなかった巨狼が、その家から飛び出して、正面から警察の部隊と睨み合う。

 身体の撃たれた箇所からは、僅かに血が滲み出ているが、さほど大きな負傷ではないように見える。

 そしてさっきまで逃げ回っていた巨狼が、何を思ったのか、正面から警察隊に突進してきたのである。当然のごとく、数台の戦闘バイク(=以後戦単車と呼称)が、それを正面から撃ち抜く。

 だが・・・・・・


 ガガガガガガッ!


 今のは銃弾や砲弾が弾かれた音である。どうしたのかというと、驚いたことに、巨狼の正面から、傘を前向きに差したような形で、コンタクトレンズのような形状の薄い半透明の壁が現れたのである。


(あいつ魔法を!?)


 これには戦単車の搭乗者は勿論、近くで待機して様子を窺っていた、警察の歩兵部隊も唖然とした。さっきまで肉弾戦ばかりだった巨狼が、突然魔法と思われる防護結界を張ったのだから。

 その結界は、全ての砲弾や銃弾を弾き返し、巨狼の突撃は多少速度が遅くなったものの、止まることなく戦単車へと距離を詰める。


 慌てた彼らは、後退を始めようとするが、もはや手遅れ。ついに一台の戦単車と接触した巨狼。

 結界を張っている間は、顔が被さっているため攻撃できないが問題ない。

 直前になって素早く結界を解き、先程まで自分を苦しめていた大砲の砲身に噛みついた。


 その鋭い牙は、砲身を紙パイプのように、簡単に噛み砕く。そしてその戦単車の車体のカウルを、前足で上から叩きつぶした。

 砲身と同じく紙のように潰れた装甲版の下から、搭乗者のものと思われる血が噴き出した。そして巨狼は更に、別の戦闘バイクにも突撃していった。







 この戦闘の一部始終を、議事堂で見ていた光二達。当然のごとく、彼らは当惑していた。ただし光二は、他と比べれば、まだ多少は冷静だったようだが。


「さっきの説明だと、あれは過剰な魔力で暴走しているという話しだったが・・・・・・どうやらもう安定しているようだな。でなければあんな完成された魔法は使えん。さっき列車に轢かれたのが刺激になったのか。それとも単に時間が経ったからなのか判らないが・・・・・・」


 魔法に関する知識が、並以上に持っている光二が、そんな冷静な分析を口にする。周りにいる者達も、どよめきながらも光二の次の言葉を黙って聞き入った。


「だが何が原因にせよ・・・・・・魔力の安定化があまりに早すぎるぞ。あれをあそこまで急進化させた原因は、いったい何なんだ? 人為的なものなら、犯人は何者だ? 魔王でも現れたか?」


 画面上で戦単車が次々とやられていく様を眺めながら、彼らは今はまだ答えの出ない、そんな疑問に悩まされていた。







 さて戦単車と巨狼の激闘の音が、すぐ近くで響き渡る王宮の傍で、さっき出て行ったばかりの二人が、また戻ってきた。


『・・・・・・てお前、何戻ってきてるんだよ!?』


 王宮正門前に、標識柱のようなものに設置されている、連絡用のテレビ電話。それに映し出されている鹿太郎が、紺と黄の姿を見て、驚いたと言うより怒っていた。


「いやあ・・・・・・私らもさっさと逃げようかと思ってたけどさ。テレビを見ても、警察やられっぱなしだし、何か気が変わったわ。私達もこれに加勢しようかと・・・・・・」

『馬鹿野郎が! 晴子はお前達を案じて、わざわざ出してやったんだぞ!』

「気持ちは分かるんだけどさ。よく考えたら、僕たちの身を案じる意味なんてなかったんじゃないか? どうせ僕たち死なないし」

『うん? それは・・・・・・確かにそうだな』


 黄の言葉に思い当たり、鹿太郎は返答に困る。確かに冷静に考えれば、この二人は何があっても安全な立場に違いはなかった。


「とにかく刀返してよ。今からでも向こうに戦いに行ってもいいからさ」

『そうは言ってもな・・・・・・あっ!』


 すると鹿太郎は、カメラの方向とは別の方に視線を向けて、やや動揺していた。そして困った顔で、紺達に話す。


『とりあえずお前ら、中に入れ。ついさっき警察隊の戦単車部隊が全滅した。もうすぐやつはこっちに来るぞ』


 そう言ってすぐに、正門のすぐ隣にある、小さな脇門が自動で開かれた。



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