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第十五話 第二の列車事故

 さて一方の、事件とは何の関係もない(?)紺達はどうしてるのかというと。

 かつてここが旧ゲード王国の王宮であったころ、地下に建設されていた非常時用の地下牢。

 その場所は壁や天井などのが特殊陶材で補強されているが、檻の構造そのものは、当時とさほど変わらずに残されている、清潔感溢れる檻の中にいた。


「あの・・・・・・ご体調は大丈夫でしょうか?」


 その場に訪れたのは、鹿太郎と雅弘を伴った晴子である。何故かよく一緒にいる三人である。

 地下の天井は低いため、晴子はやや腰を下げて、この地下内にいる。心配そうに声をかける晴子とは対照的に、二人は随分と気楽そうだ。


 大勢を収容する用途であったろう檻の中は広めで、軽いジョギングが出来てしまいそうだ。

 その中の清掃が行き届いた、ベッド・机・テレビ・大型ゲーム機などが置かれたその檻の中で、紺達は朝食を食べて寛いでいる。


「ええ、大丈夫よ。何か久しぶりに、ちゃんと料理したもの食べて、ちょっと感動してるところ。もういっそここに住んじゃいたいぐらいだわ!」

「僕は嫌だよ! それより太政大臣は何か言った?」


 全く無抵抗のまま捕まった二人だが、黄の方はやはり今の現状に納得していないようで、睨み付けるような視線で、晴子に問う。

 それに晴子が気圧されながらも、低い声で答える。


「それが・・・・・・今は緊急の要件が出来て、またお話しは今度に・・・・・・」

「何だよ? 話しから逃げたのか?」

「違うわ、マジでやばい事件が起こったんだよ。そこのテレビ映せ。今どこの局でも、ニュースになっているはずだ」

「うん?」


 鹿太郎の言葉に、紺は不思議に思いながらも、カードのように薄いリモコンを手に取る。

 直後に、部屋内にある大型薄型テレビの画面に、高画質のニュース映像が流されてきた。


『いったいあのモンスターは、何をしているのでしょう!? 今あれが向かっている方向には・・・・・・』

「「あっ!?」」


 どこかの空艇から撮影されただろう、真上から映し出される、鉄道橋を走る巨狼の、高速で追いかける映像である。これに二人は目を点にした。


「ほらな、大変だろう。この間も変なカラスが街を壊して大変だったけどさ。これもお前らが知り合った、反乱者の仕業じゃないのか?」

「(あの狼は確か、あの女魔道士が飼ってたやつ?)・・・・・・そうね」

「何だ? 何か知ってるのか?」


 二人の反応に、雅弘は胡散臭げに問うが、二人は首を振って返答を拒否した。その流れをあえて無視して、晴子が話しかける。


「あのモンスターが向かう先の駅は、この王宮の近くにあります。万が一のことを考えて、付近の住民に避難勧告が出てまして・・・・・・。お二方にも、すぐにここから出られるよう取り計らいました。重ね重ねの不備を、本当に申し訳ありませんでした!」

「ああ、ちなみにまた光二に会いにいって、暴力沙汰を起こしそうになったら、またここにぶち込むからな。それとあの刀は、今はまだ没収継続だ。返して欲しけりゃ、事が済んだ後で、またここに来い」


 そう言いながら、鹿太郎が檻の原始的な錠を外す。それに黄は喜んで、紺は残念そうに、言われるがままに檻から出た。


「まあ・・・・・・どうせまた来る気だしいいけど。ところで晴子さんは、逃げなくていいんですか?」

「ええ、いいんです。飾りとはいえ、国王が真っ先に逃げては、民に示しがつきませんので・・・・・・」

「まあ何かあっても、こいつなら大丈夫だろ。むしろあの犬を殺すなら、こいつを戦線に突きだした方が・・・・・・あだっ!?」


 口の減らない雅弘に、鹿太郎が一発お見舞いした後で、二人は無事に王宮内から脱出するのであった。







 巨狼はひたすら、鉄道橋の上を走っていた。疲れというものを全く知らず、百キロを超える速度を持続しながら、ひたすら走り続ける。

 舗装された道は走りやすいのか、未だに道の外に出ようとする気配はない。それは即ち、巨狼が向かう方向が、周りからは明確に判るということで、それは脅威であると同時に、討伐の格好の機会でもある。


 ゴーーーーー!


「!?」


 己が向かう先の遙か彼方から、何やら突風とも似ているような奇怪な音が聞こえてきた。

 巨狼はそれに不審には思うものの、それに構って足を止めることはない。


 今はただ、体内の過剰に溜まったエネルギーを、放出することだけを考え続けて、彼は突進を続けた。

 やがて遥か彼方か、巨狼の数倍の速度の、数十倍の長さを持つ物体が、そこへと到着した。


 ドガン!


 一昨日の紺達が起こした人身事故に続いて、近日に止めの電車事故が発生してしまった。ただし事故の被害者は、人間ではなく動物であったが。

 それはこの線路を全速力で走ってきた、無人走行中の電磁列車リニアモーターカーである。


 二つの目のような形をしたガラス窓が正面にある、横から見ると四分円の顔を持った先頭車両。

 事故に備えて、特殊金属製て、我々の世界のものよりも頑丈に作られた車体。

 その車体の顔が、正面から巨狼の身体に、大怪獣が繰り出すよりも強大な頭突きを喰らわしたのである。


「!!??」


 あまりの速さからか、巨狼は事態をすぐには把握できず、悲鳴すら上げられず、電磁列車と正面衝突して弾き飛ばされた。

 彼の身体は、以前の紺達よりも遥かに巨大であるが、吹き飛ぶ距離はさほど変わらず、そのまま橋の下の地面へと墜落していった。


 落ちた先は農場ではなく、街の民家であり、屋根を突き破って中に突っ込んでしまったのは、運がない話しである。

 だが先程の衝突で凹んだ電磁列車の頭と同様に、こちらも恐らくは、桜花の時空魔法で修復できるのであろうが。


 ちなみに鉄道橋近辺の集落は、太政大臣と警察組織の迅速な指示により、既に市民は避難済みだ。

 巨狼が撥ねられた位置は、すでに王都まであと数キロという位置であり、こちらからも王都の高層建築がよく眺められる所であった。ある意味では、間一髪で間に合った対処である。


 民家の部屋に突っ込んで、倒れ込む巨狼。彼の頭は半分潰れていた。口先が砕け散って、あの誇らしく生えそろう狼の牙は殆ど折れている。

 首の方にもかなりの衝撃がいったようで、そこがかなり変な形に折れ曲がっていた。そのまま痙攣しながら、巨狼はほぼ動かなくなった。







『何という荒技な作戦でしょうか!? しかしその作戦は成功したようで、こちらから見える限り、あのモンスターは古い民家に沈んだまま絶命した模様です!』


 報道者が大喜びの声を上げる中、その中継をテレビで見ていた王宮内の官僚一同。この光景を見て、多くの者が安堵の息を流していた。


「どうしましょう閣下。避難命令を解除しましょうか?」

「バーカ、それは性急すぎるだろうが。今はまだ警察以外の者は、立ち入り禁止だ。王都内の避難指示も継続させろ。異国の映画のパターンみたいに、死んだと思わせて、また起き上がられては困るしな」


 そう言って、やや急ぎ足でテレビから背を向けて、光二は部屋から出て行った。


(晴子の話しを聞く前に、こっちに来てしまったからな。何の用かしらないが、きちんと相手してやらないと・・・・・・)







 それから三十分ほどして、かの巨狼が転落した街の中にて。


「死んだら死んだで、早く死体を回収しなさいよ。まだ生きてるんなら、さっさとトドメをさしてよ! 時間が立ちすぎると、修復できなくなるのよ!」


 町民の避難がほぼ完了している中、その場に警察以外の人物が、彼らにそう急かしている。

 それは以前、カラスに破壊された町を修復した、蜘蛛人の少女の桜花であった。彼女は先程、先っぽが潰れた列車を修復し、つい先程この街に転移したばかりである。


「そうは言われましても、検分もあるので、そうすぐには・・・・・・」

「そう・・・・・・まあいいけど。でもそれで手遅れになって、家を直せなくなったら、責任取るのは貴方たちというにことにするわよ。勿論修繕費は、ここの国家予算で・・・・・・」

「そっ、それは困ります!」

「じゃあさっさとしなさいよ!」


 損壊したのは民家一戸だけとはいえ、決して雑に扱っていいわけではない。

 そんなこんなで警察達が焦っている中、突然あの穴あき民家から、鑑識員や医師達が、大慌てで飛び出してきた。


「たっ、大変だ! 検査したところ、あの化け物はまだ生きて・・・・・・」


 ドウン!


 必死に逃げながら叫ぶ、鑑識員の説明は途中で遮られたが、別にそれで十分であった。先程の家から、穴がもう一つ出来たのである。

 家の内側から、爆発事故かと思わせる勢いで、壁や窓が破壊される。大量の石の欠片や、枠ごと吹き飛んだ窓が、近くの車道に散乱する。

 その穴から、更にその先を塀まで破壊して、車道に飛び出してきたのは、やはりあの巨狼であった。


「ウォオオオオオオーーーーン!」


 車道の上で更なる遠吠えをあげて、警察達を驚愕させる巨狼。先程無惨に潰れた顔も、折れ曲がった首も、どんな治癒力なのか、跡形もなくなくなって、元通りの健康体である。

 先程は過剰な魔力で暴走状態であった巨狼だが、今は多少は落ち着いたようで、そのまま暴れ狂うことはなく、辺りを冷静に見回していた。


(魔力制御は安定したみたいね・・・・・・しかしこうなると、また私の仕事が増えるわ)


 桜花がそんな思考をしながら、少し引き下がる。

 巨狼が鼻先を天に向けながら、何かを探しているのか、ヒクヒクと臭いを嗅ぐ仕草をしている。

 そんな停止状態の巨狼に、最初は呆気にとられていた警察が、気を取り直すと即座に行動に移した。


「撃て! やつを仕留めろ!」


 その指示の元に、警察達が拳銃を引き抜き、隊列など構わず、巨狼に発砲した。

 巨狼が居座る車道に、他の所にいた警察達も、続々と集まっていき、撃ち放たれる銃声の数は、どんどん増えていく。


 だが生憎、それらの小さすぎる銃弾は、大きすぎる的の巨狼の身体に、ほぼ全弾命中するも、全く効果を得ていない。

 ただまるで蝿の群れにあったかのように、巨狼が不愉快に身体を振る程度である。


 その様子を見た一部の警官が、指示を待たずして、腰の刀を引き抜いた。

 勿論それは、銃弾が気かない紺達をも殺傷できる、振動刀である。


 一人が引き抜くと、他の警官達も続々と拳銃を収めて、腰の刀に手をかける。勿論巨狼も、これに黙って斬られはしない。

 正面から突撃した警官三人を、太くて長い、熊のような前足で、纏めて叩き飛ばした。

 警官達はそれぞれ、直前に回避や防護を試みたが、巨狼の動きは巨体に似合わず俊敏で間に合わず、あえなく吹き飛ばされることとなる。

 防護結界を張っているおかげか、近くの民家の塀にめり込んだ者も、怪我はすれど 生きてはいるようだが。


「ウオッ!?」


 さらに背後から斬りかかってきた警官を、後ろ蹴りで撥ね飛ばした直後に、巨狼が苦痛の声を上げた。

 さっきの攻撃の直後に、横から飛び込んできた警官が、巨狼の脇腹を斬り付けたのだ。

 列車の衝突を生き延び、拳銃弾を受けても傷一つない巨狼だったが、今の一撃は効いたようだ。肉厚のため内臓にまで届かなかったものの、その斬撃は巨狼の頑強な毛皮を切り裂き、そこから血を流させた。


「グオオオッ!」


 だがそれで倒れることはなく、巨狼は怒りのままに、今斬り付けた警官を殴り飛ばすと、その場から大急ぎで走り去っていった。

 驚きの跳躍力で、付近の民家の塀を跳び越えて、更に民家の屋根に飛び移り、自重で屋根にまた穴を開けて屋内に転落。

 そのまま猪のように再突撃して、家にまた大穴を開けて、更に先まで走り去っていった。


「くそっ! 追え!」


 警察の指揮官がそうは言っても、もう手遅れ。巨狼はあの素早さで、呆気なく警察の包囲網を潜り抜け、この街から脱出。

 そしてここから見える、高層建築が建ち並ぶ、王都の風景が見える方向に、田畑を踏み荒らしながら直進していった。これを見て、桜花は疲れた様子で呟いた。


「・・・・・・今日の私の仕事は大変ね」


 そのまま魔道杖を振りかざし、さっさと街の修復作業に移るのであった。








 さてそれから数分後の王都内にて。鉄道橋付近では避難指示が広がっているが、そことは少し離れた地区にあるためか、避難が後回しになっている場所である。

 しかも最初に、巨狼の列車事故のせいで、市民がぬか喜びしてしまったせいで、まだ多くの市民が残っている場所である。

 中には巨狼の復活と逃走を、まだ知らない市民も多い。


 多くの和洋折衷な建物が建ち並ぶ、大規模な商店街にて。真ん中の浮遊する車輪のない自動車が行き交う中央道の脇に、歩道を挟んで多くの商店や宿屋が建ち並ぶ、賑やかな王都の商業地区。

 その中の歩道に設置された、薄型街頭テレビに、先程逃走した巨狼の中継映像が映し出されていた。


 一般家庭にはまだテレビが普及していない情勢の中、多くの人々が情報を求めて、そのテレビの前に集まっている。

 その民衆の中に、今日の宿を探す途中の、紺と黄もいた。


『とうとうモンスターが、王都の市街地に入ってしまいました! 家々を薙ぎ倒しながら、真っ直ぐに突き進んでいます! 先程から直進ばかりしていますが、その先に何か目的があるのでしょうか!? このまま行くと経路は・・・・・・』


 テレビに映し出された、直進経路がのった地図が映し出されると、ざわめいていた人々が、更に恐怖に晒された。


「おいっ! このままだと、この街も通るぞ!」

「すぐに家で荷造りを・・・・・・そうだあの子を学校まで迎えに・・・・・・」

「学校なんて、とっくに避難指示が出てるさ! 今は自分が逃げるのが先だろうが!」


 人々が騒ぎ出し、次々とその場から、大慌てで去って行く人々。さっきまでごった返していたテレビの前の人混みは、これで大分密度が下がった。

 人が減ったおかげで、紺達はさっきまで見れなかったTV画面を、ようやく鑑賞することが出来た。


「何であいつ・・・・・・ここまで来るかな? もしかして前に食べた私達が美味しすぎて、またいただきに追って来たとか!?」

「・・・・・・そんなわけないだろ。それよりどうするんだ? 僕たちは関係ないだろうけど、戦う?」

「ううん・・・・・・そうね。まあ見捨てるのも後味が悪いし、やってやるかしら。ああでも、それなら刀を返し貰わないと。またあっちに戻るしかないわね。向こうが承諾してくれるか知らんけど」


 そう言って、宿探しを止めて、再び彼らはさっき立ち去った王宮への方向に戻っていった。それから間もなくして、テレビの報道者から次の速報が入った。


『突然モンスターが進路を変えました! 先程まで直進ばかりだったのに何故!? この方角は・・・・・・大変です! このままだと、あれは王宮にまで行ってしまいます!』


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