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第十二話 一日に三回死ぬ姉弟

 暗殺者は事件の後で、大慌てでこの街でとっていた、個人経営の小さな宿に駆け込んだ。そしてそのまま事態が、どう動くかを待つことにする。

 何しろ、銃で一撃で仕留めるはずが、当人や第三者に目撃された状態で、あんなことになったのだからして。


(あの時の男に、俺の顔も見られただろうか? まだこの街には、監視カメラが置いてないから余裕と思ったが・・・・・・)


 宿の和室内には、畳が敷かれた部屋に似合わない、洋風のテーブルやベッドが置かれていたりと、バランス悪く和洋折衷だ。

 その中にある、客用のラジオをかけるが、まだついさっき起きた事件に関しては、報道されていない。

 しばし待ち、何故か警察が動く様子がないと、暗殺者は早々にこの宿から出ることにした。


 受付で退宿手続きを終えて、ガラス製の障子ドアの出入口を手にかけようとしたときだった。彼より先に、外からこのドアを開く者が現れた。


「あら? あんたはさっきの奴よね」

「奇遇だな。僕達も今からこの街に泊まる予定だったんだけど・・・・・・」


 それは先程首を斬られて死んだはずの、紺と黄の二人組であった。

 その身には傷も血の染みも何一つなく、五体満足で気軽な様子でそこに立っている。

 もう読者的には、驚くことでもないだろうが、当然のごとく、当の暗殺者はこれに絶句していた。


「なっ・・・・・・何故?」

「ああ・・・・・・訳が判んないって様子ね。実は私達、不死身なのよ。心臓刺されようが、脳味噌潰されようが、死んじゃうのは少しの間だけで、すぐに蘇るのよ」


 理解しがたい驚愕の能力を、実にあっさりと軽い口調で説明してくれる紺。

 そう、彼らには最初から、死への恐怖心など、存在するはずもないのである。


(ばっ、化け物か!?)


 意外と早い段階で、話しを理解した暗殺者。その場で逃げようと、宿の裏口目指して、廊下を駆けようとするが。


「ちょっと待てよ! お前にまだ話があるんだよ!」


 そう言って黄が、素早くその男の手を掴み、動きを止める。

 その拍子と走り出した勢いで、そのまま廊下で転ぶ暗殺者。その際に、掴まれた手首が少し曲がって、相当痛めたようで、彼は苦痛に顔を歪めていた。

 ちなみに受付の店員は、やばい空気を察して、そそくさと宿の奥へと逃げだしている。


「結局の所、お前はどうして、僕たちのことを殺そうとしたんだ? やっぱりあの署長を殴ったことでか?」


 痛がる暗殺者を、特に気遣うこともなく、冷たい口調で問う黄。紺と違って、彼は多少なり、彼に対して敵意の感情があるようである。


「署長? そんなの知らん! 何か太政大臣の使いが出てきて、えらい金を出して、あんたらを始末するように頼まれたんだ!」


 特に依頼主に義理立てする気はないようで、あっさりと内情を話す暗殺者。だが黄の方は、今ひとつ今の回答に釈然としないようだ。


「太政大臣? ああ・・・・・・確か王様の次に偉い人のことだっけ? なんでその人が僕らを?」

「しっ、知らねえよ! 俺だって、そいつのこと、ついさっきテレビで初めて顔を知ったぐらいだし・・・・・・」


 紺が撃たれるより、ほんの一時間ほど前に、あの新王宮での事件が、国中に報道されたばかりだ。

 最も、紺達は勿論、そんな事件のことは、まだ何も知らないが。


「ふうん・・・・・・大臣ね。向こうから訪ねたんだから、こっちも訪ねてみましょうかね?」


 この話しに紺は、恐れも怒りもせず、何やら面白そうにそう口にするのであった。






 ちなみに余談であるが、二人が斬られて、大量の血を流した、団地の敷地内には、この後間もなく奇怪な魔境とかしていた。


 敷地内のごく一部の区域が、最初は妙に雑草の伸びが早いと思った。だが何故かいつのまにか、霊薬の原料に使われる、強い魔力を宿した霊草が、幾つも生えてきたのである。


 その団地はいつか、多くの薬品関係者が住まい、身近なところで採取や研究を行う、特殊団地と化すのであった。







 さてそれから数時間ほどした、その夜のこと。生憎空は曇りで、美しい月も星も見えない、真っ暗な光景になった世界。


 あの騒ぎの後、新王宮の中は、すぐに警察と近衛隊の手が入り片付けられ、今はもう先日までの静かな様子を取り戻していた。

 不必要なライトアップなどなく、敷地内の広大な林には、街中のカラスが大量に、枝に止まって今日の疲れを癒やしながら眠っている。


 その王宮内のとある一室。国王自ら住まう私室にて、件の話題の国王が、気の抜けた様子で座り込んでいる。

 道中で彼女が泊まった、あの巨大空艇内の部屋を、更に大型化したような私室。

 その中の、小型映画館並みの大型テレビの画面を、しばし見ていたが、番組がニュースに切り替わり、そこに自分が映し出されると、彼女はすぐそれを切る。

 そして晴子は、先程使いから渡された、今後のスケジュールが書かれた本を、その場で見てくる。


(明日から各領主のご対面の全国派遣と、旧ゲード貧困地への慰問。それが終わったら、王宮での園遊会で・・・・・・何か祭事ごとばかりね。まあ・・・・・・その方が、私にとってもいいんだけど・・・・・・)


 そんなことを考えながら、もう早いけど眠ってしまおうかと思っているときだった。

 突如部屋内にある王宮内連絡用の小型テレビ電話が起動したのである。


 電話と言っても、使用者が受話器を持ち出す必要はない。

 ガラス板のように薄いTV画面に、向こう側の通信車の顔が映し出され、そこから晴子に呼びかけてきた。


『おい、晴子。何か変なお客が来たけど、どうするよ?』


 いきなり国王を呼び捨てにして通信してきた人物は、守衛か使用人として働くには、あまりに幼い、赤髪の少年であった。年齢は十一か十二の幼さだ。

 だが彼が着ている国章付きの羽織を纏った、黒い着物と軽衫姿は、間違いなく守衛の制服である。


「えっと・・・・・・確か鹿太郎(かたろう)さんでしたっけ? その変なお客とは?」

『ああ、あいつな・・・・・・』


 当然のごとく、今の話しだけで、事態を把握できるはずがない。

 晴子が問うと、守衛=鹿太郎の姿が、画面上から消えて、代わりに別の場所の監視カメラ映像と思われるものが映し出される。


 それは王宮の正門前で、数人の守衛と何か揉めている様子の二人の少年少女。それは紺と黄であった。


 少し前まで、かの田舎町にいた二人が、いつのまにかもう王都(予定地)にまで訪れていたのだ。

 彼女達がいた街と、王都は相応の距離があり、とてもじゃないが徒歩で日帰りで来れる場所ではない。


 なのに、二人はどうやって、僅か数時間でこの場所まで来れたのか?

 答えは簡単、この世界の初収入で、あのリニアモーターカーに乗って来たのである。文明の発展は、旅の困難と時間を、一気になくさせるものだ。


『それだけで帰れるわけないだろ! こっちは二人とも、首を斬られたんだぞ!』

『首を斬られて、何故生きてるというんだ? お前達がアンデットだとでも?』


 かなり強気で守衛に詰め寄っている黄。それに守衛達も困り顔だ。この様子を見て、晴子はますます訳が判らなくなる。

 すると画面の光景とは別の場所にいるだろう、鹿太郎の声が、別通信で聞こえてきた。


『何でもあいつら、光二の差し向けた暗殺者に襲われたとか言ってるみたいだけどよ・・・・・・』

「光二様が? そんなこと・・・・・・」

『まあ普通なら、寝言と言って追い返す所なんだが・・・・・・あれ(・・)がここの職員内にいる可能性があるからな。すぐには否定できないのが困るところだよ』

「それは・・・・・・困りましたね。確か光二様は、ついさっき東部に出張転移したばかりでしたし」

『ああ、仕事中に電話かけるのもあれだし、少しして時間がありそうなときに・・・・・・』


 二人がテレビ電話越しに、そんな会話をしているときだった。その場で、おかしな事が起きた。

 突如脇門から、守衛以外の人物が、この場に現れる。


 それは王宮の職員の制服を着ていたが、何故か物々しいことに、腰に刀を差している。

 まあ守衛も紺達も、刀は持っているのだが、本来この制服の役職の者が持ち歩く者ではないはずである。


 その若い男性職員が、紺達の前に近づいてくると、腰の刀に手をかけて、敵意の篭もった声を上げた。


『この死に損ない共め! この国の英雄達を滅ぼす蛮族共は、さっさと死ね!』


 そしてあってはならないことが起きた。

 別に武器を抜いたり等、暴力行為をしたわけでもない二人に向けて、殺意を持ってその男は刀を引き抜いたのだ。


 その後降り注ぐ、二度の鮮血。

 数時間前に国王暗殺未遂事件が起きた矢先、間もなくしてここで殺人事件が起きてしまった瞬間であった。



 まあ・・・・・・当人と読者側からすれば、だから何だという話しであるが。

 いい加減この展開に、飽きてきたという方には、本当に申し訳無い。


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