第十一話 第二の暗殺事件
さてそれから一時間ほどして、紺達二人は、あの邪悪魔道士から給与を受け取って、町に戻ってきていた。
その時に街の道を行く人々が、先程街の街頭テレビに映った光景を見て、色々と話している最中である。
ちなみに街に2カ所ある街頭テレビ(この国では、まだ一般人がテレビを購入できる状態ではない)の映像は、先程の緊急事態のためか、番組停止中で画面は真っ黒である。
「なんだか街がざわついてるわね? また鳥が暴れ出したのかしら?」
「さあ? そんな危機的状況じゃなさそうだが・・・・・・」
二人が困惑しながらも、とりあえずお金は手に入ったので、今日の宿を探そうと、街の商店街の中を歩いている時だった。
今度は王宮ではなく、この街で緊急事態が発生してしまった。
ドオオン!
「「!?」」
突如放たれたのは、とてつもなく大きな銃声であった。少なくとも拳銃弾ではあり得ないレベルの音量だ。
そしてその銃撃の直後に、紺が倒れた。
「ななっ、何だ!? 今のは銃声か!?」
「おいっ!? なんか人が倒れたぞ! まさか撃たれたのか!?」
「くそっ! また解放軍の仕業か!?」
今の銃声を聞いて、逃げる者もいれば、驚いてその場で慌てふためく者、倒れた紺に駆け込んでくる者。皆反応はそれぞれだ。
倒れた紺の背中の服には、弾痕による煙が吹き、服に穴が開いているのが見えた。
「おい紺、どうした? また死んだか?」
だが紺の隣にいた黄は、姉が倒れたというのに、あまり動じない。一応最初の銃声に、驚いているような仕草はあったが。
「ええ大丈夫よ。ああ・・・・・・くそ! 急に何よ!? 痛いじゃない! 骨が少し折れたかしら?」
その撃たれた紺も、あまり動じてない。というか死んでいなかった。煙が吹く背中を、いかにも痛そうに手を当てながら、そのまま何事もなく起き上がる。
この様子を見て、駆け込んできた町民達は、当然困惑した。
「なっ、何だ!? 撃たれたわけじゃないのか?」
「いや、撃たれたわよ・・・・・・今のは狙撃銃ね」
安堵した町民の言葉を否定して、紺は背中の服の穴から、潰れた金属の塊を取り出した。
恐らくは今当たった銃弾だろうが、それはまるで鉄塊にでも当たったかのように、先端から見事に潰れている。
当の紺の背中には、服に焦げた穴が開いているが、肉に穴はない。ただし皮が剥け、いくらかの出血と共に、大きな痣が出来てしまっているようだ。
どうやら狙撃銃の一発程度では、紺に致命傷に至るほどの傷を与えることは、不可能のようだ。
「結界装置を持っていたのか? まあ・・・・・・何はともあれ良かった・・・・・・」
「良かったじゃないでしょ! すぐに警察を呼ばないと!」
「そっ、そうだ! 銃を持った奴が、近くにいるぞ! 皆とにかくここから逃げろ!」
最初は混乱して、その場に留まっていた者達も、事態の危険に、今になってようやく散会して逃げていく。通常ならば、発砲事件が起きたなら、当たり前の民衆の行動だ。
だが紺は逃げる様子はない。恐れなど何も感じず、紺は今の弾丸が、どこから飛んできたのか、周囲を見渡して思案する。
そして彼女は、ここから見える、一カ所の建物の屋上を見据えた。
(効いてない? くそっ、結界装置を装備中だったか! 楽に行ける仕事だと思ったのに・・・・・・)
今撃った狙撃手は、とある団地の窓の傍にいた。
撃った後で即座に、窓から離れ、銃を隠した、見た目は普通の町民のように見える、着物姿の男性。ただし腰には刀を差しており、浪人のようにも見える。
だが銃を隠した後で、改めて四階の窓から双眼鏡で覗いてみると、先程確かに命中したはずの少女が、何事もなく起き上がっているのを見て、実に悔しがっている。
そしてその少女、双眼鏡を向けるこちら側に顔を向けて、目が合ったかのような状態になったとき、彼は焦る。
(こっちを見た? いや・・・・・・気のせいだよな。不味いな、今の銃声で誰か来る前に、早くここから・・・・・・)
男はすごすごと、荷物を纏めて、階段を降りて、団地から出て行く。まだ未完成で住民がいない団地の建物には、当然エレベーターなどついていない。
そして男が、団地から外の未整備の庭に出てきたとき、そこには会うべきでない相手がいた。
「変な臭いがするわね。これは火薬の臭いかしら? それじゃあ・・・・・・」
「そんなのいちいち確認する必要ないだろ? こいつがさっき紺を撃った犯人だよ」
それは紺と黄である。男が発砲した数百メートルの距離から、男が駈け降りている間に、この場に到着して待ち伏せしていたようだ。
ちなみにこちらからは確認できないが、紺の背中についた痣は、既に完治している。しかも何故か、穴が開いた服まで、新品同然に元通りだ。
被害者である紺は、当然不愉快な様子で、男を睨み付けていた。
「ななっ・・・・・・何の話しだ!?」
分かりやすいぐらいに動揺する男。そんな挙動不審な男に、紺は呆れながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「そのバッグには何が入ってるのかしら、その中に銃がなかったら、信じてやっても・・・・・・」
「君たち、ここで何をしているんだね? ここはまだ立ち入り禁止だぞ」
突然その場に割り込んできた第三者の声。それは団地に沿った道から、声をかける商人風の初老男性。
立ち入り禁止とか言っておきながら、団地の敷地に入り込んでくる辺り、ここの建築関係者であろうか?
だがその人物を見たときに、暗殺者の男は、即座に動いた。
「うわっ!? ひいっ!?」
突然男の元に走ったと思ったら、彼を羽交い締めにして、腰の彼方を抜き放ち、光る刀身を男の首筋に近づける暗殺者。
とても素早く、かなり手慣れた動作だ。臆病者に見えて、結構なやり手なのかも知れない。
「動くな! 少しでも変な動きをしたら、こいつの首を掻き切るぞ!」
急に人質を取り、形勢逆転を誇るような口調で、紺達に叫ぶ暗殺者。刃を間近に近づけられた男は、恐怖ですっかり顔が真っ青だ。
「今お前達が持ってる、刀を遠くに放れ! 他に武器があるようなら、それもだ!」
一方の紺は、今まで通り緊張感などなく、実に淡泊な反応をしてくれる。
「ちょっと~~~どうすんのよこれ? 何か見ず知らずの赤の他人を、人質にされて何か言われてるけど?」
「う~~ん・・・・・・俺もちょっと困ったな。これって別に見捨てても、いい気もするけど・・・・・・」
直球な発言に、当の見ず知らずの人質はすっかり涙目だ。かくいう暗殺者の方も、一転して再び焦り出す。
彼が次にどう言おうか悩んでいる間に、紺が先に言葉をかける。
「動くなって言われてるけど、後はどうすればいいわけ? このまま帰って良いの? 私達、あんまり足止めとかされたくないんだけど・・・・・・」
「はっ、はあ? ・・・・・・とにかく武器を捨てろ! 話しはこれからだ!」
「は~~~い」
呆れた様子で、本当に言われたとおりに、二人は持っている刀を、その場で放りだした。
「捨てたけど、後はどうすればいいわけ?」
あまりに呆気なく要求を呑む二人。怪訝に思いながらも男は、この問いに、少しやけくそ気味に答える。
「そっ・・・・・・そうだな。じゃあそのままそこで止まって、大人しく殺されてくれるかな?」
こんな要求をすんなり聞く者がいるわけがない。
今の発言を後悔し、この男を人質に連れ出して、この場から逃げ出すことに、方針を変えようと思ったときだった。紺が、あまりに意外な回答を出した。
「何だそんなこと? 何だ・・・・・・貰ったばかりの給料取られたら、どうしようかと思ったわ」
「おう、それならいいぞ! あまり時間かけたくないから、さっさとやってくれ」
「「はあっ!?」」
最後は犯人と人質が、同時に放った声である。あの狼の生贄の件同様に、二人は自分が殺される事態に、全く何の迷いもないのである。
・・・・・・まあここまで拝読した方々なら、その理由など、いちいち説明せずとも判るだろうが。
だがこれまでの経緯を知らない、犯人達からすれば、正気を疑う発言に違いなかった。
「なっ、何を企んでいるお前ら?」
「別に企んでなんかいないわよ。やりたいんなら、さっさとやっちゃってよ」
そう言って、両手を広げながら、どんどん暗殺者に近づいてくる二人。暗殺者は相手の動機を読めず、困惑している中、とうとうすぐ目の前まで迫ってきた。
「くそっ、だったらやってやる!」
人質は無意味と思ったようで、彼は男を放りだし、強く握る刀で、間合いにまで詰まってきた紺に、渾身の力を込めて刃を振るう。
ザシュ!
「ひぃいいいいっ!」
投げ出された男は、慌てて振り向いた先を見て、更なる悲鳴を上げる。
暗殺者の放った、振動刀の刃が、紺の首を斬り落としたのだ。銃弾では死なない身体も、振動刀の強烈な斬撃なら死ねるようだった。
その場でボールのように転がる紺の頭。更に暗殺者は、興奮したまま、隣にいる黄の首を斬り落とす。
その首が、ちょうど人質だった男の前に転がり、彼は更なる悲鳴を上げることになる。
(やっ・・・・・・やったのか? とにかく逃げねば!)
色々と疑問が残る事態だが、このままここにいれば、また誰かが来るかも知れない。
彼は余計な事を考えずに、武器を入れたバッグを抱えて、大急ぎでその場から逃げ去っていった。
ちなみにそれから一時間ほどの後、この街の病院にて。
「ぎゃぁあああっ! 死体が起き上がったぞ! いつのまにか首が繋がって・・・・・・何でだ!?」
とまあ、こんな医師の悲鳴が聞こえたとか、いなかったとか。




