09 静かなる雷鳴──女神の降臨
土曜日の午後。俺たちは青空が広がる代々木公園にいた。
「今回はテストだし、パパたちのチームが作ったガジェットなんだから、成果を見る権利はあるっしょ」
とか言うカグヤに、陣内さんはジト目を向けていた。
「カグヤ、遊びじゃない」
「こよみちゃん、大丈夫だよ。カグヤちゃんはちゃんと真剣に向き合う子だから」
と、擁護するのはカグヤ推しになってしまった鳴神さん。
「妹ちゃんのテストへの参加は、親御さんからの要請でもありますからねえ」
「すいません先生。たぶん父がカグヤに自慢したかっただけだと思います」
本日のメンバーは、俺、鳴神さん、陣内さん、引率の教師。
そしてちゃっかりカグヤだ。
「理解した」
陣内さんは世の父親のムーブを想像したようで、それ以上の追及をやめたようだ。
おそらく陣内さんのお父さんも、似たようなことを陣内さんにしてきたのだろう。
彼女の諦めの表情が、すべてを物語っている!
今回の目的は、俺の両親が所属する研究チームが製作した、試作型ヒーロー用ガジェット『アクティブ・ノイズキャンセリング・サイレンサー』の性能テストだ。
この機材は学園宛てに送られてきたもので、以前テストした、壁にピタッとくっ付く手袋や靴といったクライミングガジェットと同時に送っていたらしい。
今回は実戦の爆音を想定した大規模なテストだ。
そのため、学園の訓練場では狭い。学園は公式サイトやSNSで事前に場所と日時を告知して、テストを公開することに決めたようだ。
周囲にはかなりの見学者が集まっていた。安全のため、教師の指導と管理のもとで実験が執り行われる。
今回の俺は、物資運搬・機材テスト要請という正規の依頼で動いている。なので最初からムキムキ女子モードに変身していた。
つまり先生含め、輝く女の子ヒーローチームである!
「機材を配置しよう」
このサイレンサーは設置タイプのため、それなりに大きくて、そこそこ重い。それが全部で4個。説明書によれば、20ヘクタールの広範囲でも問題なく動作するかを確認するテストらしい。
「20ヘクタールって、どれくらい広いんだ?」
イマイチ広さの感覚が掴めない俺に、陣内さんが教えてくれた。
「東京ドーム。4個分」
「おお、でっかいな」
「手分けしたほうが早いね」
俺が1人で全部やるつもりだったが、鳴神さんに手分けしたほうが早いと言われ、俺、鳴神さん、陣内さん、先生の4人でそれぞれの設置ポイントへ向かうことになった。
ちなみにカグヤの能力は、今だと斜め下の方向にしか発動しないため、機材の運搬には向いていなかった。
「能力使わなくても、ウチだってこれくらい運べるけどー?」
不満げに機材を持ち上げようとするカグヤを、俺は制止する。
「絵面がヒドイから却下だ。小学生の女の子が無理してるように見える」
「ちぇーっ、アニキはおーぼーだー」
「小柴くんの言う通りだよ、カグヤちゃん」
「カグヤ、兄の言葉は真実。現実を見るべき」
俺の言う通りだと、2人が笑う。
「では、妹ちゃんには指揮所の守りを任せますね」
先生にそう優しく諭され、カグヤは「はーい」と渋々お留守番を受け入れた。
時計の針が14:30を指す。
実験開始の時刻となった。
4基のサイレンサーに囲まれた中央付近。地面の芝生を荒らさないよう、頑丈な保護マットが敷き詰められている。
まずは普通の状態、つまりサイレンサーを全く使用しない状態でのテストだ。
「行きます!」
大勢の観客が見守る緊張感の中、鳴神さんが空に向かって二丁拳銃の引き金を引いた。乾いた発砲音が木霊する。続いて放たれた鳴神さんの激しい雷撃が、弾丸に沿ってバチバチと空間を焼きながら、激しく空を駆け登った。
凄まじい爆音が周囲に轟く。
「なんと神々しいのだろうか。まさに神の雷! もはや女神の降臨といっても過言ではないっ!」
俺たちの目の前で繰り広げられたあまりの美しさに、ギャラリーたちも大興奮で歓声を上げている。
しかし、俺の肩をカグヤがツンツンと小突いてきた。
「アニキ、ちょっと声が大きい。バレる」
こっそりと忠告を受ける……しまっていこう。
俺はさりげなく陣内さんの方を盗み見た。セーフ! 陣内さんも無表情ながら、鳴神さんによる神の雷をどこか楽しげに見上げていた。
素晴らしきかなヒーローよ。
「続けて、サイレンサーをONにした状態でテストを行います!」
先生のアナウンスが公園内に響き渡る。
陣内さんが手元の端末を操作し、設置された『アクティブ・ノイズキャンセリング・サイレンサー』を一斉に起動させた。
独特の耳がツンとするような、無音の圧力が満ちる。
「第二射、行きます!!」
鳴神さんが銃を撃つが、音は打ち消された。
そして激しい雷撃も「パツ」という、おもちゃのピストルのような音になっている。
観客からも「おお」といった驚きの声が上がり、拍手が巻き起こる。
その後、何度かサイレンサーのONとOFFを切り替えながら実験を重ね、先生が終了のアナウンスを出した。
「凄い……これなら、住宅街の近くでもみんなを驚かせなくて済むね!」
鳴神さんが嬉しそうに駆け寄ってきて、俺の両親の技術を何度も凄いと褒めてくれる。
「父さんたちが言うには、市販のノイキャンスピーカーをちょっとデカくしただけだってさ。な、カグヤ」
「ねっ」
「そんなわけないよ? 小柴くん」
鳴神さんの言葉に、みんな頷いた。
謎。
そう思ったとき──
現場に違和感が生まれた。
「む?」
「? なに……周囲の温度、大気成分、共に変化中」
「気が乱れた」
「え? き? 小柴くんなに? 木? 公園樹のこと?」
鳴神さんが困惑する。
一方で、陣内さんも自身の能力で周囲の変化を捉えたらしく、顔色を変えた。
「先生、なにかおかしい」
俺と陣内さんは感知系能力者には及ばないが、現場の最前線にいたからこそ、誰よりも早く異変に気付けた。
「陣内さん、異常事態ですね? 妹ちゃんは私の側に」
先生がカグヤを庇おうとする。
「ウチだって現場の経験者だよ、せんせっ!」
「それじゃあ陣内さんの側で守ってあげて。ふふ、妹ちゃ……カグヤちゃんはわんぱくね」
先生はマイクのスイッチを入れ、見学者たちに冷静な避難を呼びかけ始めた。緊迫した状況だが、とても落ち着いた優しい声色だった。
さすがだな!
そして流れる緊急放送。
『渋谷区に次元の裂け目の兆候あり。ただちに非難を開始してください。繰り返します──』




