↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/33

08 ヤモリ驚異のメカニズムと、清楚美人がガニ股で壁に張り付く可能性について

 放課後、俺は学園の訓練施設に足を踏み入る。

 この施設は昼間こそ授業で目一杯使われているが、放課後は曜日ごとにクラス単位で開放されている。今日は俺たちのクラスということだ。


 わざわざこんな大がかりな訓練場にやってきたのには、ちゃんとした理由がある。

 海外でヒーロー仕様のガジェットの開発や研究をしている父と母から、新しいガジェットが送られてきたのだ。


 ヒーロー仕様のものは、とにかく出力が違う。そこらの一般住宅や空き地で安易にテストをしようものなら、壁を突き破るなどして器物損壊の罪に問われかねない。

 その点、ここなら頑丈な防壁がすべてを吸収してくれるのであるッ。


「見た目は普通にカッコイイ手袋と靴だな」


──バイオミミクリーを活用したガジェットで、ヤモリのように壁に張り付く手袋だ。

 手袋と靴の表面に、目に見えない数百万本の極細カーボンナノチューブが植え付けられている。これは物質の表面でファンデルワールス力が働き、どんな垂直な壁でもピタリと吸い付くことが可能になる──


 という、ちょっとよく分からない説明文付きで送られてきた。

 接着剤の付いてないシールのようなものらしい。


「バイオミクリリーにフォンデルワーデル力ね。ま、なにはともあれ試してみようか。ガーァァルズフーォォムッ!」


 俺は偽装用ムキムキモードに変身する。

 なお、掛け声も偽装のためのものである!

 気分がいいからではないのだよ? 決して。


 手袋と靴を装着し、俺は訓練場の高強度のコンクリート壁に向かった。


「とぅっ」


 俺は力いっぱいジャンプ。壁に手のひらを付けた。


「おおっ、すげえ、本当に吸い付くみたいに固定されたぞ」


 これならライブ配信できなかったヒーローたちにも、迫れるかもしれないな!

 もっとも高層ビルのような背の高い建造物は必要になるが。状況次第とはいえ、不可能だったことを可能にしてくれるガジェットに、俺は興奮していた。


「うーん、足はどうやったらくっ付くんだ?」


 足の裏側ではないようだ。

 そして手が離れない。


「うーん……」


 さらなる高みを目指して気付いた。う、動けない。壁から手を引き剥がそうと力を込めるが、ガジェットはびくともしない。ヤモリの驚異のメカニズムは伊達ではなかった。


「ぬおおオオオオオッ!」


 必死にもがいていると、訓練場の重い扉がガコーンと音を立てて開いた。


「おーい、アニキー! 説明書忘れてってる!」


 やってきたのは、元気いっぱいに手を振る妹のカグヤ。そしてその後ろから、ちょこちょこと付いて来たクラスメイトの姿があった。

 戦術系能力者の、陣内こよみさんだ。


「カグヤの……兄…………兄!?」


 どうして陣内さんがここにいるのかと一瞬疑問に思ったが、カグヤの楽しげな様子を見てすぐに納得した。カグヤは周囲の庇護欲を激しく刺激する、いわゆる魔性の小動物系だ。


 そんなカグヤに釣られる形でここまで着いて来たのだろう。俺とカグヤの関係を知らないのは、写真を見せたあの日、陣内さんはいなかったため。風邪でしばらくお休みされていたからな。


 ヒーローとはいえ、健康には気を付けなければなりませんぞ、お嬢様!


 陣内さんの固有能力は、戦況図解タクティクス・マッパーという極めて優秀な戦術系能力だ。様々な情報が彼女に集まり、それを分析、指揮するタイプのヒーローである!


 RTSみたいに戦場を俯瞰できるそうだぞ。

 本当に凄いッ。


 まあ……それゆえに俺が彼女の側をウロチョロしてしまえば、陣内さんの邪魔になってしまうため、ライブ配信はできないのが残念なところなんだよな。俺の情報も収集され続ければ銀髪=俺という事実に辿り着く可能性もあるし。


 そう考えると、俺のクラスメイトで対エネミーの現場に出るヒーローは、ライブ配信に向かないヒーローばかり。鳴神さんの魅力しか世界に紹介できていないのだ……。

 俺の能力が低いばかりに……くっ、無念ッッ。


 例えば、加速系能力者の速水リンさん。

 彼女の瞬駆動(ハイパーギア)は移動速度が速すぎて、視聴者はもちろん、ヒーロー撮影用の高性能ドローンすら置き去りにしてしまう。


 画面に映るは残像のみ!

 俺も彼女の姿は捉えられても、着いて行くことは不可能だ。

 ゆえに俺では役に立てないっ!


 そして飛行系能力者の風波つばささん。

 彼女の空潜行(エアダイバー)は空に潜っている間、ステルス性を発揮するコッソリ系の能力だ。


 しかも常に上空を飛んでいるため、望遠やドローンで撮影する公式配信のほうが、彼女を世界にちゃんとお届けできる。

 近くでお届けできない俺に、存在価値などない……。


 だが!

 この新型ガジェットならば!!

 だがしかしぃっ?


 そんな考察を脳内で展開している間にも、俺の両手は壁に張り付いたまま。


「外れぬっ!」


「角度を変えたらくっ付いたり離れたりするってさ!」


 下からカグヤがスマホで説明書を見ながら、気楽な声でアドバイスを投げかけてきた。


「角度ってどっちだよ。上がらないし引けないぞ? むんっむんっ!」


「違うってーの、アニキ」


 壁の上で無様に手足をジタバタさせている俺を見て、カグヤが仕方ねーな―と笑う。


「おっけー、じゃあウチがちょっと手伝ってあげるわ」


 カグヤが俺の側までやって来た。


「飛ぶ能力、貴重」


「ンー、ウチのは飛ぶっていうわけじゃないんだー」


 その様子をじっと見つめていた陣内さんが、ぽつりと呟いた。


「教えてくれてもいい」


 感情の薄い彼女の表情は、どこかウキウキしているようにも見えた。

 だよね!

 ヒーローの能力というのは、心が躍る!


「ウチのはねー」


 カグヤの能力は月の都の御出迎えルナ・エレヴェイション


「月の方向に対象を移動させんだよ☆」


 宙に漂いながら、ヒーローたちを虜にするであろうウィンク敬礼を決めた。写真だけでアレだけ騒ぎになったんだ。目の前で見た陣内さんが受ける衝撃は計り知れない。

 と、思われる。


 その瞬間、陣内さんの能力が瞬時に計算を完了したのだろう。

 抑揚のない淡々した声色で、事実を告げる。


「今14時ころ。南南東の空、高い位置、上弦の月。対象はほぼ真上方向に移動する」


「陣内さん、すっご。そゆのも分かんだ? 戦術系はコレだから憧れちゃんだよね!」


 カグヤが目を輝かせて褒めちぎると、陣内さんは少しだけ頬を赤く染め、トコトコとカグヤに歩み寄った。


「……頭、なでてもいい」


 そう言って、自分の頭を小さく差し出す陣内さん。


「お、おぉ……その発想。ウチにはなかったなー。カワイイ」


 嬉しそうに陣内さんの髪を優しくなで回し始めるカグヤ。……我が妹殿がまたひとつずる賢くなってしまった! いかんぞ陣内さんっ。そいつは見た目通りのピュアな中学生じゃない、手強いギャルだ!


 しかし、陣内さんもカグヤと同じ、どこか周囲の庇護欲をそそる小動物系のタイプだったか。類は友を呼ぶとはこのことかもしれない。


「? その出力強度、しょ、小学生じゃない……?」


「ウチ、中2だよ?」


 陣内さんが固まった。

 戦術系能力者のヒーローまでたばかる(・・・・)とは、さすがのカグヤトラップだ。


「ところで外れぬっ」


 陣内さんのところにカグヤが行ってしまったので、俺はいまだ虫のように藻掻くだけの矮小な存在。

 陣内さんが呆れたような視線を俺に向けてくる。


「カグヤの兄、地に足を付けて実験すべき」


「いやいや、高みは目指さねば!」


「アニキは脳筋だかんね! こうだよ、こう。エビ反りにする感じね」


 カグヤに言われた通りにすると、あれほど頑固だったカーボンナノチューブの結合が嘘のように、するりと壁から離れた。


「おおっ! なるほどな」


 ようやく自由になった俺は、深く息を吐き出した。上手く使いこなせばこれ以上ない武器になる。この新しいガジェットの可能性に、俺は密かに胸を躍らせた。

 なお──靴のほうは足の内側がくっ付く面だった。


 清楚タイプではやらないほうがいいか?

 ガニまたで壁に張り付く清楚美人。

 一旦特殊な(へき)か……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。