10 簡単発勁 ※ただし脳筋に限る
正確な場所を特定できたのは、俺と陣内さんだけだった。「来る!」と陣内さんが振り返りながら叫ぶ。
兆候が表れてから、出てくるまでが早い!
即座に身体が動く。エネミーが出現したのは、なんとカグヤたちがいる指揮所の真後ろ。
俺は最短最速で突撃する。
「ぬんっ」
踏み込むと同時に、掌を打ち込みながら振動させ──気を流し込む。ヒーローのフィジカルを存分に生かした発勁を、俺はエネミーの胸部へと叩き込んだ。
これこそが俺の研究した、エネミーに対する唯一の対抗手段。
空間が一瞬ぐにゃりと歪み、出現したばかりのエネミーは消し飛んだ。
俺がほんの少しだけ、ヒーローに近付ける『技』なのだ。他のヒーローたちでも理屈を知れば誰でも使えるんだよな、実は。
超振動による波紋と、氣功だけなのだから。
ヒーローであれば「ふんっ」くらいの気合でイケるのさ。
それほどまでに、ヒーローのフィジカルは凄いということである。
「あ……」
「どうした? 陣内さん」
陣内さんは一瞬だけ深く考えるそぶりを見せたが、まだ周囲にエネミーの残党がいる。「なんでもない」と俺に返し、即座に戦闘の指揮を開始した。
「先生、9時方向に1。20秒後に敵増援5。ひな、3時方向に3、増援なし。中型エネミー、戦闘力LV4」
LV4か……。
本来ならプロに任せるレベルのエネミーだ。
しかし──
「ひなならイケる」
──俺の攻撃が通る程度の耐久力。
陣内さんも、鳴神さんの攻撃力に太鼓判を押す。
陣内さんの分析結果だから間違いのない事実。
「鳴神さんなら問題ないさっ!」
「行きますよ、鳴神さん」
「はいっ!!」
「兄、カグヤ。一般人の避難誘導」
「了解!」「らじゃっ!」
陣内さんの指示に従い、俺とカグヤはその間に周囲の観客たちを安全な場所へと誘導。次々と現れてくるエネミーも、陣内さんの指揮のもと鳴神さんと先生の見事な活躍で、あっという間に始末された。
実に残念である!!!!!!!!!!!!!!!
この素晴らしき活躍を、俺はライブ配信することができなかったっっっっっっっっ。
っくぬぅぅぅぅぅ無念。
「ふー」
仕方ないことか……。そう俺がしょげていると、隣にいたカグヤが「まあまあアニキ。機会なんて巡ってくるもんだよ」と慰めてきた。
「はは、確かにそうだな」
「それよかさ、実戦で使ってもしっかり機能したから良かったじゃん。サイレンサーくんが」
突発的な戦闘が終了し、俺たちは機材を撤収して学園への帰路についていた。
「ああ。父さんたちも喜ぶさ。もう報告したんだろ?」
「まーねー。想定外の事態だったけど、ウチの活躍を見てパパもママも踊るね、絶対」
コッソリとサポートしてたようだ。斜め下方向に働く時間帯だったから、エネミーの行動を阻害するのに役だったはず。
ひよっことはいえ、さすがヒーロー。
「なんならホームパーティーの準備を始めてるんじゃないか?」
「軽い……この兄妹」
「ね。凄いガジェットなのに」
「そっかな?」
「どうなんだろうな?」
「ええ? 小柴くん、カグヤちゃん、絶対凄いってば」
鳴神さんは納得がいかないみたいだ。
陣内さんにいたっては「この認識のずれ、コレが……アレを。つまり……」とかよく分からないことをブツブツ呟いていた。
さすがです、お嬢様ッ!
普段から発想力や思考力を鍛えているのですな!!
輝きとは! 磨き続けるということですなッ!!!
「戦闘力がないとね? 戦闘音って、すごく怖いの。それをなくしてくれるガジェットなんだから。私、本当に嬉しいんだから」
おお……なんて優しい心の持ち主なんだろうか。
俺は……俺は……この素晴らしきヒーローたちの軌跡を、未来に紡ぎたい!!
「くぅぅぅっ、爺は感動に打ち震えておりますぞぉっ!」
「アニキィ?」
「や、やめて!? 小柴くんっ」
カグヤが俺の脇腹を小突き、鳴神さんは恥ずかしそうにビシビシと俺の腕を叩いた。
つ、つい口癖が。
「おっと、すまない。爺やムーブは聞かなかったことにしてくれ」
平静を装って誤魔化す。
「もー、これは帰ったらウチら全員で作戦会議が必要だね! っていうか、陣内さんにも完全にバレたっぽいしー」
「バ、バカな!? そんなはずは……」
俺が慌てて陣内さんを見ると、彼女はジト目でこっちを見ていた。
女性陣の視線が痛い。
「兄、愚か」
「こ、言葉が鋭いぞ……陣内さん」
「こよみちゃんは今ので分かっちゃったのかあ」
そ、そうだよな?
鳴神さんも驚いてるから、そこまで簡単にバレるとは……。
やはり戦術系能力、か?
「発勁したアニキを二度見したあと、目で追って考え込んだからね! さすがにバレたことに気付くよ」
だって隣にいたしー、とカグヤはのんきに言った。
「しまった! そうか……確かに発勁なんて技術、俺しか使わない」
そもそも他のヒーローたちには無用なもの。
固有能力があるからな。
みんなには。
「アニキは自覚しなよ?」
「そう……だね。無茶苦茶だもん、アレ」
「うん。アレはオカシイ」
「ははは、みんな知らないだけだ。しかし困ったな。発勁は唯一の戦闘手段なんだが……うーん」
「コレが……聞かぬ…………ブツブツ」
「幸いだったのは公式配信が間に合わなかった点だよー」
「あ、それなら確かに小柴くんのこと、広まりづらいね」
見学に来ていたヒーロー校の生徒なら、動きは捉えるかもしれないが、そもそも高性能アクションカメラを所持してる可能性が低い。
俺のような趣味人か、生業としているか、だ。
「今回は試作機のテスト。高解像度ハイスピードカメラ、用意していないと思う」
今回のエネミー出現は急だったうえ、サクッと処理したからな。俺のムキムキモードの動画は残らないだろうと、意見は一致した。
ヒーローの動きは速いから、捉えるのは難易度が高いのだ。
「ひな、先生、カグヤ、私。被写体は兄だけじゃない」
「だな。このメンツの中でマッチョ女子だった俺を1番に推す人は、いたとしてもごく少数とみた」
つまりセーフである。
「助かった」
「だからアニキ、陣内さんにバレてるんだから助かってないの!」
「そ、そうだった」
「ねーねー、鳴神さん、陣内さん。明日にでもウチに集まれる?」
「いいの? もちろん行くよ!」
カグヤ推しの鳴神さんが即答。
「分かった」
陣内さんも考えるそぶりはなく了承。
サクッと明日の日曜に作戦会議が決定した。
カグヤ……さすがの吸引力であるっ。
しかし俺の暴走を抑えるためか。
うーん、難しいことかもしれないと、自分でも思うんだが。
ただ──発勁についてはやり方を教えたら、ライブのときに発勁を使っても問題なくなるな。
広まると使用者が増えて目立たなくなる。
おお、なかなかの妙案が浮かんだな!
これこそが勝利への鍵というヤツじゃあないだろうか。




