05 がんばる鳴神さん2
私たちが訪れたのは、次元の裂け目・発生予測データの研究所を複製した場所。
ここはヒーロー協会が学生向けに一般開放している見学施設。
本物は防衛戦の対策を練るための重要施設になっている。
小柴くんとカグヤちゃんは、閲覧可能なデータや、並べられた資料を食い入るように見つめていた。
「なるほど、この波形が感知されると、数時間後にエネミーが発生する確率が跳ね上がるのか……」
「アニキ、こっちのデータもヤバいよ。これさあ、メチャクチャ便利なガジェット作れんじゃね?」
「ああ。このデータのノイズ、例の無害な迷子が提唱したプリズム観測法の理論に基づいている気がする。裂け目が出る直前、空の一部が虹色に透き通るっていうヤツだな」
「あ、私もそれ知ってる。研修ビデオで見たことあるよ。最初はオカルトだって言われてたけど、あのアドバイスのおかげで観測技術が上がったって」
「さすがだな、鳴神さん。やはり、人類に友好的なホワイト・エネミーの存在は偉大だよなあ。種族を超えた友情が、科学の発展に寄与しているという事実に、俺は感激しているッ」
「ウチも会ってみたいなー」
「ふふ、兄妹そろって熱心だね。小柴くんたち」
私は気まずさを押し殺しながら話しかけた。2人のヒーローに対する熱意は本物だって分かる。ただのオタクなんかじゃない。本当にヒーローの力になりたいという純粋な想いを、私は感じた。
私なんて、テストの回答欄に書くことが増えるかなってくらいの気持ちで来たのに。
うぅ……秘密のこととか、ここに来た理由とか。
小っちゃいなあ、私って。
「うん! ヒーローのみんながもっと安全に戦えるようにさ、いろんな便利ガジェットのアイデアをアニキと考えて、パパとママに送ってるんだー」
カグヤちゃんは屈託のない笑顔で教えてくれた。
カワイイ笑顔が心にっ。
ほ、本当に気まずい……。
「俺は1秒でも早く現場に行きたいって想いが強いかな」
「アハハ、小柴くんらしいね」
いつも通りの答えで、なんだか少しだけ助かった気分になっちゃった。
お昼時になり、私たちは施設内の食堂でご飯を食べることにする。
そこで気になっていたことを、私は思い切って尋ねてみた。
「へえ、小柴くんのご両親って、ヒーロー用ガジェットの開発関係のお仕事をしてるんだね」
「そうなんだよ。だから鳴神さんも現場で戦っていて、こんなのあったら便利だなっていうアイデアがあったら、ぜひ共有してほしい」
「私のアイデアかあ……うーん」
少し考えてみる。
戦闘能力を強化するような派手な武器は、協会が厳格に管理しているから候補から外す。ということは、非攻撃系のサポート用になるよね。
「私は……そう、防音用のガジェットがあったら嬉しいなって思う。私の雷の能力って、どうしても発動するときに大きな音が響いちゃうから。住宅街の近くだと、周囲への迷惑や騒音被害が気になっちゃって……武器も銃だし」
私の言葉を聞いた瞬間、小柴くんの目がこれ以上ないほど輝いた。
「くぅぅぅッ! 自らの火力を誇るのではなく、周囲の住民への被害を最優先に配慮するその姿勢……! さすがは迅雷の乙女、どこまでも美しきヒーローの心でございますッ!」
「だ、だから声を落としてってば、小柴くん!」
周囲の視線が集まる前に、私は必死に声を潜めるよう頼み込む。だって……興奮すると質問しておいて回答を聞かないっていう人だって、もう分かってるから!
やっぱり、この「くぅぅ」という口癖。それにこの過剰なまでのヒーロー賛美。
小柴くんは、自分が銀髪の配信者であることを隠している……んだよね?
あれ? 隠してる、よね?
「でも、それマジでイケんじゃね? ウチのパパとママってば、めちゃくちゃフッ軽だし!」
カグヤちゃんが身を乗り出す。
「そうだな。技術的には、市販のイヤホンにある仕組みをどうにかすれば、父さんたちなら形にできそうだ」
小柴くんとカグヤちゃんは、ご両親に送るメールの文章を真剣に考えている。
だけど……私には、2人にちゃんと言わなければいけないことがある。このままだと、この優しいクラスメイトが、大変なことになってしまうから。
「あのね、小柴くん。言いにくいんだけど……その、バレると思うよ?」
「ん? なにが?」
小柴くんが不思議そうに言う。
「早く対策しないと、クラスのみんなにはバレちゃうと思う。だって小柴くん、今もそうだけど、学校でもその『くぅぅっ』って口癖、よく言ってるじゃない?」
「アッ!!」
隣でカグヤちゃんが唐突に大きな声を上げ、自分の口を手で押さえた。
「うっわ、最悪! ウチもやらかしてるじゃん。編集のときにバランスとかノイズばっかり気にしてて、アニキのリアル口癖のカットを完全に失念してたー。シレっとアーカイブとか動画を再編集して、誤魔化すしかないなコレィ!」
「おい、カグヤ、急になんの話をして──」
「アニキ、ちゃんと考えよう。鳴神さんの言う通り、口癖のせいで銀髪ちゃん=アニキって一発で繋がっちゃうんだってーのっ」
「教室でも、そのテンションで毎日ヒーローを語ってるからね?」
私が追い打ちをかけるように告げると、小柴くんは彫刻のように硬直した。
「な、鳴神さんっ! 気づいて教えてくれて、本当にありがとう!!」
ヤラカシターと、落ち込みながら、何度も何度もお礼を言われた。
「正直、鳴神さんの攻撃はエフェクトが激しいかんね。アニキの言動を誤魔化してる可能性はある。特にあの日の配信はヒーローのカワイイが詰まってた神回だしなー」
ウチたちじゃなくても、くぅぅってなってる人は多いだろう。ってカグヤちゃんは分析した。
「申し訳ない。鳴神さんの勉強を邪魔してしまった。だけど俺たちはもう帰らないと」
「だね。急いで修正しないとなあ。ホントごめんなさい」
「ううん。私のほうは全然。2人のヒーローへの思いが分かって、やる気出たから」
私はお母さんに電話して迎えを頼んだ。
それから、数日後の放課後。
教室で自分の席に座っていると、小柴くんがどこか嬉しそうな顔で近寄ってきた。
「鳴神さん、これを見てくれ」
彼がスマホの画面で見せてくれたのは、とある新しいガジェットの開発開始の言葉だった。
「こないだ鳴神さんが言っていた、音を消すガジェットだよ。
逆位相の音波をぶつけて騒音を相殺するノイズキャンセリング技術を大型化して、空間用に応用したそうなんだ。置き型の試作機で、名前は『アクティブ・ノイズキャンセリング・サイレンサー』だってさ」
近いうちに形になるって! と、小柴くんは嬉しそうに、胸の前で親指を立ててサムズアップを決めてみせた。
「すごい! 本当に作っちゃうんだ!?」
私は驚き、戸惑いながらも、同じように親指を立ててサムズアップを返す。
どうしてそんなに早く開発が進んだんだろう、って思った瞬間──
『ウチのパパたち、マジでフッ軽だしー!』
──私の頭の中で、あの元気なカグヤちゃんの声が楽しげに理由を教えてくれて、私はまた笑ってしまった。




