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06 兄であり姉であり、父であり母として

「なになに、ひな。小柴くんの小話?」


 鳴神さんがほがらかに笑ってたからか、俺がまたなにかやらかしていると推理されたようだ。


「あ、ううん。そうじゃないんだけど……なんて言えばいいんだろう?」


「さすがはヒーローだ。推理力も普段から鍛えるということか」


「えぇ? 急に小柴くんが意味わかんない」


「いつものカナタだろ? だがな、言え! イインチョとなにを話してた」


 男連中は鳴神さんを笑わせるテクニックを知りたがった。


「ああ、新作ガジェットのことだ。鳴神さんのアイデアが形になると──」


 俺は両親のことも含め、軽く説明した。


「それはすっごいけど、楽しそうに笑うとこじゃないだろ?」


「えーっと、その、たまたま日曜日に小柴くんと会ったんだけど、そのときに……」


「ああ、カグヤ?」


「うん。カグヤちゃんのことが頭によぎって笑っちゃった」


「面白い子なの? ひな」


 妹であるカグヤのことが話に出ると、他のみんなも参加してきた。俺に妹がいる、という事実が不思議に思えたそうだ。


「ううん、すっごいカワイイ。お世話したい。できるなら私の妹にしたい」


「お、おいカナタ……委員長の顔がとろけるくらいに、欲望が芽生えてるじゃんか」


「ち、違うよ!? よ、欲じゃ……あ、あれっ? 欲……だ?」


「よくあることだ」


「「「よくある!?」」」


「カグヤはよくヒーローを惹き付けるからな」


 庇護欲を掻き立てる見た目をしているため、ヒーローに結構話しかけられたりするカグヤ。

 鳴神さんもその内のひとりになったということを伝えた。


「また会いたいなあ」


「そんなになんだ」


 と──なにやら疑惑の視線を感じる。

 分からんでもない。

 マッチョ兄とカワイイ妹、という不思議な組み合わせだからな。


「イインチョを狂わせる魔性を秘めていると?」


「秘めてるかも? 一緒に撮った写真、自慢したくなる」


 ちらりと俺を見る鳴神さん。

 見たがるクラスメイトたち。


「別にいいぞ?」


 そして俺に──妹や弟が爆増し始める。


「ええい、俺はカグヤの兄であり姉であり、父であり母でもあるのだ! ゆるさん! ゆるさんぞッ! 俺を兄と呼ぶでないわ!」


「兄と姉はいいとして、父と母である必要はなねえだろ!」


「ぬうんハッ、ぬうんハッ」


「ガールズフォームを繰り返さないで……目が、目がバグっちゃうよ!!」


「くっそ! こんなギャグマンガから出てきたようなヤツの妹ちゃんが、こんなにカワイイなんて!!」


 ズルいコールが巻き起こった。


「しかもギャルだったんだよ?」


 という鳴神さんの言で──


「ぐぎぃっ」


 ──血涙を出しそうなクラスメイトがチラホラと。


 ちなみにあの日のカグヤは、ギャップ萌えをコンセプトにしていたらしく、ギャルを偽装してカワイイを割り増しした服装だったそうだ。委員長タイプの委員長である鳴神さんだとしても、カグヤトラップに引っ掛かるのだろう。


 ギャップというのは、それほどまでに攻撃力が高いのだから。


「やはりカグヤはヒーローを惹き付ける。じゃあ俺はこれで」


 俺は新しい武器を手に入れるため、大型の家電量販店に向かいヒーロー仕様にカスタマイズされた新型のジンバルを買った。

 AI搭載型で、手振れ補正もいいものだそうだ。


 そしてさらにスマホホルダー付きで、アクションカメラと同時にセットできるタイプのものを選んだ。配信のときにチャット欄も見るのでね。


「これで右手が空くから動きやす──」


『──宿区に次元の裂け目の兆候あり。ただちに非難を開始してください。繰り返します──』


 俺の新型武装の出番がさっそく訪れたか。

 俺はこっそりと変身しつつ、急ぎビルの屋上へと移動する。


 趣味でヒーロー配信をしているものですがチャンネル──配信開始。


「みなさんこんにちわ。ヒーロー配信のお時間です。警報によれば、どうやら小型のエネミーということのようです」


『きちゃ』

『毎度おなじみ、汚清楚のお時間です』


「おのれ次元の裂け目め。事前に教えろくださいですわよ! ヒーローの活躍が撮れないじゃあ、ありませぬかッ」


『わがまま』

『ワガママお嬢只今参上!』

『遅刻界隈です、か』


「おだまりくださーい? 行きます!!」


 俺は空を駆けるように現場へ向かう。

 今回のヒーローはプロの御方でござる!

 学生には任せられない、強力なエネミーということだ。


「ヒーローは草野あかねさんです!」


 スチャっと参上。


「趣味で配信をしているものですが、お邪魔してもよろしいですか?」


「お? 来たな銀髪。今日はアタイんトコか」


「はい。お願いしますね」


「キッチリ映してくれよ!」


「お任せあれ! では、ご存知のかたしか(・・)、いらっしゃらないと思いますが、あかねさんの能力を改めて紹介しましょう!」


 能力名は熱量臨界サーマル・クリティカル

 空気中の分子運動を強制的に引き上げ、指向性を持たせて任意の空間をピンポイントで気化爆弾のように爆発させる能力だ。


「難しいこというなって。頑張りゃあイケんだよ。アタイのは神輿みたいなもんだ」


「さすがですね! そして二つ名は単純明快! 破壊者(バスター)ァァァッ!! 彼女の自由な性格にマッチした、豪快なネーミングです!」


『スルーした……』

『頑張ったらどうにかなるものじゃないw』

『わっしょいわっしょいw』

『その理屈なら俺は頑張って透視ができるはず!』

『あかねさんちの分子たちが擬人化されてがんばり始めた』


「行くぜ! しっかりついて来なッ」


「当然っ!」


 さすがに速い。指向性を持たせられるということで、己のダメージにならないように調整して、爆発力で加速できるということらしい。あかねさんは空中をジャンプしながら、加速していく。


 俺は突進系の特殊な歩法を使って、無理やり付いて行くことにした。


『どういう理屈で地面を滑ってんの?』

『不思議な絵面なんだがw』

『動きはピョンピョンとスサースサーなのに音がドゴォンドゴォンってドユコト?』

『わかんないわかんない!w』


 だからヒーローのフィジカルを舐めなさんなって。しかし俺の姿も見てくれているんだな。俺のライブ配信はあかねさんを映しているから、俺のほうは公式で見ているようだ。


 まあ普通か……2枠3枠同時視聴は。


「敵は小型。にもかかわらず──プロヒーロー、しかも破壊者(バスター)がアサインされています。これはつまり厄介なエネミーであると推測できますね」


 俺の感覚が捉えているエネミーの場所は、もや(・・)がかかったようにボンヤリと見える。


「ありゃあ確かにアタイ向きだ」


「極小タイプ。しかも群れているようで範囲も広い」


「上空に向ける!」


「はい!」


 あかねさんは分かっている(・・・・・・)

 その言葉は、上手に映せということ。

 プロであるがゆえに、収入にも関係してくるからな。


 俺はエネミーの下方に向かって移動。画角にあかねさんとエネミーを収めた。

 空に向かって攻撃力を発しているのに、熱を感じるのはそれほどに高温ということだ。


「今──ここに!! 退魔の(ほむら)が発動する!!」


 だがヒーロー用のボディスーツが俺を守ってくれる。防刃防弾耐熱服で伸縮性もある高性能なスーツだからな。

 機材のほうもバッチリと耐熱機能が仕事をしている!


「防げぬ! 躱せぬ! 空間そのものが気化爆弾へと変貌する!! これが、悪を滅する破壊者(バスター)の圧倒的な火力ッ!! エネミーの最後の抵抗か──火花のように弾けるその様はッ! まるでヒーローを賛美しているかのようっっ!! ご覧あれ! 夕陽に照らされ輝きを放つヒーローの御姿を!!」


 俺はあかねさんに近づく。


「さすがでした。美しくも豪快で、太陽のごとし!! しかし勝利を得たときの笑顔は可憐そのもの! なんてふつくしきヒーローぅぅ」


『顔ヤメロw』

『お前の鼻水顔じゃなくあかねさんを映せwww』

『美しくて豪快で可憐な笑顔をくれよwww』


「どぅびばぜぬン」


 俺の感激こそは本物だが、実は──ついチャッカリだ。

 このムーブは需要がそこそこあるのでね。

 俺はあかねさんにカメラを向けた。


「命は賭けるが平和と金が手に入る。いい仕事だろ? プロってのは。お前もアタイんトコに来るか?」


 なんと甘美なチームへの誘い文句ッ。

 しかし俺は首を横に振る。


「残念ながら私は戦闘力がありませんので。ですから私にできることは、ヒーローの皆様方の輝き! きらめくその姿ッ!! 後世に残すべき人類の遺産を積み上げることにあるのですぞっ!!」


「あ、お、おぅ。ワカタ」


『近い近い近い近い』

『グイッと行った』

『近いw』

『バスターは混乱しているww』

『草』

『豪快界隈がワカタって言ったぞw』


「ん? そいっ」


「あれ? 残ってたか?」


「はい。ちょっぴり」


『ン? そい?』

『ン?』

『そい?』

『そい?』

『ヴァオっつった?』

『ン?』

『右手がブレて変な音した』

『ン?』

『ン?』

『空間歪んだw』

『右手の前がぐにゃって見えたぞ?』

『なwにwをwしwたw』


「極小タイプだからカンフーでなんとかなりました」


「なるほどな」


『カンフー?』

『カンフー?』

『納得しないであかねさんw』

『カン、フー?』

『カンフーはくうかんゆがまない』

『カンフー?』

『カンフーで右手は消えないよ?』

『わかんないわかんない』

『教えろください!』


「甘い甘い甘い! ヒーローの身体能力は高いと申したはず。あんな小っちゃいのは私程度の氣功と発勁でも退治可能なのですよ」


「ほぉ? かっこいいな、カンフー」


「でしょう? おや、すいません。そろそろ門限のお時間ですので失礼しますね。チャンネル登録、グッドボタン、よろしくお願いします」


『ちょ、あかねさん!!』

『わかんないわかんないwwwwwww』

『わかんないって!』

『待てってえwwww』


 ごきげんようと挨拶をし、配信を落とす。

 そして俺は夜の街に紛れ込んだ。

 早く帰らないと、カグヤがお腹を空かせてしまうのでね。

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