04 がんばる鳴神さん1
日曜。
朝10時。
晴天。
私は服装で悩んでいた。
「ひなー、準備は?」
「も、もうちょっと待って」
木曜日の動画……バズっちゃってるから目立たない服にしないと。
そう思って地味なジャージやパーカに手を伸ばす。
「うーん、でもこれじゃ可愛くないし」
「ひーなぁ?」
「はーい!」
結局、お気に入りの服を選んで、帽子を深くかぶることで妥協した。
目的地に向かう途中、お母さんと一緒に大型スーパーへと立ち寄る。用事を早く済ませるために、中で二手に分かれることになった。お母さんは薬局へ、私は食品売り場へ向かう。
カートを押して陳列棚の間を歩いていたら、棚の上のほうにある商品に手が届かず、ぴょんぴょんと跳ねている女の子を見かけた。明るい髪をポニーテールにした小柄な女の子。一生懸命な姿がなんだか微笑ましい。
カワイイ……。
「お姉ちゃんが取ろうか? どれかな?」
近付いて声をかけると、女の子は振り返り──
「あ、ありが……!」
あ、私を知ってる子だ。目を真ん丸にして驚いてる。小学生かな?
彼女の口元が、私の名を呼びそうに動くのが見えた。私は慌てて少ししゃがみ、人差し指を唇に当てて「シーっ」とジェスチャーをする。
「お願い」
「あ、うん。シー」
女の子はコクコクと勢いよく頷いた。
やっぱり、あの動画のことは知ってるみたい。アーカイブも公開されているからなあ。街中で気づかれるの、本当に恥ずかしいかも。
「ご、ごめんね。お姉ちゃん、最近ちょっと恥ずかしいことがあって……」
私の言い訳に、彼女は「分かる分かる!」という風に深く共感してくれた。私は彼女が取りたかったパスタソースを聞いて、取ってあげる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、お姉ちゃん。ガチ感謝。ウチの引き、マジヤバスギ。神じゃん」
すごくカワイイギャルだった。
身振りを交えて大喜びする彼女は、絵に描いたような元気いっぱいのギャル。でもその言いかたじゃ、私はカードになってるよね?
思わず笑っちゃった。
「もうっ、神はやめてよ。私、レアキャラじゃないよ?」
「あっはぁ! それもそですね、お姉ちゃん。くぅぅっ、でも生のもうっはガチキクわー」
「え?」
私は一瞬、動きが止まる。
なんだろう……こう、見たことが……?
でもそんなわけないし。
私にはこんな可愛いギャルの知り合いなんていない。
首を傾げつつも、私は周りを見回した。
「えっと、ひとりなのかな? お母さんとか……」
「あ、アニキと来てまーす。今は隣の列でパスタ選んでるから、たぶんもう来るころだと思う」
「そっか。それなら安心だね」
「うん、ありがとう。ウチ、カグヤ。小柴カグヤ、中2でーす」
☆バチーン☆って音のしそうなウィンク。それに身体と顔を可愛く傾けた敬礼で、彼女は自己紹介してくれた。
小柴、カグヤ……?
……え?
私の中で、なにかが繋がる。
「おまたせカグヤ──あれ?」
隣の列から、買い物かごを持った男子が顔を出した。見慣れた学校の制服ではないけれど、その顔は凄く知ってる顔。
「え、うそ!?」
「なあアニキ。ウチの引き、ガチ凄くね?」
カグヤちゃんがパンッと両手を叩いて飛び跳ねた。
「カグヤは本当にヒーローを引き寄せるなあ。おはよう、鳴神さん」
小柴くんは呆れたように笑いながら、カグヤちゃんの頭をぽんぽんと叩いた。
「ちっこいは正義なんだよねー」
「狙ってるのがズルいんだよ、カグヤ」
きょ、兄妹!?
「おは、よう? 小柴くん……あれ?」
似ている。
雰囲気が……!
このとき、私の中で歯車が完全にかみ合った。
え? まさか!?
そ、そうだ。あの口癖。小柴くんも、カグヤちゃんも。
『時代がやっと女の子に追い付いたのだっっ!! くぅぅぅっ』
『それもそですね、お姉ちゃん。くぅぅっ、でも生のもうっはガチキクわー』
そして銀髪さん。
『くぅぅぅッ……ああ、最高です』
私の中で疑惑が確信に変わる。あのとき、カメラを向けられて見上げた角度も、小柴くんと話すときの距離感とまったく同じだった。だから私はあのときに違和感を抱いたんだ。
「くぅぅぅっ、ヒーロー活動していなくとも、優しさの輝きを放っているとは、やはりヒーロゥッ」
「そ、それ! じゃなくて、シーっ、シーっ」
「そうだよアニキ。こんなとこで騒がない」
小柴くんが銀髪さんになって配信をしていた。
けれど、その事実に気づいた瞬間、体温が急に下がったような気がした。
待って……。
昨日小柴くんとインスタを交換したのも調べようとしたからだし……あれ?
私、凄く気持ち悪いことしてる!!
相手の隠し事を、ストーカーみたいに調べようとしていただなんて。小柴くんの秘密を暴いてどうしたかったんだろう。
罪悪感と恥ずかしさでめまいがした。
彼を問い詰めて困らせたいわけじゃないのに。
ただの興味で……私はやっちゃダメなことを。
「ひな、終わったわよ」
そこへ買い物を終えたお母さんが合流してきた。
「お母さん」
私は慌てて表情を取り繕い、2人を紹介する。同じクラスの小柴くんと妹さんだと伝えると、お母さんは人当たりの良い笑みを浮かべて挨拶を交わした。
「見学会の時間、そろそろでしょ? 早く行きましょう」
お母さんの言葉に、カグヤちゃんが目を丸くする。
「え、ガチィ? ねえねえ、鳴神さん! それならウチらと一緒に回ろうよ!」
「それ、俺たちもこれから行くんです」
カグヤちゃんが下からキラキラした瞳で見上げてくる。うぅ、断りづらいくらいにカワイイ。でも、今の私は小柴くんの秘密に気づいてしまった直後。
ものすごく気まずい。
「でも、荷物もあるし……」
私が濁そうとすると、お母さんが笑って私の背中を押した。
「じゃあ一緒に連れて行ってあげるわよ。荷物? それならうちで預かっておくから、あなたたちは帰りに家に寄りなさい」
「えっ、お母さん!?」
「やったね! ママさん、マジガチ感謝っす!」
カグヤちゃんが大喜びし、小柴くんも「すみません、ありがとうございます」と恐縮しながら頭を下げる。
なんだか一瞬にして同行が決まってしまった。
うぅ……本当に気まずい。




