37 清楚戦士、渾身の雷電ハイパー発勁流しグレートEXッ!
鳴神さんの超電磁モードがもたらした、凄まじいエネルギーの余波。特設ゴミ処理場の空気は今もバチバチと震えている。目に見えない電気の粒子が空間全体を満たしているのだろう。
その過剰なまでのエネルギーは、俺の身体に変化をもたらしていた。なんだか、いつも以上に体内の気の巡りがスムーズなのだ。それどころか、空間に満ちる超電磁力と俺の気功が、奇妙な形で共鳴している感覚すらある。
ふむふむ?
つまり──
「──がとう。日本人のおもてなし、話に聞く通り素晴らしいものですね。どうですか? 私たちのと手を取り合い、地球の緑化計画に参加されてみては。私たちならば大気汚染やオゾン層の破壊などに対し──」
──帯電していると氣功の通りが良くなるのではっ!?
チャンス到来だ!!
「ふんふんふんソイヤッ」
俺は銀髪美少女の清楚姿に合わせて、お淑やかに、しかし鋭く右手を前方へと突き出す。
手のひらから解き放たれた気功の波紋が、衝撃となって走る。
空間に満ちる鳴神さんの雷の上を、まるでスケートリンクのように滑りながらエルフの軍勢へと伝播していく。
「「「ギキキー!?」」」
「「「うぐわァガガガガ!?」」」
突如として全身を襲った未知の衝撃だったのだろう。100体を超えるエルフたちが一斉に白目をむいて痙攣し、その場にばたばたと崩れ落ちていった。
肉体的なダメージというよりも、脳と精神に直接おもてなしの真髄を叩き込まれたような、圧倒的な脱力感が彼らを支配しているはずだ。
雷電ハイパー発勁流しグレートEXッ!
エルフは浄化される!
たぶん!!
「「「え? 銀髪さん!?」」」
なぜだか驚きに満ちた声が重なる中、俺はカメラを意識して、何事もなかったかのように清楚に微笑んでみせた。
「えーっと、隙だらけでしたので」
俺の上品な返事を受け、陣内さんが鋭い声を張り上げる。
「捕縛!」
陣内さんの的確な指示に、凍りついていた陸上自衛隊の隊員たちとプロヒーローたちが、ハッと弾かれたように一斉に動き出した。
「「「「りょ、了解!!」」」」
拘束具を手に、倒れたエルフたちへ次々と向かう。統制の取れた無駄のない迅速な動き、規律正しく動くさま。
さすがのプロ。さすがの自衛隊だ。
「ご覧くださいみなさま! これが我が国が誇る精鋭たちの素晴らしい連携です!
無力化された悪の手先を実に見事な手際でお片付け! これぞまさに、安心と信頼の防衛力! 素晴らしく尊いっっっ! ズズーッ」
はぁ……感動しかないな。
俺はなんて幸運なんだろうか!!
感激に打ち震えていると、陣内さんが話しかけてきた。
「銀髪、なにをした?」
「雷電ハイパー発勁流しグレートEXのことですか?」
「た……ぶん、そう。いくらなんでも、100体以上のエネミーに効果が出せるとは思えない」
「さすがですね陣内さん! 実は鳴神さんの雷、この一帯に帯電しているでしょう? だからイケる! そう思った次第なのです!」
そう、鳴神さんが放った超電磁モードの強力な雷撃によって、空気中に目に見えないエネルギーの道が網の目のように構築されていた。雷のルートが俺には見えた気がするのだよ諸君ッ。
実際イケたので、ルートは開通していたのだろう。そして雷撃のパワーと気功のパワーがタッグを組んだのさ!!
俺の言葉を、陣内さんは真剣に分析し始めた。
「なるほど……気功は難しい。現時点では良い説明が思いつかない」
科学的アプローチで、以前の講座以上に氣功を説明するのは難しいようだ。
そこにアルラウネさんが静かに参戦してきた。植物の蔓を揺らしながら、彼女たちは驚くべき言葉を口にする。
「我らには分かる気がするぞ」
「えっ、本当ですか?」
「うむ。どうやら魔力の扱い的に、気功とシナジーを感じている。我らにも軽く気功を流してみてはくれないか? 悪魔戦士よ」
悪魔戦士とは一体?
俺は清楚系配信者なんだがな。
「私は清楚戦士ですが、まあ良いでしょう」
やんわりと訂正しつつ、俺はアルラウネさんの差し出してきた蔓にそっと手を触れ、優しくじんわりとした気功を流し込んでみた。
「ふむ、やはりな。似たことができるかもしれぬ」
感覚を掴んだらしいアルラウネさん。その場で自身の魔力を循環させたようだ。
植物の葉の先端から微かに生み出してみせたそれは、間違いなく気功の波動そのものだった。
「できています! なんと気功の使い手が現れましたよみなさん!! 素晴らしきかな命のともしびっ」
「銀髪さん、私たちにも氣功を流してみてくれないかな?」
鳴神さんの意見に、なるほど納得した俺。
確かに、気がどんな感じなのか分かれば、練習の役に立つじゃあないか!
今まで気付かなかったとは、なんて……。
「愚かな私に生きる資格なし……」
俺はしょぼくれた。
そんな俺に声をかけてきたのは陸自の松永3等陸佐だった。
「氣功も興味ありますが……それよりも現在は作戦行動中なのですから、先にエルフをなんとかしましょう」
いかんな。エルフどもは気絶しているとはいえ、世界を手中に収めかけていた難敵なんだ。
油断をしてはダメだったな。
俺と鳴神さんはビシッと直立不動になる。
気を取り直して作業に入ろうとしたところで「それなら我らに任せるといい」と、アルラウネさんがその群体の能力をこれでもかと発揮し始めた。
無数の蔓が地面から爆発的に伸び、エルフ型エネミーとリーダーエルフたちを完全に拘束していく。
「うん、次は次元の裂け目を改めて開通させる」
陣内さんの合図とともに、ヴィブロ・フィストの波紋と、俺の発勁、そして鳴神さんの超電磁次元開きを決行した。
アルラウネさんたちは陣内さんから提供された逆探知の成分データを使い、世界樹を探知。エルフたちの世界へとピンポイントでリンクを繋ぐ。空間がガラスのようにひび割れ、異世界へと続く巨大な光の裂け目が口を開けた。
「排除!」
陣内さんが冷静な声で指令を発した。
「ついでですから頭と心を浄化するイメージで発勁流ししておきましょう」
俺の提案に、ヴィブロ・フィストを装着したアルラウネさんが力強く頷いた。
「我らもやる気満々である!」
なんと、先ほどヴィブロ・フィストを借りたアルラウネさんは、少し発勁流しを練習しただけで、持ち前の優れた魔力の扱いを応用して、わずか5分ほどで完全にマスターしてしまっていた。
やはり一般的な技術のようだな。
氣功さえコツを掴めば、簡単に氣功込みの発勁が使用可能になるようだ。今はヴィブロ・フィストもあるしな!
俺とアルラウネさんは、呼吸を合わせて拘束されたエルフの群れに向かって、一気に氣功のパワーを放った。
「「ていていソイふんふぅんっ」」
ヴァムゥゥン! ムンッムゥゥンッ!!
優しき浄化の超波紋!
あなたの心と頭をピュアピュア・クリィィィィン・アーップッッッ!!
浄化の気功と超振動の波紋が、エルフたちの頭と心を完全にクリーニングしながら、彼らの身体を次元の裂け目の向こう側へと押し出していく。
エルフたちは清々しい輝きに包まれながら、次元の闇へと吸い込まれる。
そして──そのまま次元の裂け目はピシャリと閉じられた。ゴミ処理場には、再び元の静寂が戻る。
完璧な勝利だ。
俺はカメラに向かって、最高のドヤ顔で決めポーズを取った。
「悪が栄えた試しなし!」
「我の覚えた日本語も教えてやろう! どんなきもち? ねえ、どんなきもち? くひくひ、ざーまあっ!」
「ジ・エエエエエーーーンド!!」
そのとき俺のスマホに着信があった。
そこには『反省会』とだけ書かれた陣内さんからのメッセージが届いていた。




