36 銀髪さんたちのお取り寄せ(?)
「ごきげんよう、みなさま。本日は特設ゴミ処理場から、エルフのお取り寄せです。しっかりと、お片付けしていきたいと思います!」
俺はカメラに向かって、私はお淑やかに微笑んで挨拶をした。スマホの画面に映し出されたチャット欄が、一瞬で爆発的な勢いで流れ始める。
『ゴミ処理場?』
『初手から意味わからねえ!!』
『エルフのお取り寄せ?』
『不穏なワードしか出てこない』
『わかんないんだっての!』
『お片付け(フィジカル)の予感しかしない』
『お?アルラウネたんの触手が見えた!』
『ほほう?紹介してくれてもええんやで?』
目ざといリスナーたちがいつも通り大盛り上がりする中、俺のすぐ傍らに立つスーパー頭脳、陣内さんがいつもの冷静な声で告げた。
「全員が揃ってから実行計画を説明する」
陣内さんの言葉通り、特設ゴミ処理場の敷地内には、続々と頼もしい面々が姿を現しつつあった。俺たちの憧れであり、国を代表する精鋭たるプロヒーローたち、そして規律正しい動きで展開する自衛隊の面々だ。
だが、彼女たちの姿を見た瞬間、俺の目は釘付けになった。
なんとその利き手には、覚えのある武骨なガジェットが装着されていたのだ。
それこそ、俺の発勁講座の配信をきっかけに開発が進められた、超振動ガジェット――ヴィブロ・フィストだった!
やるな! 父さんたち!!
まさかあの構想段階だったガジェットが、これほどの短期間で実戦配備レベルまで引き上げられるとはね。しかも国規模の作戦にこれほど大量に投入されているなんて思わなかったぞ。
俺の知らないところで、世界はとんでもないスピードで進化しているらしい。それを的確に作戦に組み込む陣内さんのリサーチ力も素晴らしい!
ヴィブロ・フィストのことは、話してなかったはずなんだがなあっ!
「さすがの陣内さんでずぬうぇっ」
『突然の汚清楚』
『だから・・・なにひとつわからん状況で意味不明なムーブをすんなw』
『汚』
『汚』
『キチャナイ!』
『汚』
『鼻汁界隈がよぉ!』
「失礼しました。自衛隊の皆様もいらっしゃったので、そろそろ配信を終わりますね」
『マテマテ』
『まだなんにも説明してねえだるぉい』
『おまえww』
「銀髪、作戦の概要を説明するまでは平気」
「おっと、そうですか? 良かったですね! 作戦実行時後は許可を得てから動画化しますのでお待ちを」
俺的にはライブ配信でヒーローの輝きを、残らずお届けしたいんだがな。やはり国防を担う自衛官の行動を、なんでもかんでもというわけにはいかないのだ。
こればっかりは仕方ないので諦めが肝心だ。
無念。
『よく分からんが元気出せ?』
『なんで喜んだあとションボリすんのw』
「銀髪さんのことだし……ライブ配信が無理だからじゃないかなあ」
と、リスナーに返事をした鳴神さん。
「さ、さすが超電磁ヒーローの鳴神さん! 私の思考は丸裸!! えっち!!!」
『www』
『つまり図星w』
『草』
『えっちのかけらすらねえ・・・』
『で?オタク知識をひけらかしてもええんやで?』
『そうそう』
『果たしてあの新型ガジェットは・・・!?』
「どうやら気になっているようですね? 私も気になります! あの新型ガジェットは一体!!!」
俺は知らないフリをする。発表されてないガジェットだからな。俺が情報を出せば、両親である高千穂夫妻と関連付けされかねない。さすがに身の危険がどうこうは、もうないと思うが身辺が騒がしくなるのは遠慮したいぜ。
「あれは新ガジェットの試作機。攻撃タイプのものだから本来は完成まで未発表のものだった。だけど今回の作戦の要でもあるから頼んだ。
ガジェット名はヴィブロ・フィスト。発勁の発動を補助するもの」
『誰でも発勁が!?』
『国を挙げて心のマッチョ化が進んでるww』
『もはやアカン国のジャペェーン』
「ほうほう……」
補助止まりか。
試作機なら仕方ないか。
それでもプロや自衛官なら発勁に至ることは容易!!
「空間のゆがみに必要であろう氣功は、銀髪がカバーする」
「おおっ? さすがの陣内さんッ!! 聞きましたかみなさん、陣内さんのこの圧倒的な超・絶・理論!
エルフどもの浅知恵なんて、陣内さんの前ではおままごとに成り果てるッ! 科学と頭脳が合わされば! 異世界侵略など恐るるに足らぬぅぅぅぅぅっ!
恐れよ頭脳を! その冴え渡る知を! 全人類ひれ伏すがいい!」
『そこはエルフであれよ』
『人類をひれ伏せさせんなw』
『よみちゃんはさいきょー』
『知ってた』
俺の気分は最強に満ちた!
ときも満ちた!!
すかさずカメラを陣内さんに向け、その姿を中央に捉えるッッ!
「ハァハァそれでは陣内さん、今回の作戦の概要について、リスナーのみなさんにも分かりやすく解説をお願いできますでしょうか?」
「了……、解」
『うひょー!?』
『たすかる』
『一瞬汚物を見る目にwwwwww』
『たすかる』
『たすかる』
『ゾクゥッ!』
陣内さんはタブレットを操作し、ゴミ処理場の中心に山積みされた大量のアロマアクセサリーへと視線を向けた。
「現在、日本全国の自治体から回収されたエルフ製のアロマアクセサリーが、この場所に集積されている。これを触媒として再利用する」
『ゴミを再利用』
『エルフがせっせと配った侵略アイテムが撒き餌になってるの最高』
「お取り寄せの方法は次の通り。すでに確保している協力者、アルラウネたちの力を借り、彼女たちのネットワーク経由でエルフの世界樹システムへと侵入する。エルフ側が仕掛けた接続経路を逆探知し、こちらから強制的な次元の裂け目を開く」
これはアルラウネさんたちを構成している組織が、世界樹を模しているからこそ可能な手段だ。
淡々と語られる恐るべき超理論に、チャット欄の速度がさらに加速していく。
『アルラウネちゃんたち有能すぎる!』
『逆探知してこっちから仕掛けるとかアツい展開!』
『さいな~ら~エルフ』
『終わったな!』
「ただし、次元の裂け目をを開くには莫大なエネルギーが必要となる。そのためのメイン動力源として、今回は鳴神ひなを起用した。超電磁モードはそのパワーを補って余りあると私は考える」
陣内さんが名前を呼ぶと、少し緊張した面持ちの鳴神さんが一歩前に出て「よ、よろしくお願いしますっ」と挨拶した。
「ヴィブロ・フィストと銀髪の発勁による空間振動の収束。および鳴神ひなの超電磁モードによる電力供給、この3つが合わさることで、次元の裂け目をこのゴミ処理場に固定。エネミーの軍勢をピンポイントでこの場所に呼ぶ『エルフお取り寄せ作戦』が可能となる」
『作戦の名前がカワイイのなんでw?』
『殲滅とか排除じゃなくてお取り寄せ・・・』
『女子高生らしくて好き』
『カワイイは正義』
「納得の素晴らしき計画! つまり最上級のおもてなしイイイィィッ!
エルフは浄化されるッ!!」
「心も頭も浄化されろエルフめ」
「こ、こよみちゃんオチツイテ!?」
『エルフだもんね』
『仕事しろよなファンタジーめ』
『いい子になっとけエルフ』
『悪いことは言わん、大人しくしとけエルフ』
そして作戦決行の時間がやって来る。
自衛隊、プロヒーロー、共に準備完了の合図。
陣内さんがこっちを見た。
「それではみなさん、ごきげんよう。チャンネル登録、グッドボタン、よろしくお願いしますね。これから先の映像は、許可を得たのちに動画化します。ですが私専用になったとしても、諦めの精神でご了承ください!
なにせ自衛隊の映像はめっ◎×撮れない#ら、を○$@&ッ!!」
俺はたぎる想いを胸に秘め、配信を閉じた。
『おいw』
『なんてw?』
『見れる映像にしろよwwww』
『こいつホンマに!!』
「作戦開始。アルラウネ、リンク開始、ヴィブロ・フィスト起動、銀髪は振動の中心に最大火力の単体向け発勁を」
「「「「了解!!」」」」
ここまでお膳立てされたんだ。
俺のやるべきことはただひとつ!
「ていていソイふんっハ!!」
唸るヴィブロ・フィスト。
共鳴する発勁の波紋ッ。
ヴォァムゥゥゥン! ムゥウンッ!!
「アルラウネ」
「我らに任せろ」
アルラウネさんが、いつの間にかアルラウネさんたちになり、魔術的ななにかを地面に施した。
その結果、巨大な魔法陣が浮かび上がる!!
「ご覧ください! 人類の叡智が! 技が! 異世界の技術が!!
たった今、ここに!!
ひとつに──なるッ!!!」
「ひな!」
「うん! やぁぁあああああああああああっ!!」
鳴神さんの。
その全身が!
神々しいまでの青白い電光を纏わせる!
「まさに雷神のごとしィッ! あまりの神々しさにみんな死ぬ!!!」
「死んだ!?」
「やめなさい! 笑かすな!!」
「銀髪さんは鼻汁製造機ということか」
なにやら届いてくるさまざまな声。
そして空を裂く放電が、魔法陣に吸い込まれた。
誰かが言った。
「来た……」
「「「「キキキキキ」」」」
エルフ型エネミーが、虫のように鳴く。
「オ招きニ預かり……恐悦シゴく。
ワ、ワ、私ちノために準備してくれてありがとう。日本人のおもてなし、話に聞く通り素晴らしいものですね」
そしてリーダー格であろう1体が、流暢な日本語で語り掛けてきた。




