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35 モアモアスーパー!!

 我が家のリビングは、現在進行形で地球の未来を左右する最高機密の作戦会議室と化していたっ!


 テーブルを囲んでいるのは、俺とカグヤ、そして我が家にすっかり馴染んでいる超電磁鳴神さんと、スーパー頭脳陣内さんだ。


 机の上に置かれたノートパソコンやタブレットの画面には、世界各国のニュース映像が映し出されている。そこには信じられないような光景が広がっていた。


『いいですか、みなさん! まずはこう、体の中の悪いモノをモアモア~と集めるイメージです! そして、一気にスーパー・ンッ! と弾き飛ばす!

 さあ、やってみましょう! モアモア~、スーパー・ンッ!』


 画面の向こうで、屈強な海外のプロヒーローたちが真剣な顔で両手を突き出し、「モアモア~、スーパー・ンッ!」と大真面目に叫びながら両手をパーにし、青空に向かって突き出している。


 別のチャンネルに変えれば、どこかの国の大統領までが記者会見の場で──我が国は、モアモアスーパーの精神を国家防衛の基本指針とする──などと熱弁を振るっていた。


 うん、俺が前回のライブ配信で教えた本格的な氣功理論が、世界で大流行していた。求められたから応えただけだったのだが……これほどとは思っていなかったから、自分でも驚いている。


 エルフによる魔虫を使った精神汚染への対抗手段として、世界中の人々がこの「モワモワ~、スパーン!」を真剣に特訓しているのだ。

 誇らしくもあるが、少々恥ずかしい。


「あははは! 見てよアニキ、海外のムキムキのヒーローたちが大真面目にモワモワ~、スパーン、って完全にやらかしてるじゃん」


「よく聞く、彼らはモアモア~、スーパー・ンッ! と言っている。これはおそらく『もっともっと素晴らしく、それ!』みたいに認識されている」


「英語になっちゃった」


 陣内さんが詳しく分析し、鳴神さんは困惑。


「熱い魂が世界に広がったな!」


「ガチィ? アニキの雰囲気語が英語に変換される未来があるの? あひひ、あーははきゃきゃきゃきゃ」


 そしてカグヤはソファの上で、クッションを連打しながら爆笑している。


「いや、結構なことじゃないかカグヤ。みんながエルフの精神汚染に耐性を持つなら、これほど良いことはないからな」


 腕を組んで俺は頷いた。

 氣功の真髄が、こうして人の救いになるのであれば!

 これ以上に誇らしいことはないぞ!!


 しかし、そんな俺たちの呑気な空気を引き締めるように、鳴神さんが真剣な面持ちで口を開いた。


「でも、小柴くん。確かに世界で流行ってるけど、完璧に氣功を習得するには、どうしてもまだ時間が必要だよね? みんなが感覚を掴むまで、エルフの脅威は待ってくれないんじゃないかな……」


「結局、兄しか使えてない」


「うーん、確かに……」


 俺は鳴神さんの鋭い指摘に深く感心した。やはり現場の最前線に立つスーパー学生ヒーローの言葉は重みが違うな。感覚を掴むのは難易度が高いようだし、敵がその隙を突いて攻めてくる可能性は十分に高かった。


「なにか、こちらから先手を打てるような手段があればいいんだけどな。例えばあのアロマアクセ……あれを逆に利用することってできないだろうか?」


 俺が何気なく呟いたその言葉に、タブレットを操作していた陣内さんがピクリと眉を動かした。


「今アロマアクセサリーの逆利用と言った? 兄」


「ん? ああ。ほら、数が集まると次元の裂け目が開くかもっ、ていう厄介な性質があるだろ? それを逆に使って、どうにかできないかなって思ってさ」


「それ、素晴らしい着眼点。私の脳内に新しい構造の組み立てが始まる」


 陣内さんはそう言うと、凄まじい速度で画面をタップし始めた。


「こよみちゃん、なにか思い付いたの?」


 鳴神さんがタブレットを覗き込む。すると陣内さんは全員に見えるようにテーブルに置く。そこには複雑な数式やグラフを表示されていた。

 うむ、なんのことやら!


「私は、これまでにアロマアクセサリーの魔力波形を、解析していた。その結果、このアクセサリーが一定数集まることで、自律的に次元の裂け目へのリンクが生まれることに、本質的な脆弱性を発見した」


「脆弱性か」


「へえ!」


「すっご! さすが陣内さんじゃん」


 陣内さんは不敵な笑みを浮かべて説明してくれた。


「エルフ側の設計は、地球上の空間に浸透させるためにあえて受動的に──」


 俺には分からなかった。

 鳴神さんの視線もさまよっていてアヤシイ。分かってないとみた。

 カグヤは神妙な顔をしてフンフン頷いているが、あれは分かってない。


「つまり、陣内さんならどうにかできる。ということだな!!」


「それでそれで? それってどんな作戦になんの?」


 俺たち兄妹は陣内さんにグイッと迫る。

 ぜひ聞かせてもらいたいからな!


「極めてシンプルなゴミ処理。国内で分別回収されたアロマアクセサリーを1箇所に集中させ、そこから逆位相の波紋を打ち込む。強制的に次元の裂け目を展開。そしてエルフ型エネミーを芋づる式に強制召喚ののち……ヤツらの世界に弾き飛ばす」


 所々よく分からないが、エルフを引き寄せて波紋のパワーで追い返す。

 そういうことだな!


「さすがが過ぎるぞ陣内さんっ!」


「ほんと! こよみちゃんといたら、私たちなんでもできるよ!」


 鳴神さんが目を輝かせて歓声を上げる。まさに陣内さんの無敵の頭脳による、圧倒的なカウンター理論の完成だ。


「でもこよみちゃん、エルフを芋づる式に強制召喚なんてできるの?」


 鳴神さんの問いかけに、陣内さんはさらに画面を切り替えた。


「そのための協力者は、すでに確保している。アルラウネたち」


 なるほどな!


 確かに彼女たちはエルフの世界樹と構造が似ていたはず。

 エルフたちの手によって作られた彼女たちが、反撃の刃になるとは皮肉が効いているじゃあないか。



「彼女らの協力で、世界樹ネットワークにアクセスすることが可能。あとはパワーの問題。これについてはひながいる」


「私!?」


「超電磁モードの鳴神さんだ! もうSSSランク確定だねっ」


 あれは本当に神々しかった!

 カード化されても仕方あるまいよ諸君ッ!!


「エルフ側からすれば、自分たちが地球を侵略するために仕込んだアロマアクセサリーと、使い捨てにしようとしたアルラウネさんたちのせいで計画がとん挫するわけだ」


 俺は陣内さんの容赦のない頭脳の冴え渡りっぷりに、背筋がゾクゾクするほどの興奮を覚えた。これぞまさに、ヒーロー側の圧倒的なカウンターだ。悪の侵略者を科学と理論で完膚なきまでに叩きのめす。


 これほど痛快な展開があるだろうか。


「すでにアルラウネとの交渉と、機材のセッティングは完了している。あとは、国内に集められたアロマアクセサリーを一箇所に集中させるだけ」


「これはライブ配信が盛り上がるぞ!!」


「ダメ。自衛隊も動く。兄も銀髪での作戦参加は必須。次元の裂け目起動には銀髪の発勁が必要」


 俺は言葉を失った。


「ど、動画を撮る……のは?」


「……………………まあ、いいことにする」


「よし!」


「うわー、絶対ウチは参加できないヤツじゃんコレィ。ねえアニキ、ちゃんと撮って来てよ!?」


「任せろッ」


「この兄妹……」


「こよみちゃん、諦めよ? やる気があるほうが上手くいくよ……きっと……たぶん」


「あーあ、ウチも早く高校生になりたいなあっ」


 カグヤはぼやく。

 まあ、仕方ないさ。

 こればっかりはな。


「4年後には私が新しい世界に連れて行く。カグヤはじっくり鍛えておくべき」


「ホント? 約束だよ! 陣内さん」


 陣内さんは自信満々の表情で頷いていた。


「なに企んでるんだろうね? こよみちゃんって」


「どうかな。でも陣内さんならカグヤも納得することをしてくれるだろう」


「だよねえ」


 俺たちは作戦開始のときを静かに待つこととなった。

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