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34 1年C組 銀髪先生「ガバガバ氣功りろんと、すーぱーずのーによる超翻訳」

 エルフによる虫を使った精神汚染の脅威が認知されたことで、世界中に強い警戒感が広がっていた。


 見えない恐怖に対抗するため、俺が異世界カレー調理のついでに披露した氣功が、今や地球を救うための超重要事項として注目を集めている。

 チャンネル登録数爆増といういう結果が、それを示していた。


 方法を学びたいという人が世界規模で現れて、各国の要人から一般市民までが対策を欲しがっているという状況だ。発勁や氣功回は完全に、大人気コンテンツとしての地位を築いてしまったぞ!


 発勁や氣功使いも爆増間違いなしだなっ!!

 ふっふっふ、小柴カナタとして使っても問題なくなりそうだ。


「ごきげんよう、みなさん。本日は魔断学園の訓練場をお借りして、誰でもできるエルフ対策! です。解説に陣内さん。対エルフの現場にいた鳴神さんというスーパー学生ヒーローをお招きしております!! なんてラッキーなんだ私ッッッ。幸せ過ぎて☆瀕・死っ☆!」


『初手から世界中に恥を晒す銀ぱっつぁん』

『お前はホンマにw』

『これはハジマルですか?キコー&ハッケー?』

『被害者がさっそく増えたようです』

『ノリは知っているますが、ナマで見るとなるとパワーがいるです』

『海外ニキはお逃げなさい』

『アーカイブのタイムスタンプか、動画化されたのがオススメかもw』

『悲しいかな切り抜きは全部お笑いである』


「落ち着け、銀髪」


 冷徹なトーンで告げてきたのは陣内さん。


「失礼しました」


 俺は配信用のカメラに向かって、謝罪する。ご褒美以外の何物でもない状況だったのでね。ゆえに! あまりの尊さに胸の鼓動が激しく高鳴ったとしても、それは必然であるのだがなっっ!!


「変だな……もうおかしくなってるよ?」


 隣に立つ鳴神さんは、頬を少し引きつらせながら苦笑いしている。


『草』

『汚清楚拡散界隈』

『w』

『真面目な回にしてくれよw』

『世界の命運が懸かってる配信なのに初手から通常運転で安心した』


 相変わらず騒がしいなリスナーは。


「コホン。さて、世界中でエルフの精神攻撃が話題ですが、実は氣功さえ覚えれば誰でも簡単に防ぐことができるんです。

 というわけでさっそく氣功講座を始めましょう」


 コツさえつかめば今日中にできるからな。

 安心したまえよ諸君ッ!


「やり方はとっても簡単。まずは下腹部の辺りで、モワモワ~っと集中させます。それをイメージの力で、全身に巡らせるんです。そして最後に、頭のてっぺんからスパーン! と弾き出す。はい、これで精神の汚れは全部キレイさっぱり消えてなくなりましたよ!」


 我ながら完璧な解説だ。ポーズを交えながら自信に満ちた清楚スマイルでカメラを見つめる。

 しかし、コメント欄の反応は困惑一色だった。


『頭の処理が追いつかん!』

『1個もわからんw』

『モワモワってなんだよ!』

『頭のてっぺんからスパーン?』

『だからわかんないってえええええ!』


「銀髪、その説明では再現性が極めて低い。一般の人間が実践するための論理的アプローチが皆無」


 陣内さんが呆れたように鋭い口調で介入してきた。


「バ、バカな!?」


『ばかな?』

『それはこっちのセリフなんだよ!』

『なんでわかんないのがわかんないのww』

『全員わかんないになってんの謎w』

『誰ひとりわかってないのかよ!!!!!!!!』

『キュイーンふぉばあっ!はどこ行った?』


「今から、科学的・論理的なシステムに翻訳する。リスナー、銀髪の言う『下腹部でモワモワ、いわゆる丹田の深層筋肉の緊張と緩和の連動が──」


 淡々と、しかし圧倒的な説得力で陣内さんが言葉を紡ぐ。彼女のタブレットには、俺の身体をスキャンして作成したかのような、エネルギーの論理的な循環経路の図解が映し出されていた。


『おおおおお!?なんか凄く納得できる気がしてきた!』

『よみちゃんのずのーが完全翻訳!』

『ガバガバな擬音が最新科学のシステムになったww』


「なるほど、陣内さんの頭脳にかかれば、私の氣功がさらに分かりやすくなりますね!では、実際にできるかどうか、テストプレイヤーとして鳴神さんに実行してもらいましょう!」


「えっ、私がやるの!?」


 鳴神さんが目を丸くして驚く。


「はい! 鳴神さんの素晴らしいフィジカルとヒーローとしてのセンスがあれば絶対にできます! さあ、イメージしてください。まずは下腹部でモワモワ~、です!」


「う、うん……。こう、お腹のところで、モ、モワモワ~……?」


 鳴神さんが少し照れくさそうに、両手をお腹に当ててモワモワ~と呟く。その破壊力は凄まじかった。

 あまりの愛らしさに、リスナーが壊れた。


『ギャアアアアアアア!?!?!?!?』

『kawaiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii』

『かわいすぎるだろおおお!』

『うおおおおおおおお!!!!』

『全人類がご褒美を回収した瞬間である』


「いいですよ! 次はそれを全身にぐわわーんです!」


「全身に、ぐわわーん……。あ、なんか温かいものが流れて?」


「ひな、パチパチ」


 そう、それは電撃です。

 でも惜しいっ!


 さすがはトップクラスの学生ヒーロー。陣内さんの論理的な解説補足と、俺の感覚的なイメージを即座に融合させたようだ。


「最後は頭のてっぺんから、スパーン!!」


「えいっ、スパーン!」


 鳴神さんが頭の上に両手を掲げて勢いよく叫んだ瞬間、彼女の身体からパァァァッと眩い光の波動が弾けた。訓練場の空気が一瞬で引き締まり、まるで高原の朝のような清々しさに包まれる。


「で、できた!? なんだか、頭がすっごくスッキリして、強くなった気がする!」


「素晴らしいです鳴神さん! 新技を発明しましたね!!」


「電気を使った超電磁モードと分析。ひなは人を越えた」


「あ、あれ? 氣功は?」


「もうちょっとな感じですよ!」


 俺がパチパチと拍手を送ると、リスナーも大絶賛の嵐。


『さすひな』

『超電磁モードとか雷系の行きつく先じゃね?』

『オンリージャパンを私は見るしたですよ!』

『なんかオカシクね?』

『違うのができたww』


 配信が最高の盛り上がりを見せる中、陣内さんがふと、手元のタブレットから目を離して俺に質問を投げかけてきた。


「銀髪、ひとつ確認したい。この氣功、誰でも習得し、使用することは可能?」


 俺は自信満々で頷く。


「もちろん。私は小3のときに使えましたし、男性でも問題ないですよ! ただの技術ですので!! ですがヒーローのような超火力はムリです。肉体的なベースが違いますから」


『ウソだろ・・コイツ』

『ええ?小・・・3?』

『天才というヤツでわ・・・・ッ』


「へえ、そうなんだ。やっぱりヒーローのフィジカルって凄いんだなあ。もし男の人が使ったら、どれくらいの威力になるの?」


 鳴神さんが純粋な疑問といった感じで聞いてきた。

 男の肉体での発勁の威力か。

 自分の感覚をそのまま言葉にしてみる。


「そうですねえ……。せいぜいトラックで激突するくらいですか」


「へー……えっ! いやいや銀髪さんっ!?」


 鳴神さんが、最初は普通に頷きかけてから、凄まじい勢いで首を横に振る。


『さらっとなに言ってんだww』

『トラックで激突がせいぜいなわけあるか!』

『男でもトラックと同等の威力を出せる技術ってコト!?』

『異世界転生しちゃうよぉw?』


 陣内さんはなにかを計算したようだ。

 俺をじっと見つめ、聞いてきた。


「仮にトラックが時速60kmで衝突する。その運動エネルギーは約1.4メガジュール」


 陣内さんが分からないことを言い出した。


「銀髪、認識が間違っているはず。氣功に破壊のパワーがあるか、カンフーの力と混同していないか考えること」


 陣内さんのその指摘に、俺はハッとした。

 俺は普段、発勁の技術と氣功の技術をセットで使っているから、ついついごっちゃにして話してしまっているぞ!


「……カンフーでした」


「やはり。氣功にそこまでの物理的破壊力はない。健康的に使える」


 陣内さんが呆れたように解説を締めくくった。

 チャット欄には『カンフーだったのかよ!』『銀髪さんのずのーがヤバすぎるだけだった』と安堵と笑いのログが流れていく。


 失敬な!


「まあ、なにはともあれです。エルフがどれだけ姑息な精神汚染を仕掛けてこようと、この氣功を使って身体の中からデトックスしてしまえば一発で解決ですね!」


『デトックスw』

『なんか急に精神攻撃がチープになったw』

『エネミーを可哀想にする達人かww』


 俺はなにも恐れることはないと締めくくる。

 すると、陣内さんが不敵な笑みを浮かべ、簡潔に言い放つ。


「習得にはある程度の難易度がある。しかし今回の講座で氣功使いは増えると試算できている。エルフどもの悪事ももう終わり。積み。あとは見付けて排除。簡単」


 無敵な陣内さんのその言葉には、絶対的な確信がこもっていた。


 世界中を恐怖に陥れていたエルフの精神攻撃は、俺たちによって、今まさに完全に無力化されようとしていた。

 画面の向こうで歓声を上げるリスナーたちの反応を見て、お別れの挨拶だ。


「チャンネル登録、グッドボタン、よろ──」


「あれ? 私、まだ氣功使えてないけどいいのかなあ?」


『確かに!』

『終わった気になってたぞ!?』

『ちょ、マテマテマテw』


「──しくお願いしますね。それではみなさん、ごきげんよう!」


 素晴らしく有益な配信だったな!

 俺の自信と確信は、さらに高まったぞ!!

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